ゆらぎ荘の蹴る人と殴る人   作:フリードg

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◇ 殆ど閑話な気がしますが。どうぞ。


第7話 紛らわしい!

 

 とりあえず、予想通り コガラシは晩御飯を食べてなかった様なので、仲居さんが早速腕を振るってくれるとの事。

 

 もう、ゆらぎ荘の夕食の時間は疾うに過ぎているのだけど……、笑顔で引き受けてくれた仲居さんの優しさは コガラシも直ぐに感じる事が出来るだろう。

 

 何より、気絶していたコガラシを膝枕で介抱してくれていたのだから、その時点でも。

 

 

 

 

 そして、コガラシが席を外している間に ちょっとしたゆらぎ荘、緊急ミーティングを開始。 コガラシが住む部屋、そして コガラシが霊能力者である事、幽奈を見る事が出来る男だと言う事、それらが議題だ。

 

 

 

 

「別に緊急……、って程でもないと思うが。コガラシの事、だろ? 4号室の事」

 

 軽くため息を吐いているのは、ホムラだった。

 『そんな大袈裟な』、と思っていた様だ。

 

 だが、そんなホムラの発言を訊いて、仕草を見て、視線を鋭くさせるのは狭霧だ。鋭く、と言うより 睨んでいる様だ。

 明らかにさっきまでのやり取りが尾を引いている、としか思えないが……、少々安易な態度だと言う事は間違いない。

 

「そもそも、ホムラが 冬空コガラシが霊能力者だと言う事を、ちゃんと説明をしていなかったから、幽奈は、自分自身が見られる事を知らなかったんじゃないのか!? その結果、幽奈は覗かれたのだぞ! あのふしだらな男に!」

 

 確かに、狭霧の言う事も最もだ。やや 私怨も入っている様な気もするが。コガラシが 悪気があろうとなかろうと、コガラシが幽奈の裸を見てしまった事実は変わりない。

 

「ぅ……、そ、それは 確かに、オレのせい、だよな。……間違いない。……さっきのは失言、だった取り消すよ。……それに幽奈。悪かった。……ゴメン、な」

 

 確かに、今まで何度か似たような《とらぶる》があったのだが、それは 顔見知りだ、と言う事だ。殆ど何も知らない男に、裸を見られて……、そんな簡単な問題じゃない。

 

 コガラシが来る事は 確かに事前に伝えていた事だ。

 

 だが、彼が霊能力者だと言う事は 皆には伝えてなかった。別に秘密にしていた訳ではない。そもそも、ここに昔馴染みが来る、程度にしか言っていなかった。

 だからこその結果だ、とも言える。迷惑をかけた、と言うならコガラシに対してもそうだ。

 

 

――……いや、コガラシへの謝罪はいいか。……オレも昔から、大分苦労させられたし。お互いさまだ。

 

 

 勿論 コガラシにも迷惑を掻けたのは事実だが、ホムラはコガラシは良いか、と結論。だが、幽奈に対してはまた別。ドジっこで天然が入っている彼女だが、だからと言って安易に考えていいものではない。

 

 だが、幽奈は。

 

「い、いえ。そもそもの私にも原因は有りますし……、それに、コガラシさんについては、怖がらせない様に、と 皆さんにお願いをしたせい、かもしれませんよ。ホムラさん。……あ、それに私、……安易に、無防備に、コガラシさんの入ってるお風呂に、入ってしまいましたから……。ホムラさんの入浴中の掛札があったのにも関わらず……です。ですから、ホムラさんだけじゃないです。私にも非がありますよ。……狭霧さん、あまり、ホムラさんを怒らないでください。私も悪かったんです」

 

 頭を下げられて、慌てて幽奈は。大丈夫です! と両手を振りつつ、自分も悪かった事を伝えた。

 

 そもそも、幽奈自身が ホムラに迷惑を掻けている。沢山沢山かけている、と言う自覚があったから、と言う理由もある。

 

 

 昨日も――、寝惚けてしまっていて、……色々(・・)としてしまった幽奈だから。

 

 

「い、いや その……、私も 言い過ぎた。幽奈の、不注意も……勿論、判ってるつもりで……。それに、私もしっかりとしていれば、回避できたかもしれない。……だ、だからその、ホムラだけを、せ、責めてる訳じゃ……」

 

 盛大にホムラに怒りのお説教をした狭霧だったのだが、まさか ここまで萎縮し表情を落として、謝罪をされるとは思わなかった様だ。飄々としている節の有るホムラだが、何だかんだで、しっかりとしているし、間違った事は、誤った事は言わない。1本の芯がしっかりと通った男なのだから。

 

 ……色々とストレートで 鈍感なのが玉に瑕だ、と思ってしまうが。

 

 そんな時、またまた空気を読むつもり-100%な酒盛り女はと言うと。

 

「あっはは~、狭霧ちゃんのは アレなのよ~。嫌よ嫌よも好きの内~♡ ってヤツなのよ~? 真剣に捉えちゃ、しんどくなるだけよ~ ホムラちゃんっ」

 

