緋弾に迫りしは緋色のメス   作:青二蒼

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どうも久しぶりです。
私情で色々とごたついていましたが、ようやく投稿できるようになりました。
今回は物語としては大きく動きません。
ちょっとした閑話です。
若干、スランプ気味な感じが否めませんが……


8:嫉妬と尾行

 期末テストが終わり夏休みがもうすぐ迫ってくるころ。

 なのだが、残り短い期間とは言え学校に来るのがまたしても少し憂鬱になった。

 なぜなら――

 授業が終わり、先生が出て行くと何人かが俺をチラチラと見る。

 聞こえないようにしてるつもりなんだろうが……武偵で習う読唇術のせいで何となく言ってる事が分かる。

「そう言えば、この間の一件だけどな……」

「噂ってマジなのか?」

 適当に読唇術で読み取った内容はそんな会話だ。

 遠巻きに此方を見ては何人もの生徒がヒソヒソと話をしてる……

 原因はこの間の演習場で返り討ちにした事だろう。

 相手が俺と同じ武偵中学に通う生徒とは言え、数的には5倍の戦力を覆したんだから噂にもなるだろう。

 はあ……やっと奴隷みたいな生活から解放されたと思ったら今度は別の意味で目をつけられそうだな。

「やっと終わったね、キンジ」 

 机に頬杖をついていると霧がいつも通りに挨拶をする。

 こいつはこいつでどこ吹く風って感じで、要はいつも通りだ。

 演習場での一見のことがまるでなかったかのようだ。

 …………。

 そう……演習場で俺はコイツと――

 ……ま、マズい。

 あの時の光景が一気に蘇りそうだ!

 思い出すなキンジ!

 こんなところでヒスってみろ!

 利用されるならまだしも俺自身が黒歴史を作りだしてどうする!?

「どうしたのキンジ? 顔が赤いけど」

 俺の様子がおかしいのを見て、霧が迫ってくる。

「い、いや。何でもない」

 顔を逸らしながら、とっさにそう言うが――

「何でもないなら何で動揺するのかな?」

「うっ……」  

 逆に向こうはこっちの矛盾点を突いてくる。

 くそう、何で思い出しちまったんだ。

 期末テストが終わってあの時のことを考える余裕が出来たからか?

