遠山家は3男2女――マキリが漏らしたその言葉の意味が――
続きは原作にて。
注意事項
・シリアス理子
・死亡フラグ構築中
・ちょっと改変
翌日の早朝――まず最初に問題が発生した。
調子が悪い。
精神安定剤なんて多用してるからどっかで不調になると思ってたけど。
どうしたものかな……
別に授業には出れるし、熱もなく、あるのは倦怠感だけ。
文化祭の準備の関係で授業は短縮授業だから……まあ、まだ何とかなる。
それに他の人達の役職も見てないからね。
うん、大丈夫だと思いたいなあ……
正直な話、次に同じ事をされたら抑えられる自信がないし、一回ガス抜きしないと精神衛生上よろしくない。
また探さないといけないな~
計画的じゃなくても見つからない自信はあるけど、段取りは大事。
楽しむ時間は必要だからね。
と、そんな訳でお楽しみの時間である『仕上げ会』がやってきた。
午後の9時過ぎ。
名前の通り、仕上げに掛かる日なんだけど。
「お前、完成してるのに参加する意味あるのか?」
廊下で合流したキンジは至極当然な事を聞いてきた。
「他の面子の衣装も見てないから、見ておきたいからね。あと冷やかし」
「お前の場合、冷やかしの方がメインだろ」
「もちろん」
私の言葉にキンジは相変わらずだなとばかりに視線をやって、それから教室へと向かう。
キンジが手に持ってる紙袋の中身は衣装なんだろう。
どうせ、
一応は非推奨行為とはなってるけど、黙認されてる形だし。
まあ、自前で衣装を用意なんて職業によっては結構難易度高いから、仕方のないことなんだけど。
ちなみに私は既に完成してるので衣装を着用した状態でここにいる。
そう言えば、教室では最低1時間は役作りのために演技しないといけないから……キンジの時のクール系のメイドでいこう。
そのままキンジと一緒に教室に入ると、既に始まってるらしく5、6チームぐらい教室で作業をしていた。
机は教室の後ろに並べられ、誰かが持ち込んだスピーカーから音楽が流れている。
何人か衣装が完成してるのもいるらしい。
着替えてお互いに完成度を
教室の壁際にある
呆れながらも他に何かないか観察してると、白雪とレキとお供のオオカミであるハイマキが一角にいるのが見えた。
それはキンジも気付いてるみたいだけど、向こうの衝立が気になるみたいでそっちの方へ行こうとする。
黙ってた方が面白いんだろうけど、ここはメイドらしくフォローしてあげよう。
「ご主人様、そちらはおそらく着替え場所ですよ」
その言葉にキンジが勢いよくこっちに戻ってきた。
「あぶねえ……助かったぞ、霧」
「いえ、ダメな主人をフォローするのもメイドの役目。別に覗きが趣味であるのならば私は見て見ぬふりをしますのでご安心を」
「俺にそんな趣味はないからな」
「ご主人様がそう言われるのであれば……」
「やめろよ、その含みのある言い方」
とまあ、演技に入りながらも軽口を叩きながら白雪達のところへ行く。
「あっ、キンちゃん。衣装、どのくらい出来ましたか?」
気付いた白雪がいそいそと隣を片付けて、キンジが座るスペースをさり気なく確保しながらも聞く。
黒縁のメガネを掛けて、ブラウスにタイトなスカートにこのいつもと違う丁寧な口調。
配役は『教師』かな?
白雪はそんな雰囲気だね。
「それと隣は……霧さん、でいいんですよね?」
いまいち私だと認識できてないのか、白雪が続けてそう聞いてくる。
そのまま私は少しだけスカートの端をつまんで軽く会釈する。
「はい、本日はメイドとして参加させていただきます。白野 霧で間違いありません」
「す、すごいですね。まるで別人みたいです」
「そういう白雪様も、よくお似合いで別人のようですよ」
と、私がにこやかに言うと白雪は再び感心したような顔をする。
「わあ……本当にメイドさんみたいだよ、キンちゃん」
「ああ、そうだな」
白雪が嬉しそうに驚いてるけど、前回メイドを体験済みのキンジのリアクションは薄い。
あ、私が顔を向けると視線を逸らした。
体験済みとは言え、それでもキンジには毒であることに変わりないらしい。
「あと、俺の衣装はほぼ完成している。あとで違和感が無いか見てくれ」
「はい。ふふ……楽しみだね、キンちゃんのお巡りさん姿」
ニコニコとしながら白雪はキンジを見る。
うん、白雪は本当にはまり役だね。
元から母性がある感じの雰囲気だし……まあ、体つきからして母性は
何よりも切り甲斐のある体をしてる。
シスターみたいなこの国の聖職者だし、きっとさぞかし中身も綺麗なんだろうな~
ジャンヌと並べて比べてみたい。
ジャンヌも性格とかはアレでも聖女と呼ばれた者の子孫だし。
想像するだけでも楽しみだ。
――そう、ロンドンにいた時から生き汚いどんな人でも中身は一緒なのを知ってる。
8月31日の――
なんだろう……ズキリと頭の奥が、痛む。
8月31日? 私が最初に殺した日なんて、私自身知らないのに何でその日が出てきたんだろう?
