ポケットの中の英霊   作:ACT 07

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大変長らくお待たせしました。
2か月という長い間、放置してしまいまっっっことに申し訳ありませんでした!

おかげさまで無事に大学受験に合格し、これから一層執筆活動に力を入れる所存であります!

皆様のご期待に添えられるかわかりませんがなんとか出来上がりました!




ACT08 理想

辺りに響く金属音。

交わされる剣戟。

衛宮士郎という男はエミヤシロウという存在(頂点)に負けるわけにはいかない。

エミヤシロウという男は衛宮士郎という存在(原点)に負けるわけにはいかない。

 

「うおおおお!」

 

士郎が上段から振るわれる刀の一撃をアーチャーもといエミヤは、二刀の夫婦剣で受け流す。

 

「ふっ!」

 

そして受け流すと同時に間髪入れず干将を横凪にふるう。

それを士郎はバックステップで回避しエミヤと距離をとる。

エミヤは畳みかけるように追撃をかける。

地面を蹴り士郎へと肉薄する。

その間合いは刀の間合いではなくエミヤの持つ干将・莫耶の間合いだ。

繰り出される莫耶の強烈な刺突を刀の腹で受け、その刺突の勢いを借り改めて距離をとる。

そして、エミヤも今の一撃で確信を得た表情をする。

 

「なるほど。固有結界を体内で展開し、その刀に固有結界の剣を抽出しているというわけか」

 

エミヤは今の莫耶での刺突をするとともにあの刀に直接、解析の魔術をかけた。

するとどうだろうか。

あの刀はただの刀ではなかった。

 

それはまるで鏡のように、固有結界の世界を刀に映している。

つまり、衛宮士郎という男の剣製はエミヤシロウの知る剣製。『無限の剣製(Unlimited blade works)』ではない。

エミヤシロウの用いる無限の剣製は、本当の意味での固有結界だ。

そもそも。固有結界とは。術者の心象風景をカタチにし、現実に侵食させて形成する結界であり、最も魔法に近い魔術とされ魔術の到達点の一つとされる。

現実世界を塗り替えるほどの力を持つがゆえに、固有結界を維持できる時間は非常に短い。が、その力は絶大である。

エミヤの中で腑に落ちないところが一つある。

何故、衛宮士郎はこの短時間でここまで固有結界を使いこなせるようになったのか? と。

 

「——―――戦闘中に考え事かよ」

 

「……ッ!」

 

距離をとっていたはずの士郎がエミヤの眼前に迫っていた。

上段から振り下ろされる銘も知らぬ刀。

その一瞬がエミヤの命取りとなる。

 

「ちっ」

 

小さく舌打ちをし手に持っていた干将・莫耶を爆ぜさせる。

士郎は眼前で爆ぜた干将・莫耶への対応が遅れ爆風の餌食となる。

エミヤは爆風に揉まれながらも、それ利用し士郎と距離を取りながら黒弓と螺旋状の剣一本を投影。

素早く弓にその剣を番える。

 

「くっ!」

 

士郎が状況の整理と打開策を頭で必死で絞り出しているなか、エミヤは土煙が晴れその真名を開放するのに、それほど時間は必要なかった。

エミヤが投影したのはケルト神話において、3つの丘を切り裂いたといわれるフェルグスが使用していた剣を、自らの手で改良し一番効果を発揮するものに作り替えた(つるぎ)である。

 

「——―――I am the bone of my sword. (我が骨子はねじれ狂う)

 

銘を

 

偽螺旋剣(カラドボルグⅡ)!」

 

放たれた矢は周囲の空間を削りながら士郎めがけて突き進む。

士郎は身体を大きくねじる。が、矢から目は逸らさない。

 

抽出(トレース)——―

 

―――――固有結界より選択

 

―――――虹霓剣を選択

 

―――――迎撃を開始

 

開始(オン)!」

 

士郎の手にする刀がまばゆい光を放つ。

それは今、エミヤが放った(つるぎ)のあるべき姿にして本来の姿。

その銘を―――――

 

偽・虹霓剣(カラドボルグ)ッッ!」

 

横凪に放たれた斬撃は矢とぶつかりせめぎあい、共に限界が来たとばかりに爆ぜる。

木々が根元から折れ、草木は燃え始める。

 

 

この戦闘において、生き残ったのは……ただ一人。

 

 

 

 

 

 

 

 

ACT08 剣戟が残したもの

 

 

 

 

 

 

 

 

 