 まさかの爆弾発言をドストレートに、火中に放り込んだ。

 

「ななななっっ!! 呑子さん! 何を言うんですかっっ!!」

「え~、だってほんとの事でしょ~? ねー、ホムラちゃんもそう思うわよね~♪ それに、ホムラちゃんだって、好きよね~? それに皆も~~♪」

「っっ!!」

 

 まさかのホムラへの呑子からのキラーパスである。(因みに、《キラー》なのは、狭霧にとってだけ)。

 

 異性に対して、そう簡単に《好き》等とは言えないのが思春期の女の子だ。……あ、でも 例外は勿論いますよ?? 悪戯~とか、悪戯~~とかで、言っちゃうような子もいますし、好きな子を虐めちゃう子もいますし。

 

 

「ん……」

 

 ホムラが、呑子の言葉を訊いて考えたその時だ。

 そんな時だ。

 

 

 

「夜々は、ホムラ好きだよー!」

 

 

 

 更に更に 今の今まで、眠たそうにしていた夜々のまさかまさかの発言(告白?)に 場が凍り付きそうになってしまう。こう言う場面で入ってきた事等、特に眠たい時に入ってきた事など、一度だってないから、更に高威力。

 

 あ、因みにホムラは別にいつも通りの表情に戻った。

 

 いつも通りの――真剣な顔に。

 

 

「判ってるよ。夜々。オレもだ」

 

 

 でも、いつも通りじゃなかったのは、返答をした と言う所。

 いつもなら、てきとーにはぐらかしそうなのだが、しっかりと返事をしたのは、初めてだ。

 

「「!!!」」

「へぇ~~?」

「えへへー」

 

 夜々は ニコリと笑っていて、呑子はこの返答ばかりは、流石に予想外だったのだろうか、少々驚いた表情をしている。幽奈は 頬を赤く染めつつやっぱり驚いた顔をしていて、狭霧は……、何だか怖い。驚いた後、表情が()になっていたから。

 

 

 

 

「……ホムラ。それは 本当か?」

 

 

 

 

 無の表情のまま、狭霧は ホムラに訊いた。

 

 いつも、陽気に空気読まず入ってくる呑子なのだが……、今回ばかりは 流石に沈黙して訊いていた。

 幽奈は、幾ら幽霊であっても 見た目も心も女の子、乙女だ。場面は修羅場だが……、それでも、色々と気になってしまったのだろう。顔を真っ赤にさせて、

 

 ホムラは、狭霧の問いに対して、直ぐに頷いた。

 

 それを見て狭霧は何か言おうとしたが、ホムラの方が速かった。ゆっくりと皆を見て、口を開く。

 

「オレは感謝してる」

 

 次にホムラが口にしたのは……、そのままの意味、感謝の意だった。

 

「たった2,3ヶ月程度で、皆と仲良くなれて、こうやって、いつも楽しく過ごせているのは 他の誰でもない。ゆらぎ荘の皆のおかげだ。……皆が接してくれたからだ。オレも夜々の事は勿論、皆の事も好きだよ。………いつも、感謝してる。だからこそ、謝るべきところは しっかりとしないといけない。そんな気がした。だから、幽奈も思う所が多々あるとは思うんだが、今回は受け取ってくれないか」

  

 真面目で真剣な顔、そして その口から紡がれる言葉。それを訊いて、思い返していた。あっという間のこの3ヶ月と20日の期間。

 

 ホムラがゆらぎ荘にやってきた時は、確かに色々と大変だった。それは、いつも笑っていて、しっかり者である仲居さんも同じだった。

 ここ最近では、初めての男性であり、更には霊能力者であり……と、心配事が多かったからだ。

 

 最初はホムラ自身も、越してきたばかり、住む地域でさえよく知らない、判ってない新天地。如何に日本であるとはいえ、全てが慣れない環境だったからか、口数は少なくなり、不愛想、とまでは行かずとも、何処となく固さがあった。それは コガラシ以上だ。

 

 それでも、いつもいつも、何に対しても一生懸命で、誠実な人柄だと言う事は皆、直ぐに判った。

 

 狭霧が色々と思う様になった切欠の出来事。……それ(・・)が起きてからは とても速かった。

 男嫌い(と、思われている)である狭霧が心を許している、明らかに好意を持っている狭霧を見て(本人は否定してるけど……)、あっという間に警戒心が無くなったのだ。

 

「……はいっ。ホムラさんがそうおっしゃるのなら。あ、なら 私から 一言いわせてください」

 

 幽奈は、身体をひょいと浮かせると、ホムラの前に立った。

 

「これからも、宜しくお願いしますね? 私も みなさんの事も」

 

 幽奈は、両手を広げて 改めてそう言っていた。

 ホムラも同じく返事を返す。

 

