緋弾に迫りしは緋色のメス   作:青二蒼

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霧ちゃんカワイイ

はい、今回は色々視点移動があるので注意です。
注意事項
・リリヤ視点あり
・まさかの……

リリヤ視点は正直難しい。
多分、あんまり書かない。


91:物事の本質

 

 うーん、どうしよう……

「………………」

 転入してからリリヤちゃん、ものすごく話しづらいんだけど!?

 授業中もずーっと、ノートとかとらずに座ったままで、でも先生に当てられると普通に問題を答えちゃう。

 もしかしてすごく頭がいいのかな?

 授業が終わって昼休みになっても、リリヤちゃんは動かない。

「お腹、空かないの?」

 席に近付いて、あたしが聞くとコクりと静かに頷いた。

 一応、反応はしてくれるんだけど……

 会話が続かない。

「えっと、一緒にご飯いかない……? ってお腹空いてないんだっけ」

 ちょっと恥ずかしくてにははと、笑って誤魔化しちゃう。

「……ちょっとだけ、空いた」

 そう言ってリリヤちゃんは席を立った。

「……食べる場所、分からない」

 あ、そっか。

 転入したばかりで食堂の場所が分からないんだ。

「うん、案内するよ!」

 リリヤちゃんの手を引いて教室を出る。

 こうして見ると大きいね。

 ライカよりは小さいけど、それでも身長は大きい方だと思う。

 でも、気持ち的に小さい子の面倒を見てる感じがするよ。

 食堂に着いて、

「お、来た。おーい、こっちだ」

 ライカがすぐに気付いて声を掛けてくれた。

 席も6人席にしてくれたんだ。

 ライカ、志乃ちゃん、麒麟ちゃん、桜ちゃん、あたし、そしてリリヤちゃんで6人。

 でも、桜ちゃんは来ないかもしれない。

 急に志乃ちゃんと仲が悪くなって、顔を合わせないようになっちゃった……

 本当に2人ともどうしちゃったんだろう。

 聞いても答えてくれないし……

「……初め、まして。リリヤです」

 リリヤちゃんがいるから、今はやめておこう。

 席に座ってリリヤちゃんは転入してきた時と同じようにたどたどしい挨拶をした。

「あたしは火野 ライカ」

「佐々木 志乃です」

「麒麟は麒麟ですの」

「間宮 あかりだよ」

 と、それぞれ自己紹介をする。

 それからリリヤちゃんは座ったままペコリと一礼する。

「あー……リリヤは、ロシアの方から来たんだよな」

「……Да(ダー).」

「えっと、今のって」

「ロシア語で『はい』って意味ですね」

 ライカが聞くと、志乃ちゃんが答えてくれた。

 本当にロシア人なんだ……

 間近で見るのって初めてだよ。

「……ロシア以外も大丈夫」

「そうなんですか? ちなみに何ヵ国語を」

「……30」

『え……!?』

 みんなの声が重なった。

 さ……30?!

 英語とか以外にも色々ってことだよね?

 フランス語とか、ドイツ語とかイギリス語とか……いや、イギリスは英語だっけ……イギリス語なんてないよね。

 リリヤちゃんってすごく頭がいいのかな?

 あたしは英語ですらちんぷんかんぷんなのに……

「す、すごいね」

「……別に」

 あたしが素直に驚いたけど、リリヤちゃんは何だか哀しそうだった。

 そして、すぐに沈黙する。

 うう……どうしよう。

 会話がやっぱり続かない。

「えっと……何か注文しましょう」

 志乃ちゃんがそうすかさず提案してくれる。

 そう言えばご飯食べに来たんだ。

 リリヤちゃんを誘うのに夢中で忘れてたよ。

 あたしのお腹もちょっと鳴った。

 みんな少し笑ってる。

 さすがに恥ずかしい。

「………………」

 リリヤちゃんは……笑ってはくれないか。

 でも、一緒に来てくれたから一歩前進だよね。

 

 

 中等部の麒麟ちゃんとは別れて、あたし達は自分達の教室に戻る。

 結局、リリヤちゃんとはあまり会話が続かなかった。

 何て言うか……楽しいとか嬉しいとか哀しいとか、そんな当たり前の感情をどこかに置いてきちゃったみたい。

 この間白野先輩が言ってた監禁されてたことが関係してるのかな?