士郎とエミヤが戦っている一方、僕とキャスターは一体の影と対峙していた。

それは衛宮が一人で戦っている戦闘で、その横槍を入れる輩を止めるためだ。

先ほどから対峙し何度か打ち合っているが、相手は1人に対し、僕らは2人。

キャスターの強化のルーンで体を強化しキャスターは後衛から火球で攻撃している。

にも拘わらず、相手は一向に撤退しない。

何を狙っているのは知らないが、衛宮早く帰ってきてくれ。

 

「……イイ加減ソコを退カレヨ。名モ知ラヌ者とキャスター。拙僧ハ無益ナ殺生ハ好カン」

 

僕とキャスターが対峙しているのは如何にも武人らしい雰囲気を漂わせる者だった。

手にしているのは槍……いや、刃がやや湾曲しているところから見て槍のように突き刺すのを重要視したものではない。あれは、切ることを重要視してあるものだ。

ということは相手の武器は薙刀。

そしてそのクラスに当てはまるとすれば……。

 

「ランサー。お前は何しにきやがった? 俺のマスターの邪魔しに来たのか?」

 

ちっ。と舌打ちしながらキャスターが僕のセリフを奪い去る。

 

「……ぐだお。悪いがお前、もしかしてさっきからランサーってことに気付かなかったのか?」

 

ジト目で僕を見るのはやめて!

 

「ま、気を取り直して。悪いがここから先は通すわけには行かねぇ。諦めて座に帰んな」

 

先ほどの空気を一変させるように鋭くなるキャスターの目つき。

ゆっくりとキャスターは再び杖を構える。

それに合わせるようにランサーも薙刀を構え、僕も腰を落とし低く構える。

 

「「「……」」」

 

一陣の風が吹き、葉の燃えかすが舞う。

そして、キャスターとランサーの間に舞い込んだとき。

 

「アンサズ!」

 

先に仕掛けたのはキャスターだ。

ランサーめがけて幾重もの火球を放つ。

 

「カッ!」

 

ランサーの一喝と共に振るわれる薙刀で火球は全て切り裂かれる。

 

「ちっ! これだからキャスターは! ぐだお!」

 

「わかってるよ!」

 

この一つの攻防の間にランサーの槍の間合いから、僕の八極の間合いに潜り込まんとランサーに迫る。

 

「まだまだ、行くぜぇ! アンサズ!」

 

キャスターは僕に火球が当たらぬように配慮しながらランサーめがけ牽制の火球を幾重にも放つ。

ランサーは薙刀を回転させすべての火球を打ち消す。

 

槍とは長いリーチゆえにミドルレンジからの攻撃を可能とし、刀などの間合い潜り込ませることをさせず一方的に攻撃できる最大の利点がある。

ランサーの持つ槍……というか薙刀は目測でも2mはある。

つまり最低でもやつのリーチは2mはあるということになる。

僕の最大の射程範囲。それは自分の腕の届く範囲内。1mにも満たないかもしれない。

槍と拳では圧倒的に、槍の方に軍配があがる。

 

 

だが、例外も存在する。

 

 

槍の最大の利点。裏を返せば槍の間合いから刀の間合いとなるとその長さゆえに最大の利点を生かすことができずに終わってしまう。

防御のためにその長いリーチを引っ込め次の動作へつなげるためのタイムラグが生じる。

そのわずかな時間があれば――――――――。

 

「ヌゥン!」

 

声を張りながらランサーが薙刀で刺突を繰り出す。

サーヴァントの攻撃は例え低級であろうと常人が見切れるものではない。

でもね……。

 

僕を鍛えてくれたヒトは「フハハハ!」って高笑いしながら、容赦なく剣や槍を出し惜しみせずに放ってくる王様と。

 

人の理と共に人の歪みと共に、この八極を手ほどきした養父と!

 

幼い僕に黒鍵の扱い方を叩きこみ、最終的にはトラウマを植え付けたあの――――――――――。

 

 

 

 

 

 

「カレー中毒者のせいだぁぁぁあああああああ!」

 

 

 

 

 

いつしか叫んでいた僕はわずかな動作で刺突を回避しランサーの懐へ滑り込むように潜り込む。

未だ極めずの技を使うのはリスクが高い。

しかしこの状況で、どうこう言っても仕方がない。

だからこそ、思い描け。

李氏八極拳の開祖、李書文はこういったそうだ。

 

『千招有るを怖れず、一招熟するを怖れよ』

 

と。

つまり! 多くの技を身に付けるより、ひとつの優れた技を極めろということだ!

