ベン・トーの世界に転生者がいたら   作:アキゾノ

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ハーメルンの作品は面白いのが多い…ついつい読んでしまう。
すると更新が遅くなる。
けど読みたい。
言い訳ですね!


11食目

☆★☆☆★☆☆★☆☆★☆☆★☆☆★☆☆★☆☆★☆☆★☆

 

 

一同、礼!

ありがとうございました!

 

今だ熱気のこもる烏田高校、剣道場にてその会話は行われている。

顧問である教師に礼をし、その日の部活動は終了となった。

ほとんどの部員が防具を外しながら会話をはじめる。

 

―――聞いたか?

―――あぁ、こち亀が終わる日が来るとはな

―――これから何を楽しみにジャンプを買えば…

―――いやその話じゃなくって…

―――あん?オカルト研究部の連中が最近手に入れた検体が1年の教室で暴れた話か?

―――なんでもエクソシストみたいな動きだったらしいぜ

―――ブリッジでせわしなく動いてたって

―――そう、まさにゴキブリみたいに

―――それ!その話がしたかったんだ

―――オカルト研究部に興味あったのか?

―――そっちじゃなくて。【ゴキブリ】のほうだ

―――…争奪戦の話か?

―――あぁ、最近デビューして連勝を重ねてる狼の話だ

―――なんていうかひどい【二つ名】だよな

―――いじめか

―――まぁ…なんでそんな【二つ名】がついたか知らないが、興味がある

―――ふぅん?

―――それとは別に気になるやつがいる。それと【魔導士】が【氷結の魔女】の縄張りに入ったらしい

 

それまで口々に話していた部員全員の手が止まった。

 

―――なんでも【アラシ】に【魔導士】含む狼どもが手を組んで対処したらしい

―――まさか、【氷結の魔女】もその場に?

―――いや…やはり現れなかったらしい

―――なるほど、やはりあの噂は本当なのかもな

―――【魔導士】が現れた後、一定期間は【氷結の魔女】はその店舗の周辺には現れない

―――らしいな

―――まさか…その空白を狙って【氷結の魔女】の縄張りを荒らそうってか?

―――いいね。ひさびさにジジ様の店のサバの味噌煮が喰いたかったんだ

―――あそこのサバはノルウェー産だが国産にはない脂がのってるからな

―――うん、まぁそれもいいが、ちょっと引き込みたいやつがいてね

 

ニィ、っと口を緩めた男。

この剣道部の部長でもあり全国大会に出場し結果を残すほどの剣豪である。

名を山原智明という。

爽やかなイケメンと称されるであろう風貌をしている。

黒髪、目元が出るように切りそろえられた前髪に首筋まである後ろ髪。

目元はすっきりとしており、人懐っこい笑顔が特徴的だ。

 

―――【魔導士】が一目置き、【氷結の魔女】が手元に置いた犬…今は犬だが頭角はすぐに表す

―――確かにそれは引き込んでおきたいな…だがそうなると【魔導士】が出てくるんじゃないか?

―――出たら出たでたまには相手にしてやろうかなと思ってる

―――この時期にやるってことは壇堂先生抜きなんだろう?

 

余談ではあるが彼らの顧問である壇堂という教師は彼らのリーダーである。

しかしその姿を争奪戦で見かけることは多くない。

というのも彼が争奪戦の場に現れるのは彼の財布の中が軽くなる時期のみである。

それまでは『ヒロちゃん』と呼ばれるラーメン屋に通いつめる食生活で過ごしている。

 

―――俺はやらんぞ。まだ給料が出たばかりだからな

 

案の定、壇堂は争奪戦には行かないと明言した。

それならそれでいい。

むしろそのほうがいい、と山原は心の中で笑った。

壇堂がいれば勝率は格段に上がる。

しかしそれはあくまで壇堂の勝率であって彼ら剣道部員は壇堂のために先行する駒でしかない。

その中で佐藤を勧誘するのは至難の業だ。

最悪、壇堂に尽くすやり方を警戒してしまうかもしれない。

壇堂が入ったときと、そうでないときの彼らの戦法は大きく変わる。

だからこれでいい。

 

―――しかし引き込めるのか?

―――いけるさ。誰だって弁当がほしい。僕たちと組めば勝率100%だ。【アラシ】だって相手にならない。それに…

 

山原は笑った。

 

―――しょせん、まだ犬だ。今のうちに教育をすればしっぽを振って仲間になるさ

 

 

 

烏田高校剣道部部員数27名。

そのうち実家暮らし18名を除いた9名の彼らは剣道部員としての顔だけではなくもう一つの顔があった。

闇夜を駆ける漆黒。

獲物を狙えば他者を押しのけ喰らいつく狩猟犬。

人は彼らを―――【ダンドーと猟犬群】と呼んだ。

 

 

 

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「ぼ、僕の傍に近寄るなぁ―――――ッ!」

 

