ベン・トーの世界に転生者がいたら   作:アキゾノ

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仕事で忙しくて更新できませんでした…申し訳ありません!
次の更新は早くします!

今回もどうかよろしくお願いします!


10食目

❝鉄山靠❞。

八極拳を世に広めた有名すぎる技。

多くの人間がこの技に魅了され、真似をしたことだろう。

そしてその大部分が、背中を強打し怪我をするか、無理な体制により背中が攣ってしまい、

『おかぁさぁぁぁぁん!』と叫んだことだろう。

さらに言えばこの技はバーチャファイターと呼ばれるゲームのキャラクターが使う技でもあり、爆発的に知名度を上げていった。

そう、まさに爆発的。

その威力も、さながら大爆発。

 

「誰が相手でも」

 

吹っ飛んだ【アラシ】を踏み越え、僕は戦闘を目指す。

10人いた【アラシ】は3人が吹っ飛び、残りは7人。

そのうち3人が僕を抑えにくる。

 

「僕が狩る側だ!」

 

❝卜辻❞。

タックル掌底が一人に決まる。

すぐさま残り二人を片付けようとするが、後ろから僕を追い抜く影があった。

 

「うぉぉぉぉ!」

 

佐藤君と茶髪が残りの2人を沈めた。

先ほどまで動かなかった2人が、僕と並び立っている。

 

「…どういう風の吹き回し?無茶なんじゃなかったっけ?」

 

「あれはあの2人が言ったことよ」

 

2人、とは顎鬚と坊主のことか。

 

「私は自分の意志でここにいるだけ。天災に立ち向かう、かっこいいじゃない?」

 

なんともまぁ。

そんな理由で【アラシ】に立ち向かう人がいるとは。

僕みたいに困難にあえて立ち向かい、なおかつ勝利したうえでの食事を願うもの好きがいるとは…佐藤君も同じ考えなのか?

まぁ…狼としては失格かもしれないけど、僕はその考え嫌いじゃないぜ。

 

「佐藤君も同じ感じ?」

 

「…当たり前だろ!同じセガ派、同士よ!ここは協力して勝利しよう!」

 

意気揚々と佐藤君は叫んだ。

なんかすごい気迫だ。

いつもの彼じゃない。

なんかオーラがほとばしってる。

きっと白粉さんがこの場にいれば涎モノだったことだろうなぁ。

 

「ごめんだけど、僕は生粋の任天堂派だから。セガ?なにそれ聞いたことない」

 

「殺す!」

 

赤い配管工には何度もお世話になりました。

そしていきなり佐藤君が攻撃してきた。

 

「あなたたち!集中しなさい!」

 

「いや、どう考えても佐藤君が悪いでしょ!」

 

急に錯乱した佐藤君は置いといて。

残りの【アラシ】は4人。

もう既に彼らと僕らの人数差はない。

数、故の強さ。

それはもう優位でもなんでもなくなっている。

うん、最初の鉄山靠が効いてますな。

あとはどうとでもなる。

…そう思ってた時期が僕にもありました。

 

店内に現れた新たな存在。

それは他の店で争奪戦を終えてやってきた【アラシ】だった。

きっと効率よく弁当を得るために2店舗に分かれてたラグビー部の大半数だろう。

その数、合わせて15匹。

そう、15匹だ。

15頭ではない。

やつらはしょせん狼でも何でもない。

天災だといっても、それは豚でしかないのだ。

【大猪】のような単体としての力はない。

群れて、身を寄せ合って、糧を得る。

それならばそれでいい。

弱者は弱者らしく、そのままでいればいい。

どんな手を使ってでも、勝ちたいというその意志は認めよう。

僕も持ちうる限りの手段を駆使して闘い、勝つ。

それで卑怯だなんだと言われても関係ない…いや、明らかな反則はしない。

あくまでも最低限のルールは守るけどね。

 

群れるのもいい。

相手は反則手も使えばいい。

そのことごとくを叩き潰そう。

 

「教えてやる」

 

それこそが僕の、僕にとっての価値ある勝利なのだから。

 

「八極とは、大爆発と言う意味だ」

 

2度目の鉄山靠。

先ほどのようにクリーンヒットはしなかったが、それでも大気を揺るがすのには十分だ。

空気が震える。

あいさつ代わり、ではないが僕の意志を見せつけた。

 

「You are ending for…」

 

佐藤君が構え、茶髪が拳を握る。

僕は中指を相手に立てて、2回ほど折り曲げる。

 

「C’mon Everybody」

 

挑発、だが人数で勝っている彼らには効いたみたいだ。

弁当奪取ではなく、僕らを叩き潰すため全員でかかってきた。

何だろう…筋肉言語でも発動したのかな。

『銃なんか捨ててかかってこい!』みたいな。

 

茶髪はさすがと言うべきか、乱戦に慣れているのかもう【アラシ】の攻撃をさばき始めている。

すごすぎワロタ。

絶対【二つ名】持ちになるわ賭けてもいい。

対して佐藤君はなんというか…もったいなさすぎる。

基礎能力は高いのにそれを生かすための技や戦い方がない。

ただの身体能力で戦っている。

ついこの間までの僕みたいだ。

いつか技や経験を積んだら厄介な敵になるかも。

その時を楽しみにしとこう。

…なんで余裕しゃくしゃくに解説をしているかって?

