ベン・トーの世界に転生者がいたら   作:アキゾノ

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7食目

「どうしたんだ佐藤?」

 

ハーフプライサー同好会、通称HP同好会。

それは烏田高校に在籍する狼達が集うクラブ。

その名のとおり、半額弁当を手に入れるために日々研究をする同好会である。

そこに【氷結の魔女】こと、『槍水仙』が佐藤を迎え入れる。

佐藤と白粉は狼になってからまだ日が浅く、新道とキャリアは同じくらいだ。

 

「…クラスメイトにちょっと絡まれて」

 

多くは語るまい。

佐藤の顔がそう告げていた。

佐藤はあの騒動のあと、何故か新道に終始殺気を飛ばされ続けられたが、なぜそうなったのか理解はしていなかった。

それもそのはず、佐藤は新道のことをドがつくほどのマゾヒストであると常日頃感じていたからだ。

どこに育ち盛りの高校生が、毎日お昼ご飯を水と塩だけで済ませようなどと思うのか。

常識的に考えてあり得ない。

それに怪我をしており、夜は寝不足なのかクマを作っている。

髪の毛などストレスからか毛先がくるくると巻かれており圧倒的にキューティクルが足りていない。

一瞬、両親がすでに他界しており、貧乏学生なのかとも考えたがそれはないと一蹴した。

新道が以前、両親から電話だと言って、数秒無言のあとその携帯をたたきつけるかのように鞄に押し込んでいたのを見たことがあるからだ。

両親が健在ならいくらでもお金を仕送りしてもらうことができるはずだ。

ふと頭をよぎったのはうちのような家庭環境なのかもしれない…と言うことだったが佐藤家の両親みたいに、

食費を送ってくれという息子からの電話に対して

『セミって食えるんだぜ』と返してくるような人間のクズがこの世に何人もいてたまるかと思い、佐藤の中では新道は真正のドMであると結論が出た。

もう一人、内本君というドMがいる、いやいたが彼はオカルト研究部に連れていかれ現在は消息不明である。

そのドMに、白梅と言う女からの暴力を譲ってあげようとしたのになぜか恨まれる始末であると、佐藤は首をかしげていた。

 

「そうか…ん、白粉は今日は?」

 

「あ~…白粉は今日は来れないそうです。拉致されました」

 

白粉と呼ばれた少女も佐藤同様、HP同好会の新入部員であり駆け出しの狼である。

ちなみに余談だが、白粉は放課後におなりHP同好会に向かう途中、白梅に手をつながれ家へと連れ込まれた。

軽い軟禁状態にあると、白梅がトイレに行っている間にメールを佐藤へと送っていた。

苦笑する佐藤に首をかしげる槍水。

 

「まぁ休みなら仕方がない。白粉はいないが今日も勉強と行こうか」

 

そう、HP同好会の活動内容として挙げられるのはやはり半額弁当について。

ある時は弁当の内容について。

またある時は鮮度の見分け方。

槍水の機嫌がいい時などは今まで戦ってきた名うての狼の話も聞けたりする。

理由があり、現在この同好会の人数は槍水と佐藤、そして白粉の3人である。

唯一の二年生である槍水は後輩ができたことにより先輩風を吹かせながらいまだ犬である佐藤と白粉にレクチャーを続けてきた。

 

「今日は半額時間について話そうか」

 

そう言って壁に貼られた地図を指さす。

 

「この地図にはここら一帯のスーパーについて詳しく記されている。先人たちが調べ上げたものだ」

 

見れば、スーパー一軒一軒に赤色で丸印がつけられており、時間帯や【二つ名】が書きなぐられている。

 

「地図上に記されている時間帯、これがその店の半額時間だ。

ここで頭に入れておいてほしいのがあくまで通常の時間帯であるということ。

土日は前後されるし、イベントが近場で起こるとそれに伴っても前後する。

時には半額にならずすべての弁当がなくなることもある。

そういう時は空気を読むことを覚えろ」

 

そして槍水は二つの店を指さす。

 

「とりあえず私の勧める狩場はここだ」

 

「ここって確かアブラ神とジジ様の店…ですよね?」

 

「あぁそうだ。私の縄張りでもある。学校に近いこともありこの時期は新人も多い。

また寮やアパートも近いから弁当の絶対数が多い。

さらに一人暮らしの連中がやたら群れて激戦になりやすい。

その分、初心者が学ぶにはよい場所となっている」

 

「なるほど」

 

「そこで、私はしばらくこの狩場からは離れようと思う」

 

「え、何でですか?」

 

「忘れたわけではないだろうが、私たちHP同好会は争いあってはいけない決まりがあるな?

