ベン・トーの世界に転生者がいたら   作:アキゾノ

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8食目

白粉花という少女はこれまでの人生でこれと言った感動に出会えたことはなかった。

幼少期からなぜか自分は他人と違うとどことなく感じており、それは成長するにつれ自覚へと至った。

普通の人間ではきっと持ちえない感情、それに気づいたのは中学校の時だった。

きっかけは祖父の合気道の道場でのこと。

護身と言う技術を修めるべく日々、精進を続ける男の姿を見た時だった。

何か一つに打ち込むそのひたむきさ、愚かしいまでの反芻される練習風景。

その額から流れる光の粒、すごいと思った。

愛おしいと思った。

人間一人にできることなど高が知れている。

人間一人に与えられた時間は決まっている。

だというのにここまで全てを懸けることができる。

そして人は至るのだ。

自分の目指していたステージへ。

 

白粉の場合もそうだ。

祖父からの勧めで合気道を学び、屈強な男たちに交じり練習へと励む。

同年代の人間と遊ぶことも少なくなっていた。

それが原因でいじめられもした。

しかし、それでいいと彼女は思っていた。

友情、努力、勝利、素晴らしい三原則だ。

青春をする人間には必要不可欠なものだ、しかしそれを白粉は得る機会を放棄してまで合気道の鍛錬に励んだ。

誰にとってのか友情、努力、勝利なのか。

それは本人にしかわからない。

白粉花という少女にとっての勝利とは、他の誰に理解されなくとも、この道こそが勝利なのだ。

 

長ったらしく語ったが、単に汗まみれでくんずほぐれつしている男たちを見て盛りのついた犬よろしく興奮していただけだった。

 

そして奇跡は起こる。

現実ではなかなか出会えない男たちの絡み、ホモがないなら作ればいいじゃないと言わんばかりに白粉は創作へと至った。

始めは道場のお兄さんたち。

次に門下生と祖父の絡み、高校入学前にはいよいよ架空の存在へ手を出した。

しかし様々なジャンルへと手を出した彼女はスランプへと陥っていた。

何か刺激がほしい、自分の創作意欲を掻き立てるような何かが…親友の白梅にも心配をかけてしまっていることに罪悪感を覚えてしまうほど彼女は追い詰められていた。

しかし、二度目の転機は高校入学時に訪れた。

佐藤洋との出会い。

スーパーで豚とののしられ、二人してボコボコにされたあの日から白粉は佐藤の有用性へ気づいていた。

引き締められた肉体、割れている腹筋。

そしてどことなくぬけている頭も都合がよかった。

新しい獲物を見つけた気分だった。

スーパーにいる坊主と顎鬚の狼達との絡みもよかった。

涎モノだった。

思わず舌なめずりをするほど。

 

そして、クラスメイトである新道と佐藤の出会い。

一目見て電流が走った。

この二人、間違いなくホモや、と。

実際には勘違いも甚だしいのだが、彼女の眼は曇っている、淀んでいる、濁っているため真実などどうでも良い。

素直になれないなら私が真実の愛を描いてやる。

そうして白粉は今日もPCを叩き続ける。

密かにネット上で公開している彼女のサイト『The novel of Four o’clock』にて『筋肉刑事』を更新し続けるために。

 

彼女のように、根も葉もない男同士の熱いパトスを心底愛してやまない存在、世間一般では少数であるとされているがその潜在能力は見るもの聞くものを畏怖させ、私の戦闘能力は53万ですと絶望を与える、恋に盲目の乙女たち。

人は彼女たちを『腐女子』と呼んだ。

 

 

 

 

 

☆★☆☆★☆☆★☆☆★☆☆★☆☆★☆☆★☆☆★☆☆★☆

 

 

「小さく前ならえ」

 

白粉さんの小さな背中に両手のつま先を触れるかどうかくらいまで接敵させる。

そして一呼吸もしない、いや呼吸さえしないように僕は技を放つ。

 

「無拍子ッ!!」

 

