無人島の開拓が終わり素材集めに必死になり、師匠の影の店での商品を買い尽くすことに成功しました。
出来具合が不安ですが楽しんでいただければ何よりです。
我々人間は希望に燃えている真最中に、突然死による不意打ちを食らわせられるものである。
* * *
「遠坂!?」
「衛宮! 彼女の処置は任せる!」
僕は衛宮たちを背後に庇う形で周囲の気配を感じ取る。
次に攻撃が来ても対応できるようにだ。
「………」
遠坂さんをやったとみられる気配が感じ取れなかった。
気配を感じさせずに遠坂さんの左胸に短刀を投擲して命中させることを鑑みれば……。
「
気配を感じさせずにあんな攻撃を繰り出せる時点で卑怯極まりないが、今のこの現状でそんなことを言っても泣きごとにしか聞こえない。
しかし、何故だ?
もし相手がその気になればさっき相対したアーチャー以上に僕たちを殺せるはずだ。
なのに、なぜ……?
僕の頭をフル回転させて考えを張り巡らせる。
「!」
そして追い打ちをかけるように僕は背後から弓兵と似た気配を感じ取る。
あいつ! もう追ってきたか!
「衛宮、遠坂さんの傷は!?」
「わからない! でも……血が止まらないんだ!」
衛宮が必死になって止血作業を進めているが血が止まらないらしい。
その状況下でこれだよ。
くそっ!
前門に
相手も互いのことを認識しているのか動きがない。
どっちが先に動くかわからない以上、下手に動けない。
つまりどうしても後手に回ってしまう。
くそ……!
とっさに後ろの相手を確認するために振り返る。
が、その選択は―――――
「背ヲ見セタナ。愚カ者メ」
背後から聞こえた声。
間違いだった。
とっさに振り返る。そこにいたのはアーチャーと同様の人の形をした影。
避けないと! と脳が命令するが、本能が告げる。駄目だ。間に合わない……!
「アンサズ!」
声と共に炎の塊が僕の真横を通り過ぎる。
「アサシンらしいちゃらしいが、俺はそういうこそこそしたのは嫌いなんだよ」
声の主は姿を現した。
手に杖を持った青髪の男性だった。
男性は杖を影に向けて言う。
「どうする? まだやるかい? もっとも俺はここの坊主どもの肩を持つがな」
「……」
影は静かに消えていった。
先ほどの気配が遠ざかっていくのがわかった。
逃げたか……。
いや、この場合は見逃してくれたと言ったほうがいいのか。
「遠坂! おい、返事しろよ!」
僕の後ろでは衛宮が涙を流しながら遠坂さんをゆする。
……。
男性は走りながら衛宮に支えられている遠坂さんに近づく。
「坊主。ちょいと見せてみろ……駄目だ。心臓を一刺しか……悪いな、坊主。俺も万能じゃないねぇから……すまねぇが無理だ」
半ば諦めの声と共に謝罪を言う男性に衛宮が吠えた。
「……なんだよ! あんたは! 急に出てきて! あんたがもっと早く出てきていれば遠坂は……!」
衛宮は男性の胸ぐらをつかみその目を見つめる。
「よせ、衛宮。この人に食って掛かっても何も起こらないぞ」
僕は離れろと肩をつかむが衛宮はそれを振りほどく。
「俺は『正義の味方』になるんだ。でも……」
衛宮は涙をこぼしながら吐露する。
「俺の理想は
「坊主……」
男性も感じ取ったそれの正体。
僕にも分かった。
嗚呼。これが
ACT06 契約
「はぁ……はぁ……はぁ……」
息を切らし涙をなんでもぬぐう衛宮を僕は見ていられなかった。
それを見て苛立っていた者が一人いた。
アヴェンジャーだ。
「あんたねぇ。さっきから聞いていれば本当に苛立たしいわね。自分の身を滅ぼしても守らないといけないものなんてないのよ! その先に待っているのは破滅だけなのよ。守れないなら死ぬ物狂いで守ればよかったじゃいの。終わったことをいつまでも引きずって生きるのなら、その思いを抱いて溺死なさい!」
僕の胸ポケットから衛宮を指さして怒りながら言うアヴェンジャー。
「……一人にさせてくれ」
遠坂さんの亡骸の横に座り衛宮は僕と男性に言う。
僕たちは顔を見合わせその場から少し離れることにした。
男性と共に少し離れたところで腰の高さに合った瓦礫に腰を下ろす。
