シユウになってしまった様だ。   作:浅漬け

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絶望した! 自分の筆の遅さに絶望した!

しかしエタらない様に頑張りますので、こんな作者でよければ応援して下されば嬉しいです。



第11話 たまには贅沢してみたい

 やぁどうも、鳥田だよ。随分と久々に言った気がするなこれ。何でだろう?

 

 まぁそれはさておき、俺は今【愚者の空母】と呼ばれるエリアに向かって飛んでいる。理由は簡単。滋養のある食事のためだ。

 

 現在の俺は脚のケガの為に絶賛療養中である。が、そこは流石アラガミボディ。適当に何かしら食べれば治る筈なのでいつもの様にコンクリートをバリボリと貪っていたのだが……どうにも治りがあまりよろしくない。やはり結合崩壊レベルの損傷となるともっと他の栄養のある物が必要らしい。

 だが例のソーマの一件があった以上、俺が住んでいる【贖罪の街】での狩りは危ない。前回は何とか逃げられたが、思い返すに特務対象とされているらしい事を考えるとそれはリスクが高過ぎる。ので、なるべく今まで行った事がない様な所に赴いて適当な小型の連中でも食べるとするかと思い立ち向かっている次第である。

 いや、実は試しに【煉獄の地下街】とか行ってみたんだけどさ。あれは駄目だ。熱い、熱過ぎる。何であんな所で生きていこうとか思えるんだろう。確か師匠の初討伐ミッションはそこだった筈だが、もしかして彼はサウナ的な物がお好きだったのだろうか。

 

 そんな事を考えつつ飛んでいると、ぼんやりと巨大な建造物、目的地の打ち捨てられた空母の影が見えてきた。意外と近いものである。

 さてさて、何かいればいいんだけど。そうだな、御し易いオウガテイルとかがいいな。申し訳ないが中型以上はNGとさせて頂こう。今本調子じゃないし。元々戦う気もないし。ビビり? ち、違わい、生き残る事が先決なんだ。だって死んだらヒミカさんを見守れないじゃないか。

 

 順調に近付き、空母の甲板がはっきり見えてくるにつれてその表面にわらわらと浮いている白い何かが見え始めた。多分ザイゴートだろう。えっーと、いちにいさんし……四匹いるな。調度いい、久々の狩りをするとしよう。

 

 俺は軌道を変え、さらに上空へと舞い上がる。そして熱波の噴出を止め、自由落下の体勢に入った。

 体で風を受け止めつつ、翼手を構え掌にエネルギーを収縮。頃合いを見て解き放つ。結果見事に命中だ。目標は沈黙した。それを見届け、俺は再び熱波を噴き出して上昇する。後はこれを繰り返すだけ。つまりはヒットアンドアウェイだ。

 面倒臭いのだが、推進用の風と火球は同時に精製できない。ので、攻撃を仕掛ける為には地上に降り立つか、さっきみたいに落下しながらの砲撃となる。格好いいだろう? まぁ上昇のタイミングを逃すと頭から地面にキスするけどね。顔面が結合崩壊するよ。

 

 その後も何回か火球を放っていると、取り敢えず周辺のアラガミは一掃できた。今更だけど飛べるって素晴らしい。結構なアドバンテージではなかろうか、気持ちいいし。これまで逃げる事にしか使ってなかったけどね。

 地上まで調度いい距離に達したので、浮かない程度に翼手から下に風を放出。落下の勢いを殺しつつ着地する……あ痛たたたた。やっぱり脚まだ痛い。この足を擦りむいた日に入る風呂の時の様な痛み……ソーマめ、現在療養日カウントは5日だ。楽しみにしていろよくそう。

 

 まぁそれは今は置いといて。おまちかねのお食事タイムだ。俺はあまり脚に体重を掛けない様にトコトコと撃ち落とした最早ウェルダンなザイゴートの所へ歩いて近付き、適当に身を千切って食べた。