 気になるけど……流石に聞けないよね、そんなこと。

 あたしも里が襲われたこと、あまり話たくないから。

 きっとリリヤちゃんもそういう振り切れない過去があるんだろう。

 少しでも前に向けるように、何とかしてあげられないかな……

「そう言えば麒麟ちゃん。ランク考査試験、受かったんですね」

「ああ、CVRのインターンでCランク取るのって難しいんだぜ」

 志乃ちゃんの言うとおりそう言えば、麒麟ちゃんランク上がったんだね。

 ライカも嬉しそう。

 あたしもアリア先輩に追い付くためにもランク上げないと。

「あかりも負けてられないな」

「そう言われると立つ瀬がないな~」

 ライカにランクのことを指摘されちゃった……

 でも実際にランクが低いと任務(クエスト)にも制限が掛かるし。

 上げない訳にはいかないよね。

 教室に戻って席に座ったら、何か紙が机の中からはみ出てる。

 手紙……かな?

 手に取ると裏には間宮 あかり様って――これってもしかしてッ?!

 ラ、ラブレ……

 隠そうと思って周りをつい見ちゃうと……志乃ちゃんとライカにも同じっぽい手紙が手元にある。

 そしてみんな、息を吐く。

 思ってたのとは違ったみたいだね……

 中身は何だろう?

 開けてみると、内容は司法取引の注意事項について。

 イラスト付きで分かりやすくなってる。

 でも、何でこんな手紙が……

 すぐにその理由は分かった。

 先生が入ってきてHR(ホームルーム)が始まり、一言。

「はい、いきなりですけど転入生を紹介します」

 また転入生?

 クラスのみんなが同じような声を出してる。

 実際、リリヤちゃんが来たばかりだし仕方ないと思う。

 そうして入ってきた人にあたし達は目を見開く。

 現れたのはあたし達を毒を使って苦しめ、ののかの命を奪おうとした夾竹桃。

 だけど彼女は黒板に鈴木 桃子と書いて、

「どうぞ、よろしく」

 ただ無感情に淡々と答えた。

 夾竹桃が来るから逮捕したあたし達3人に司法取引のこれが……

 すぐに紹介が終わって、夾竹桃が席に座ると、そのままみんなが転入生恒例の質問をする。

「専門は?」「鑑識科(レビア)」「部活は?」「入らないわ」「趣味は?」「マンガ」

 そんな感じで無視はしてないけど、冷たい感じ。

 一体、どうして夾竹桃がここに?

 

 

 そして、放課後。

 校舎から出て、下校する途中。

 校舎の脇の陰に見覚えのある人影が見えた。

 キセルを吸いながら壁に背を預けて……こちらを見る夾竹桃。

 あたしを見た後に志乃ちゃんとライカを見て、

「間宮 あかりに用があるの。他は帰ってよし」

 あたしだけにしか用はないとばかりに言ってキセルの種火を地面へと叩き落とす。

「――見過ごせない危機が迫ってるわ」

「危機ィ? それはお前の事だろ、桃子ちゃんよ」

「私達はあなたに用はありません。帰ってください」

 ライカと志乃ちゃんが、あたしを守るように前に出て身構える。

 でも、するりと2人の間を通り抜けてあたしの近くまで迫って来た。

 は、速い……!?

 目の前にいたのに、一瞬で詰められた。

 ママの鳶穿(とびうがち)みたいに。

 そのまま右手であたしの手を掴まれる。

「行くわよ。この子達じゃ話にならないわ」

 あたしに何の用があるかは分からない。

 でも、このまま2人になるのはイヤだ!

「放して!!」

 手を振りほどこうとした瞬間に、夾竹桃の背後に人影。

 そして、素早く左手を捻って背後へとやったのは……陽菜ちゃん?

