ベン・トーの世界に転生者がいたら   作:アキゾノ

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[壁]_・)チラッ。。。。。。。゙(ノ・_・)ノスタスタッ。。。。。。チラッ(・_[壁]

今更の更新…申し訳ないです…まだ読んでくださってる方がいたらうれしいなぁ…

久々の投稿なのでクォリティは期待しないでくだちい…

よろしくお願いします!


13食目

今宵も争奪戦、奪い奪われた勝利という名の食。

僕はその手に弁当2つを持ち、レジを抜け出口に待っていた茶髪に話す。

 

「なんか最近、見られてる気がするんだよね」

 

開口一番にそういう。

もし僕が誰かにそう相談をされたならば、自意識過剰乙と切り捨てたことだろう。

事実、自分で言っていて何言ってんだと思った。

しかし最近、厳密にいうと弁当争奪戦に参加してからそう感じることが多くなった。

始めは豚だから蔑みで見られているのだと思った。

次に初めて弁当を獲り、不名誉だがなんか変な【二つ名】で呼ばれ始めたころからは悪目立ちかな?と思った。

しかしそれを抜きにしても見られている。

興味本位ではなく、なんていうんだろう…分析されているような…そんな変な視線を感じる。

極めつけはバイクに跨った変な人たちを争奪戦後によく見かける。

しかも不特定多数からだ。

決まって黒いライダースーツを身にまとってフルフェイス、体格から同一人物ではないとわかる。

なんか不気味だ…一瞬頭をよぎったのは、白粉さんの顔だった。

あのクリーチャー、自身の作品をネットにアップしているらしいので、熱烈なファンがそのモデルかなんかを探しているのではないか…などとありえない想像をしてしまった。

あんな作品にファンなんかいてたまるか、と自分の精神の均衡を保つために心の中で吐き捨てる。

 

「なにか心当たりあるの?」

 

「いや…特には」

 

「…もしかして」

 

茶髪が何かを考えるような仕草をする。

どうでも良いけど茶髪が何か動くたびにその胸に携えたミサイルがたゆんと動くのを間近で見ると何だろう…自然と手を合わせて祈ってしまいたくなる。

 

「【天パ】、こんな噂聞いたことないかしら」

 

茶髪曰く、ここら一帯のスーパーは東西の2つに分けられている。

と言っても明確に地図などで分けられているのではない。

あくまでも狼の中で、だ。

僕がいるこの店は西区に当たり、他にも【氷結の魔女】が縄張りにしている店なども西区だ。

逆に東区は僕はまだ行ったことがなく、茶髪や坊主、顎鬚も東区にはいかないらしい。

なんでも東区には化物がいる、と。

別にその化物がいるから東区に行かないわけではなく、ただ単に烏田高校から東区のスーパーに行くのには遠いし、時間がかかるため争奪戦に間に合わないことが多いかららしい。

そしてその化物なのだが、【魔導士】と同じレベルの強さらしい。

詳しくは茶髪も知らないらしく、ただ【魔導士】と化物の闘いの話だけが各地に伝わっているのだと。

勝者は【魔導士】、しかしその戦いは熾烈を極め満身創痍の中、命からがらもぎ取った弁当を、地に伏しながら食ったらしい。

 

ここまで聞いて思ったことは、行儀悪いという事だった。

寝転がったまま食べたってことでしょ?

まぁそうなるまでの激闘で、そんな体ながらも弁当を食べたいという意気込みは認めるけど…とか考えていたらこの間、スーパーの前で弁当5個を座りながら食ってた自分を思い出し、一人顔を赤くする。

 

そんな化物が東区におり、さらにその化物に心酔し手足のように動く狼の群れが存在するとのこと。

その名は【ガブリエルラチェット】、主に情報収集を得意とし、ありとあらゆる情報を自らの足で赴き、収集して主である化物に献上する集団。

そしてその情報をもとに東区を束ね、最強と呼ばれる【魔導士】に肩を並べた化物、狼達から【帝王】(モナーク)と恐れらている。

 

話が長くなったが茶髪が言いたいことはその【ガブリエルラチェット】なる組織は新年度になり、狼が増えるこの時期は情報収集のためあちこち動き回っては、目立つ狼をマークし情報収集に勤しんでいるそうだ。

あ~…原作を読んだとき、なんかそんな組織あったなぁと思い出した。

なるほど、これで最近の視線の正体に気付いた。

なんか肩の荷が下りた気分だ。

 

そうこうしているうちに、佐藤君が目の前にいた。

手には半額弁当を持っている。

はて…今日は佐藤君はあぶら神の店にはいなかったはずだが。

すると佐藤君は、僕に問いかけてきた。

 

「新道…僕、お前に聞きたいことがあるんだ」

 

お、おう。

急に改まってどうしたのだろうか。

佐藤君と話すことなんて、学校でももはや殆どないのに。

だって疑惑が…!