 うーんこの形容しがたい味よ。確かにコンクリートよりかは焼き過ぎたとはいえ美味しいが、別に狩って食べたいとは思えないんだよなぁ。怪我した時の治療用かね、これは。

 その後も食べ残すのは流石に悪いのでむっしゃむっしゃとザイゴートのステーキ(黒い何か)を食べ、ちょっと多かったかなと思いつつ一休みに空母の甲板の端に座った。相変わらず夕日は綺麗である。が、ここに来たならば見るのはそこではないだろう。見るべきは遠く視界の中央に凄まじい存在感を放って鎮座する巨大な白いドーム――【エイジス島】だ。

 

【エイジス島】。フェンリル極東支部支部長、ヨハネス・フォン・シックザールが提唱する楽園であり、またこの地に極東支部が造られた理由の1つでもある。

 それ自体が生産・消費サイクルとして独立している建造物【アーコロジー】であり、現在世界中に辛うじて生存している全人類を収容できる規模に加え、完成の暁にはアラガミを一切寄せ付けないという巨大な装甲壁。まさにこの時代の楽園だ。ゴッドイーター達がアラガミのコアを集めるのはこの為でもあったりする。今の所はだが。

 

 ……さて諸君、特に今の話を「出来すぎてはいないか?」と疑ったキミ。その勘は正しい。そしてシックザール支部長は凄いなぁと思った方のキミはその純粋さを利用されない様にしよう。橘さんじゃないけどさ。

 まぁここでは多くは語るまい。この世界に来てしまったからには必ず巻き込まれるであろう事柄であるし、何よりガッツリヒミカさんご一行が絡んでくる。もう端から見守るしかないよね。死にそうだけど師匠頑張るよ。

 

 ま、腹も落ち着いたしここにはもう用はない。さっさと帰って寝ようと思いつつよっこらしょと立ち上がったその時、バラバラと頭上からモーター音が聞こえてきた。そして俺は瞬時に悟った。これ駄目なヤツだと。ノスタルジィに浸らずにさっさと帰っておけばよかったヤツだと。

 

 その予感を裏付ける様に、モーター音の主であるフェンリルの輸送ヘリから二つの影が文字通り地上に降り立った。君ら俺よりよっぽど化け物してるよね。鳥田並の感想だけどさ。

 

「ザイゴートを倒しに来たと思ったらシユウとはなぁ。極東での肩慣らしとしてはツイてないねぇ、新入り3号ちゃんよ」

 

「……新入り3号って何ですか。私はアリサ・イリーニチナ・アミエーラという立派な名前がありますし、それにシユウ如き対処に問題はありません」

 

「そいつは頼もしいが、ちと俺が言った意味とは違うな。シユウは……いや、目の前のソイツは極東で今最もホットで面倒なアラガミなのさ」

 

 今俺の目の前に立ち塞がる様に現れた赤と黒の二人組。あれですよね、隣の赤い子はもしかしなくてもアリサですよねリンドウさん。ジロジロ俺の脚見てるから分かると思うけど今俺手負いなんだよ。しかも彼女は彼女で所謂初期アリサ状態なんだけど。こっちを殺る気満々だよ。どうしろってんだチクショウ。

 

「さて、と。おい新入り3号、念のため下がって後方支援の準備を頼む。今のコイツが相手だと、場合によっては死闘を繰り広げる事にもなるかもしれん」

 

「だから新入り3号は止めて下さい。それに死闘? シユウ1体相手にですか? 何を出し抜けに……」

 

「さっきも言ったが、お前さんが想像するより遥かに事情がややこしい。ま、手負いの獣が一番恐ろしいとだけ言っておくかね」

 

 どうやってこの状況を切り抜けるか脳みそをフル回転させて考えていると、そんなやりとりが聞こえてきた。手負いの獣って何さ。確かにソーマに脚を思いっきり砕かれはしたが、特にそれでアンタらを襲おうとは思わないよ。杞憂である。

 

 はてどうやってこちらに敵意が無い事を伝えるべきか。踊ったりしてみようかと検討し始めた所、リンドウさんが一応試してみるかと溢しわざとらしく口に手を当て咳払いをし始めた。何をするつもりだろうか。読めないので一応防御の構えを取ることにする。