それは余裕だからさハニー。

四方八方を囲まれ、雨あられと攻撃の的にされているのだけど、僕はそれをかわし、防御し、カウンターを繰り出している。

 

それを行える秘密、動体視力である。

眼筋を鍛えに鍛え続けた僕の視力は常人のそれをはるかに凌駕する。

 

「散眼」

 

右目が右下を見て、左目は左上を見る。

同時にそれを行う。

右からくる蹴りを添えた手で左へ受け流しそれが【アラシ】の一人へ。

その【アラシ】の苦し紛れのパンチを首をひねることで後方の【アラシ】の鼻面へ吸い込まれるように入った。

なんでも見える。

この程度のレベルの相手ならスローモーションのようだ。

転生する前、競技カルタの漫画にはまっていたこともあり、動体視力は生前からよかったのも相まって、必殺技と呼べるレベルまで鍛えれそうだ。

その名も❝暗記時間❞。

競技カルタには試合が始まる前に札を覚える暗記時間が与えられる。

いわば観察。

並べられた札の位置を覚え、目をつぶっても頭の中にイメージができる。

そして一度試合がはじまればその動体視力により札を払う。

相手よりも早く、音よりも早く、何よりも早く。

…なんてね。

格好つけたけどただ眼がいいだけ。

しかし相手からすればなんで攻撃が当たらないか不思議なことだろう。

 

場はいまだ変わらず9対3。

佐藤君も茶髪も奮闘はしているものの、決定打はなく数は減っていない。

僕も避けてたまに攻撃を与えているだけ、大技は出せていない。

けど、❝暗記時間❞は終わりだ。

もう、覚えた。

【アラシ】共の攻撃パターンを。

 

さぁ、終わりにしよう。

 

 

 

その時、場に新たな気配が生まれた。

また【アラシ】が増えたのかとそう思ったが、違う。

圧倒的な存在感。

なんだこれは…。

 

それは、マントのようにコートを靡かせ、皮の手袋をはめさながらヒーローのように現れた。

 

「あ、あれは…!」

 

【アラシ】が声を上げる。

茶髪は目を見開いている。

どうやらこの場で現状を理解していないのは僕と佐藤君だけのようだ。

誰だろう、あのちょっと痛い恰好をしている男の人は。

 

その男は走り出すや否や、【アラシ】を踏みつけ飛び、天井を蹴って弁当コーナーの最前列へ降り立った。

店内の蛍光灯が彼を祝福しているかのように照らす。

 

「かかってこい豚共。今宵、お前たちにエサはない」

 

んんぅ…なんだろう。

急に現れてマントをばたつかせながら、決めセリフを吐く目の前の男を見て、なんだか僕はやるせない気持ちになった。

横を見れば茶髪は勝機を得たりと生気に満ちている。

佐藤君はただ単に驚いている。

店内の入り口からはマント男が現れたせいか、他の狼たちが戻ってきた。

顎鬚や坊主の姿も見れた。

数が互角になったけど…これもマント男の影響なんだろうか。

活気の戻った狼とは対照的に、【アラシ】は絶望的な顔をしている。

川原君を思い出した。

 

 

豚を殲滅戦と狼が走る。

その先頭には佐藤君とマント男が暴れている。

そして数は減り【アラシ】は弁当を一つも得ることなく惨めに駆逐された。

そして従来の狼たちの争奪戦。

マント男が取り、佐藤君と茶髪が取り…僕は取れなかった。

急激にやる気が失せたからだ。

 

【アラシ】を叩き潰せたことに、今だ熱気が収まらない店内から逃げるように去ろうとする僕に茶髪が声をかけてきた。

 

「【天パ】、どうして弁当を取らなかったの?」

 

「…いらなかったから」

 

「いらないって…なんで?」

 

「与えられるっていうのがなんだか違うってそう思ったから…から?」

 

自分でもよくわからないんだけど、今日の弁当は欲しくなかった。

お腹は空いている。

今までにないくらい空いているのに、あのマント男が現れてから急激に弁当がほしくなくなった。

 

「あのマント男、誰か知ってる?」

 

茶髪に聞いてみる。

きっと有名なんだろうなぁ。

 

「彼は【魔導士】(ウィザード)と呼ばれる狼で、最強の狼よ」

 