【魔導士】が出たおかげで昨日は僕はご飯を食べられなかった。

現場の監督がおにぎりをチキンを一個奢ってくれたけど全然足りてない。

だからだろうか…お腹空きすぎて変な幻覚が見えてるに違いない…絶対そうだ。

何故か僕の行動を一挙一動、メモしている女がいる。

それも話しかけたりするわけでもなく、こっちが話しかけようものなら幽霊のように消えている。

そしてどこからともなく耳に残る言葉が悪夢を見せてくる。

 

―――ちょっとしたことで喧嘩をしてしまったサト…サイトウとシンド…シドウは別行動をとることになり、各々で事件の解決を目指す。

しかしサト…サイトウは男を手なずける事に長けた魔術師と呼ばれる男と行動を共にするがその長い指に絡めとられ甘い蜜をその身から垂らし…グフ

 

「もうやめてくれぇぇぇええ!!」

 

これ以上聞いてしまうと今夜の争奪戦に影響が出てしまう!

佐藤君にも聞いたし、確か原作でも白粉さんは男同士の恋愛と言うか濡れ場が好きだった。

それはいい!

前も言ったがそういうのは個人の自由だ。

だけど…なぜそれを僕と佐藤君で妄想する!?

僕と佐藤君はそんなに仲がいいってわけでもないのに!

あ、でも白粉さんの中で【魔導士】が佐藤君のケツを狙うホモになったことが僕的にはざまぁ見ろって思った。

願わくばこれが大衆の眼に晒されて社会的地位を失墜されればいいのに。

あ、それだと僕も一緒に地の底に落ちるな。

ていうか白粉さん…ネット上で公開してるとか言ってたな。

死にたくなってきた。

 

 

 

 

白粉さんの❝毒❞から逃げ続けて今宵も争奪戦の場に。

今夜は珍しく知ってる顔は誰もいない…と思ったら顎鬚や坊主がいた。

関係ないけど、この2人も白粉さんの中の小説では佐藤君を襲う暴漢役で出てるんだっけ…。

知らないって幸せなんだなぁ…同情の気持ちで見ると気味悪そうに2人は僕から離れていった。

そういえば茶髪がいない。

佐藤君も白粉さんも【魔導士】もいない。

ジジ様の店のほうかな?

どっちかというとあっちが彼らのメインの狩場みたいに言ってたし。

僕は最初に来たこともありこのアブラ神の店がメインかなぁ。

多分よっぽどのことがなかったらここから移動することはない。

 

まぁ、それは置いといて…今日僕はルール違反ギリギリのことをする。

明確にはルール違反ではない…はずだが疎まれるようになるだろう。

しかし…それでも僕は修羅になる。

 

―――あえて弁当は見なかった。

 

半額神が現れ、シールを貼る。

 

―――あえて弁当は見なかった。

 

スタッフルームへ戻っていく半額神。

 

―――あえて弁当は見なかった。

 

始まった争奪戦。

狼は全部で八頭。

 

―――あえて弁当は見なかった。

なぜなら今宵、僕が全部弁当を喰うからだ。

 

乱戦が生まれる場所めがけて、❝ゴキブリダッシュ❞…ではなくあえてその乱戦の中めがけて跳ぶ。

そして爆心地に着地するや否や四方八方から攻撃を受ける。

それを僕は片足を軸にスケート選手よろしく高速で回ることでコマのように弾き飛ばす。

急に現れた僕に驚いたせいか一発の重さはそれほどでもなかった。

❝回天❞と呼ばれるこの技で全員の眼がこっちに向いた。

注目されることが目的だった。

そして❝毒❞を吐く。

 

「自分らほんま弱すぎ。遊びでやってるんならもう来んといて―や」

 

「なんだとぉ!?」

 

一人の狼が喰いつく。

言いたくないが僕にはなんか知らないがとてつもなく不快な【二つ名】がついている。

だがどんな【二つ名】だとは言え、つくこと自体が誇らしいことだとほとんどの狼が言う。

【二つ名】がつくには当然なんらかの行動が鍵となる。

その行動や叩き方、見た目で【二つ名】は変わってくる。

要は目立つことで認識されるのだ。

デビューしてまだ日が浅い僕が【二つ名】を持ち、この場にいる狼達に【二つ名】はいない。

きっと疎ましく思うことだろう。

だが、それでいい!

