ゆらぎ荘の蹴る人と殴る人   作:フリードg

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第1話 ギャンブルは程々に……

 それは、いつから……だっただろうか――。

 

 

 この世の中は、本当に不思議な事だらけだ。

 

 彼は、今日も昨日も、そのまた前も……、延々とひと(・・)と出会って、色々と語り、……()の付き合いをし、最後は互いにぶつかり合い……、親交? を深めたかと思えば、翌日はまた別のひと(・・)と親交? を深める事になる。

 

 本当にキリが無い。それは世の中の不思議の数だけ、続いていく事だろう。

 非常に厄介な事に。

 

 と、意味深に言ってみたが、これ(・・)は 彼が生まれた時からもっていた体質の問題だったりする。

 

 ほら――世の中にはいろんな体質があったりするでしょう?

 

 例えば、太り易い体質、逆に太りにくい体質、汗を掻きやすい体質、逆に掻きにくい体質―――etc。

 

 …………………

 

 いや、話が見えないって? あぁ……確かにそうだ。その通りだ。一先ず、話をもとに戻して説明をしよう。

 

 つまり、何が問題かと言うと、今患っている、とも言える体質に問題があるのだ。

 

 非常に厄介極まりない体質。

 単純な体質であれば、改善をする事だって、できない事はない。現代医学をなめてはいけない。手段はあまり多くないかもしれないが、兆しはあるのだから。

 

 ただ――今、自分自身が持っているモノ(・・)は、別だ。

 

 改善の仕様が無いモノをもって生まれてしまった、と言う事。

 消せない、治せない、一生身についてしまう体質。

 

 

 

 そんなだからこそ、こう(・・)なったのも無理はなかった。いや そう(・・)、ならざるを得なかった、と言えるだろう。

 

 それこそが、問題、大問題である……。

 

 

 

 

 

 あ、大きく、大袈裟に言っているが、実は もうすっかり受け入れたりしているけど。

 それまでが非常に大変だったが。

 

 

 

 

 

 これは、妙な体質を持って生まれてきた男たちと、少々変わった女の子たちの、騒がしくて、忙しくて、ちょっぴりエッチで、それでいて 心温まる?

 

 

 ―――そんな物語である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

□□ 某日某所 □□

 

 

 

 

 

「やれやれ……、漸く見つけた。……ったく」

 

 とある男は、路上で座り込んでいる中年男性の前に立っていた。

 中年男性は、両膝を抱えて座り込み、何やらぶつぶつ とつぶやいていた。

 

「なんで――、あそこで、《ゴーカイロク》、が来る……? なぜに落馬?? あのタイミングで??? 陰謀?? ぁぁぁ……財布が軽い……、また 借金か………」

 

 小さな声だが、辛うじて聞き取れる。

 そして、周囲には散らばった馬券の束。どうやら、盛大に外した様で放心している様だ。

 

 傍から見れば、ただの自業自得。借金までしてのめり込む程の博打(ギャンブル)中毒者だから、自身の意志では到底治す事が出来ない。

 

 なので、この手の人物は速やかに そういう系統の病院にお入り願うのが最善の策……と言えるのだが、今回は 少々違う。

 

「だっはぁぁぁぁぁ!! よーーし、今度は行ける!! 今度こそ絶対だぁぁ!! 連戦連勝!! 止まらぬオレ様の運気! 今日は絶好調だぜーーー! たまたま、出鼻挫かれただけだぜぃ! ま、それに たったの100万やそこら、働かなくても、倍々稼げば なるよーにn「はいストップ」ぶっっ!!」

 

 男は、後頭部に軽くチョップをして、男は、中年男の暴走? を止めた。

 しゅ~~……と、湯気が上り、その頭頂部にぽっこりとコブが出来ていた。

 