回避は許さない。

合気道は相手の動きを見て、予測し、合わせ、無効化し、そのまま相手へ力を返すカウンターの極致。

当然、一朝一夕では習得などできない。

しかし白粉さんは足さばきだけ見ればかなりのものだと思った。

人ごみを擦り歩き、そこにいたかと思えば消えている。

おそらくは視線なども誘導しているのではないか。

このような乱戦の中で相手の意識をごく僅かではあるが誘導、掌握できるなんて…。

はっきり言ってしまえばこの場の誰よりもやりにくい相手である。

なぜなら、彼女に明確な敵はいないのだから。

視線を誘導し、意識を掌握し、狼達をすり抜け、弁当を奪取する。

敵と戦う必要などない。

白粉さんが経験を積み、この乱戦に慣れてしまえば弁当の奪取など簡単に行えてしまうだろう。

それだけの力量が彼女にはある。

そのことに気付いている人間は果たしてこの場にどのくらいいるか…。

ただうろちょろする犬であると認識してしまえば取り返しのつかない結果を生むことになるだろう。

いや、それさえも誘導しているのか?

恐ろしい才能だ、僕じゃなかったら見逃しちゃうね(死亡フラグ

だからこそ、勝負師新道心羽はここで宣戦布告としてジャブを一発入れておかなければならない。

僕のように、相手をたたきのめしたうえでの弁当奪取を目的とする狼には天敵と言ってもいい。

相手にされないのだから。

なのでこれは楔だ。

僕という存在を彼女の中に打ち込む。

深く、奥深くに、だ。

 

合気道でかわされないために、僕はこの技を放った。

無拍子。

前ならえの構えから繰り出されるこの技はいわゆる防御不可能の技だ。

超至近距離からノーモーションで繰り出され軌道を残すほどの素早い突き。

言ってしまえばそれだけなのだがこの技の肝は、ノーモーションにある。

ノーモーション、つまり溜がない。

予備動作がないため相手はその技に備えることができない。

ちいさく前ならえの構えから、気づいたら突きを食らっている。

そういう技なのだ。

しかも無防備なところに攻撃を受けるので、体に力を入れることも受け身を取ることさえ許さない。

しかし当然デメリットもある。

一つは接近していないと使えない点。

乱戦の中でたった一頭の狼を相手にする技ははっきり言ってしまえば危うい賭けである。

もしもこの隙に攻撃、または弁当へ向かわれでもしたら最悪だ。

だからこれはなかなか使いどころが難しい。

そしてもう一つは、『前ならえ』という日常の行為からいきなり攻撃へ移る故、どうしても手加減が生まれてしまうということだ。

 

以前にも少し話したが、日常生活で人を殴ったり蹴ったりするなんてまぁないだろう。

人は誰かを攻撃する時、ある程度ボルテージが上がっていないと手が出ない。

怒りだったり戦闘意欲だったりまちまちだが、普通に生きていて急に攻撃なんてできるわけがない。

顕著なのは笑ったりしている時に急に殴ることはできない。

故に、前ならえ、から攻撃なんて普通にしない。

できない。

 

この点も弱点と言える。

しかし、それは僕以外がこの技を使ったら、という弱点だ。

僕は前世の記憶からとある技を並行して行うことで、この前ならえからの無拍子を習得および、発動することができる。

 

その技の名前は今は昔、中条流から派生し富田勢源によってその名を広く広めた流派の奥義の一つ。

『無極』と言う。

自己暗示により痛みを和らげる現代で言うゲートコントロール理論。

脳のリミッターを外し火事場のバカ力を操り自身に肉体を100%操ることができる技だ。

普通の人間なら躊躇してしまうであろうどんな状況でも、僕は『無極』を使うことでどんな状況からでもいきなりMaxの威力で攻撃することができるのだ。

『富田流は爆笑した直後に人を殺せる』と、この技を扱う人は言った。

 

 

 

 

決まった。

手ごたえありだ。

拳から確かに突き抜けるこの感触は、白粉さんの背中から背骨、鳩尾を貫通した。

白粉さんが二頭の狼を巻き込んで青果コーナーへ転がっていく。

 

「白粉!」

 

佐藤君が叫ぶ。

駄目だ、仲間を思う気落ちは美しいがこの場に限ってそれは悪手だ。

一瞬でも目を離してしまえば…!