「まあ、言わなくても原因は分かるけどね」

 ニコニコとしながら、霧はそう言う。

 その笑みは、何と言うか兄さんがよくやるような意地の悪い笑みだった。

 こいつ……分かってて聞きやがったな。

「こう言うのも何だけど、あの時のことはあんまり気にしないで大丈夫だよ。私が選んでやった事だし」

 こっちの心情を察してか、そんなセリフを吐く。

 それでいいのかとか? 思わないでもないが、逆にこっちの毒気が抜かれて行くようだ。

 その笑顔に少しばかり肩が軽くなった。

 が、呆れてもいるけどな。

「お前って奴は……」  

「でも、きっちりお礼はして欲しいかな?」

 ちゃっかりしてやがる。

 まあ、実際に借りが積み重なってるからな。

 少しは返しておきたいって言うのはある。

「分かったよ」

「頼りにしてるよ」

 ――頼り……か

 あんまり霧に頼られたことなんてないから、少しばかり不安もあるんだがな。

 だが、嬉しくもあるな。

「さてと……そう言えば授業はもう無いんだったね」  

「そうだな。終業式も近いから短いんだろう」

「じゃあ、訓練はどうする?」

 霧がそう尋ねてくる。

 霧との訓練か……俺の中では1ヶ月も続けてたせいで少しばかり習慣化してきたんだが、さすがにこの間の襲撃の件もある。

 ここは少し様子を見た方が良いな。

 また、襲われないとも限らないだろうし。

「いや、今日はやめておく」 

「この間みたいに襲われるかもしれないから?」 

 さすがと言うか何と言うか、霧は俺の考えを見事に当ててくる。

 組んでからたった2ヶ月だけど、俺の思考はほとんど読まれてるな。 

 観察力と言うか人のパターンを読み取る力は相当だな。

 こいつが他の女子連中と一緒だったらと思うと……

 ぶるっ――背筋が本当に冷えたようだ。

 考えるのも恐ろしいな。

「まあ、そうだな」

 取りあえず思考が読まれてると言う、武偵的にはNGな事をそっちのけにしつつ肯定を示しておく。

「う~ん。それなりに実力は示した筈だから心配は無用だとは思うけどね~。キンジがそう言うなら今日はお互いにゆっくりするってことにしようか」

 ニコニコといつも通りの笑顔で霧はそう言う。

 何と言うか気を(つか)わせてしまったな……

 だけど、ありがたくもある。

「それじゃ。また今度ね」

「ああ、またな」 

 霧が教室から去るのを見送り、俺も教室から出る準備をするのだった。

 

 ◆       ◆       ◆ 

 

 教室でキンジと別れた後、私は一人思考しながら帰る。

 さてと、帰ったらどうしようかな?

 任務は今のところは無いし、オモチャで遊ぶ気分でもない。

 ああ……でもルミちゃんに連絡はした方がいいかな?

 アメリカのマフィアたちにもGⅢ(ジーサード)の動向を聞いておく必要もあるし、藍幇(ランパン)に装備品の補充も依頼しておこう。

 武偵に所属してるこの際だから銃技を極めてみるのありかな?

 でもね~……銃は味気ないんだよね。

 特に狙撃なんて私には合わないんだよ……使えない訳じゃないけど。

 そう言うのはルミちゃんの役目だし。

 ……………。

 しかし、鏡高(かがたか) 菊代だったかな?

 随分とまあ、キンジにご執心みたいだね……あの手この手を使っては私に何らかの接触(コンタクト)を図ろうとしてくる。

 彼女もキンジの事を気に入ってたのかな?

 だけど残念。アレは、金一と同じで気に入っちゃったから譲るつもりはないんだけどね。

 それにキンジに近づきたければ、もう少し優しくすればいいのに。

 あとは多少の強引さかな?

 金一と似てキンジは押しに弱いからね。

 その所為(せい)か引っ張ってくれるような人となら相性はいいみたいだし。 

 鏡高の場合はもしかしてあれかな? 理子で言うところの好きな人には意地悪をしたくなるって言うところなのかな?