ゆえに食べたい弁当が被ってしまいかねない。」

 

「はぁ…」

 

「…まぁ、それとは別にその二つの狩場にいると出会ってしまいそうだからな」

 

「誰とですか?」

 

「ン…いやなんでもない」

 

佐藤は知らぬことだが、槍水の懸念、それは新道との再戦。

あれだけ格好つけて名乗りを上げたのにその翌日にスーパーで出会うなんて顔から火がでるほどの羞恥だ。

 

「とにかく、その二つの狩場はいろんなやつと戦える。

きっと佐藤のこれからにも役に立つだろう」

 

「…わかりました。期待に沿えるように頑張ります」

 

「あぁ」

 

「ちなみに先輩から見て、強い狼っていますか?」

 

「…ここ二つを駆ける狼たちは準じてレベルが高い」

 

「まさか先輩みたいに【二つ名】持ちもいたりするんですか?」

 

「いや、ここは私の縄張りだからな。【二つ名】持ちはいない。

いないが…そうだな。楽しみな奴は多い」

 

「…」

 

「そんな顔をするな佐藤。お前も筋は良い。決して遅れは取らないさ」

 

「だといいんですが」

 

「なんだ、ゲームは好きなくせにこういった障害は苦手なのか?」

 

「いや、そういうわけではなんですが、先輩がそういうってことはかなりの強敵なんだろうなぁって思うと…」

 

「ふむ。まぁ負けてもいいさ、勝ちを諦めなければ負けではない」

 

そう言って、夕日を背に笑う槍水。

その姿に佐藤は改めて槍水への好意をあげる。

しかしそれは名もなき三頭の狼の言葉なのだがそれを佐藤が知る由はない。

 

「そうだ佐藤、一つ忠告だ」

 

「なんでしょう?」

 

指を一本立てて、槍水は言う。

 

「【アラシ】に気を付けろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆★☆☆★☆☆★☆☆★☆☆★☆☆★☆☆★☆☆★☆☆★☆

 

 

「さて…今日は負けない」

 

アブラ神の店の入り口にて、僕は深く自分に言い聞かせる。

昨日で分かったこと。

技だけでは勝てない。

気合いだけでも勝てない。

当たり前のことを言うようだけど、強くなくちゃ勝てない。

技を持つのは当たり前、強く想うことも当たり前。

僕に足りない部分、それは経験と戦い方だ。

これからはそこを意識して修業あるのみ。

 

店に入る。

もう既に慣れてしまっている、入店時の視線をどこ吹く風で弁当売り場へと進む。

今回も金銀財宝のイメージは見えない。

まぁそうそう出るものではないからね、月桂冠は。

一通り見た弁当の中で、今宵僕が得ると決めたのは『豚の角煮弁当』だ。

昨日、【氷結の魔女】が攫っていったもの。

真似ではない、断じて。

茶髪がその美味しさをリポートしたせいだ。

もう今日はそれしか胃が受け付けなくなっている。

 

「ちゃお」

 

「…ちゃおっす」

 

片手をあげ、茶髪が隣に来る。

正直、どんな顔をして会えばいいかわからなかった。

だってそうだろう、僕のせいで茶髪含む狼たちは土を噛んだのだから。

それを察したのか、茶髪は言う。

 

「生意気よ。私たちは、少なくとも私は自分で決めて魔女に立ち向かったの。誰のためでもない、私がそうしたいと思ったらよ」

 

少し怒りながら茶髪は僕を見た。

 

「【天パ】が自分のせいでなんて思っているならそれは大きな間違いだし、私に対する侮辱だわ。私は誇り高い狼、誰かに命令されて戦うんじゃない…わかってる?」

 

「…うん、そうだよね。僕がバカだった」

 

「わかればよろしい」

 

ふふっと、顔を崩す茶髪。

くそう…茶髪の一挙一動でその胸元のミサイルが動きやがる。

いっそ揉みしだいたろか。

 