「こんな空気で悪いが、本来ならあの坊主にも紹介したいんだが軽い自己紹介だ。サーヴァント、キャスターだ。キャスターって呼んでくれ。坊主名前は? それと胸ポケットのそいつは?」
男性が僕に自己紹介を求めてくる。
「僕はぐだお。胸ポケットの彼女はアヴェンジャー。さっきは助けてくれてありがとう。あの時キャスターがいなかったら間違いなく死んでいたから」
礼を言っているが僕は少なくとも警戒心は解いていない。
僕の知っているサーヴァントとはアーチャーやアサシンのように影のようなのしか知らないからこそ影ではないがサーヴァントであるキャスターに警戒心を持たざるをえない。
「礼を言っている割にはずいぶん警戒してるじゃねぇか。そんなに信用ないか?」
「まぁね。僕の知っている限りじゃサーヴァントっていうのはアーチャーやさっきのアサシンみたいに影みたいなやつだからキャスターみたいなのは警戒心を持たないほうがおかしいよ」
「そうかよ」
キャスターは頭を掻きながらぼやく。
「とりあえず、ぐだお。今までの事の顛末ってやつを聞かせてくれ。そうしないと今後の行動にも支障をきたすかもしれん」
キャスターが真剣な顔で僕に言う。
僕はキャスターに事の顛末を話した。
教会で遠坂さんと衛宮に今の現状を聞いたこと、アーチャーの襲撃を受けたこと、その襲撃からなんとか逃げてきたこと。
そして、逃げている最中にアサシンによって遠坂さんが殺されたこと。
「ふむ……完全に俺が悪いな……」
キャスターが頭を抱える。
「そうよ。この駄犬」
胸ポケットから顔を出すアヴェンジャー。
恩人に向かって何を言うかと思えば……。
「犬っていうじゃねぇ!」
頭を抱えていたキャスターが吠える。
何、この素晴らしいまでのいじり。
というか『犬』って単語に過剰反応しすぎでしょう。
「アヴェンジャー。もしかしてこのワンちゃん知ってるの?」
「知るわけないじゃない。こんな駄犬」
「二人をそろって犬って言うじゃねぇ! それとさっきまでまともだったぐだおはなぜこうも簡単に手の平を返す!?」
キャンキャン! と吠えるキャスター。
何故だろう。
この心をくすぐるような何とも言えぬ快感は。
不意に、麻婆神父と金ぴかの王様と外道聖女が脳裏をよぎった。
これが愉悦か……。
「そもそも、あんたが早いタイミングで私たちに接触してきたのなら、ぐだおは目の前のアサシンの対応だけで済んだ。それなのにあんたはアサシンと挟み撃ちするような形で迫ってきたのよ? 結論から言うとあんたの配慮不足。完全にあんたが悪い。だから駄犬なのよ」
アヴェンジャーがすごくまともなことを言っている。
さりげなく煽りながら。
正論だ、とばかりにキャスターは僕の胸ポケットにいるアヴェンジャーを見つめる。
「ああ。確かに、俺が悪い。俺がお前たちと速いタイミングでコンタクトを取っていたのならば……あのような結果にはならなかった」
「「反省しなさい」」
「……なに、この主従。微かに元マスターと同じ匂いがするんだが……」
やっぱりキャスターはワンちゃんだった。
* * *
俺は遠坂の亡骸を横たえ、その隣に座り語り掛ける。
「なぁ、遠坂」
「……」
「俺さ、考えたんだ。『正義の味方』ってなんなんだろうって」
「……」
「『正義の味方』って困っている人に平等に救いの手を差し伸べることだと思っていたんだ。例えそれが自分の身を犠牲にしたものだとしても」
「……」
「でも、それは遠坂が俺の『歪み』だって言ったの、覚えてるか?」
「……」
「確かに、俺の持つこの理想は『歪み』にほかない。でも遠坂は本当にお節介だよな。自分事よりも俺のことを気にかけてくれてさ」
「……」
「俺、この聖杯戦争が終わったら……理想を追うのをやめて自分の為だけに生きるって決めたんだ」
「……」
「だから……戻ってきてくれ……ッ! 遠坂!」
双眸から再び涙が零れる。
涙をぬぐい遠坂の頬に触れる。
温かかった彼女の頬がとても冷たい。
あの時と……桜を助けることができなかった時と一緒じゃないか!
