ベン・トーの世界に転生者がいたら   作:アキゾノ

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勢いだけで書きました。
新しい技を出したい…。


5食目

弁当争奪戦と言う過酷な世界に身を投じてまだ日が浅い。

しかしこの世界に転生して15年以上が経過している。

そして二次創作の世界だということに気付いたのはつい最近のことだ。

だからこそ僕は甘く見ていた。

【二つ名】の強さを。

 

ここ最近になって原作のことを少しずつ思い出している僕だが今になって重要なことを思い出した。

【氷結の魔女】…主人公格やんけ。

いや、ヒロイン枠か?

これまたびっくりな話だが、あの教室で髪の毛を食ってたやつこと、佐藤洋。

かれこそこの世界の主人公だった。

【氷結の魔女】にしこたま蹴られてそんなことを思い出した。

たしか、茶髪が言ってた魔女が二匹の犬を囲ったという話。

あれこそ物語の始まりだったのだ。

魔女の一撃がきれいに顔面に入る。

ここから主人公の佐藤君は半額弁当争奪戦に身を投じ、最後には【二つ名】をもらっていた気がする。

また魔女の拳を食らう。

魔女と佐藤君は烏丸高校のなんとかっていう部に所属してるんだっけ。

なんか…半額弁当のためのよくわからない部活。

よくそんな部活の申請が通ったな。

ふざけてるとしか言いようのない活動内容なのに…はたから見たら。

首を掴まれ倒される。

なんとか慣性を利用してバク転気味に立ち上がる。

ていうか【氷結の魔女】まじでつええええええええええええええええ。

まだ一発も相手は被弾していない。

それに対してこっちはもう満身創痍。

ポケモンで言う赤ゲージ。

ピコンピコンうるさい。

目がかすんできてる。

うぅ…それでも、弁当がほしい。

 

見ればほとんどの狼が倒れている。

死屍累々。

それをなしたのが目の前の女、ここら一帯を縄張りとする狼だ。

息一つきらしていない、汗すらかいていない。

なんでや、常識的に考えてありえん。

10年間修業ばっかりしてた筋肉ムキムキマッチョマンの僕がこのざまだというのに。

すでに片手で数えられる狼の数。

そのどれもが一頭を除いていつ倒れてもおかしくない感じだ。

かくいう僕ももう地球にハグしたい。

けど、倒れることは許されない。

他ならない僕がそれを許さない。

たかが半額弁当、されど半額弁当。

普通においしい料理なんてたくさんあるけど、達成感、満足感、幸福感をこれほどまでに与えられる食べ物なんてこの場で得られる獲物だけだ。

そして僕はもう、それに魅了されてしまった。

 

考えろ、月桂冠のあの味を。

思い出せ、あの充実感を。

並みいる狼をなぎ倒し得た糧。

今回はそこに絶対強者がいる。

❝ゴキブリダッシュ❞を使えば、手に入れられるかもしれない。

かなり低い確率だがありえる。

 

「【天パ】、まだ行ける?」

 

茶髪が息も絶えたえに言う。

今更だけどスーパーで血を吐いてる人見るとなんか急に不安になってくる。

 

「うん、けどそろそろやばい」

 

「やっぱり【二つ名】持ちは強ぇな」

 

「中でも【氷結の魔女】は上から数えたほうが早い…っていうかぶっちゃけここらで最強だ」

 

顎鬚の狼と丸坊主の狼が言う。

 

「しゃーねぇ…ここは一つ共闘と行こうじゃねぇか」

 

「それしかないか」

 

顎鬚と坊主は構える。

この二人、できてぇる…じゃなくてコンビだと思ってた。

 

「…【天パ】はどうする?」

 

茶髪が言う。

どうでも良いけど、伺うような仕草をすると胸が揺れやがる…。

…じゃなくって!

顎鬚と坊主、茶髪はこの状況に共闘で向かおうと言う。

僕は…

 

「…そうだね。急戦奇襲奇策、時には凡策駄策、とにかく死力を尽くす。

勝つならそれからだ」

 

「決まりだな」

 

「4人もいりゃ、なんとかなるさ」

 

「あなたたち二人は心配だけど…【天パ】は頼りになりそうね」

 

「「どういう意味だよ!!」」

 

「そのままの意味よ」

 

「…もう始めていいか?」

 

3人の漫才のようなやり取りに【氷結の魔女】が言う。

案外、普通の人なのかもね。

まぁ、興味ないけれど。

 

「…作戦、なんかあるか?」

 

その言葉に僕は前に進む。

3人の視線が僕に集まる。

 

「決まってる。正面から行かせてもらう。それしか能がない」

 

某有沢重工の社長のセリフを拝借する。

けど、それしか能がない。

技を持っているとはいえ、それを扱う僕の頭は一般人でしかない。

漫画の世界のキャラクターたちのように、うまくはできない。

なら、できることは自分の力を信じ、キャラクター達を信じ、この腹の虫を信じるしかない。

奇襲奇策凡策駄策、それらすべてが僕にとってはこういうことなのだ。

なんでも全力でやる。

難しいことは考えない。

さぁ行くぞ。

 

「ゴキブリダッシュ」

 

体を液状化する。

昨日とは違い、すぐにイメージは完成する。

熟練度上がってるな。

 

目指すは弁当…ではなく、【氷結の魔女】めがけて僕は爆発する。

弁当に向かえば少ない確率ではあるが獲れたかもしれない。

けどそれを許せない。

今宵の弁当は、【氷結の魔女】を倒した先にある。

彼女を倒してこそ、弁当がうまいってもんだ。

 

―――誰もが目にしたことのあるゴキブリの爆発的なスピード。

その瞬発力は人間大のスケールに表すと、一歩目から270㎞~320㎞相当で走り出すことになる。

この足の速さは

 

「いっけ」

 

あらゆる生物の中で

 

「ッッッ!!」

 

最速であ(ドゴォ

 

「ふんっ」

 

な、なにが…?