「【天パ】は今日は何を?」

 

「…豚の角煮」

 

「…そう」

 

瞬間、空気が張り詰めた。

お互い理解した。

今宵、倒さなければならない相手を。

 

店の自動ドアが開く。

この気配、また狼が入店してきたみたいだ。

この感じは…二頭、なんだかまだ慣れていないような雰囲気がある。

ま、相手がだれであろうと僕が狩る側だ。

精神を集中させるために目を閉じる。

イメージだ、イメージが大切だ。

技だけではない。

考えて戦わなければならない。

ゴキブリダッシュを出したとして絶対の自信はすでになくなっている。

速い、しかしそれだけだ。

使い手たる僕自身がただまっすぐ進むだけで他には何もできなくなっている。

いや、たいていの相手にはそれで十分なんだが魔女みたく、進行上に拳や蹴りを置かれるだけでカウンターが決まってしまう。

初見殺しの技でしかない…今のところは。

この世界の住人は知らないだろう。

ゴキブリダッシュの本当の使い手ならそんなカウンターなど効かない。

だから僕はイメージする。

その使い手の動きを。

ふふ、今の僕はかなり集中しているぞ。

最近、集中力が上がっているな。

これならば近いうちに感謝の正拳突き1万回制覇も夢ではないかもしれないな。

いまなら茶髪が裸になっても動じない自信がある。

 

 

「あれ、新道?」

 

「さとうぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

一瞬で集中が切れました。

佐藤君が目の前にいた。

さっき入店したのは佐藤君&白粉さんだったようだ。

 

「【天パ】、うるさいわよ」

 

「あ、ごめん…」

 

「新道もここいいるってことは狼だったんだ」

 

「…あ゛ぁ」

 

自分でも驚くほど低い声が出た。

 

「な、なんで新道はそんなに怒ってるの?」

 

「心当たり、あるやろ」

 

ダメだ、怒ったり焦ったりすると前世の方言がどうしても出てしまう。

けどそれほど冷静ではいられないという事だ。

 

「…ごめん、本当に心当たりがないんだけど…」

 

「……ッッッ!!!」

 

「【天パ】、すごい顔になってるわよ」

 

きっと般若のような顔になっているだろう、いや鬼だ。

悪鬼羅刹の顔だ。

マジでなんなんこいつ。

 

「…お前のせいで同性愛者だってことになったんだぞ!許せるか!ブッダだって助走つけて殴りかかるレベルやぞ!」

 

「いや、それは新道のせいだろうどう考えても!僕は被害者だ!」

 

「どの口が!」

 

「お前があの時手を放していれば少なくてもここまで被害は大きくならなかったんだ!

お前もあれか、白粉と同じ趣味なのか!さすがに同性から迫られるとまじで引くわ!」

 

「……プッチーン」

 

「なんだか穏やかな雰囲気じゃないけど…【天パ】とワンコは知り合いなの?」

 

茶髪が珍しくおどおどした感じで言う。

いつもと違うその姿になんだかかわいいなと思ってしまう。

これがギャップ萌っていうやつか。

 

「クラスメイト。ていうかワンコって?」

 

佐藤君を指さす。

なるほど、佐藤君のあだ名はワンコなのか。

 

「狼じゃないのか」

 

「む、そういう新道だってキャリアは僕たちとそう違わないだろ?」

 

「じゃかーしい、わしゃ月桂冠とったったわ!いぬっころと一緒にすな!」

 

どこぞの酔っ払いのような口調で煽る。

意趣返し。

 

「月桂冠って…嘘だろ!?」

 

「ほんとですー」

 

「【天パ】の言うことは本当よ。二回目の争奪戦で見事勝ち取ったわ」

 

「…」

 

ふははははははは。

佐藤君め、黙りおったわ。

はーっはっはっはっは…ん?

なんだか寒気が…?

