ベン・トーの世界に転生者がいたら   作:アキゾノ

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今回もどうかよろしくお願いします!


4食目

あの味が忘れられない。

初めて半額弁当を手に入れたあの日、僕は我慢が出来ずに公園でその獲物にかぶりついた。

ホロホロと崩れていく鯛の身、しかし口に入れればしっとりとした柔らかな感触が確かに舌先を刺激した。

鼻から抜けていく和の匂い。

ご飯もたっぷりあり、無我夢中で食べて気づいたら空を見上げながら涙を流していた。

はっきり言おう。

うますぎる。

それしか表現ができない。

グルメリポーターではないのだから仕方ない。

本当にうまいものを食べたとき、やはり人間の口から出るのは「うまい」だ。

そこに建前はいらない。

言葉を飾ることに意味はない、と偉い人も言っていた。

久々に満ち足りるという感動を味わった。

初戦は小説の中の世界だと、どこか甘く見ていた。

誰かと競い合って、何かを勝ち取る。

それがこんなにも満たしてくれるなんて。

争奪戦に参加して本当に良かった。

 

 

 

烏田高校、教室にて僕は自分の目を疑った。

目を疑うなんて経験をする人は少なくないと思う。

しかしクラスメートが、落とした弁当を3秒ルールだと叫びすぐさま口に放り込む姿を見たときは嘘やんと思った。

そしてその口の端から覗く長い髪の毛がその異常さを一層掻き立てている。

 

「…お腹壊すで」

 

いかんいかん、あまりの光景につい話しかけてしまった。

それも前世の住んでた場所の方言で。

 

「えっと…誰?」

 

こっちのセリフだとは言えなかった。

 

「あー…新道心羽」

 

「なんか荒野の王様みたいな名前だな」

 

「よく言われるよ。それで誰のものとも知れない髪の毛を食べているあなたは誰?」

 

「佐藤洋」

 

ペっと髪の毛を吐き出す佐藤君。

佐藤と言えば日本全国どこにでもいるありふれた名前だ。

亜種として斉藤と田中がいる。

まぁそんなことはどうでもいいや。

 

「落ちたの食べると行儀悪いで」

 

「大丈夫、胃はそれなりに頑丈なほうだから。昔訓練だって言って親父の駐屯所に付き合わされて一週間山の中でサバイバルしたのが効いてるのかな」

 

いや、知らんがな。

駐屯所っていうと、佐藤君のお父さんは自衛隊かな?

 

「自慢のお父さんだね。国を守る仕事につ…」

 

ついているお父さんなんてか格好いい、と言い終わる前に佐藤君に肩を掴まれ、これ以上ないくらいの距離で

 

「そんなわけない」

 

と言われた。

目と目が触れ合うくらいの距離、はっきり言ってめっちゃ怖い。

目が血走っているところとか、瞬きを一切しないところとか。

 

そしてそのまま佐藤君はブツブツと自分の世界に入っていった。

時折、残尿によりブリーフを砂漠迷彩柄へ再変色させた親父とか意味が分からないことを口にしていた。

 

そしてここでもう一つ。

僕と佐藤君が話していると、視線を感じた。

クラスの外から、女の子がこちらを見ている。

知り合いかなと思ったけど、そういえば僕はまだこのクラスで友達と言える存在っていないなと思った。

泣けてくる。

弁当争奪戦の事ばかり考えていたからなぁ…。

頑張って友達を作ろう。

じゃなくって、じゃああの女の子は何でこっちを見ているんだろう。

あ、もしかして佐藤君の知り合いかな。

佐藤君とお昼を食べたいのかもしれない。

かわいい子だし、おとなしそうな子なので知らない存在である僕を見て警戒しているのかもしれない。

お邪魔だったな。

そう言って席を立つ。

 

その瞬間、女の子のほうから舌打ちが聞こえた。

そして

 

「サイトウ刑事の前に現れた謎の男…果たしてこの男は味方なのか…へっ、攻めですね」

 

意味が分からなかったけど、何故か体の震えが止まらなかった。

 

 

 

 

 

 

その夜、僕は昨日と同じくあぶら神の店に来ていた。

僕が店に入ったときいくつもの視線を感じた。

なんかもう慣れた。

けどいつもと少し違うような気がする。

たしか『ベン・トー』の世界では強い狼や目立つ狼、そして何か特徴的な狼には【二つ名】と呼ばれる呼称が与えられる。

それは見た目であったりその生き方であったり、まぁつまりはニックネームみたいなものだ。

しかしこれはただの呼称ではない。

【二つ名】は何故か知らないけど他県にまで轟くものらしい。

そしてそれは狼の誇りともいえる。

僕も【二つ名】ほしいなぁ。

厨二みたいなのは嫌だけど。

 