 

「最近…何か変なんだ」

 

ふむ…?

おかしいのは元からだろうに、と口にはしない。

 

「あんなにおいしかった半額弁当も、味気がなくて、争奪戦も何故か張り合いがなくて…」

 

「はぁ…」

 

「そこで、何が理由なのか考えてたんだ」

 

…何だろう、何か嫌な予感がする。

背筋に流れる一滴の汗。

この感覚は、なんかヤだな…某漫画で「今のはメラだ」と言われる前のような感覚。

 

「新道、お前がいなかったからだと思うんだ」

 

…What?

 

こいつ、今なんて言った?

僕の耳が腐ったり、地球がフォトンベルトに入っていないというのならばこの目の前の男は僕がいなかったから御飯がおいしくなかったと言った。

隣を見れば茶髪が一歩、後ずさっている。

更に周りを見れば、他の狼達も引いている。

あ、いつもの黒スーツのバイク野郎も何かをメモしている。

この瞬間、思ったことは「あ、終わった」だった。

 

 

 

 

 

アホなこと言った佐藤君の頭をひっぱたたき、首根っこ掴んで人目のないところに連れていく。

去り際に「やっぱり…グヘ」という幻聴を耳にしたが気のせいだ。

そして店から少し離れた所にある公園に着いた。

 

「言い訳を聞こう、それが貴様の口にする最後の言葉だ」

 

今こそ修業の成果を十全に発揮する時だ。

数ある殺人術を今ここで…!

 

「え、いや、さっきも言った通り、争奪戦が楽しくないんだ」

 

なんか神妙な顔をしながら言うのでとりあえず聞くことにする。

 

「楽しくない?」

 

「なんていうか…初めのころと違って今は弁当も手に入れられるようになってるのに、それに見合うだけの感動がないというか…」

 

ははぁ。

佐藤君が急にないを言い出すかと思えば。

僕はその答えをなんとなくわかる。

佐藤君も、こちら側だというだけの話だ。

難しく考える事ではない。

 

「理由、本当にわからないのか?」

 

「新道はわかるのか?!」

 

「まぁ…」

 

「教えてくれ!」

 

「え、やだ」

 

「なんでだ!」

 

ずるっとリアクションする佐藤君。

 

「こちとら佐藤君に迷惑しかかけられてないからな」

 

「迷惑かけてないだろう!」

 

「今さっきかけられたわ!」

 

そうだ!

今までの話でうやむやになりかけていたが、さっきの発言!

新道がいないと、と言ってたけどあれは多分僕がいたときはまだ猟犬群とつるんでいなかったからだろう。

一人で自由に戦っていたころのほうが楽しいと、究極的にはそういう事なのだ。

それを猟犬群というシステムの歯車となり、いわば楽して勝つかわりに深い感動はないそのやり方に、彼は楽しさを見いだせなくなっていただけの話だ。

しかしそれを教えてあげるつもりは毛頭ない。

なぜならさっきも言った通り佐藤君に対してあまり良い感情を持っていないという事と、自分で気づけと思ってるからだ。

仮にも、あの【氷結の魔女】の仲間であるのならば…。

 

「頼むよ新道…」

 

しかしこうまで弱ってる佐藤君を見るのは初めてだ。

時間が解決してくれるだろう問題だが…ううむ、突き放すのもなんだか忍びない。

こうして敵に頭を下げているのを無下にもできない。

 

「…争奪戦が楽しかった時のことを思い出してみたらいいんじゃないか?」

 

僕の言葉に顔を上げる佐藤君。

直接的な答えを言う気は、何度も言うが毛頭ない。

 

「自分の心に問いかけてばかりじゃなく…そうだな、一度深呼吸して、一歩引いてみて、頼りになる仲間に相談するのもいいと思うよ…そのための同好会だろ?」

 

そう言って僕はその場を後にする。

これで分からんようならもう知らなーい。

佐藤君と戦う機会はいままでそんなに無かったけど、あのがむしゃらさは見ていて好ましいし、できる事ならこれからも争奪戦で会いたい。

だから、早く戻ってきてほしいなと、少しだけ思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

☆★☆☆★☆☆★☆☆★☆☆★☆☆★☆☆★☆☆★☆☆★☆

 

 

 

 

 

 

佐藤は新道に言われた言葉を反芻しながら部室にたどり着いた。

『争奪戦が楽しかったころを思い出せ』と新道はそういった。

佐藤にしてみれば争奪戦は、始めは食費を切り詰めるための行為でしかなかったのだが気づけば毎日あの場へ赴いていた。

何度殴られても、何度地に伏せようとも。

気づけば怪我をしていようが、半額弁当が手に入らずどん兵衛をすする日が続こうとも、あの場所へ向かっていたのだ。

 