お父さんと出会うまで亡霊のようにロンドンの街を
「どうかしましたか、霧さん? いきなり物静かになって」
「お気になさらず。メイドは目立たないものですので……それに遠山様の警察姿をご想像し、覇気がなそうな警官だと思い考えていただけです」
頭痛を抑え込んで、白雪に対してそう返す。
するとキンジはリアリティを出すために警察の制服を揉んでシワなどをワザとつけて使用感を出す作業をしながらも、私を見上げてきた。
「悪かったな、根暗で」
「私はそこまで言っておりませんので、そのように卑屈っぽい目を向けられましても困ります」
と言うか自覚してるならコミュニケーションをだね……
って言っても聞かないというか、実践しないだろう。
人間、いきなりは変われないものだし。
私は例外だけど。
そのままキンジは再び作業に戻るけど、数分も経たない内に立ち上がってレキのいる方へと向かった。
作業に飽きたのか……
視線を向ければレキはいつものセーラー服の上に白衣を着てる。
研究員か医者か……いずれにしても、そんな感じの格好だね。
私は私で白雪の隣に座る。
すると、白雪は役作りのための演技をやめていつもの感じで聞いてきた。
「これ、もしかして手作り?」
「まあね、ゼロからは難しいからある程度の原型に少し付け足してそれっぽく見せてる。そう言う白雪さんは素材から作ってるっぽいけど」
私もメイドの役を降りて普通に話す。
くすりとそのまま白雪が力なく笑う。
「私、これぐらいしか取り柄がないから」
「悲観しすぎでしょ。ジャンヌの一件からもう少し前に進んでると思ったのに」
「でも、アリアにも霧さんにも色々と負けたくはない……かな?」
「その言葉を聞いて前言撤回」
人の変化は見ていて面白い。
だから止められない。
なのに……
――ズキン。
頭痛は止まって欲しくても止まってくれない。
もっと"彼"を近くで見ていたいのに……
午後10時過ぎ、"彼女"が近付いてくるのが分かる。
「おはようー!」
理子が元気よく昼間と同じテンションで教室に入ってきた。
そんな我が妹はガンマン姿。
テンガロンハットを被り、革の薄手のブラウス。
ヘソを出して、デニムのショートスカートで靴も西部劇とかでよくある革製のブーツ。
革製のホルスターには
理子なりのこだわりを感じるよ。
そんな理子は私を見た瞬間、
メイドはリリヤで見てるでしょうに、あとそういうカフェとか行ってるのも知ってる。
私のメイド姿なんかでその顔をする意味はよく分からない。
人を色々と誘惑してる割には自分に向けられた感情が何なのか分からない時があるからね……
そこら辺は、キンジと似てるかな。
だけど理子はすぐに、
「おー! キーちゃんのメイド姿とは、また超レアですな。男性の人気はうなぎ上り間違いなしだね」
なんて言いながらおどけて見せた。
「それはそうと、ほら早く! 絶対にウケるって! 可愛いは正義だよ!」
それから理子は教室の扉の裏側にいる誰かを引っ張る。
「~~~~~~~!」
声にならない悲鳴を上げてる。
どんだけの高音で
さーて、あれだけ抵抗するって事は……相当屈辱的な姿なんだろうね。
実に楽しみだよ。
ワクワクしながら待ってると、見えてきたのはキッズサイズのフリルをあしらったブラウス。
次にミニ過ぎるスカート、こちらもフリル付き。
そして、遂に全貌が――
「い~~~~や~~~~よ~~~~!」
抵抗の言葉を出しながらも見えてきた姿。
それは、まさしく『小学生』。
真っ赤なランドセルを背負ってる上に、リコーダーがはみ出して入ってるのが分かる。
黄色の枠のネームには『4年2組 かんざきアリア』の文字。
しかも、ちょっと子供っぽい崩れた筆跡が良い味を出してる。
こ、これは――
「ふ、ふふ……あーはははははははっはっはっは! ひ、ヒー! まさ、まさかのそれ?! あんだけのクジがあってそれを引き当てちゃう!?」
我慢出来る訳がない!
ヤバイ! 今までで一番に
赤ちゃんがキスで出来ると思ってた時以上に面白い!