 それを見逃さずライカが動いて、側面からハンドガンを構える。

 あの銃、名前は忘れちゃったけど白野先輩と同じやつだ。

 射線上に誰もいない、上手い位置を取ってる。

「意外に冷静なのね」

「仕込みがありそうなヤツには近付くな。先輩から教わったんだよ」

 夾竹桃は少しだけ感心したような言葉を言って、ライカは銃を見せるように構える。

「でも残念。世の中には毒を飛ばす生き物もいる。イモガイとかね」

「そっからどうやって飛ばすつもりだ? 手で投げるには辛そうな体勢だぜ?」

 夾竹桃は器用に口の中を動かして、舌の上で針を見せた。

含針(ふくみばり)……ここからなら飛ばせない距離じゃないわ。それに、私は体内に83種の毒を持ってる。それを"分泌(ぶんぴつ)することも"出来る。甘い物を浮かべる唾液と酸っぱい物を浮かべる唾液では成分が異なるように、意図的に薬や毒の舌を作ることが出来る。そして、それを針に絡ませれば……」

 毒針が自分で作れるってこと、だよね?

「二度も毒されたら――中毒になっちゃうかもね」

 言いながらライカに視線を向ける夾竹桃の眼は、獲物を狙う動物みたい。

 ライカはそれに呑まれかけてる。

 ダメだよ、ライカ……!

 油断しちゃったらダメ!

Well well.(おやおや)何てね、随分と怪しい現場に出くわしちゃった」

 陽気な声でそう語りかけてきたのは……白野先輩。

「ふーん……」

 それから状況を冷静に見るように一つ唸って、先輩はポンと何か分かったとばかりに手を叩く。

「かつあげはダメだよ、キミ達」

 何でそうなるの!?

 全員が思わず呆れた目になる。

 白野先輩ってこんなに抜けてたっけ?

「状況証拠的にはまあ、そんな風に見えるんだけど……それで? 司法取引して、転入して、早速問題でも起こすつもりかな? 鈴木 桃子さん」

 先輩はすぐに核心を突くように目が少しだけ真剣になる。

「別に、私は間宮 あかりに用があるだけよ。でも、興が削がれたからもう帰るわ」

 そう言って、夾竹桃はあたしの手を離した。

 全員が夾竹桃から距離を取るように間合いをとる。

「皆さん、これは一体……」

 それから麒麟ちゃんが合流した。

 でも、妙な雰囲気に困ってる感じ。

「養分を取り合う花が2つ、あなた達剪定(せんてい)されかかってるわよ」

 それだけ言って、夾竹桃は静かに去っていった。

 どういうこと?

 誰も、その意味は分からなかった。

 

 

 ◆       ◆       ◆

 

 

 夾竹桃が転入してくるとはね。

 しかし、24歳の筈なんだけど何で高校生に交じれてるんだか……

 本人が童顔ってのもあるんだけど。

 日本人自体平均的に童顔だから実年齢より低く見られるのは、まあよくある話。

 どうやら夾竹桃は何やら遠山 かなめの件に多少なりとも干渉するつもりらしい。

 女の友情に水を差されるのが嫌いな、彼女らしい理由ではあるかな。

「さて、どうも今のは忠告っぽいね。良い機会だし言っておくよ。かなめちゃんの動向には気をつけておいてね。何やら、不穏な気配があるっぽいしね」

「それって一体、どういうこと何ですか?」

「私もまだ全部分かってる訳じゃないよ」

 あかりがそう聞いてくると、私も正直なところを答える。

 かなめの目的が、キンジに愛して貰えるように全てを仕向けていることなのは分かった。

 でも、それはあくまでも目的というよりは狙いであり、手段。

 最終的な目標は何となく分かるけど、それを達成してそれからどうするかは私も分かってない。

 私の予想では……きっと"かなめの望んだ結果"は得られないと思うからね。

「だから、変に刺激しないで。あと何か不穏なことがあっても冷静に状況を整理して対処してね。目の前の事実ばかり追ってたら本質を見失うよ」

 私はそれだけを告げて、その場を後にした。

 麒麟ちゃんは何か思うところがある反応をしてた。

 きっと何か行動を起こすだろう。

 それにどうやら、1年はかなめを中心とした派閥……コミュニティみたいなものが形成されつつある。

 それは、人の心理を利用して捜査する特殊捜査研究科の人間は敏感に感じとってるだろう。

 リリヤもどうやらそこら辺は分かってるらしい。

 流石にこの学校で短絡的に行動はしない、とは思いたい。

 前はレールガンを撃とうとしてたけど。

 まあ、多分……大丈夫。

 リリヤは変化しつつあるから、正直ちょっと行動を予想出来ない。

 注意しておこう。

 

