ベン・トーの世界に転生者がいたら   作:アキゾノ

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遅くなってすいません…まだ見てくれてる人がいたら感謝!
しかし今回の話は原作の垂れ流し…オリジナル要素無し。
すぐに次の話か来ますのでどうかご容赦を…
今日中に更新できたら…


3食目

佐藤は困惑していた。

目の前に従妹がいたからだ。

別にいること自体がおかしいのではなく、何故、佐藤と同じ高校の制服を着て高校の前にいるのか…ということに困惑していた。

著莪あやめ。

佐藤洋の従妹であり、丸富大学付属高等学校1年生である。

なのに何故、烏田高校の制服を着ているのか。

先日、佐藤は著莪から連絡があり女生徒の制服一式を佐藤に調達するように頼んでいた。

何に使うのかわからなかったし、制服一式を調達するために白粉から「着るんですか?受けなんですねわかります」と非常に意味不明な言葉を投げつけられるという二次被害が出たのだがそんなことはどうでもよくって、どうやら著莪は烏田高校に潜入するために制服を必要としていたみたいだ。

 

「なんだよ、学校間違えたのか?」

 

「んなわけないじゃん。わざわざ従妹が遊びに来てやったっていうのに…しかも不法侵入までして、どっきりさせてやろうと思って連絡もあえてしなかったっていうのに」

 

「わかったわかった…で、本当は何しに来たんだ?」

 

「…【氷結の魔女】に会いに」

 

その瞬間、佐藤の顔に初めて驚愕が浮かんだ。

 

「まさか…お前も狼なのか!?」

 

「アンタと同じく…ね」

 

著莪はそう言い、ニット帽を脱ぐ。

露わになった黄金の髪が背景の夕暮れと同化し、黄昏空が一層際立つ。

さらに逆行故か制服が透けてボディラインがくっきりと象られ、まるで水に濡れているかのようだと佐藤は感じた。

湖の上に佇む精霊のような…。

 

「3日前、魔女の縄張りに行ったんだけど、聞かされてた【半値印証時刻】が実際と違っててさ、面倒くさいから今日直接来たってわけ。そのほうが面白いっしょ?」

 

「なぜ、会う?」

 

「決まってるじゃん【二つ名】持ち同士が同じ縄張りに現れたとき、それは戦う以外にない」

 

「お前、【二つ名】持ちなのか!?」

 

ニヤリ、と笑みを返すことで返事をする著莪は、HP同好会の扉を開け放つ。

そこに広がっていたものは…槍水が白粉にキャメルクラッチをかけてマッサージをしている光景だった。

その際に白粉が「あうっあうっあうっ」とオットセイのような声を上げているなんとも形容しがたい光景だった。

佐藤は、「なんでこのタイミングでこんなことをしているんだ、空気読めよ」と目を抑え、著莪は自分の目がおかしくなったのか、ここはHP同好会ではなくプロレス同好会ではないのかと目薬を必要としていた。

結局このあと、佐藤は今宵の争奪戦の時間帯と場所を著莪に連絡するから今は帰ってくれと懇願し、著莪も何とも言えない顔で了承した。

 

 

ジジ様の店。

佐藤は著莪のことを槍水に話し、今宵の争奪戦の場に赴いていた。

開演の時は今か今かとボルテージが静かに上がる店内、そこで槍水は著莪と乾物コーナーにて背中を合わせていた。

 

「噂は聞いている…争奪戦に参加して日が浅いのに、頭角を現し【二つ名】を与えられた狼が東区にいると」

 

槍水の脳裏にふと、ある男の顔が浮かんだ。

それは後輩である佐藤と同時期に狼となり、【二つ名】を与えられた男だった。

佐藤と部室でゲームをするときの顔とはまた違う、狼のそれは痛いほどに空気を張り詰める。

しかしそれに著莪は飄々と返す。

 

「どうも。今日は何を?」

 

「サバの味噌煮だ。うまいぞ、ここのは」

 

「聞いてる。絶品だってね」

 

「やはり、後ろにだれかいるというわけか。最近また動き出したガブリエルラチェットか?」

 

「情報を聞いただけだ。ここに来たのはアタシ自身の意志。他の用事もあったしね、ちょうど良かった」

 