 

攻撃をよけながら口を動かす。

 

「ほんま何年ここにおるんか知らんけど、【二つ名】ついてへんとか…影薄いんと違う?モブキャラやん」

 

「テメェー!!ぶっ殺す!」

 

「できもしないことを言うと後で悲しくなるで」

 

全員のヘイトを稼ぐことに成功。

これで弁当奪取よりも僕を潰すことに専念することだろう。

さぁ、あとは全員ぶっ飛ばすだけだ。

 

今宵、この場に来たことを…僕がいたことを後悔しろ。

 

 

 

 

「ピィィィィィィィィィィィィイイイイ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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佐藤は白粉と山原達、猟犬群たちとジジ様の店で交戦し、その結果何故か一緒に弁当を喰おうという話になった。

佐藤と白粉は弁当奪取ならず、山原達猟犬群は全員がその手に弁当を持っていた。

山原は佐藤に、自分たちと手を組めば弁当の奪取を約束しようと遠回しに言い、勧誘をしたことが今回の食事につながった。

そしてどうせならと【ゴキブリ】ならぬ新道も一緒にどうかと佐藤に言い、アブラ神の店まで一緒に来た。

そして店先でありえない光景を目にする。

 

 

店の駐車場、邪魔にならないところで新道が5個の弁当のカラを地面に置き最後の一個であろう容器を口に着けかき込んでいる姿がそこにはあった。

 

平衡感覚を失ったように、ふらふらした足取りで狼であろう男たちが新道を睨みながら帰っていった。

 

 

 

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井上雄彦先生の剣豪漫画に出てくる聾唖の美男子剣豪よろしく、満身創痍の体で地べたに座り弁当を喰らう。

最後の弁当の照り焼き骨付きチキンを手で持ち、グチャリと噛みつくと佐藤君が居たので話しかけた。

 

「佐藤君じゃん、もう争奪戦は終わったよ」

 

「あ…うん…じゃなくてその弁当どうしたの?」

 

「どうしたって…獲ったんだよ、全部」

 

「全部って…弁当全部獲ったのか!?」

 

「ルール違反じゃないよ。

狼のルールでは、食す以外を獲るなかれ、だからね。全部食べたかったから全部取ったんだ」

 

「全員倒したのか?」

 

なんかしらない爽やかイケメンが話しかけてきた。

なんだろう、白粉さんが僕たちを見て顔を赤くしながらニヤニヤしてる。

あぁかわいそうに…あなたも標的にされてしまったな。

心の中で合掌しておく。

 

「そういうのに向いた技があったからね…ごめんなさいお腹いっぱいになったんで眠いです。バイトまで寝たいので失礼します」

 

と言うのは嘘で、白粉さんのクリーチャーみたいな顔が怖いので逃げることに。

佐藤君、そのイケメン君とどうぞ白粉さんの供物になってください。

 

しかし…さすがに食いすぎたな。

争奪戦では奇襲が成功しただけあったが、それでも全部相手にするのはさすがにきつすぎた。

しこたま殴られた。

綺麗にガードできたのは最初だけだったな。

それでも勝った。

最初に放った❝毒❞のおかげで狼たちはその力を半分も使えなかっただろう。

それでもこれだけダメージを受けた。

まだまだ足りない。

これじゃ【氷結の魔女】には届かない。

❝毒❞を使う戦い方をもっと学ぼう。

今回使った❝毒❞は本当に特殊なものだったので次は違う種類の毒を使おう。

盤外戦術、いいね。

 

 

 

 

 

 

 

―――聞いたか?

―――【ゴキブリ】が弁当を全部獲ったらしい

―――はぁ!?

―――しかも狼全部倒して…

―――わけわからん

―――そんなに強いのか?

―――なんでも❝毒❞を使うらしい

―――いよいよ【二つ名】通りになってきたな

―――どんな❝毒❞だ?

―――戦った狼たちの姿を見るとなんでも平衡感覚やらを失ったらしい

―――真相はどうあれ【二つ名】持ちが【ゴキブリ】に興味を持つだろうなぁ

―――荒れるな

―――アブラ神の店だろ?【氷結の魔女】は何してんだ?

―――それがよくわからん…噂だと魔女が避けてるらしい

―――【氷結の魔女】でも戦闘を避ける相手、か

―――最近…【ガブリエルラチェット】の連中がここ、西区でよく見かけると思ってたのは【ゴキブリ】の情報集めだったのか?

―――【ガブリエルラチェット】はこの時期は新人共の情報集めで西区だけじゃなくいろんなとこにいるだろ

―――にしても多いって

―――近々、侵攻してくるとかそんな噂もあるってよ

―――…あの醜い化物が、か

―――東区の最強を力づくで奪った化物…

 

 

 

 




いつも読んでくださってありがとうございます!

今回使われた❝毒❞、わかった人がいたらすごすぎです。
ちなみに、多対一で今回主人公が勝てた理由は、狼たちが弁当を狙わず主人公を排除することを優先したことが大きな敗因です。
普段からコンビとしている猟犬群や【アラシ】、オルトロスなら主人公が勝てたかわかりませんが、普段ソロプレイの人が急に手を組み一人を攻撃しようとすると逆に本来の力を出せずに自滅してしまいます。
更に今回使われた❝毒❞が最初にMaxで決まったことも大きいです。
まぁ、【氷結の魔女】とかその辺のクラスなら余裕で10頭くらいの狼を相手どれる…はずなので主人公が今回大立ち回り出来たのも変ではないのかなぁそんなにと思いたいです。

次回もどうかよろしくお願いします!

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