 ◆       ◆       ◆

 

 状況は複雑。

 アメリカの人工天才(ジニオン)――ジーフォース、現在は遠山 かなめを名乗り1年A組に転入、在籍。

 リコお姉ちゃんを傷付けた、最優先粛清対象。

 対象は現在、コミュニティを形成。

 周囲に好印象を意図的に与え、独裁者のような立場を確立しつつあり。

 現状での直接的な粛清は周囲に被害が発生、自己の立場を不利にし……家族に何かしらの接触が起こる可能性が有り。

 対象は暗殺で粛清することが望ましい。

 しかし、対象は遠山 キンジと行動をほぼ共にしており……ジル様の機嫌を損ねる被害が出る可能性有り。

 現在、対象を被害なく排除する機会は無し。

 現状を維持し、動向を観察。

 対象が周囲に誰もいない時期を予測でき次第に行動を開始する。

 対象の武装は先端科学刀(ノイエ・エンジェ・エッジ)に次世代UAV。

 種類、具体的な機能は調査中。

 だが武装的に中、近距離に特化しているため遠距離からの圧倒的な火力による制圧、狙撃が有効と思われる。

 ……思考、終わり。

「リリヤちゃん、何してるの?」

 接近する人影、間宮 あかり……武偵高でのランクはDランク。

 しかし、暗殺術の使い手であり不殺の制約がなければかなりの能力を秘めているとのジル様の情報。

 彼女は私との交友を望んでいる、と思われる。

 ……私には理解出来ない行動。

 対象を排除するために潜入しただけ。

「……考えごと」

「そうなんだ、いつも何を考えてるの?」

「……返答、できない」

「あーうん、普通考えごとってそうだよね……あはは」

 私の言葉に彼女は笑う。

 非合理的な行動。

 でも、ジル様もそのような行動をする。

 彼女も同じ、なのかは不明。

 でも、分かること、ある。

「……そのUZI」

「あたしの銃がどうしたの?」

 彼女は銃を見せる。

「……少し、確認」

「え、うん、いいけど……」

 困惑しながら渡された物を手にとって、分析。

 各種動作に問題は無し。

 整備状況、ライフリングに多少の不備、引き金の重さに不備。

 分解に3分、整備に2分、結合に3分、作動点検に2分。

 簡易的な整備で完了出来ると推察。

 昼休みの時間は20分。

 十分に間に合う。

「……整備に不備」

「え……ウソ。撃ったあとはちゃんと整備してるのに」

「……丁寧、けど甘い」

 トランク型、整備モジュールを展開。

 道具一式を並べる。

「……すぐ終わる」

 分解を開始。

 弾倉を外し、薬室に弾丸がないことを確認。

 ストックと銃身部を分離。

 バレルを分離、中を点検。

 油脂類の不足、多少のゴミを確認、除去、塗布。

 トリガー部を点検、同じく清掃不足、バネの多少の劣化。

 部品は無しのため清掃と点検だけに留める。

 整備は完了、結合し、点検。

 作動点検をし、現在のトリガーの重さを確認。

 現段階で射撃に異常は無し。

 しかし、トリガーに関しては早めの交換を推奨。

「……整備、終了。トリガーのバネに多少の劣化。近日に故障する可能性は低い。しかし、交換を推奨する」

「あ、ありがとう」

 持ち主に返却。

 時間は10分、定刻。

「でも、スゴいね。あんなに手際よく出来るんだ」

「……肯定。ほとんど、出来る」

「ほとんどって……他の銃も、ってこと?」

 頷き、肯定する。

 間宮 あかり、感心している様子。

「本当にスゴいよ、リリヤちゃん。……あたしもそんな風に色々出来たらいいのにな」

「………………」

 彼女に不安な様子を確認。

 疑問、彼女には人並みの幸福があると思われる。

 私のような廃棄される可能性の低い存在。

 不安になる要素、不明。

 解明出来る点……自らを欠陥品と認識している。

「…………」

 何かを言いたいと、思考。

 しかし、明確な言葉は分からない。

 この思いは不明。

 間宮 あかり……リコお姉ちゃんと同じものを感じる。

「あ、もうすぐ昼休み終わっちゃう。ありがとう、リリヤちゃん」

 そのまま間宮 あかりは去る。

 あれが、人……なの?