己の無力さをあれほど呪ったことはない。
今でも呪っている。
俺の力がなかったせいで桜を守ることができなかった。
俺を守ろうとしたがために藤ねぇは身を挺して死んでいった。
俺の力になろうとして助けてくれた姉すらも守れなかった。
俺に信頼を置いてくれた自分の剣すら守れなかった。
今も……俺を庇うがために死んでいった遠坂。
遠坂……。
俺、少し疲れたよ。
すると背後から気配を感じた。
ぐだおとさっきの男性だ。
「……衛宮」
ぐだおが俺の下へ歩み寄る。
「なんだよ。俺は少し疲れたんだよ」
力なく座り込んでいる俺にぐだおは……。
「衛宮……歯ぁ食いしばれ!」
バキッ!
鈍い音が俺の頬から発せられる。
今まで1度も見たことがないぐだおの表情。
ぐだおは俺の胸ぐらをつかみ無理やり視線を合わせる。
「衛宮。何をしてるんだ? お前の夢は……お前の理想は『正義の味方』になることじゃなかったのか?」
「……俺は少し疲れたんだ。少しくくらい休んでも罰は当たらないだろ」
「そんなことでお前の理想は終わっていいのか!? お前は既に『答え』を持っているんだろう!? 自分の『歪み』に対する答えを! それともお前の出した『答え』すらも偽物だったのか?」
不意に遠坂の言葉が脳内で再生される。
『旅の始めと終わりにはけじめが欲しかったーなんて心の贅肉ね。人の生き様はおわらない旅路みたいなものなのに』
「みんな、みんな俺を助けようとしてみんな死んでいったんだぞ! 俺だけが生き残っているこの現状で、お前に何が言えるんだよ!」
叫びながらぐだおをなぐり返す。
殴られたぐだおはそれでも視線を俺から外さない。
「……なぁ、衛宮。お前なら分かるはずだ。今、お前がしなければならないことを」
ぐだおが静かに語り始める。
「もし、あの場面で死んだのが遠坂さんじゃなくて僕だったら? 衛宮、お前はこうやってもう疲れた。とか言って自分の理想を捨てるのか?」
「何をわけわからないことを――――」
「僕が死んで遠坂さんが生きていたならこうもぐじぐじしてないだろうね。彼女の本性をついさっきまでは知らなかったけれど、彼女はきっと割り切るタイプだと思うよ。僕と正反対の人種だと思うからね」
「……何が言いたい?」
「遠坂さんのことを忘れろととまで言わない。もし、お前がまだ『正義の味方』の理想を追うのであれば割り切って立ち止まるな。前へ進め。止まったらお前はもう走れなくなるだろ?」
「俺の理想……」
あの夜を思い出す。
『僕はね、正義の味方になりたかったんだ』
『なりたかったって、あきらめたのかよ』
『ヒーローは期間限定でね、大人になると名乗るのが難しくなるんだ』
『それじゃあ、しょうがないな』
『うん。しょうがないから―――――俺が代わりになってやるよ』
『爺さんの夢は……俺がちゃんと形にしてやるから』
『……ああ。安心した』
そういうと爺さんはもう二度と目を開けることはなかった。
俺に己の理想を託して……。
爺さんなら、こういう時どうしただろうか?