その言葉で僕は合点が行った。

そうか、そうだったのか。

あの男、【魔導士】は最強。

原作でも正真正銘の最強。

あの【氷結の魔女】よりも強く、誰も彼には勝てなかった。

その最強と共に共通の敵と立ち向かう。

そのせいだ。

【魔導士】(ウィザード)が来なくても、あのままなら僕たちなら勝ってた。

けど、【魔導士】(ウィザード)が来たおかげで勝ちが確定してしまった。

最強が来たせいで勝利が決まったモノになってしまった。

チート装備で雑魚を叩く。

そんなゲームは僕は嫌いじゃない。

しかしあくまでも自分の手に入れた力で、だ。

他人が「俺、レベル100だから手伝ってやる」とこっちの意志にお構いなく入ってきてそいつ一人で勝負が決まってしまう。

そんなのは大っ嫌いだ。

だから、今夜僕は弁当を取らなかった。

【魔導士】にお零れをもらうような気がしたからだ。

無論、向こうにそんな気はなかったのかもしれないけど僕からしたら同義だ。

 

茶髪は僕を見て、なんだか悲しそうな眼をしていた。

もう何も聞くことはない、そう思い背を向けて今度こそ店内を出る。

 

 

少し歩くと、オートバイにのったマント男がいた。

何も話すことはない。

そのまま横を通ろうとしたら声を懸けられた。

 

「【ゴキブリ】、お前はあの場に何を見る?」

 

初対面でしゃべったことのない奴に急にゴキブリ呼ばわりされた。

えっと…僕と戦争したいのかな?

 

「…沈黙か。お前の噂は聞いている。争奪戦の場に現れて日が浅い…だというのにいくつもの勝利を喰らってきた」

 

なんか喋ってはるけどこの人、マントのように羽織っていたコートはバイクの人が良く着る皮のコートだったのかとかそんなどうでも良いことを考えてしまう僕。

 

「【アラシ】との戦い方は基本的に先手必勝だ。いかに【アラシ】よりも早く弁当を手に入れるか、そのためにはフライング気味のスタートダッシュが効率的だがそれでは豚と揶揄されるだろう」

 

はっきり言ってお腹が空きすぎて早く帰りたい…いやその前にバイトがあるんだった。

最悪だ、死ぬかもしれないな。

現場監督に土下座して肉まんでも奢ってもらおう。

 

「だが俺は奇をてらった戦法よりも真正面から戦うことがあの場では何よりも誇らしいことだと思っている…たとえその末に負けても、だ」

 

本当にどうでも良い話だった。

だけれど、最後の言葉には少し思うところがあった。

負けてもいいだなんて、絶対に口にしてはいけない。

骨が折れても、牙を折られようとも、爪を砕かれようとも決して口にしてはいけない言葉がある。

 

「あなたがそう思うなら、そうなんだろう…あなたの中ではな」

 

だが、僕が何を言っても何も変わらない。

今宵弁当を取ることをしなかった僕には、これ以上何も言えなかった。

そして僕が【魔導士】(ウィザード)に持つ感情が変わった。

気に食わない。

ただその一点に尽きる。

最強を冠する癖に負けてもいいだなんて、僕を下に見ているからこそ出る発言だ。

最強という立場から、新人を教育するように高みからの言葉。

負けてもいいから、頑張れと。

目の前のこいつはそう言ってる。

今回弁当を取らなかった僕にそう言っているのだ。

君はまだまだ強くなれるよ、だからがんばれ、応援しているよ、と。

 

 

「…【ゴキブリ】、お前はあの狩場に何を見る?」

 

そして最初にされた質問と同じ質問を、今一度。

 

「強者を喰らい、糧を得る」

 

それ以外にない。

邪魔をするものは潰す。

誰が相手でも…僕が狩る側だ。

 

「願わくば、次はあなたと戦う側でありたい」

 

 

 

 

 

 

 

 

別れた後、僕は思った。

 

 

あのマントっぽいコートや皮のごつい手袋。

長身痩躯で、切れ味の鋭い目つき…と言葉選び。

戦闘中に中二病発言されると途端に恥ずかしくなって食欲が失せてしまう。

これは一種の❝毒❞であるとわかった。

 

❝毒❞、それは限られた狼にしか使うことができない技の一種である。

その毒には種類がある。

単純な毒から、複雑怪奇な毒まで種類は多種多様であり、その用途や効果も千変万化だ。

確か…原作にいた毒を使う狼は2人だったかな。

忘れてるけど。

 

今回、【魔導士】(ウィザード)が使った毒が羞恥をあおるタイプの毒だったに違いない。

見事なまでに僕が食欲を抑えられた。

悔しさと共に、新しい戦い方を学んだ。

僕も、❝毒❞を使える。

それは羞恥を煽るタイプではない。

 

まずはそれを扱うために今一度、学ぶとしよう。

 

 

「Die yobbo」

 

絶対殺すノートに新たに名前が載った瞬間だった。

 

 

追伸、なんか僕の【二つ名】がゴキブリとかいう最悪な件について。

 




今回出てきた小ネタ

❝暗記時間❞
ねじまきカギューの犬塚紫乃の技。


「You are ending for…」
「C’mon Everybody」
「Die yobbo」
嘘喰いのカラカル

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