 

 ◆       ◆       ◆

 

 全く、あっちこっちで状況が動いて私は忙しいね。

 夾竹桃は来るし、かなめはなんやかんやしてるし、キンジは相変わらずおバカだし、ライカは麒麟ちゃんのランク昇進祝いをするって言ってたし。

 まあ、最後はかなめの件と関係ないんだけど。

 麒麟ちゃんは戦妹(アミカ)であるライカの戦妹(アミカ)なんで私の妹でもある訳だから、お祝いしても別に問題はないよね。

 というわけで、サプライズ突撃ピッキング!

「お邪魔しまーす」

「だーッ!? 白野先輩、どうしてここに?!」

 そこにはフリフリの白いロリポップなワンピースを着たライカが、女の子らしくない驚き方でベッドの上にいた。

「その格好、色々と見えるよ……」

「…………ッ!?」

 バッと、素早く正座になってスカートを隠す。

 そこら辺の恥じらいは残ってるようで。

「じゃなくて、先輩。不法侵入ですよ」

 何かに素早く気付いて、ジト目で指摘してきた。

 頭の回りも悪くないことで。

「それは失礼。代金は、この差し入れでどう?」

 私は袋からチキンのバスケットと、デザートのケーキの箱を見せる。

「先輩、それって……」

「今日、お祝いするつもりなんでしょ? 麒麟ちゃんのランク昇進の。で、私からもお祝いとしてね。戦妹(アミカ)の妹は私の妹でもある訳だし。その格好を見るに……服の方にお金を使っちゃったみたいだから、ちょうどよかったよ」