そして著莪は佐藤を見る。

“大丈夫、心配するな、守ってあげる”と、微笑を浮かべて。

その顔に、佐藤は心当たりなどなく内心首をかしげる。

 

「奴らは今何をしている?目的はなんだ?そもそも何故今になって…」

 

「余計なこと考えてたら弁当獲り損ねちゃうんじゃない?」

 

槍水の言葉を遮り、著莪は笑った。

睨み、再び場の空気が重くなる。

 

「佐藤、お前の狙いはなんだ?」

 

一転して、槍水が佐藤に問う。

今までの重い雰囲気から普段の口調に戻ったそのギャップに女性って怖いなぁと思った佐藤だが答える。

 

「和風ハンバーグを狙おうかと」

 

「あ、美味しそうじゃん。獲ったらアタシにも半分くれ。アタシのサバも一口あげるから」

 

著莪もまた普段の雰囲気に戻っており佐藤は安心した。

けどそれ以上に。

 

「割合おかしくないか?」

 

「あっはっはっは」

 

不機嫌そうな顔をした槍水はそれっきり黙ってしまった。

そして開かれるスタッフルーム。

歩き、出てくるジジ様に緊張感が高まる。

 

不意に著莪は佐藤の手を取ってその場から離れる。

 

「ねぇ…魔女っていつもあんな感じなの?」

 

「いや…僕もあんな先輩初めて見る。【二つ名】持ちと戦うときはあんな感じなのかもしれないけど」

 

「…【二つ名】を与えられてからまだ一年くらいだって聞いてたから何とかなると思ったんだけど、厳しいな…アレに勝つのは相当厳しい」

 

「やめといたら?掌底で吹っ飛ばされるよ?」

 

「お生憎様。アタシ、トライ&エラーを要求される状況って嫌いじゃないんだよね」

 

「お前はそういうやつだよ」

 

正しくはトライアル&エラー。

要は試行錯誤の意味である。

挑戦して失敗して学んでいく。

大半の人間はそこで諦めてしまうのだが、ここにいる著莪という人間は失敗も楽しみ、いつか訪れる成功の時まで根気強く歩いて行ける人間だ。

そして、それは佐藤もよく知っていた。

 

「今回は勝てないかもしれない…でも何か掴んでやる。あ、佐藤は弁当獲れよ?そんでアタシに一口くれ。ハグしてあげるから」

 

いや別にいい、という前に著莪は狼の顔になった。

佐藤はその佇まいに息を呑む。

 

【湖の麗人】

かの有名なアーサー王伝説にて登場する精霊。

力を願ったアーサー王を導くために、聖剣を渡したとして有名である。

 

争奪戦を初めて二か月。

確かな実力を携えて今日ここに、魔女に挑む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

乱戦が形成される。

さして広くもないスペースに十の狼が団子となる。

そこに著莪はいた。

四方から繰り出される攻撃を最低限の動きだけで受け流す。

何かを待っているように。

考えるまでもない。

その瞬間、大きな影がその場の狼を包んだ。

大柄な狼が頭上から大の字で降ってきたのだ。

誰がやったのか?

それも考える必要もない。

慌ててその場から全員が飛びのき、一瞬の静寂が生まれる。

屍となったその狼の上に、羽のように舞い降りたのは【氷結の魔女】。

誰よりも高い位置からただ一言―――来い、と。

 

著莪は走り出した。

向かうは弁当、ではなく【氷結の魔女】だった。

狼ならば弁当に向かう。

しかし、著莪はそれでも目の前の相手を打倒したかった。

その思いが強かったのか弱かったのか、わからない。

しかし、それだけでは届かなかった。

 

風のように走る【湖の麗人】。

十分に速度の乗った拳を槍水に向ける。

それを一瞥し、魔女はその場から動かず片手で払った。

驚愕に満ちた声は誰のものだったのか、魔女は一発の蹴りで必死に距離を詰めた著莪をスタート地点に吹っ飛ばした。

しかし著莪も強者だ。

素早く手を交差させたことでガードを成功させた。

ほぅ…と感嘆の声を漏らす魔女。

しかしその次の瞬間には魔女は著莪のすぐ横におり、瞬きの間に著莪に攻撃をしこたまぶち込んだ。

今度はそのまま弁当コーナーに弾き飛ばされた著莪は失いそうになる意識をなんとか保ち、弁当に背を向けたまま再び魔女にかみつく。

 