 

だから僕は研磨し続けた。己の持つ最大の武器にして人の誰もが持つ最強の武具を!

だがいくら研磨しても足りない!

ならばどうすればいい? 

補えばいいんだよ。己の覚悟で、己の意思で、己の胆力で!

ランサーを横凪に薙刀を振るう予備動作が見えた。

でも、僕のほうが早い。

フェイントなんて小細工は無しだ。

受けてみろ。これが僕の最大の拳法(ぶき)だ!

 

「我が八極に二の打ち要らずッッ!」

 

李書文の格言を口ずさみながら僕の右肘がランサーの左胸に突き刺さる。

確信のまま、僕はそのままさらに足を踏み込む。

 

「憤ッ!」

 

気合いと共に放たれる一撃はランサーを吹き飛ばすのには十分だった。

ランサーは何度か地面でバウンドし薙刀を杖代わりにして立ち上がる。

腐っても英雄、か……。

やはり……だが、まだ研磨するだけの伸びしろはあるな。

自分の技のことを頭で考えながら、相手の出方を窺う。

 

「ひゅー。まじかよお前。いくらお前の体を強化したからとはいえ、英霊を吹き飛ばすとかもはやバケモノの類だぞ」

 

後ろからキャスターが茶化しながらやってくる。

まだ戦闘の最中なのに、何故キャスターはここまでへらへらしていられる?

 

「あん? お前な、流石にあんなすんごいの綺麗に貰ったら流石に体の内側に響くだろ。しかも、お前の使ったやつはあれだろ? 八極拳ってやつだろ?」

 

「そうだけど……」

 

キャスターは杖を肩に担ぎながら解説を始める。

 

「知っていると思うが、お前と同じパワーの全力パンチをあいつに打っても確かに堪えるだろうが、あくまでそれは瞬間的な衝撃だ。お前の使っている八極拳……発勁なんかは同じパワーで打ったとしてもわけが違う。確かに最初の力の動きは鈍いがそれが長く続く。そう。例えるなら、地下からくる地震の振動が大型マンション3階の部屋の水槽に渦を発生させるように、今のあいつの体っても霊体の内側は千切れんばかりに揺さぶられてるわけだ」

 

願うことならくらいたくないものだ、おお怖い。

と最後に付け加えるキャスターをしり目に、僕は己の拳に目を落とす。

今の感覚は、たしかに技自体は決まった。

でも何かが足りない気がする。

 

重要であるようで、必要のないような何かが。

 

「グッ……此方が手痛い目二アウトは……ダガ此方ノ粘リ勝チのようだ」

 

ランサーが静かに消えていく。

粘り勝ち……?

どういう意味だ?

僕が頭で情報を整理しているとキャスターがビクリと体を震わせたかと思うと、歯噛みしながら持っている杖が折れるかと思うほどぎりぎりと握りしめている。

 

「くそったれ!」

 

キャスターが急に踵を返し走り出す。

な、なにがあった!?

僕はキャスターの背中についていく。

嫌な予感がした。

 

衛宮、まさかお前……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

 

ぐだおとキャスターがランサーと戦闘を行っている中、俺とアーチャーの戦いは激しさを増していた。

 

「うぉぉおおおお!」

 

上段から振り下ろされる俺の刀をアーチャーは夫婦剣の干将・莫耶で受け止める。

 

「くっ……!」

 

アーチャーから苦悶の声が俺に届く。

俺はより力を籠めアーチャーの干将に罅を入れさせる。

それを見るなりアーチャーは英霊の筋力で刀を押し上げ後方へ飛びながら黒弓を投影、矢を放つ。

俺はそれを確実に叩き落していく。

一本、また一本と。確実に。

 

「どうした、アーチャー。お前の剣から戸惑いが感じるぞ」

 

ひゅっ。と刀を構えながらアーチャーに皮肉気に言う。

アーチャーは静かに俺の刀を見つめながら言う。

 

「解せんな。何故、それほどの力を今の貴様が有している……」

 

「簡単なことだ。キャスターのルーンで俺の持つ伸びしろを今使っているだけだ。それなりに危険を伴うがな……」

 

俺は自然と己の左肩の聖骸布に触れていた。

そして静かに手を放しその手の平をみる。

……ピシ。と小さく罅が入る。

他ならぬ俺の体から。

キャスターは言った。

 