笑いすぎて涙が、涙が出る……
ま、まさか神崎に二度もこんなに笑わせられるなんて、思わなかったよ。
「あ、あんた!! 臆面もなくやっぱり笑うのね! 今すぐに笑うの止めなかったら風穴よ!」
「あー、そう? ちゃんと演じないとその姿でここにいる以上の人数の前で公開処刑だけどいいの~? フフ……ははははは!」
「あ、あ、あんたね~! だったら、あんたもやってみなさいよ!」
と、神崎が反撃とばかりに言ってきた。
別に私の役じゃないし、と返す事は出来る。
だけど――
「別にいいよ」
「流石のあんたでもこの格好は――え?」
挑発して私を陥れようと思ってたんだろうけど、残念だね。
いちいち羞恥心を覚えてたら何も演じれないし、誰も
「小学生ね~……理子、衣装ある?」
「一応、試作で余ったのあるけど……」
……あるんだ。
という訳で衣装チェンジ。
理子から何故か持ってきたらしい衣装の余りを借りて、教室の端の衝立の裏側に。
しばし衣装替えの時間を、ってね。
神崎用に作ったせいか少しサイズがアレだけど、ギリギリ着れるか。
って、このプリーツスカート……短い。
で、黒のニーソックス。
それから上はちょっとした何かのロゴの付いたTシャツ。
着てみたものの……体格的に小学生では通じない気もする。
そこは演技力でカバーしよう。
この髪の長さでボブヘアーは無理だから、ツインテールにして。
これで完成。
「初めまして、6年生になります。白野 霧です――なんちゃって♪」
と、私は出て早々にそんな自己紹介を交える。
周りにいるレキ以外の人はポカンとした表情。
うむ、良いサプライズになったみたいで何より。
そのリアクションに少しは満足した。
理子は一つ提案をする。
「……キーちゃん、もうCVRに行かない?」
「いいかもしれないけど、遠慮するよお姉ちゃん」
色々と変装出来て楽しそうではあるけどね。
残念ながらそんな暇はなさそうだし。
そんな中で何を血迷ったのか、消防士姿の武藤が私に向かって見事な土下座をしながら滑り込んできた。
「霧さん、その姿でお兄ちゃんと呼んでくれ!」
公務員の風上にもおけないセリフだね。
しかし、そのプライドを投げ捨てる姿勢に感服したので、夢を見させてあげよう。
「お兄ちゃん、お仕事頑張ってね♪」
「よっしゃああ! 今なら、怖いものなんて何もねえ!」
「牢屋の中で」
「――え?」
武藤の間の抜けた言葉と同時にカチャ、と金属音がしたかと思うと、いつの間にか制服を着た遠山巡査が手錠を武藤につけていた。
「現行犯逮捕だ。話は取調室の綴先生に聞いてもらうといい」
「おいそれ取り調べじゃなくて尋問・拷問部屋だろ!?」
なんてバカな事をしながらも夜は過ぎていく。
夜はさらに
既にほとんどの生徒は完成した衣装を持って退室している。
レキは「就寝時間です」と研究職っぽい姿をしてる割には健康的な事を言い出して退室し、白雪は生徒会の関係でまだまだキンジと一緒にいたかったのか未練がましく同じく退室、そして神崎はあのあとも弄られたせいで、トボトボと疲れた感じで去った。
見知った顔は理子とキンジと、平賀さんだけ。
あとは顔見知り程度の女子が数人。
私はもう制服に着替えてるし、そろそろ帰ろうかな。
この雰囲気も嫌いではないけど、微妙に気分がまだ悪いし今日は安静にした方がよさそう。
「ふあーあ、私も先に戻るねー」
あくびをしながら言ってそのまま教室を去る。
◆ ◆ ◆
お姉ちゃんが帰った。
メイド姿のお姉ちゃん、新鮮だったな~
おまけに小学生とは最高だぜ、なんてね。
アリアはお姉ちゃんにも恥ずかしい思いをさせたかったんだろうけど……あの程度じゃ動じないだろうね。
そもそもお姉ちゃんが羞恥心を持ち始めたの最近だし、未だにレアな表情なのは間違いない。
数えるほどしか見たことないし。
戦役が始まったけど、お姉ちゃんいつ動くつもりなんだろ?
というかソフィーから指令も何もないしね。
このまましばらくは様子見なんだろうか?
ヤングガンガンのページをめくりつつもそんな事を片隅で考えてしまう。
もうお姉ちゃんも帰ったし、そろそろあたしも帰ろうかな?