「……ああ。オレもよろしく。ああ、コガラシの事もよろしく頼むよ。アイツも色々とあるが、それでも決して悪い人間じゃないから」

「ふふ、ホムラさんのお友達なのですから。大丈夫ですっ。ね? 狭霧さん!」

「……ま、まぁ まだ 知り合って間もない。今は何とも言えんがなっ」

 

 狭霧は、慌てつつもそう返した。

 それを訊いて、とりあえず 一安心をするホムラ。

 

 狭霧は、ゆっくりとホムラの前へと移動する。丁度 幽奈と入れ替わる様に。

 

「……ホムラ。ホムラが言いたい事はよく判った。……だから 私も一言だけ、言わせてくれ」

「ああ。良いよ」

 

 にこりと笑って頷いた次の瞬間。

 

 

 

「紛らわしい言い方すんなぁぁぁぁぁ!!」

「ぐええっっ!!???」

 

 

 

 いつもよりも数段素早い狭霧のボディーブローが炸裂した。

 ギャ○クティカ・ク○ッシュ! は、少々古いか……。

 それは兎も角、いつもの狭霧の死角からの攻撃にもしっかりと反応して、防いでいたホムラだったのだが、今回は避ける事も受ける事も出来ず、思わずぶっ倒れてしまうのだった。

 

「ななな、なにすんだよっ!! 狭霧っっ!!」

「う、う、うるさーーーいっっ!! これでチャラだっっ!! い、いや、もう1発殴らせろっ!!」

「何時に増して、理不尽だなぁ! なんで感謝して拳を返されなきゃいかんのだ! そんな空気じゃないだろ!」

「これは、感謝の拳だ!! それに、ホムラが、空気を語るんじゃなぁぁぁい!!」

「って、わけわからんわ!」

 

 

 もう、珍しい場面は終わった様だ。……いつもの光景、だったから。

 

 

「あらあらー。やーっぱり、ホムラちゃんは、ホムラちゃんだったわね~? さぎっちゃんも、ホムラちゃんの事、襲っちゃう勢いじゃないと、判ってくれないんじゃないの~??」

 

 ニヤニヤ、と《日本酒・鬼殺》をラッパ飲みする呑子。

 少々驚いた様だが、訊けばやっぱり いつも通りだ、と判って思わず酒が進んじゃったのだ。……あ、いや……、うん。酒の件はいつも通りだ。飲む量も場面もいつも通り、変わらない。

 

「んー……、やっぱ、夜々 眠い……」

 

 ほんと、この気まぐれさは、まさに猫そのものな気がする夜々。また 睡魔が襲ってきた様で、目元を何度も拭う。欠伸をするたびに、目頭に滴が出来ていた。

 

「それにしても、夜々さんがはっきりと、好きって口にするのは初めてですね? 何かわけがあるんですか?」

 

 ホムラの事が好き、と言った夜々。

 ホムラにとって、好きと言うのは、所謂、like であり、 love ではない、と言う事だ。ならば、夜々もホムラ同様だろうか? と幽奈は予想を立てつつ、返事を待った。

 

「んー……」

 

 夜々は、顎をぽりぽり、と人差し指で掻きながら、数秒考えた後。

 

「まだ、秘密ー……」

 

 そう答えた。

 幽奈は、ちょっと驚いたものの、流石にもう夜々が眠たいから、そう言ったのだろう、と解釈した。

 

「えー、残念です」

 

 それ以上追及する事なく、幽奈はただただ笑っていた。

 

 狭霧とホムラは、またきゃいきゃい、と言い合っている。そんな姿を見たら、笑うしかない。……微笑むしかない。 

 

 

――こうやって、楽しく いつまでも 暮らしていきたい。ずっと、見ていたい。

 

 

 幽奈にとって、現世に留まる未練が何なのか、もう 判らない。朧げにさえ 思い出す事が出来ない。

 

――だけど、それでも 毎日が充実していると感じるから。こんな毎日が続けば、他は何もいらない。

 

 幽奈はそう思っていたのだ。

 

 

「(あ、でも……これって、私、満足してない……???)」

 

 

 捉え方次第では、もう 未練も無い~ と聞こえるんだけど……、そのまま、天に召されて成仏してしまうんじゃ? と思えるんだけど……。幽奈の言う、この楽しい幸せな毎日を見たい、楽しく暮らしたい、と言うのなら、それも、この場所に留める未練の内に入るのだろうか。

 

 理由は判らないが、一瞬成仏するんじゃ? と頭を過ぎった幽奈だったが、幽奈が天に召される様な事にはならなかった。

 

 

「あ、あのー ホムラさん、狭霧さん。コガラシさんのお部屋の件ですがー」

 

 

 2人のじゃれ合いは、まだまだ 大分掛かりそうだったから、本題に戻そうとする幽奈。なぜなら、コガラシも ずっと 夕食……ではなく、夜食を食べている訳ではないだろう。

 

 折角の緊急ミーティングの時間が取れたのだから、と幽奈は 改めて コガラシとの事について、話をするのだった。  

 






予告



◇ 次は閑話休題だと思われる。

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