「調子に乗るなって。……ったく、随分と逃げてくれたみたいだが、もう 終わりにするぞ。ってか、もう色々アウトだ」

「むむっ!! い、いてて――、しゃ、借金取りの手の者か!! 金なら、返す!! もっかい、万馬券狙いでだ! 次は必勝だ! オレ様を信じろ!」

「誰が借金取りだ。……それに、何が万馬券だ。何がオレ様を信じろだ。んな都合よく行く訳ないだろ。客観的に見ても、到底信じられんわ! と言うより……」

 

 男は、長くため息を吐いて ゆっくり手を伸ばす。

 丁度、中年男の耳元まで手を伸ばした。

 

 ぎゅっ!! と思い切り耳?を抓む。

 

「とっとと出てこい」

 

 だが、傍から見たら 耳に届いていないと言うのに……、何もない空間を思い切り握っていた。だと言うのに、擬音が盛大に聞こえてくるのは、何故だろうか? と思うのだが、その疑問は、直ぐに解消されることになった。

 

『いでででで!!!』

 

 半透明の、ナニかが、中年男の身体から出てきたのだ。

 まるで、男の身体の中に入っていたかの様に、引っ張られ飛び出してきた。

 

「生涯負け続けだった、勝った事の無い博奕打ちの霊。『あと1回。……よし、最後。次が最後』って ずーーーーっと言い聞かせ続けながら、事故を起こして逝った。……その後も魂にまで執念がしみついてるから、自分が死んだ事を忘れて、ウロウロする羽目になるんだ。死んでまで 他人に迷惑かけんな」

『いでーーいでーーや、やめろーーーっ!』

「ほら、そのおっさんから出ろ」

 

 力の限り――、引っこ抜くと、完全に中年男の身体から分離した。

 すると、先ほどまで豪勢だった中年男の身体は、まるでスイッチが切れたかの様に、動かなくなり、ゆっくりと地面に崩れ落ちた。

 

「何の因果か……、料理人の霊、スポ根の霊、……次は、ギャンブラーの霊か……、はぁ……、アイツ(・・・)が こっちに来る、って判ってからだな。偶然にしては出来過ぎだと思う……」

 

 盛大にため息を吐く男。

 だが、比例して その霊を握る指は強くなっていっている様子。

 

『いでーー、いでーー!! こ、コラぁぁ! いつまで抓ってんじゃい!! さっきは大目に見てやったってーのに この目上の者に対する狼藉! 若造の癖に! 説教したるわ! まだまだ、若いもんには負けんっっ!!』

 

 と、自分が幽霊である事を判ってない様な言動をしつつ、自分が悪い事をしている、と言う意識が一切無い様子で、更に威勢が無駄に良い。

 強引に男を引きはがすと、宛ら野球選手の様に振りかぶって 攻撃体勢。

 

『喰らえぃ!! 必っっ殺っっ! 元・中年男のみらくるぱーーーんt“びゅんっっ!!”っっ~~~~~~!!!!』

 

 パンチを繰り出そうとしたのだが……、その拳が男の身体に届く事は無かった。

 

 何故なら、まだ発射されても無いと言うのに、自身の右頬の数㎝、いや 数mm横に見事な前蹴りが飛んできたからだ。空気が弾けたかの様な風切り音が耳元で盛大に聞こえてきた。

 

「で……やんの? オレとしては それでも良いが。手っ取り早い」 

『………』

 

 肉体を持たない霊は、それも 霊になって早々故にか、非常に冷たい。基本的に幽霊は、温もりと言うものが味わえなくなるのだ。――例外はいたりするが。

 

「……問答無用で一発当てようかと思ったけど、やっぱ 甘いわオレ。……そういやぁ、昔 もよく言われた事あったっけか」

 

 ゆっくりと脚を引き戻す。

 軽く誇りをはたく様に ズボンを整えると 改めて向き直り、訊いた。

 

「で、次は当てて良い?」

 

 その問いに、答える言葉は一つしかなかった。

 

 

『す、すみませんでしたーーー!! かか、かえりまーーす!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 と言う訳で、最終的には自主的? に成仏しようと(逃げようと)したのだが、あの博奕打ちの霊にはしっかりと尻は拭って貰った。