 

「えー、コホン……やーい、バーカバーカ」

 

「……は?」

 

 場が凍った、とはこういう事なのだろう。

 

 いや何やってるのこの人、という感想しか出てこない。気が抜けて思わず構えを解いてしまった位だ。

 え、本当にどうしたのリンドウさん。もしかして過酷な業務で精神をやられてしまったのだろうか。というか隣のロシアンガールがポカンとした顔で貴方を見てるよ。

 ちょっと心配になってきた。

 

「ハハハ、何となく今憐れみの視線を向けられている気がするなー。おじさん辛いよ」

 

「え?」

 

「あー、こちらリンドウ。愚者の空母でαと思われる個体と遭遇した」

 

 かと思ったらアナグラに通信しだした。俺は確かに襲うつもりはないけどさ、もうちょっと緊張感を持とうよリンドウさん。一応俺はシユウだよ?

 そしてそれに戸惑っている様子のアリサ。理解が追い付いていない顔をしている。正直何か申し訳ない。けどあれ、これ注意逸れてない? チャンス?

 

「……うんうん、脚に傷が確認できたしほぼ間違いないだろうな」

 

「いや、あの」

 

「……今の所敵対行動は見られない。人語を解すって聞いたから試しに煽ってみても反応ゼロだ。寧ろ大丈夫かコイツって目で見られた。まぁそこはよかったというか何というか」

 

「ちょっと、目の前に」

 

 お、完全に今視線が逸れた。

 健気に正論を唱えているアリサには悪いが、こんな所に長居する理由は無いんだ。何か勝手に納得してくれたみたいだし、ありがたく逃げさせて頂こう。抜き足差し足忍び足、俺はこそこそと地味に後退し始めた。

 

「あの!! アラガミが目の前に居るんですけど!!」

 

「おい、少し静かにしてくれよ新入り3号。今俺は上に大事な報告をだな……」

 

「目の前!! 目の前にアラガミがいるのに何で悠長に無線使ってるんですか!? アイツを倒すべきじゃないんですか私達!!」

 

「いやそれには深い理由があるのさ、3号ちゃんよ」

 

「3号じゃないですアリサですぅ!! とにかく今はシユウを……あれ、に、逃げてる? 何で?」

 

「あーらら。ま、取り敢えず観察処分は続行だな」

 

 おっと気付かれた。けれどもう遅い、というかアリサしか追ってこようとしていない。それでいいのかゴッドイーター。好都合ではあるが。

 ちなみに今現在俺は脚を痛めているので助走を付けられず、VTOLよろしく垂直に浮き上がってなんとか離陸している。それならあの場でやってもよかったんじゃないかと思うかもしれないが、それじゃあ風がモロに当たるし何か悪いじゃないか。しょうがないね。

 

 どこぞの鋼鉄男よろしく手から熱風を吹き出しながら俺は空中に舞い上がり、眼下に二人を見下ろしながら寝ぐらこと【贖罪の街】の方向に向かって進路を取った。

 

 疲れた。食べ物を探しに来ただけなのに疲れた。

 最近フェンリル絡みの縁が多い気がする。主に俺が疲れたり痛かったりするのが。癒しが欲しい物である。例えば最初が「ヒ」で最後が「ん」で終わるようなサムシング。ないかな。ないわ。

 もう今日は寝よう。多分明日には脚は治っているだろうから。赤ん坊の様に朝までぐっすりと眠るんだ。

 

 そして備えなければならない。アリサが加入しているという事は、()()が――物語の大きな転換点が迫っているという事なのだから。

 

 

 ◆◆◆

 

 

 眠い。もうこのままここの床で寝てもいいかな、と頭を掠める位眠い。冷たくて気持ち良さそうではある。次の日から床とか呼ばれそうだけども。

 

 ここ最近碌に休めていない体を引きずりながら居住区の廊下を歩いていると、最近どこかで見かけた様な気がしないでもない赤っぽい服をした人が歩いていた。いや露出度高くない? フェンリル大丈夫か?