見れば、後方のお菓子売り場の棚から邪な気配を感じる。

 

「ヒっ!」

 

悲鳴を上げてしまった。

なぜならそこには、この世のものとは思えないおぞましい笑顔でこちらを見ている女の顔があったからだ。

にちゃり、と音を立てて三日月のように開かれる口からは

攻めは新道…じゃなくってシドウで受けは佐藤…じゃなくってサイトウ…。

二人は些細なことからもめてしまい、潜入捜査中の銭湯で互いをののしりあう。

しかしサイトウは本来の受け気質からか押されてしまい、シドウの言葉攻めに黙ってしまうも快感を覚えてしまい、悔しいと心では感じながらも嫌がっていない自分がいることを再確認してしまう…フフフ、神が下りてきた。

 

などと、意味不明な言葉が聞こえた。

いや、わかった。

あれが白粉さんで、白梅さんが言ってた小説だな。

はっきり言おう、気持ち悪いわ!!!

いや人の趣味をどうのこうのいうつもりはない…表現の自由は認められてしかるべきだ。

それこそが現代日本なのだから。

しかし…しかし創作の中でとはいえ穢されてると知ってしまったらなんと怖気の走ることか。

せめて知らずにいたかった。

 

「おい佐藤君、君の連れが暴走してるで」

 

「はい?僕にツレなんていませんよ?」

 

こいつ、なかったことにしやがった。

 

「まぁいいや。むしむし。弁当を得ることだけを考えよう」

 

「…ここは僕たちの先輩の縄張りなんだ」

 

「…」

 

「茶髪にも、新道にも負けないから」

 

「…なんだ、そんな顔もできるのか」

 

それは弁当を求め駆ける戦士のそれだった。

少しだけ評価を改めよう、でも絶対に許しはしないけど。

 

 

 

 

☆★☆☆★☆☆★☆☆★☆☆★☆☆★☆☆★☆☆★☆☆★☆

 

 

いつもの事ながら乱戦だ。

誰もかれもが死に物狂いだ。

普段、生活の中では見せることのない野生の顔。

今宵の勝利の数は五個。

対して狼の数は十六頭。

なんとも狭き門だ。

だが、その敗者の屍の上で獲物を食らう。

ほら、想像しただけで涎モノだ。

 

「ぐぇ」

 

佐藤君が一頭の狼を下した。

なるほど、さすが主人公。

基礎能力は上のようだ。

なにかスポーツでもやってたのかな。

もう一人…白粉はっと。

ん?

いない?

…いや、いる。

人ごみの中を器用に出たり入ったりして場を混乱させている。

不思議な足さばきだ。

あれは合気道かな。

合気道か、ふむふむ。

こういう場所で、自分と同じように技を使う人間を見ると比べたくなってしまうのは狼としては失格かもしれないが、やはり研いだ牙は競いたい。

それは誰もが持っている自分と言う個を形成する大切なものだ。

 

技だけではなく、まずはそのキャラを真似するところから始めよう。

 

 

白粉さんの後ろへ一気に詰め寄る。

背後からの一撃、卑怯とは言うまい。

ここは乱戦、弱肉強食の世界。

負けたやつが悪いのだから。

白粉さんを見る限り、まだまだこの争奪戦には慣れていないと見える。

まぁ僕も似たようなものだが修業のたまものか、こういう場での動き方っていうものがある。

白粉さんはトリッキーな動きで、自分へ攻撃させないことに重きを置いているのではないだろうか。

しかし、それに気を割いてしまっている。

しまいすぎている。

たしかに混戦ではそれを実現出来たら素晴らしい。

限りなく負けが少なくなる。

人数が少なくなるまで、ひたすらに人の周りをその独特な歩法で惑わし歩く。

白粉さんを攻撃しようと思ってももう既に近くにはおらず、白粉さんを探している最中に他の狼からの攻撃を食らってしまう。

それを繰り返す。

だが、一歩離れてみればその動きは丸わかりだ。

法則がある。

決まって2人以上の近くには寄らない。

白粉さん自身が危険に身を置くことになるからだ。

それを理解して入れば、ほら、ドンピシャだ。

 

 

僕は白粉さんの真後ろへ位置することができた。

今まではただひたすらに技を繰り出して、それだけで勝ってきたが頭を使うように心がければこのような戦い方があるということが分かってきた。

さて、白粉さん。

いまだ僕に気付いていない白粉さん。

僕を創作の世界でさんざん辱めてくれている白粉さん。

この攻撃、かわせるか?

 

 

「小さく前ならえ」

 

 




・小さく前ならえ
史上最強の弟子ケンイチの技。
詳しくは次回にて!

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