ベン・トーの世界に転生者がいたら   作:アキゾノ

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やっとこさ大体の説明が終わった…。
次から戦闘パート!
どうか暇つぶし程度で読んでくださるとうれしいです!

指摘や感想なんかいただけると嬉しく思います。
読んでくださった方、ありがとうございます。
これからもどうかよろしくお願いします。


サバの味噌煮290円
1食目


時刻は午後8時40分。

4月とはいえまだまだ寒さの残る季節であり、スーパーの外は別世界のように真っ暗だ。

唯一、看板だけが辺りを照らしてくれていて、さながら森に迷いこんだ旅人が集うたき火のようだ。

いや、これから弁当を得るために駆ける狼になるというのに旅人と言うのはなんだかおかしな話だ。

 

昨日ぶっ飛ばされて気絶して惨めにも敗北の味を噛みしめて、だけど胸に渦巻く熱い何かを思い出して今日、僕はまたスーパーへとやってきた。

結局昨日は金がなく、カップヌードルのシーフード味を食べた。

慣れ親しんだ味で胸が温かくなったのは良いけど…やはり米が食べたい。

肉が食べたい。

はっきり言って今日の僕は何か鬼気迫るものがある…はずだ。

きっと周りからは界王拳3倍くらいにははじけて見えるはず。

口でシュインシュインと効果音を立ててみる。

自分の中でやる気が上がった。

周りにいた茶髪の高校生が気味の悪いものを見るような眼をしていたが関係ない。

 

とりあえずは弁当コーナーへ足を向ける。

確か、半額になる前に商品を一瞥し、自分が食べたい獲物を見定め、そして弁当コーナーから離れる。

この一連の流れを行うことは『豚』ではなかったはずだ。

僕がお弁当と言う宝の山へ足を向けると昨日と同じくたくさんの視線を感じた。

同時に蔑むような視線も。

なるほどなるほど…。

確かに昨日、何も知らなかったとはいえ僕が行った行為は間違いなく『豚』だった。

その蔑視も甘んじて受けよう。

だが、今日は違う。

姿勢を正し、ワゴン内を見る。

その時僕は自分の目を疑った。

おぉ…色鮮やかな金銀財宝が…!

 

慌てて目をこする。

そこには昨日に比べて数は少ないものの、それでも品質はなんら変わらず、陳列も完璧であったワゴン内の景色があった。

今のはいったい何だったのだろう…。

落ち着いて一品、一品を見る。

焼肉弁当に天ぷら弁当、数あれど僕が今日食ってやると決めた弁当は

 

『括目せよ!春の祝い膳!鯛のありがタイ行楽弁当!』

 

だ。

相も変わらずテンションが最高にハイっていうネーミングセンスだ。

しかしそのテンションの高さも頷ける。

まず容器からして手の入りようが違う。

真四角のトレーなのだが木目、いわゆる高そうな木の弁当に入っている。

それだけでも目が行ってしまうのに、なんと鯛がまるごと1匹入っているのだ。

尾頭付き、思わず足を止めてしまいそうになるのをなんとかこらえて歩く。

鯛が丸ごと一匹…それに加えて卵焼きにかまぼこ、つくだ煮と言った和風味溢れる作品となったそれを見た瞬間、僕は冗談ではなくそれが金銀財宝に見えた。

そう、はじめにワゴン内を見たときに見た金銀財宝はこの弁当からあふれ出たイメージだったのだ。

他の弁当とは一線を画すこれはいったい…。

 

そして僕は邪魔にならないように調味料コーナーへと向かう。

ハバネロをデフォルメキャラに容器にプリントされている一味唐辛子を手に取りながら、頭にあるのはあの弁当のことだった。

 

いつのまにか隣には茶髪の女子高生がいた。

服の上からでもわかるそのたわわに実った二つの果実を携えた爆裂ボディの茶髪は、粒マスタードの瓶を手にしながら、こちらに視線はむけずに話しかけてきた。

 

「昨日あれだけ惨めな姿をさらしたのに今日も来たのね」

 

昨日…そうか、この人も昨日ここにいたのか。

 

「私も一撃いれたのだけど…根性あるわね」

 

ていうか僕を攻撃した一人だった。

 

「昨日は恥知らずの豚だったけど、今日はずいぶんと殊勝ね。狼の真似事までして」

 

「…生憎、昨日までこんな世界があるなんて知らなかった。豚だと言われても仕方ない」

 

そう、昨日までの僕は何も知らず、その結果が豚と呼ばれても仕方ないものだということは自分でも理解している。

そう、昨日までは。

 

「だけど、今日からは違う」

 

「あら、形だけ真似ても狼とは言えないわよ?」

 

「狼だとかそんなことは正直、どうでもいい。僕は美味しいものが食べたいだけなんだ。

ルールを守ることで、美味しさがあがるならそうするだけ」

 

「…ふふ、おもしろいわね」

 

今までの蔑むような視線を彼女から向けられなくなり、代わりに好奇の眼で見られる。

 

「確かにそうね、美味しいものが食べたい、それが全てよね」

 

何がおかしいのか、茶髪はそう言って笑う。

 