「ありがとうございます!」

 気持ちのいいお礼だね。

 だけど、その格好で土下座は似合わないけど。

「はっはっは、苦しゅうない。しかし、ライカも随分カワイイ格好だね。悪くない、ギャップ萌えってヤツかな?」

「えへへ、そうですかね」

「うん、麒麟ちゃんが来る間に楽しんでもいいかもって思えるほどにね」

「先輩、そういう冗談は笑えませんよ……」

「冗談かどうか、試してみる?」

 意味ありげに舌なめずりしてゆっくり近付く。

 私ってばイタズラ気質だから……誰かの困ってる顔とか結構つい見たくなるんだよね。

 知ってる、とか家族には言われそうだけど。

「だ、騙されなせんからね」

 動揺してるし、噛んでるじゃん。

「相変わらず初心(うぶ)だよね。どこまで本気にするか試したくなるよ」

「あ、あたしには麒麟がいるんで」

 ほほう……語るに落ちたね。

 まあ、これ以上乱して私が2人の仲を引き裂くなんて無粋なことは出来ないし。

 取り敢えずはこれまでだね。

「ま、突然の訪問だけど私も祝ってあげたいしね。もちろん、二人きりになりたいなら適当なところで失礼させて貰うけどよ」

 ニタァと、笑いながらライカの傍によるとボフって感じで真っ赤になった。

 なんだかんだ、あわよくばその気はあるんだね。

 そんな中でライカの携帯に着信が入る。

 パンクロックな曲が流れるとは……ライカらしい。

「連絡ですね、遅れるのかな」

 ライカがそう言いながら携帯を開く。

 耳に持っていかないあたりメールの着信か。

 しかし、本人は開けた直後に固まる。

 内容に絶望するように。

「なんだよ、これ」

 失礼して脇から携帯の画面を見させてもらえば……そこには麒麟ちゃんにベッドで押し倒される夾竹桃の姿。

 しかも下着姿で。

 他にも何枚も写真がある。

 タレコミ、にしても胡散臭いね。

「ライカ……目の前の事実にショックかもだけど、冷静に状況を分析しなよ。そのメールはどこから?」

「匿名です……このアドレス、あたしは知らない」

 慎重に質問しながら私は誘導する。

 今のライカは精神的な動揺が大きい。

 目の前の事実から目を逸らさせないと。

「匿名の人物? そんなメールを送って相手は一体何のつもりだろうね? それに、ライカのアドレスを知ってるくせにライカは相手を知らない」

「先輩、これってどういうこと……何ですか? あたし、あたし……」

 今にも泣きそうでライカは目の前の事実を受け止めようとしてる。

「落ち着いて。私の考えだとこれは、2人の仲を裂こうとする工作だと思う」

「……工作?」

「匿名って言うのがまず怪しい。夾竹桃のところに行った理由は麒麟ちゃんに聞けばいい話。だから誰が得するか、それをまず考えることだね。ここだけの話、かなめの動向が怪しいのは前も言ったけど、最近……かなめに好印象を持つ1年が多くてね。どうも胡散臭いんだよね」

「かなめが、これをしたってことなんですか……?」

「まあ、端的に言えばね。証拠はないけど……どうもかなめは1年で独裁者になろうとしてるっぽい。あかりの周囲では、かなめに好印象を持ってる人はいない。つまり、かなめにとって何かしらの邪魔になるらしい君達を排除しようとしてるのかもね」

「でも、コレ……」

 ライカは麒麟ちゃんが信じられないらしい。

 携帯に目を落とす。

「あとで確かめればいいよ。一先ずは、見ない」

 私がライカの携帯を取り上げる。

 変に直視するからダメなんだよ。

「お祝い、してあげるんでしょ? 普段はがさつなのにこういう時は繊細なんだから」

「うるさいですね」

 と、ライカは少しだけ軽口が叩けるようになった。

 それから少し雑談をして、気を落ち着けているとすぐに誰かが来た。

 この軽い足音は、麒麟ちゃんか。

 ライカが暗い顔を少し見せたので、

戦姉(あね)なら信じてあげなよ」

 と軽くアドバイスする。

「お待たせですの、って白野お姉さま?」

「やっほ、お邪魔してるよ。昇進おめでとう」

「まさか、お祝いに来てくださったのですか?」

「まあね。私にとっても戦妹(いもうと)みたいなものだし」

 麒麟ちゃんと私がそんな話をしてる間も、ライカは微妙な表情。

 仕方ない、私が聞いてあげよう。

「ところで麒麟ちゃん、桃子さんのところに行った?」

「はい、行きましたけど……何故ご存知ですの?」

「こんな匿名の写メが送られきてね」

 と、私はライカの携帯に写ったモノを見せる。

 するとすぐに顔を赤くして否定する。

「これはっ、その、浮気とかではありませんの!」

「弁明の第一声がそれはどうかと思うけど……まあ、タレコミにしてもこれは盗撮だし。彼女のところに行ったってことは何か確かめたかったんだよね?」

「はい、その事でお姉さまにお話が……」

 ライカは少しだけ俯いてた顔を上げた。

「何で夾竹桃なんかのところに行ったんだよ」

 その悲痛そうな表情は悲しみすらあった。

 それを見た麒麟ちゃんは、何となく分かったらしい。

「すみません、お姉さま……一言でも申し上げるべきでした。ですが、分かって欲しいんですの。このお話は確証のないお話。内輪で語るには危険と思ったんですの……」

 ふむふむ、確かに麒麟ちゃんの判断は正しい。

 確証のない話は変な疑念を生むからね。

 お父さんもそんなことを言ってたし。

 私は麒麟ちゃんに尋ねる。

「夾竹桃の言葉に引っ掛かりを覚えたんだね」

「はい、それで実際にお話をして確証を得ましたの。かなめさんは学校を支配しようとしています。佐々木様と乾様が仲違いしてしまったのはおそらく、仕組まれて……」

 確信がある麒麟ちゃんの言い方。

 目もそれを物語ってる。

 流石にウソじゃないって素人でも分かる雰囲気。

「ライカ……これでも信じられない?」

 私がそれを聞いて、ライカは首をふる。

「先輩の言うとおりだったよ……あたし、麒麟を信じれなくて」

「人は信じたいから疑うものなんだよ。言ったでしょ、目の前の事実ばかりにとらわれちゃダメだって。それはそうと……今はその話も重要だけど別にして、本題があるでしょ?」