 まぁそれはさておき、はて誰だっけ。これは頭が眠気で動いていないだけだと信じたい。私はそんなに周囲に関心がない訳ではない筈だ、多分……あ、目が合った。

 

「貴方はここの新型の……ヒミカさん、でしたっけ」

 

 向こうから話し掛けてきた。

 まずい、この流れは非常にまずい。向こうが私を知っていて私はあちらを知らない。これ以上に気まずい事があるだろうか。取り敢えず会話をお茶を濁す方向にシフトしよう。

 

「あー、うん。一応新型なる物を使わせて貰えてる、呉ヒミカだよ。えっと、そういうキミは確か……」

 

「アリサです。アリサ・イリーニチナ・アミエーラ。随分と疲れている様子ですが、体調管理もゴッドイーターの任務の内ですよ」

 

 相手から名前を言わせる事に成功した。任務を達成した気分である。いぇーい。

 しかし、アリサ、アリサね……。あぁ、そういえば今朝集会でロシアから来た人がどうたらこうたらとか言っていた。やはり任務後は頭が本格的に働かない。というかシユウ2体の討伐って何だ。私に対する当て付けか。罪悪感が凄かったぞ、色々と。

 

「いや、最近色々あってね……。でもそんなに疲れている様に見えるかな、私」

 

「一目見て疲れてるな、と思うくらいには淀んだオーラを撒き散らしてます。今の私もどっこいどっこいですけど」

 

「全然そうは見えないけどね。でも、その心は?」

 

「いや、私は今日ザイゴートの討伐に向かったんですが……そこで新種のシユウに出くわしたんです。α、でしたっけ? ここでは有名なんですよね」

 

「α……。あぁ成る程、報告書に博士からの尋問だね」

 

「そうなんですよ。本当そのαって何なんですか。飛べるとかならまだ分かりますが、言葉が分かるだの人を助けただの滅茶苦茶ですよ。その報告書を書いた人も、一挙一動思い出して話してくれとか言うあの糸目博士も」

 

 その報告書を書いた本人としては凄くいたたまれない。キミの言う滅茶苦茶な内容は全部私がヒィヒィ言いながら書いたんだからね。睡眠時間削ったからね。後ノンフィクションだよコンチキショウ。

 

「ま、まぁ新種らしいから。色々とあるんじゃないのかな、なんて」

 

「でもやっぱり何かいい加減なんですよね、一緒に居たリンドウって人も様子が変だったし……あ、そうだ。よければ私の部屋でもう少し話しませんか? 新型同士ですし、何よりこれから仲間としてやっていくんですからお互いの事を知っておくべきですよ。まだ荷物は全部片付けられていませんが、紅茶位なら出せますから」

 

 話、か……長くなりそうである。面倒臭そうだなぁ。私はそもそも独りでいる方を好む人種な上に、頭に安息の地(ベッド)がちらつく今は余計に面倒臭く感じる。そんな私はいけない子だろうか。

 まぁしょうがない。ここで眠気を優先して感じを悪くするより乗っておく方が良いだろう。すっかり彼女の事を忘れていたバツの悪さも理由にあるが。

 

「うーん……じゃあ折角だし、ちょっとキミの部屋にお邪魔させて貰うよ」

 

「貴方の方が年上なんですから、そこはアリサって呼んでくれても良いじゃないですか。えっと、私の部屋はこっちです」

 

 さよなら、私のベッドと睡眠。でもね、人間はポリス的動物なんだよ。付き合いってのもあるんだね。

 

 結局その後私も珍しく興が乗ってしまい、碌に眠れず次の日にツバキさんから怒られたのだが……それはまた別の話である。

 おのれフェンリルと紅茶。あ、でも後者は美味しかったから許そう。

 

 

 

 




最後のはちょっと蛇足だったかも。でも書きたかったからしょうがないね。

次回、無印ストーリーがようやく動き出す……予定。

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