痛、なんで鼻から血が?

なんで僕は後方に倒れて…?

わからないことだらけ…なんで【氷結の魔女】は膝を払っている?

 

「その動き、未完成に加えて気持ち悪いな。食を司るこの狩場で出すにはおぞましすぎる」

 

嘘だろう…あの速さに、この女は膝蹴りでカウンターを!?

見えてるのか!?

 

「確かに早い、けど直線的すぎだ私なら…いや、敵に言う言葉ではないな」

 

そして【氷結の魔女】は身をかがめ…あぁ、僕にとどめを刺すために力をためているのか。

すぐに来る、終わりが。

くそ、クソクソクソク!

負けたくない!

けど、体が…うごかねえええ!!

蹴りが…こない。

茶髪、顎鬚、坊主が【氷結の魔女】の攻撃を受け止めていた。

 

「しっかりしなさい【天パ】!」

 

「一人で勝手に飛び出しやがって!」

 

「作戦がパーだ!最初からなかったけどよ!」

 

僕が勝手なことをしたせいで彼女ら三人は予想外の防御を行い、本来なら受けなくてもよいダメージを負ってしまった。

ここは弱肉強食の世界。

僕が一人ででしゃばってやられたなら、見捨てて自分だけでも弁当を狙うべきなのに…なんで?

 

「なんで三人とも…」

 

「っへ。新米焚きつけといて、見捨てるなんてよぉ」

 

「ま、できないわな」

 

「かっこよかったわよ、【天パ】。だから私たち先輩の正面から行く姿、しっかり見てなさい」

 

「ま、待って」

 

「【天パ】っつったか。負ける気なんかねぇけどな、負けてもいい」

 

「だけど忘れんな、その悔しさを」

 

「そして何度でもアタックしなさい」

 

「「「牙を突き立てて戦っている限り、それは負けではないのだから」」」

 

茶髪、顎鬚、坊主の三人が【氷結の魔女】に向かっていく。

言いたいことはたくさんあった。

止めろ、無駄だ、わざわざやられに行くなんて、無視して弁当に。

けど言葉にしなかった。

できなかった。

それは僕が自分に課したことだった。

強敵を倒して、弁当を手に入れる。

そうしてこそ、うまくなる。

 

そしてその身を捧げ、僕に生き様を見せる三頭の狼の姿を目に焼き付けていたかったから。

 

 

案の定、やられてしまった。

きっと5秒も持たなかった。

けど、僕は一生忘れることはない。

誇り高い三頭の狼の姿を。

そして。

 

「最後は貴様か」

「この人たち、バカだよ。自分の事だけ考えてればいいのに」

 

僕は立つ。

すでに動かない三頭の狼を踏んでしまわぬように、気を付けて【氷結の魔女】の前に立つ。

 

「自分のことだけ考えて、僕がやられてる時に弁当を取りに行けばよかったんだ」

 

握り拳を作る。

 

「バカだよ…本当に大馬鹿だ」

 

「…それで?貴様はどうする?」

 

「…僕じゃ勝てない。僕じゃあなたには勝てない」

 

「だろうな。ならばどうする?しっぽを巻いて逃げるか?」

 

「勝てない…今は。」

 

「…ほう」

 

「悔しいけど、今の僕じゃあなたには勝てない、けど」

 

作った握り拳に力が入る。

爪を立てて血がにじむ。

忘れるな。

今日と言う日を。

 

「いつか、絶対に」

 

忘れるな。

この悔しさを。

 

「あなたを倒して」

 

忘れるな。

誇り高い狼の姿を。

 

「弁当を手に入れてやる」

 

忘れるな。

この涙を。

 

 

「…いいだろう」

 

ゴキゴキ、と指を鳴らす【氷結の魔女】。

そこに浮かぶ微笑の意味を僕は知らない。

あぁ…怖いなぁ。

これが負けるってことか。

悔しいなぁ。

こんな気持ち久しぶりだ。

 

「貴様が再び私の前に立つ日を楽しみにしている」

 

「…すぐだから、待ってろ」

 

精一杯の虚勢を張る。

震えた声がわらけてくる。

負け犬の遠吠えだ。

だけど、これくらいは許してほしい。

弱者の、精一杯の約束だ。

 

「改めて名乗ろう。【氷結の魔女】だ」

 

「…うぉぉおおおおおおお!!!」

 

僕は名乗らない。

名乗るのは、この女に勝ったときだ。

 

 

こうして僕は負けた。

指一本触れることすらできなかった。

あおむけに倒れながら次を考える。

とにかく修業あるのみだ。

技の完成度を。

戦い方を。

僕が習得できた技の本来の持ち主たちならきっとこんな無様な姿をさらしはしなかった。

修業あるのみだ。

いままでは技のみをイメージしてきていた。

それだけではだめだ。

戦い方を学ばなければ。

完膚なきまでに叩き潰されたというのに、次のことを考えている自分に笑ってしまう。

そうさ。

そうとも。

牙を立て続ける限り、負けではないのさ。

僕は、まだ負けていない。

勝っている途中なのだ。

 

 

 

「次は勝つ」

 

 

ここから、僕の本当の闘いが始まる。

 




ここから主人公の武者修行ならぬスーパー巡りが始まる。

ていうかあれだけ「誰が相手だろうが狩るのは自分だ」みたいなこと言っといて狩られました。

感想、指摘、技の募集しております。
どうかよろしくお願いします。

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