 

 憑依されている間は、余程 霊感等の力が無い限りは、抗う事は出来ない。

 

 耐性が全くない者であれば、瞬く間に意識を刈り取られてしまう事だってあり得る。

 これまでの経緯を見てみると、どうやら、この中年の男は あの霊にされるがままに、動かされ、最終的にはサラ金にまで手を出され、借金をこさえられてしまっていた。

 

 幸いにも、男はニートと言う訳ではなく、年齢的に見れば、低収入ではあるものの、しっかりと働く真面目な男だった。

 

「ぅ……、若い時にギャンブルにのめり込んでいた名残があったからか……? 今でも少々しているからか? 隙が出来てしまったのか……」

 

 ただ、憑依されてしまった時の記憶は残っている様で、若気の至り――と心の奥底に封じ込めていた黒歴史が、がらっっ! と開いてしまったらしく、盛大に落ち込んでいた。

 

「まぁまぁ。悪いのはコイツだから、そんな落ち込まないでください」

『す、すみま……せん……』

 

 ぐりぐり、と頭を鷲掴みにされる霊。完全に委縮している様だった。でも、中年男は、首を横に振る。

 

「い、いや……違うんだ。……うぅ……、か、家内に怒られてしまう……」

「あー……、成る程」

 

 話を訊くと、どうやら、恐妻家らしく、昔ギャンブル関係で散々怒られたらしい。霊の仕業……、と言っても この現代社会では なかなか信じてもらえないだろうし、仮に信じてくれたとしても、『まだ、足りなかったかしら……?』と確実に怒られてしまうとの事だ。金銭面よりも、そっちが痛いらしい。

 

「サラ金に関しては、こいつの霊能力で、運気を上げさせるから。時間はかかるかもしれないけど、最後はきっと何とかなると思う……ケド。……奥さんの方は、ドンマイ、としか言えないですね。でも、頑張れば何とかなるでしょ! 頑張って謝ったら、うん、それこそ死ぬ気で」

「死……か、強ち間違ってないよ……」

「……まぁ、ガンバって」

「ありがとよ……若いの。ほんと、助かったのは事実だし……」

 

 

 霊に憑りつかれていた所を助けた事実には変わりなく、これから先に訪れる絶対確かな未来に、少々絶望をしつつも、そこは大人の対応。しっかりとお礼を言って、その場をよろよろと離れていくのだった。

 

 その哀愁漂わせている背中を見送りながら、ギャンブラーの霊に、しっかりと釘を刺した。『しっかりと償え』と。……無論、サボれば『2回目の死を味わうかも……』と暗い笑顔で言うと、大層震えながら頷き、彼の方へと向かって飛んで行った。

 

 

――死ぬ気で頑張れば、人間何とかなる!

 

 

 それは、この男の祖父の言葉だった。因みに、それは人間だけでなく、霊たちにも当てはまる。

 

 

――消滅する気で頑張れば、幽霊でもなんとかなる!

 

 

 因みに、霊にとって消滅、と言う事は成仏も良い所だ。地獄行きか、極楽領土行きかは、悪霊か否か、最終的には審判の神、閻魔様が裁決をする。

 つまり、そこまで行ってしまったら、逃げられてしまうんじゃ? と男は 祖父に尋ねた事があったのだが、遠き記憶の中の祖父の顔は、今でも鮮明に思い出せる。……いや、忘れる事はできない、と思える。

 

『例え逝き先が地獄だろうと極楽だろうと、逃げたら何処までも追いかけるから』

 

 と言って 悪どい笑みを浮かべていた。その瞬間、半径10㎞四方の霊たち。人間の霊から、動物、羽虫の霊まで 全員が一斉に震えたのは、また別の話だった。

 

 

 

「さて――帰るか。ひとっ風呂浴びたい気分だし……」

 

 

 ぐっと、背伸びを1つすると、とある曰く付きの激安下宿へと帰っていったのだった。

 


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