ざっと弁当を見る。

今回は金銀財宝のイメージはない。

この間のことを信じるなら、今日は月桂冠はなしかな。

それでも目を引く商品はあった。

『夏へ備えろ!肉を育てろ!スタミナドドドンドンドンブリ!!!』

 

相も変わらず素敵なネーミングセンスだ(棒)

頭がハッピーセットだぜ。

 

でも悔しいかな、惹かれてしまう自分がいる。

 

するととなりに茶髪が来た。

 

「ちゃお」

 

「ちゃおっす」

 

「今夜も来たわね」

 

「基本毎日来るよ。お金もそんなにないし、美味しいし」

 

「ふふ、素直ね。ところで昨日の弁当の味はどうだった?」

 

「最高でした。今日は月桂冠はないだろうけどそれでも楽しみで仕方ない」

 

「どうして月桂冠がないってわかるの?」

 

「天まで光り輝くお宝のイメージがなかったから。」

 

「ぷ、あはは。面白いわね【天パ】」

 

「て、【天パ】?」

 

なんだ、急に悪口を言われた。

 

「あ、気を悪くした?あなたが茶髪って呼ぶから私も【天パ】って呼ぼうかなって」

 

前かがみに、髪を耳に掛けながらそう言う茶髪の胸が揺れる。

僕の心も弾む

 

「ぜひそう呼んでください」

 

「ありがとう。それにしても昨日は驚いたわ。まさかあんな技を持っているなんて」

 

このわがままボディ、いったいどれくらいの数値を持つのだろう。

 

「なぁに?」

 

「いや…えっと、茶髪って何歳なの?」

 

「18歳。あなたの先輩にあたるわね」

 

不味い…けっこうため口でしゃべってる気がする。

 

「気にしないでいいわよ。ここでは誰もが平等なんだから」

 

「…うん、そうだね」

 

「【天パ】は今日の狙いは?」

 

なんだろう、あの名前を口にするのはちょっと抵抗があるな。

 

「…スタミナ丼」

 

「男の子ねぇ。私は豚の角煮弁当を狙うわ」

 

「ほむぅ…それもおいしそう」

 

「ここのはまた別格よ。一度獲ることができたのだけどトロットロでプリップリだった」

 

しらずのうちにゴクリと生唾を飲み込んでしまった。

いまからでもそちらに変更しようかな…。

 

その時、店内がざわついた。

いや本当に声が出たとかではない。

弁当を狙う狼たちが殺気立ったのだ。

どしたん?と茶髪に聞いた。

 

「【氷結の魔女】よ…」

 

「【氷結の魔女】…?」

 

「ここ、アブラ神の店とジジ様と呼ばれる半額神の店をなわばりにする狼よ」

 

ツンツンとシャギィの入った髪型。

鋭い眼光。

烏丸高校指定の制服に厚手の革で作られたごっついブーツ。

そして黒いタイツにスカートという好きな人からしたらたまらんであろう服装の女。

こいつがここら一帯をなわばりとする狼、【氷結の魔女】。

 

「なにその二つ名」

 

「どうやってついたかわからないけど、実力は一級品よ」

 

「茶髪よりも?」

 

「…負ける気はないわ」

 

「さすが、それでこそ」

 

 

【氷結の魔女】は弁当を一瞥しフリスクの前で立ち止まる。

目を閉じていることから精神統一しているのだろう。

 

「負けないよ、茶髪にも」

 

「えぇ、こちらこそ」

 

 

現れるアブラ神。

貼られる半額シール。

そして閉まりゆく扉。

 

 

好敵手、茶髪。

狼の数は12頭。

その中には二つ名持ちの、【氷結の魔女】。

きっと強いのだろう。

今回は弁当を手に入れることができないかもしれない。

ふざけるな。

それは僕のだ。

相手がだれであろうと関係ない。

誰が相手だろうと、僕が狩る側だ。

【氷結の魔女】、あなたを倒せばきっと今日の弁当の味は月桂冠に並ぶだろう。

倒させてもらう。

 

扉が閉まった。

24の足が一斉に大地を蹴った。

 

 




うちの主人公は、どちらかというと作中の【サラマンダー】よりな考え方です。

ちなみに今回の話の中で本来の主人公である佐藤君がブツブツいっていた内容が気になる方はすぐにベン・トー一巻を買うんだ!

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