 その気持ちは分からない訳でもないんだよね~。

 私も金一の目の前でキンジを殺したらどんな反応をするか……逆にキンジの前で憧れのお兄さんが死んだらどうなるか、とてもとても気になるし楽しみでもある。

「ハァ……」

 漏れ出た吐息と共に背筋がぞくぞくする。

 ……ダメダメ、自制しないとね。

 ちょっと落ち着くのと地理把握のためにも道草しよう。

 歩道から脇道に()れて。

 住宅が立ち並ぶ道に入る。

 それから道をいくつか曲がって、鞄に入ってるカツラを手に取る。

 ちょっとした変装道具は一応は常備してるんだよね。

 本格的じゃないにしても、髪型一つで人の雰囲気は変わる。

 カツラの上にカツラを被るのって違和感あるけどね。

 黒の長髪のカツラを被り髪を撫でる様な仕草をしながら、さっき来た道を引き返す。

 今の私はさながら少し高飛車な雰囲気がするお嬢様って感じかな。

 すると曲がり角から誰かが静かに出てくる。

 その通行人の隣を何食わぬ顔で通り過ぎた後にすぐさま背後を取って、GLOCK18Cを後頭部に当てる。

「……っ!?」

 おお、驚いてるね~。

 まあ、変装しているとは言えわざわざ"尾行者"に向かって正面から歩いて行ったりしないからね。 

「私に何か用かな? 鏡高さん」

 静かに名前を告げると、鏡高は少しだけ頭を動かして横目に私を見る。

「……おかしいね。一応、諜報科(レザド)で変装の見破り方を教わってたんだけど……雰囲気が違うだけで意外に分からないものね」

 自嘲じみた感じで静かにそう言う。

 雰囲気や仕草は重要だからね。

 外見をどんなに取り繕っても、その人物の特徴が出てしまえば意味は無いからね。

「アンタ、Aランクなんて嘘じゃない?」 

「言い過ぎだと思うけどな~」

 そう言いながら銃を下ろす。

 Aランクの変装なんて大体はこんなもんだよ。

 さすがに筆跡や言葉の訛りまでは再現できないみたいだけどね。

「銃を下ろすの? せっかくあたしから一方的に色々聞けるチャンスなのに」

「同じ学び舎の人を脅しても仕方ないからね」 

 と、無難な言葉で取り繕っておく。

 とりあえず武偵にいる間は無闇に刀傷沙汰とかにはしたくない。

 私の歯止めが利かなくなっちゃうし、そうなると武偵法9条違反とかになるからね。

 カツラを取りながら、銃を右太もものホルスターにしまう。

「……随分と無警戒だね」

 鏡高は私の行動に面白くなさそうな反応をした。

 どうせ、私と舌戦でもして色々情報を引き出したりキンジに近づきたいと思ったりしてるんだろうね~。

 彼女からして見れば目の前でキンジを奪ったみたいなものだし。

 そんな事はどうでもいいんだけどね。

 正直な話。私は彼女にあんまり興味は無いんだよね~。

 それにたかが2、3年程度訓練した武偵に私が負ける訳がない。

 最近、私を追ってるジーサード程の実力が無かったら瞬殺できるし。

 なので警戒する必要も無いし、相手の得意な分野にわざわざ乗ってあげる必要も無い。

「仲間内で腹の探り合いなんかしても面白くないからね」

 と、建前を言っておく。

 武偵と言う敵地であまり心象は悪くしたくないからね。

 ああ、でも……腹の探り合いはともかくとして殺し合いはしてみたいかな~。

 それはそうとして、ちょっとからかってみようか。

「そんなにキンジの事が気になるの?」 

「……どうしてそこで遠山が出てくる」

「なんだ、そうじゃないの?」 

「別に、遠山は……あたしの駒であって気になる訳じゃない」 

 にしては、言い淀んでるよね~。

 特に『あたしの駒』の部分で。

 他の人からして見れば、上手く誤魔化せてるように見えるかもしれないけど。

 聴覚に意識を集中すれば多少離れても心音が聞こえる私には動揺してるのが丸分かり。

「へ~……じゃあ、私を尾行してた理由は何なのかな?」 

「アタシの駒を奪ったんだから奪い返そうとするのに理由がいる?」

「奪い返してもキンジが心を許してなかったら意味無いと思うけどな~」  

「そんなのはアンタに言われなくても分かってる。だから、今度は優しく――」 

「あれ? 利用するだけの駒なのに気にする必要があるの?」 

 私が矛盾点を指摘すると鏡高は固まった。

 随分とまあ、早かったね……

 対して鏡高は顔を段々と赤くしてる。

「それで? キンジを優しくどうするの?」 

 追い討ちを掛けるようにして尋ねると、悔しそうな顔をしながら顔を紅潮させてる。

 パトラに似た反応だな~。

「そう言えば、気にすると言う部分も否定はしないんだ」 

 その弄り甲斐のある反応にさらに追い討ちを掛ける。

「ち、違うッ!」

 その必死な反応に私は教室でしているようにニコニコとしながら尋ねる。

「なにが? と言うかどこから違うのかな?」 

「あたしは遠山の事が気になる訳じゃない!」 

「ふ~ん……優しくはするんだ」 

「―――――っ!!」

 声にならない声を上げる。 

 彼女に興味は無かったけど、このパトラみたいな反応は楽しいからこのまま観察しよう。

 それに揚げ足を取れば勝手に色々と自分からぽろぽろと(こぼ)してくれる。

「……とにかく遠山は関係ない」

 ここら辺が引き際かな?