やっぱり、ぐだおの言う通りに割り切るだろうか?
俺は爺さんとは違う。
でも、同じ理想を追い求める以上は……。
「そうだ……。俺は正義の味方にならないといけないんだ。こんなところで立ち止まったら、遠坂に嫌味を言われるな……」
「ああ。嫌味を言われるならさ。自分の理想を達成したとき、遠坂さんに自慢してやれよ。『俺は正義の味方になったぜ! ざまーみろ!』ってさ」
「そうだな」
笑みを見せるぐだお。
その笑みに俺も笑みを作る。
「それなら、やらないといけないことは決まったも同然だね」
「ああ。俺たちは……」
「「アサシンの奴を完膚なきまでぶっ潰す!」」
ぎゅっ! と互いの手を握りしめ、宣言する。
ああ。俺はアサシンを許さない。
覚悟しろよ。アサシン、例えお前が英霊であろうと俺は必ずお前をぶっ潰す。それも完膚なきまで。
* * *
「さて、今後の目途も立ったことだし、改めて紹介させてもらうぜ。サーヴァントキャスターだ。よろしくな、坊主」
「ああ。よろしくな。キャスター」
衛宮とキャスターが握手を交わす。
「お、お前さん。令呪を持っているところを見ると……元マスターか?」
「ああ。セイバーの元マスターだ」
「それなら、俺と再契約してくれないか? 俺もこのまま野良サーヴァントを続けてたらいつかは魔力切れを起こして座に返還されることも考えられるからな。俺のマスターになることでいろいろと便利なことがあるかもしれないぞ?」
「……ぐだおじゃダメだったのか?」
おい。衛宮。何を言ってるんだ。
僕にはすでに契約? をしてるサーヴァント(笑)がいるんだよ?
僕がやってみろ、既にアヴェンジャーが胸ポケットから「契約したら丸焼きにしてやる」みたいな嫉妬の目線が突き刺さってるのよ?
「ああ。俺もそっちのほうがいいと思ったんだが……」
「あれか……」
ねぇ、なんで二人して僕の胸ポケットに目を向けるんですかね?
確かに既に契約してる身ですけど、厄介なやつがいるからみたいな視線はやめていただけませんかね?
「とりあえず、俺と契約してくれるか? 坊主」
「やってやるよ。それと、坊主じゃない。衛宮士郎だ」
「わーったよ。シロウ。それじゃあ、呪文を頼むぞ?」
「え? 再契約するときに呪文なんているのか?」
ここからキャスターと衛宮が再契約するまで10分ほどかかった。
新たに僕たちのパーティーに
「明らかにこのルビに悪意を感じるんですけど!?」
* * *
Action may not always bring happiness; but there is no happiness without action.
冒頭の言葉は前話の最後の言葉の意味です。はい。
え? 凛ちゃんの出番はもうないのかって?
……その辺はノーコメントでお願いします。
補足として、邪ンヌが士郎に向かって怒りました。なぜ怒ったかといいますと、いつもぐだおの胸ポケットにいる邪ンヌは普段の衛宮士郎を見ているから、あのようにぐじぐじしてる所を見て苛立ったからです。
今回の話で新たにキャス二キが加わりました。やっぱりキャス二キでも犬って感じでいじられたら槍二キみたいな反応をとるんでしょうか?
結局弓王は私のところへ来なかったよ(白目)
モーさんがいるから!? ノーマルモーさんと波乗りモーさんがWでいるから!?
うわぁーん! なんで私のところにアルトリア様は来られないのー(´;ω;`)
どこかおかしい描写、言動がありましたらご報告をお願いします。