「まだまだだ小娘。豚を相手にするわけでもないのに個に執着する。

私にばかり執着し、本質を見失っている。この場で本当に思うべきは弁当だ。

弁当への思いこそがこの場での絶対的なルールだ…故にお前は負ける」

 

「うぉぉぉぉぉおおおおおお!!!!」

 

氷のような冷たさを持つ魔女とは対照的に、【湖の麗人】は叫んだ。

いや、吠えた。

誰が見てもわかる、風前の灯火。

最後の一撃。

 

「まぁ、嫌いではないがな」

 

何かを思い出しながらつぶやく槍水の言葉。

著莪の攻撃を片手で受け止め、掌底をくらわせる。

地べたを転がりながら吹っ飛んでいく著莪を見ず、乱れた髪を抑えながらレジへと向かう。

その手にはいつのまにか弁当が収められていた。

 

ここに【二つ名】同士の戦いは幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

争奪戦後、著莪と佐藤は公園にいた。

いつも通り部室で食べようとする佐藤に、著莪は怒り、なぜ怒ったのかもわからないまま、そして槍水に言われるがまま著莪を追いかけ今に至る。

 

著莪は怒っていた。

槍水に負けたことも、なにも察してくれない馬鹿な従弟のことにも。

争奪戦後に弁当を一口くれと言っていたのに…普通ならそっちから言ってくるのが筋じゃないのか?と横暴なことを思いイライラは募る。

 

「…佐藤、じゃんけんしよう。負けたほうは謝る。何が何でも謝る。いいって言うまで謝る。アタシはグーを出す」

 

息つく暇もなし、じゃんけんを開始した著莪に慌てて佐藤はチョキを出した。

これは昔からこの二人の中で行われてきた一種の仲直りの方法だった。

とは言うものの、著莪が怒り、佐藤は言われるがままわざと負けてきたのだが。

 

そして負けた佐藤は謝り続けた。

五回謝れと言われたらごめんなさいと五回言い、さらに十回謝れと言われたらごめんなさいと十回言った。

 

「…弁当少しくれ、そしたら許す」

 

しぶしぶ弁当を渡す佐藤。

和風ハンバーグ弁当。

従来のデミグラスソースのかかったいわゆる一般的なハンバーグと違うところはソースではなく玉ねぎや大根をすりおろしたソースが特徴であるというところだ。

腹に響くソースではなく、あっさりとした優しい風味を楽しみながら著莪は一気に半分近くハンバーグに嚙り付いた。

悲鳴を上げた佐藤はすぐさま弁当を獲り返し、もうやらんとすぐにかきこんだ。

 

「じゃあ約束通りハグしてやる」

 

「いや、別にいいって」

 

従妹とは言え、年頃の男女。

しかも著莪はスタイルもよく、外国人の母譲りの美貌をしっかりと受け継いでいる。

照れないわけがない。

しかしここで変に意識するとまた面白おかしくイジられるかもしれないからという言い訳をして、佐藤はされるがままを選択した。

 

 

 

著莪が東区に来たわけは、魔女に挑みに来たため。

そしてもう一つは従弟に会うためだった。

何故か。

それはある男の計画を潰してやるためだった。

弁当も一口貰ったし、ちゃんと謝ったし、その誠意に答えて教えてやろう。

あの気に入らない計画を。

 

 

「あのさ、良いこと教えてやろっか?」

 

「なんだよ」

 

その時だった。

ハグをした肩越しに慣れない香水の匂いを感じた。

佐藤の体に付着した、魔女の匂い。

昔から何をするにも一緒だった。

実の兄弟よりも仲が良く、親友よりももっと近しい存在。

まるでもう一人の自分のように、お互いのことを理解していた。

それが、少し目を離しただけで、自分から離れて行ってしまったような感覚を覚えた。

 

…それを佐藤が感じていないことにも怒りが沸いた。

 

佐藤はバカだからしょうがない。

著莪はため息をついて、ただ、なんでもない、と一言いい、自分の匂いを残すため力いっぱい抱きしめた。

 

 

 


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