 

『→→P』

 

八極拳の秘門、❝活歩❞の歩法。

要はレバー入れダッシュ。

縮地ともいう。

ゴキブリダッシュの応用技。

一歩だけの爆裂加速。

上手くいった。

 

目を見開く佐藤君。

目の前に突然僕が現れたのだからそりゃそうなるわな。

だけど、ここまでだ。

佐藤君の今日の記憶はここで終わる。

 

佐藤君が迎撃しようと腕を振り上げようとするが時すでに遅し。

いまからの回避も防御も間に合うものか。

佐藤君は確か原作では異常なほどのタフネスを持っていた。

攻撃を食らっても食らっても立ち上がる。

根性論かもしれないがその耐久性には驚かされたと作中で誰かが言っていた…気がする。

というかこいつこそがドMなのではないか。

まぁどうでも良い。

そんな異常な耐久性がある佐藤君には一撃だ。

 

「金剛」

 

心臓の部分を殴る。

ただ殴るのではなく、押すイメージ。

年末、鐘を突くような感覚だ。

心臓を叩き、一瞬のうちに相手を昏倒させる。

 

「カハっ」

 

そして崩れ落ちる佐藤君。

何か言いたげだっだような気がするけどどうでもいい。

弱肉強食。

僕が狩る側だ。

 

白粉さんと佐藤君を葬った後、戦場には見慣れた面々が残っていた。

茶髪が顎鬚を叩き潰し、残りは4人となった。

この時点で弁当の数よりも狼の数が少なくなった。

確実に弁当を手に入れられる…譲り合えばの話だが。

生憎それは許さない。

僕は自分の食べたいものを食べたい。

並みいる狼を下して食べたいのだ。

むろん、この場にいるすべての狼も仲良しこよしで終わらせる気はないみたいだ。

素晴らしい、人間こそが獣だ。

さぁ、存分に喰らおう。

 

「バトルロワイヤルの鉄則、知ってるか新入り?」

 

一人の狼が僕に言った。

 

「…?」

 

「それはな、面倒くさい奴から袋にするんだよ!」

 

別の狼が背後から僕を襲う。

油断はしていない。

冷静に対処する、がすぐさままた後ろから攻撃される。

二人に挟まれる形となった。

卑怯、などとは言うまい。

 

「…素晴らしい判断だ。一匹では勝てないと思ったんだろう?あぁいいとも。武器でも人数でも揃えてこい!」

 

「調子に乗りやがって!」

 

「おい!お前も手伝え!」

 

茶髪に向かって二頭の狼が声をかける。

三対一。

悪くない。

この試練を乗り越えたら僕はまた強くなる。

そして弁当の味もうまくなる!

 

「燃えるぜ」

 

一匹の狼(以下A)が飛び蹴りを繰り出す。

バックステップで避ける。

囲まれた形になっていたので僕は蹴りを繰り出した狼とは別の狼(便宜上Bと呼ぶ)にもたれかかるように背を預ける。

当然、戦いのさなかに全体重をいきなりかけられたせいでBは戸惑い隙を晒す。

すかさず零距離からの肘鉄で『金剛』を決める。

音もなく崩れ落ちた狼B。

 

「てめぇ!」

 

「遅い」

 

前傾姿勢で相手にタックルをかましつつ右腕で顎を打つ。

タックル掌底。

その名も『卜辻』。

戦後、米兵が日本を取り締まるようになり荒んでいた暗黒の時代。

ステゴロで飯を食ってきた男の技だ。

顎を跳ね上げられ僕から視線を外された狼A。

すかさず後ろに回ってバックドロップをかました。

さぁ残りは茶髪だけだ。

 

「なんで攻撃してこなかったの?茶髪なら僕にダメージを与えられたと思うんだけど…」

 

「…罠でしょ?」

 

「まぁ、そうだね」

 

わざと攻撃を誘うように隙を作った。

なぜなら戦い方を学ぶためだ。

すぐに倒したらもったいない。

だからあえて窮地に陥るように動いた。

茶髪相手にそんな無茶を選ぶ。

だからこそきっと強くなれる。

侮りはない、すべてが本気だ。

 

「それに私も強くなりたいって思ってたから。狼としては失格かもしれないけど強力な【二つ名】持ちと戦えるようになるために【天パ】、あなたと一対一で戦いたいって思っただけ」

 

「なるほど…じゃ、はじめよっか」

 

などと軽口をたたくが、その実余裕はそんなにない。

【二つ名】持ちではないが茶髪のレベルは高い。

突出して優れている点があるわけではないけど、万能型であり多くの闘いの経験則こそが彼女の強みだ。

 