『シロウ、いいか。今からお前に施すルーンは『その者が持つ未来の力を無理やり今の自分に憑依させる』ルーンだ。ざっくり言うと未来の己の力を今のお前に移すものだ。それ故にそれ相応のリスクも伴う。それは――――――』

 

 

 

 

「本来は時間をかけて身に付ける筈の力を、無理やり今の自分に付け足すんだ。当たり前と言えば当たり前かもしれない。それ相応の対価だからな」

 

「随分と勿体付けるじゃないか。妙なところまで付け足されているが?」

 

「勝手に言ってろ。俺の払った対価は……俺の全て(・・・・)だ」

 

「……全てだと?」

 

「ああ。俺の持つ全てをかけた。例えセイバーに殺されようが、俺の命尽きようが、俺は……セイバーだけの正義の味方でありたい」

 

だから、と付け加え。

 

「お前が邪魔なんだよ! エミヤ!」

 

言い終えると同時に俺は手にしていた刀を握りしめアーチャーへ向かって駆ける。

アーチャーも再び干将・莫耶を投影し互いの中間で再びぶつかり合う。

 

「お前は俺の描いた理想だ! でもお前は間違っている!」

 

「そうだ! だからこそ、その間違った芽をここで摘まねばならん!」

 

互いの獲物が鍔ぜりあう。

 

「でも! 俺は護ることができなかった! セイバーも! 桜も! 藤ねえも! 慎二も! 一成も! 絶対に護ると誓った遠坂ですら護ることができなかった!」

 

「それが貴様の限界だからだ! 最初から救うすべを知らずに足掻いた結果だ! 貴様は最初からヒトとして破綻していたんだ!」

 

俺とアーチャーの剣がぶつかり合う。

これはただの八つ当たりかもしれない。

俺が護ることができなかったことに対する、あいつへのただの八つ当たりなのかもしれない。いや、これは完全に八つ当たりだ。

 

「でも! 俺の理想を認めてくれる人がいた! 例えその理想が間違っていようが! 俺はお前の理想には負けない!」

 

「貴様の下らん理想をまだ持つのであれば! 抱いたまま溺死しろ!」

 

片や理想を追い続けた果てに見出したのは全てを捨ててでも一を守り抜く者。

片や理想を追い続け、己の全てを世界に売りなおもすべてを救おうとした者。

 

どちらも正しい。

だが、どちらも間違っている。

 

だからこそ負けられない。

 

俺自身だからこそ、なおさらだ。

 

 

 

「俺の理想は……じいさんの願いは決して、間違いなんかじゃなぁぁあああい!」

 

 

剣というのは何度も打たれて打たれて強くなる。

エミヤという剣は折れていた。だが……。

衛宮士郎という刀は打たれてなお折れなかった。

 

収斂こそが理想の証。

全てを捨ててでも護り抜く。その決意こそが、衛宮士郎という男の示した道。

 

気が付けば、アーチャーは俺の突き出した刀を受け入れていた。

 

「……俺の勝ちだ。アーチャー」

 

「……ああ。そして私の敗北だ」

 

静かに消えゆく黒い影。

最後に俺に小さく耳打ちしてきた。

 

「その刀の銘はなんだ……」

 

「……『衛宮』だ」

 

しばらく考えたのちに出した銘にアーチャーは珍しく納得した雰囲気をだし最後に告げる。

 

「ここから進んだ先にある洞窟の奥に大聖杯がある。そこにセイバーもいる……」

 

それだけ告げと静かに消えてゆくアーチャー。

アーチャーが消えると同時に片膝をつき息を整える。

そして静かに立ち上がる。

これから、ぐだおとキャスターと合流してそれから――――――。

 

 

 

 

 

 

 

『妄想心音』

 

 

 

 

 

 

その言葉を境に俺の目の前が真っ暗になる。

 

 

……

………

 

やくそく……したから……

 

 

むかえにいくからな……

 

 

 

 

セイバー




え? 最後のは誰か?
……誰でしょうか。私にもわかりません(◎_◎;)
やつは一体、何サンなんだ……。

主要人物がバタバタと倒れ私もそれに続いて、ぶっ倒れそうな日々を送りながらなんとか更新できたのは未だにご愛読されている読者の方のおかげだと思います。
心から感謝申し上げます。

受験の呪縛から解放され、担任から嫌味を言われることもなくなりこれから執筆活動、頑張ります!


PS.邪ンヌはまだうちには来てくれませんでした(´;ω;`)

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