「ここの事は誰かから聞いたの?」

 

「いや…」

 

「そう、なら少しだけ手ほどきして上げる…とはいってもほとんど理解はできているようね?」

 

「…半額シールが貼られ、従業員がバックルームへ戻り、その扉が閉まるまでは取りに行ってはならない」

 

「そう、そんなことをすれば恥知らずな豚として処理される」

 

「昨日の僕みたいに?」

 

「そうね」

 

あっけらかんに言う。

 

「いろいろあるけれど、それだけ覚えていれば豚として扱われることはないわ」

 

他にも茶髪は色々なことをかいつまんで教えてくれた。

まとめるとこんな感じ。

・神(店員)が売り場から消える前に駆けることなかれ

・その夜に己が食す以上に狩るなかれ

・狩猟者でなきものに攻撃するなかれ

・獲物を獲った者襲うなかれ

・店に迷惑かけることなかれ

Etc.

 

思った以上に細かいルールがあった。

覚えられるかな。

まぁなんとかなるだろ。

前世ではそれなりに器用な部類だったし。

そして最後に茶髪は言った。

 

・礼儀を持ちて誇りを懸けよ

 

か、かっけぇ。

その爆裂ボディも相まって、きっとこの茶髪は原作でも名のあるキャラだったに違いない。

 

「あとは店によって半値印証時刻(ハーフプライスラベリングタイム)が違うというとこかしら」

 

半値印証時刻(ハーフプライスラベリングタイム)?」

 

「半額シールが貼られる時間帯ってこと。当然、地域や曜日、その日の売れ数によって前後はするけど大体はルーティーンがあるわ」

 

「なるほど…この店だったら8時50分くらい?」

 

「まぁそんなところね。ちなみにほかの店に行ったことは?」

 

「ない」

 

「…ていうことは昨日の今日で、この店しか知らないのにもうここまで理解してるってこと?」

 

…おっと、なかなか鋭い。

転生者であること、他の人に話したらどうなるのだろうか。

きっと精神病院をお勧めされるか、白い目で「ソウナンダ」と言われ、以降話すことは2度とないだろう。

なのでここはあえてしらを通す。

 

「なんとなく、わかるよ」

 

「…そう」

 

まぁ、こういった場では過度な詮索はしないだろう。

現にお互い自己紹介もしていないのだから。

スーパーだけのお付き合い。

それが狼だ。

 

 

その時、精肉コーナーから従業員が出てくる。

やたらと顔がテカテカしており、昨日近くにいたときはどことなく揚げ物の脂の匂いがした従業員だ。

 

「あの人はこの店の半額神、通称・あぶら神よ」

 

「半額神っていうと…」

 

「その名のとおり、半額を司る神にしてこの狩場の絶対的存在よ」

 

つまるところ店長かなんかか。

 

「あぶら神って…」

 

「あぶら神はデリカ…お総菜コーナー出身でこの店の最高責任者になってもまだ現役でお弁当作りに勤しむ半額神の中でも珍しい存在なの。

それゆえ揚げ物の匂いを漂わすことからそう呼ばれているわ」

 

「なんか…すごいね」

 

うん、なんかもうほんと何から何まですごいわ。

あぶら神とか小学生の時分なら軽いイジメみたいなあだ名だぞ。

絶対、油の匂いだけじゃない。

顔のテカり具合から来てるよそのあだ名。

ブタゴリラみたいな安直なそのネーミングセンスに軽い絶望を感じながらも、半額神が出てきたということはいよいよ始まるのか。

自然と力が入る。

その時、隣の茶髪が息をのむのが分かった。

 

「あ、あれは…!」

 

「なになに?」

 

あぶら神が弁当にシールを貼っていく中、僕が目をつけていたあの鯛のお弁当になにやらもう一枚のシールを貼るのが見えた。

 

「げ…月桂冠…!」

 

「げっけいかん?」

 

茶髪の気配が、いや店内のいたるところから尋常ではないオーラを感じる。

 

「月桂冠…半額神が認めた、その日の最高傑作の作品である証に貼られる特別なシール、それが月桂冠。

当然、そんな良い品はこの時間になるまでに定額で買われていることがほとんどなんだけど…あなた、ついてるわね」

 

不敵な笑みを漏らす茶髪。

 

「月桂冠を手にした者はその日、その狩場での絶対的勝者であることを意味するの」

 

「半額弁当なのに、最高傑作って…」

 

「あえて時間を置いたほうが、美味しくなることもあるのよ…さ、話は終わり。

ここからは敵同士よ、恨みっこなし。」

 

 

 

そしてあぶら神がバックルームへと入っていく。

扉が閉まるまでもう3秒もない。

はっきり言って興奮して落ち着かない。

心臓の音がバクバクと言っている。

けど、扉が閉まっていくにつれ、うるさいくらいの鼓動は聞こえなくなっていく。

もう閉まる、その思ったとき世界から音が消えた。

 

 

人生2度目の弁当争奪戦が始まった。

 

 

 

僕は抑えきれず呟く。

 

「燃えるぜ」

 

 

 

 

 




台詞「燃えるぜ」
漫画・喧嘩商売の工藤優作の台詞

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