想えばおかしな話だ、と佐藤はそう思った。

安く食費を切り詰めたいなら、他にも方法はあるはずなのに。

100円マックでも良いし、それこそどん兵衛でもいい。

なのに、何故だ。

何故その身は弁当を求める。

 

温めていた弁当がその声を上げたとき、目の前には先輩である【氷結の魔女】こと、槍水が座っていた。

 

「先輩…僕、答えが分からないんです」

 

以前から、佐藤は新道にした質問を槍水にもしていた。

その時、槍水はこう答えた。

 

「『俺はその販売方式を含めて半額弁当は最高の料理の一つだと思っている』、この意味が分かればおのずと答えは見えてくる」と。

 

佐藤はその意味を理解しようと考えたが、結局答えはわからずじまいだった。

 

テーブルをはさんで向かい合わせの二人。

時刻はすでに10時を回ってしまいそうだ。

槍水は口元に微笑を含めてあるファイルを取り出した。

 

「なんですかそれ」

 

佐藤が訪ねると槍水は誇らしげな顔をして答えた。

 

「宝物だ、私の…いや私たちの」

 

そういってファイルを開く。

そこには何ページにも渡ってとあるシールが貼られていた。

 

「これって…月桂冠のシール…」

 

「あぁ、そうだ」

 

誇らしげに、しかし少し寂し気にページをめくっていく。

 

「ここに貼られているシールたちはHP同好会に在籍していた狼たちの、勝利の思い出だ」

 

通常、HP同好会の狼たちは勝利した証に半額シールを部室の壁に貼っていく。

その昔、HP同好会がまだたくさんの部員がいたころその実力の高さから連日シールが貼られていった。

今は3人しかいないその部室に、壁いっぱいに貼られたシールたちは年季を感じさせた。

しかし月桂冠のシールだけはこうしてファイルに閉じられている。

それは特別な勝利であるからであり、特別な思い出であるからだ。

佐藤はめくられるページを、きれいな生き物の図鑑のように感じた。

様々な店の月桂冠シール。

一つとして同じ思い出を持たないそれぞれがオンリーワン。

そしてそのシールの下には名前が書き綴られていた。

その月桂冠を手にした狼の名前だろう。

見ればその大半を金城優、【魔導士】の名前で占められていた。

そしてさらに気づく。

ページがめくられていくにつれ日付が新しくなり【氷結の魔女】の名前が増えてきたことに。

 

「…この月桂冠は」

 

そう歌うように槍水は口にする。

 

「私が初めて【アラシ】と戦い手に入れた勝利だった。大雨が降っていてな、雨の中入店してきた【アラシ】の恐怖に足がすくんで動けなかった…でもそれ以上にこの月桂冠が食べたかった。気づいたら無我夢中で暴れまわってた…何回も何回も諦めそうになったが、それでも私は勝った」

 

ぺらり、とページがめくられる。

 

「これなんかどうだ?他県から【魔導士】の噂を聞き付けた【二つ名】持ちが10頭以上押し寄せてきたことがあった。当然、地元の私たちからしたら面白くない…私たちなんか眼中にないとそう言われてるように思えてな。だからHP同好会全員でその【二つ名】持ちとやりあった…【魔導士】抜きでだ。すごい戦いだった、今でも思い出せる。奇怪な技、ありえない戦法、そしてなによりその気迫。どれをとっても超がつくほどの一流だった。一人、また一人と倒れていく中、ついに私も意識が飛んでしまっていた・・・目が覚めたとき、立っていたのは私だけだった…」

 

槍水はそのシール一枚一枚を本当に楽しそうに話す。

きっと彼女の中でこれらは本当に宝物なのだ。

佐藤もその話を、ドキドキしながら聞いている。

そして槍水がページをめくると、真新しいページの中に一枚だけ月桂冠が貼られていた。

そのシールの名前の下には佐藤洋と。

 

「これって…」

 

「あぁ、お前が【魔導士】と共に【アラシ】に勝利した時のものだ」

 

その瞬間、佐藤の頭の中にあの夜の記憶がよみがえる。

次第に胸が、頭が熱くなってきた。

恐るべき敵の【アラシ】、それに立ち向かっていった動機である新道、さっそうと現れた【魔導士】、そして手にした月桂冠…どれもこれも昨日のことのように思い出せる。

 

その瞬間、佐藤は気づいた。

今まで出せなかった答えを。

 

「そうか…そうなんだ…たったそれだけの事じゃないか…僕は何を悩んでなんかいたんだ」

 

「お前は手のかかる後輩だな」

 

嬉しそうに見る槍水。

 

「すいません…バカなのは親の遺伝なんです」

 

槍水がファイルを閉じる。

その音とともに遅くなってしまった夕餉が始まる。

そこに迷いはなく、佐藤は自分の進むべき道を見出した。

 

 

 


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