 そこでハッとライカは気付き、麒麟ちゃんは少し待ってたとばかりに息を吐く。

「そうだったッ。遅れたけど、麒麟……ランク昇進おめでとう」

「はいですの。ありがとうございます、お姉さま方♪」

 ライカの祝いの言葉に花を咲かせる麒麟ちゃん。

 美しきかな女の友情ってね。

 さて、やはり地盤を固めてきたみたいだから……迂闊(うかつ)に飛び込むのは下策ってね。

 2人きりになったら何かしらの罠だとは思っておこう。

 うーん、ここは一転攻勢でキンジのところにお邪魔するかな。

 流石のかなめもキンジの傍じゃ変に動けないだろうし。

 問題は……家族以外部屋には近寄らせないっていう制約だね。

 何か良い方法ないかな~

 多少のこじつけでも、良い方法。

 少し考えてみよっと。

 

 

 と、思ったら後日にキンジから呼び出し。

 しかも尾行がないようにって、かなめの事は私も警戒してるから言われるまでもないんだけど。

 いきなりなんなんだか……

 あまり近付かないようにしてたのに。

 あと、かなめが感付いて変ないちゃもんとかつけられないように私はあまり直接的に監視とかをせず、間接的にしか情報を得てない。

 大体の情報源はキンジとのやり取り。

 もしかして何か進捗でもあったのかな?