望むところだ。

その経験こそ僕の欲したものだ。

 

二頭の狼の影が交差する。

 

☆★☆☆★☆☆★☆☆★☆☆★☆☆★☆☆★☆☆★☆☆★☆

 

 

 

 

 

結局あの後、僕はボロボロになるまで茶髪と戦った。

たくさん技を使い、ゴキブリダッシュまで出したのだがそれは魔女と同じ方法で対処された。

『金剛』も胸の分厚い脂肪により阻まれたときは『ずるい!』と世界の貧乳淑女の声を代表して叫んどいた。

茶髪の闘い方は本当に参考になるものばかりで特に駆け引き、フェイクがうまかった。

こちらに全力の技を出させないように立ち回る茶髪、一瞬のスキを見計らって針のような蹴りを放ってくるのだから手に負えない。

結果、二人ボロボロになり同時に角煮弁当を掴んだことでドローとなった。

なのでこうして公園で角煮弁当と、チーズハンバーグ弁当を二人で買い、分け合うこととなった。

くそぅ…本当ならこの角煮弁当は全部僕の胃に入るはずだったのに…。

まぁチーズハンバーグも美味しかったからいいんだけどさ…。

 

茶髪には次は負けないと言っておいた。

向こうも笑って同じことを返す。

一応、女性の夜の一人歩きは危険という事で家の近くまで送っていくことに。

こっから夜のバイトの場所まで遠いなぁ、明日起きれるかなぁとか思ってると茶髪に頭を撫でられた。

ごくろう、【天パ】と。

まるで飼い犬だ。

でもなんだかこんなのも悪くはない。

前世では女っ気はなかったし、転生しても年齢=彼女いない歴だからこういう青春っぽいのもありかな。

でも次は負けない。

 

余談だが豚の角煮弁当、ファンになりました。

今度こそ全部食べてやる。

 

更に余談だが佐藤君と白粉さんはカップラーメンとソイジョイを買ってた。

栄養偏るでと言うとすごい変な顔をされた。

一口くれと言う佐藤君に死んでもいやと返すと白粉さんは鼻息を荒くして何かをメモしてた。

佐藤君が白粉さんの束ねられた髪を引っ張り「あぅ」とうめき声をあげる。

僕は小説の中の主人公たちと戦ったんだなぁと思うとなんだか灌漑深いものがあった。

これからこの二人も強くなっていくんだろうなぁ、負けてやるものか。

 

 

 

 

 

☆★☆☆★☆☆★☆☆★☆☆★☆☆★☆☆★☆☆★☆☆★☆

 

 

「おい、聞いたか?」

 

「なになに?」

 

とあるスーパーにて。

争奪戦が行われた後、ある噂が広まっていた。

 

「例のあいつ、また弁当獲ったってよ」

 

「え、あいつ?」

 

「おう、ルーキーのくせにやるじゃねぇか」

 

「あいつって?」

 

「ほら、変な技出す奴。たしか…【ゴキブリ】だっけか?」

 

「なんだその【二つ名】…」

 

「なんでもゴキブリみたいな動きするんだってよ」

 

「…めっちゃ気になるwww」

 

「あそこって【氷結の魔女】の縄張りだろ?」

 

「あぁ、だが今魔女はいない」

 

「なんでまた?」

 

「HP同好会に二人新しいのが入ったろ?それとブッキングしないようにあえて縄張りを開けてるらしい」

 

「じゃぁ今チャンスってことか?」

 

「俺あそこの豚の角煮弁当好きなんだよな」

 

「ジジ様の店のほうのサバの味噌煮も久々に食いたい」

 

「あーやめとけ。この時期はあそこは【アラシ】が多発する。行くだけ無駄だ」

 

「あ~、そんな時期か。くそ、豚どもめ」

 

「…じゃあ、そのルーキーもそろそろ【アラシ】と出会うかもな」

 

「やめだやめだ、絶対弁当なんか獲れねぇ」

 

数人の狼は音もなく消えていく。

そして残った狼の口からこぼれる。

 

「この壁、どう乗り越える?」

 

 

 

いまだ争奪戦に参加している回数は少ないが、月桂冠を獲り、【氷結の魔女】に吠え、力を伸ばしているルーキーの狼。

本人の知らないところで噂は回る。

 

 

 


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