ゆらぎ荘の蹴る人と殴る人   作:フリードg

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第17話 お家を拝見

 

 突然の宮崎の言葉に、驚き慌てふためいている幽奈。コガラシは、特にいつもと変わらない様子。そして勿論ホムラも同様だった。

 

「どうしたんだ? オレしかって?」

 

 いつもと変わらないのは変わらないが、よく判らないホムラはただただ、疑問を口にしているだけだった。

 

 因みに幽奈は宮崎の言葉を訊いて、『告白の類では!?!?』と1人でテンパっていただけで、それ以外のメンバー達は割と普通だった。

 

 宮崎の次の言葉を訊いて、皆更に納得して幽奈も落ち着く事になる。

 

「その……、私の身の回りで恐ろしい出来事が起きて………」

 

 そう、クラスで自己紹介をした時の言葉を、宮崎は覚えていたのだ。

 コガラシが言っていた『霊能力者』だという事と、『ホムラも同業者』だという事だ。

 

 彼女の身の回りで起こっている恐ろしい出来事。それは……。

 

「最初は寝惚けてヌイグルミ持ってお風呂に入っちゃっただけなのかな、って思ってたんだけど……、いつの間にかタンスとか、カバンの中に入ってたりもしてて……、それに あたし、見たの。夜中……ヌイグルミ達が部屋の中を飛び回っているのを……。だ、だから 流石に怖くなってきちゃって……」

 

 夜な夜な、動き回るヌイグルミ達の話である。

 コガラシやホムラにとって、この手の話。おもちゃが夜遊びまわる、と言った似たような話は幾度となくあった。

 

 だが、生憎凶悪度は宮崎の話の数十倍以上で おとぎ話の様な こどもの夢に似た何か、軽くぶち壊すだけの心霊現象だったりする。

 

「ねぇ、夏山くん! それに冬空くんもっ! これって、心霊現象だよね!?」

「ん。話を聞く限りじゃ、その可能性が高いな。一度や二度なら兎も角」

「……だな。確かに」

「はぅ~……、何だか ドキドキしちゃいましたよぉ……」

 

 宮崎の頼み方にも少々癖があったから仕方がないと言えばそうだ。その程度じゃ揺らがないホムラやコガラシだったから、別にノーリアクションだった。これが他のクラス男子であれば、狂気狂瀾だというのは実際に見なくても判る。

 

「自己紹介の時、相談に乗るって(コガラシが)言ったしな。ああ、任せてくれ。力を貸すよ」

「オレもだ。この手の件は人数がいて、無駄になる事はないからな! クラスメートが困ってるんだ。ほっとけねぇよ!」

 

 普通だったら……、こんな相談した所で笑われてしまうだろう、と宮崎は考えていた。『高校生にもなって』と言われたり、『一体今何歳(いくつ)だ?』と言われたり……。当事者であっても、そう思ってしまう。

 だけど……2人はそんな風には言わなかった。やっぱり、真剣に聞いてくれた。だからこそ、宮崎はうれしかった。

 

「ほ……本当っ!? ありがとう。2人ともっ!」

「わぁ、流石お二人ですっっ!」

 

 幽奈も、そんな2人を誇らしく、見ていた。

 

「とりあえず、此処にいても進まないから、宮崎さんの家に行こうか。霊視してみるのが確実だ」

「うんっ! ……って、えっ!? う、ウチに来るの?? 夏山くんっ!?」

「そりゃ、そーしないと判らねぇし。起こったのが宮崎の家だったら尚更行かねぇと」

「ええええっっ!?!? ふ、冬空くんもっっ!!?」

 

 何だか、リアクションがホムラとコガラシとでは違う、とちょっと思ってしまうのはコガラシである。

 

「え、えっと……、ウチに来るのはちょっと……」

「へ? なんで??」

「んー…… ああ、今日は不都合があるのか? 宮崎さんの都合がつく時で良いよ。そのヌイグルミに近づかなかったら、とりあえず大丈夫だと思うし、可能なら……何処か別の場所で泊まるのが一番安全だとは思う」

 

 じっ……と、視線を細めて宮崎の事を視るホムラ。今宮崎に何かが憑いているのだとすれば、その歪な何かが視える。人様に迷惑をかける悪霊が絡む霊現象には大多数ある特有の歪な何かが。だけど、今はそれは全く感じられないから、ホムラはそう言っていた。 

 

 射貫く様な視線を宮崎は感じる。ホムラに強く見つめられている事に動揺が隠せず、それでもこれが《霊視》と言うものなのだろうか……とも思ったが今はそれどころではない。

 

「だって、夏山くんは べ、別にアレだけど……、冬空くんは、えっちじゃん」

 

 ジト目になりつつ、視線を逸らせる宮崎。その頬は赤く染まっている。宮崎はあの時(・・・)の事を、脳裏に思い描いているのだろう。

 

「あ、ああっっ! い、いや オレ、忘れていた訳じゃなくって、そ、そうだよな!? ホムラと扱い違ぇ! なんて思ってられないよなぁ!? 当然なんだが、あの時は スカートの件っ スカートのっっ!」