 もしくは何かをやらかしたか……

 やらかしたならまた貸しが増えるよ、やったね。

 なーんて……少しは驚くような呼び出しだといいけど。

 待ち合わせの海浜(かいひん)公園に到着。

 肝心の呼び出した本人は、ベンチに座ってる。

 何故か赤いバラを持って。

 キンジが花束を持ってるのは意外だな~

 あの様子だとロクに花言葉とか調べてないと見えるよ。

 バラって大体、告白の代名詞みたいなものなのに……誰に渡すつもりなんだか……

 数を見るに101本だと思う。

 実は本数でも意味が変わってくるんだよね。

「お待たせ。珍しく花束なんて持ってどうしたの?」

 と、私は普通に芝生の方からベンチに近付く。

 目があったキンジは座りながら、

「尾行は……聞くまでもないよな」

 と聞いてくる。

 私は呆れて答える。

「あのね、素人じゃないんだから分かってるよ。だから、尾行対策のセオリー通り広い場所に呼んだんでしょ?」

「まあな。流石、元パートナー」

「今は現チームだけどね」

「それもそうだな」

「で、重要な話の前に右足を()せて貰える? さっきから右足を変に動かしてるし、意識がそっちを向いてるから気になるんだけど」

「お見通しだよなあ……」

 言われて渋々と言った感じにキンジは右足を見せる。

 打撲、かな。

 銃弾を受けた打撲だけど。

 適当に処置した感じ……さてはケチったね。

「サポーター外したでしょ? 出してよ、巻き直すから」

 何も言わずにキンジはばつが悪そうにサポーターを差し出す。

 それからちゃんと巻いて、ちょちょいのちょいってね。

「はい、終わり。違和感は?」

 少しキンジは立ち上がって軽く動かす。

「大丈夫みたいだ。自分でやるより大分マシになったな」

「ようやく本題に入れるね。で、やらかしたんでしょ?」

「何でやらかした前提なんだよ」

「え、違うの? 膝を撃たれたみたいな打撲してるくせに?」

「すみません、そのとおりです」

 折れるの早い。

 結局、そうなったか~って感じだけどね。

 ある意味予想できてた。

 多分、注意しててもキンジはそういう運命なんだろうね。

「で、私を呼び出した理由は? その花束と関係あり?」

「まあな、ただ適当に話せる内容じゃないんだ。場所を移そう」

 場所を移す、ね。

 ……あの教会がよさそうだね。

 遠方からの監視も遮断出来るし、教会の周りに何もないから窓に人影が見えればすぐに分かる。

「あの教会?」「そこの教会だ」

 考えてることは一緒だったのか、同時に言う。

 少し笑って、そして私達は教会へ。

 密談場所に教会なんて、普通は選ばないけどね。

 教会は一般開放されていて鍵は掛かっておらず、扉を開き、同時に足を踏み入れる。

 ステンドグラスに新郎新婦が立つであろう台に、来賓のための木製のベンチ。

 一般的な教会って感じ。

「私には縁遠いと思ってたんだけどね」

「なにがだよ?」

「いや、教会に入ることなんてないと思ってたって話」

「その、俺にはよく分からんが……女子って教会とか憧れるものじゃないのか?」

「普通はね。私は家族のことがあるし、それにあんまり興味もないんだよね」

 結婚か……

 正直、考えたこともない。

 実際興味すらもない。

 それよりも私は面白おかしく人を観察する方が良い。

 誰かと一緒の時を過ごす……まあ、キンジならそれも悪くないんだけど……本人が望んでるとも思えないし。 

 私から誘う?

 どうせキンジのことだし冗談だと取るに決まってる。

 期待するだけ無駄だからね。

 それに……なんか私から誘うのって負けた気がする。

 何にって言われたら、まあ分かんないんだけど。

 2人で奥まで行って、神父の台のところに向き合う形で立ち、私から話を持ちかける。

「それで重大な話ってなに? 単刀直入にお願いね」

「ああ、そうだな」

 

「――霧。遠山 霧になってくれ」

 

「…………………………え?」

 バラを差し出されて、突然にそんな事を言われて……おまけに教会の鐘も鳴り出した。

 なに、このシチュエーション。

 告白?

 単刀直入にとは言ったけど……いやいや、キンジに限って絶対にありえない。

 何かの勘違いとか冗談……冗談……だよね?

 だって、そんな風な素振り一個も無かったし。

 私が見抜けない訳がない。

 でも、キンジの目は真剣そのもの。

 久々にすごい不意を突かれたけど落ち着こう、取り敢えず。

 って言うか、お父さん推理外したね。

 何がこの先、私が動揺することなんてない、だよ。

 私、自分でも分かるほどに動揺してる。

「……あー……キンジ、説明して貰える? いきなり遠山 霧になってって言われても。流石の私も……」

「お前しか頼れないんだよ」

 あ、う……ちょっと待って……

 そんな風に畳み掛けられたら……!

 今は結構変な気分なんだけど。

 こんなに乱されたの初めてかもしれない。

「それって家族になって欲しいってこと、だよね?」

「ああ、そうだ」

 力強い返事。

 絶対に何かがおかしい。

 だって、だってキンジがそんなことを言うはずがない。

 でも、バクバクと何故か脈が早い。

 自分の耳の中で響いてるみたいに聞こえる。

 耳鳴りもしてきた。

 頭も、くらくら、する。

 なに、この……感情?

 感情、なの、かな?

 体が、熱い。

 この高揚感は、初めて解体したとき……いや、それ以上の……

「大丈夫か?」

「大丈夫じゃないよ……いきなり、すぎるよ」

「突然過ぎたよな……この花束じゃ足りないのも分かってる。だけど、今の俺に出来る精一杯なんだ」

 キンジは情熱的に言ってくるけど、やっぱり絶対に勘違いしてる。

 勘違いしてるって分かってる。

 でも、冷静になれない。

 まるで待ち望んでたみたいに、体だけが、精神が、先走る。

 ああ、もう……ホントに、これで勘違いするな、なんてムリだよ。

 花束、受け取っちゃったら……私は、わたし……は。

 ああ、そっか……これが……

 仕方ない、よね。

 ズルいかもしれないけど、キンジが悪い。

 これまでのツケ、だし。

 キンジから"家族になろう"って言ってきたんだし。

「うん……分かった。いいよ、家族になっても」

「安心したよ。本当にありがとう」

「お礼なんていいよ、家族……なんだし」

 家族だから、きっと守っ(殺し)てあげる。

 勘違いのままでも良い。

 騙されたままでも良い。

 都合の良い話かもしれないけど、やっと分かったよお父さん。

 花束を受け取って、少しだけ匂いを嗅ぐ。

 ああ、きっとこれが、恋の匂いだ。

 




ヤバいフラグがビンビンになってしまった気がする。
でも、正直……キンジの自業自得な気がするけど。

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