 これ以上からかうと暴力に訴えてきそうだからやめておこう。

「そっか。じゃあ、嫉妬とかじゃないんだね」

「そうよ」

 平静さを取り戻したのか鏡高は静かにそう返すけど、最初のでもう色々と確定はした。

「それで、キンジを駒として取り戻したいのは分かったとして……どうするの? 武偵らしく、実力行使する?」 

「遠慮するに決まってるでしょ。強襲科(アサルト)のAランクと真正面から戦う気なんてない」

 彼女は顔を(はす)に構えながら発言する。

「つまり、尾行してたのは色々と情報を入手して外堀から埋めるつもりだったんだね。なんとも諜報科(レザド)らしいやり方だね」

「誉め言葉、どうも」

「実は、この間の演習場での男子達を(けし)かけたのも君だったりして」

「アレはアタシじゃない。遠山にボコられた男連中が勝手に結託しただけ」

 鏡高は関係ないとばかりにそっぽを向く。

 その様子だと、本当にそうっぽいね。

「それは残念だな~……君を倒す大義名分が出来たのに」  

「………………」  

「やだな~、本気にしないでよ。ちょっとしたお茶目だよ。それはそうと、キンジに近づきたいんだったらもっと素直になった方が良いよ。こんな回りくどいやり方じゃなくてね」 

 私はそれだけ告げて、じゃあね~と言って鏡高と別れた。

 さすがに尾行はもう失敗してるから再び()いてくることはないでしょ。

 自分の部屋に戻って武偵中学での鞄を置くと、携帯が鳴る。

 多分、お父さんかもね。

 携帯を通話可能にして出る。

「もしもし」

『やあ、ジル君。そっちでの生活はどうだい?』

 聞こえて来たのは予想通り、お父さんの声。 

「そうだね~。……キンジがいなかったら退屈かな?」 

『ふふ、そうか。その様子だと彼を気に入ったようだね』 

「うん、とってもね。それはそうと、今日はどうしたの? まだ兆候は出てないんだけど」

『今日は別件だよ。もうすぐ夏休みだからね。その時にカツェ君に届け物をするために少しばかりドイツに行って欲しい』 

「うん、分かった」 

『あとは、そうだね。ロンドンに行って僕の曾孫を見てくるといい。君の姉にも会うついでにね』

「そう言えばそうだね~。最近のお姉ちゃんの様子も気になるし」 

 お父さんの曾孫か~……確か名前は神崎・H・アリアだったかな?

 今まで興味は無かったから、観るのは初めてになりそうだけど。

『伝えるべき事は以上だよ。あとは、戻ってきてから詳しく話そう』 

「りょうか~い。それじゃあまたね、お父さん」 

 私のその言葉を最後に通話を切る。

 さて、お姉ちゃんに連絡しとかないと。

 すぐさま電話番号を打って、引き続き電話をする。

 数回のコールのあとに、反応が返って来た。

『……Hallo(もしもし)?』

Hallo(もしもし。).This is Jill(ジルだけど)

『……日本語でいいわ。そっちは日本でしょう』 

「別に、どっちでもいいと思うけどね~。まあ、お姉ちゃんが良いならそれでいいけど。それで、調子はどう?」

『……まあまあと言ったところよ。最近は喘息(ぜんそく)も無いわ』 

「そっか。なら、いいんだけどね。まあ、何かあってもジキルがどうにかしてくれると思うけど」

『そうね……近々、戻って来るのかしら?』

「うん。何かあるなら、用意するけど?」

『特に何もないわ……けほっ』

「分かった。それじゃあね~」 

『……ええ、待ってるわ』 

 そこで通話は途切れる。

 まあ、思ったより調子は良さそうかな?

 お姉ちゃんは病弱だからね~。

 さてと、そうと決まれば準備しよっと。

 お姉ちゃんとホームズの4世に会うために―― 




どこかで時系列が大きく飛ぶと思います。
でないと話がなかなか進まないので……

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