「わ、わたしのせーなんですっっ!! すみません すみませんっっ!!」

 

 動揺する2人を尻目に、とりあえず思いっきりコガラシの頭に、ビシッ! っと手刀(チョップ)をするのはホムラ。幽奈は突然のホムラの攻撃にビックリと驚いていた。

 

「……まず スカート、スカートって、連呼すんな。そういう事するから なかなか誤解が解けないんだよコガラシ。はぁー」

 

 やれやれ、と首を振るホムラ。

 そして、宮崎の前に立つと。

 

「ん……、宮崎さんからすれば、やっぱりまだ信じられないとは思うんだけど……、アレ、ほんとにコガラシ(コイツ)じゃなくって。ほら、幽奈。これを」

「あ、はいっ 判りました!」

 

 ホムラが投げ渡したのは、手袋である。桜の季節である入学シーズンとはいえ まだ若干肌寒いから持っていた。そして手渡された幽奈だが、直ぐにピンと来た様で手袋を右手に着けて……そして手を上げた。

 

「あ、あのっ……ほんとに、ほんとにごめんなさいっ! わ、わたしのせいなんですっ」

 

 右手を上げて決して届く事は無いが懸命に声を上げて謝罪をする。

 目の前で手袋が宙を舞う光景……、それは先ほどの野球ボールの時とは更に違った。手袋がしっかりと手の形をしていてちゃんと嵌めている様に見えるのだ。手だけが浮いている状態だから、ある意味不気味で、これも十分すぎる程心霊現象だった。

 

「――と、幽奈が言っている。オレからもまた謝るよ。難しいと思うが、コガラシの事少しだけ信用してくれないか」

「え、えと……。う、うんっ……。あ で、でもまって!」

 

 とりあえず、家に来る。と言う話は保留をさせてもらうとして、と宮崎は続けた。

 

「あの時の事は もう忘れるからっ。それはとにかくさ。今この場で頼めないかな?? 頼める事、無いかな??」

 

 宮崎は話を逸らせる様に無理矢理話題を元に戻した。

 

「ほら、さっき夏山くん。私の事……その み、見てくれたよね? ゆーれいがいないかどうか……」

「ん? まぁ そんなとこだよ」

「じゃ、じゃあほら。私の守護霊とか呼び出したりして、悩みの原因とか、見えたり 対処法を訊いたりできないのかなっ!?」

「ん……。降霊術は高難度の業だから、オレには出来ないかな……」

「そうだな。オレもそこまでは出来ねーな……」

 

 第一案は無理。

 

「あ。じゃあさ。悪霊から身を守る結界とか、お札とかを授けてくれたりとか……」

「そういうのはオレ持ってねーんだよなぁ……」

「……オレも自分の身体を優先して鍛えてたから。アイツ(・・・)もそう言う趣向だったし……」

 

 第二案も……無理。

 

「あー、宮崎さん?」

「……え?」

「その手の霊具とか、いろいろと出回ってるけど……偽物が多いから気を付けてな」

「ゔ……、た 確かに……。すっごく高かったよ」

「え? ……もう買ったのか?」

「やっ、違う違う。……私じゃ手が出せなかったから……」

 

 宮崎が思い出すのは、霊能力者(自称)のお祓いや霊視と言った類のものだが、その値段が……学生の身分じゃきつすぎる程高額だった。学生のお小遣いでも無理。万を軽く超える金額だったから。

 

「あー、それもそうだな。とりあえず良かった」

「だな。……俺らみたいな借金持ちになるのは忍びねーしな……」

 

 色々と大変な目にあってきた2人だからこそ、何だか重く聞こえてくる宮崎だった。……だけど、それは兎も角確認しておかなければならない事がある。

 

「えっと…… じゃあ何が出来るのかなぁ? 2人とも」

「幽霊でもぶん殴れる!」

 

 間髪入れずに答えるホムラ。ぐっ と拳を握りしめて目を輝かせている様子。悪霊に苦しめられ続けたからこそ、そこに喜びがあった様だ。

 

「オレは 宮崎さん判ったと思うけど、幽奈を見えたりする霊感の強さと、ちょっとした霊視。後……まぁオレもずっと鍛えてきたから一番得意なのは体術かな……」

 

 そんなコガラシに若干呆れつつ、とりあえず答えた。

 

「ホムラは蹴り飛ばして、オレは殴り飛ばすんだ」

「………まぁ、確かに。そんな感じかな。その方が判りやすいかもかな」

「え………っと……」

 

 宮崎は 入学式の後にとある事(・・・・)があってホムラの事は信頼していた。

 そんなホムラが言うからこそ、コガラシの事も……少し忘れよう、と努力する事が出来た。だけど……それでも、やっぱり不安は尽きない事が多すぎた。

 

「(大丈夫……なのかな……?)」

 

 結局色々と不安が頭を過ぎりながらも――現状のままにしておく方が怖い。と言う方が宮崎の中で勝った為、自分の家に案内をするのだった。

 

 


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