制服には着替えてるし。
「いたいた……理子ちゃん、お友達が呼んでるよー? なんか校外の人だけど、似たようなフリフリの服着た人」
と、考えてた矢先にクラスメイトが扉を開いてあたしを呼んできた。
「はぁーい。……校外の人?」
校外で似たようなフリフリの服着た人って、リリヤぐらいしか思いつかないけど……まさかね。
ちょっとあたしは、急ぎ気味に教室を出る。
校舎の表玄関を出て、夜の中をそのまましばらく立ち尽くしていると。
「こっちよ、"4世"」
ただ一言、一瞬で全身に寒気が走った。
その……声で、あたしをそう呼ぶのは1人しかいない!
すぐさま、両腕で銃を抜いて髪でタクティカルナイフを持つ。
街灯の届かない、校舎の陰に人影が見えた。
「何の用だ……ヒルダ。あたしを人質にしにきたのか?」
「そう怖い顔をしないでよ。吸いたいとは思うけど、取って食う訳じゃないから安心なさい」
なんて言ってるが、あたしを城の中でオモチャ扱いしてたヤツの言葉を信用する訳がない。
あたしが信じると思ってるならおめでたいヤツだ。
「交渉するなら顔ぐらい見せたらどうなんだ?」
「もちろん、いいわよ。私は話し合いをするために来たのだから」
校舎の陰から街灯の光が当たる位置まで、ヒルダは悠々と歩いてきた。
黒いゴスロリのせいで後ろの暗闇に溶け込んでる感じだが、白い肌と顔がちゃんと見えてくる。
不敵に、それでいて余裕そうな笑みを浮かべて、夜にも関わらず日傘をクルクルと回しながらあたしを見据えてる。
「話し合い、だと? お前の父親を倒した連中の1人に掛ける言葉じゃないな」
「そうかしら?
「だからどうした? あたしは、お前の言う事には従わない」
足を少しだけ開いて"逃げる準備"をする。
ここは武偵の校舎。
この夜中に一発でも銃声が響けば、誰かがここに来る。
ヒルダにとって勢力的にアウェーなのは間違いない。
ああ、クソ……震えるなよ、あたし!
あいつなんか、怖くない。
あいつよりも強いブラドを倒したんだ。
何を怖がる必要があるんだッ。
そのあたしの恐怖心を見透かしたように目を細めながら、さらに近付いてくる。
「そうかしら? お前はジャックを慕ってるようだけれど……ヤツの秘密、私は知っているわ」
「――あの人の何を知ってる?」
お姉ちゃんはイ・ウー内でもその素性を完全には明かしてはいないし、そんな簡単に尻尾は掴ませない人だ。
そんなお姉ちゃんの秘密なんて簡単に――
「……ヒヒイロカネ。ジャックはその保有者、そうでしょ?」
「――ッ!?」
なんで、その事を……
お姉ちゃんは基本的に色金の力を使うことを嫌っていた。
あたしですら、一度も使うところなんて見たことがない。
使えば、色金の侵食によって寿命が減るであろうハイリスクなデメリット。
その色金の侵食で、お姉ちゃんは殺人衝動で家族にすら凶刃を向ける可能性がある。
お姉ちゃんがヒルダに色金の発現を見られるなんて、そんな
そう思っていると、ヒルダは答えを見せるようにして一つの緋色の
「
――連鎖的に反応。
その言葉に嫌な予感は確実に湧き上がる。
「まあ、結論から言わせて貰うとジャックは"ここ"にいる。そうなのでしょう? 4世」
「……あたしは知らない」
ここで動揺すれば付け込まれる。
落ち着け、落ち着け……そもそも考えろ。
ここでその事をあたしに話す意味はなんだ?
人質にでもするつもりか?
「あら、そう? でも、分かった事があるのよ……ジャックってばどうやらこの殻金、持ってないみたいね。まさか、あれ程までに反応するなんて……侵食も結構進んでるんでしょう?
――とっても、そそる表情をしていたわ」
ねっとりとした言葉で漏らしたヒルダに、悪寒が走った。
コイツ――!
逆だ……"あたしを"人質にしに来たんじゃない。
"お姉ちゃんを"人質にしたんだッ。
しかも、理由は分からないけど……お姉ちゃんがここにいるって確信を持ってる。
「私もバカじゃないわ。ずっと、考えてたのよ……ホームズの小娘に敗れ帰ってきたあの日。私が
――ッ。
ハイジャックでアリアに負け、イ・ウーに戻ったあの日……
なんだよ……
「それに理由は知らないけど、トオヤマとか言う下等なサルを大層気に入ってるそうだし……もしかしたら、と思ったのよ。期待はしていなかったけどこの学園に私の使い魔を放ち、人間をくまなく観察すれば……どういう訳か私好みの苦悶に満ちた反応をする少女がいるじゃない、ほほほほほっ。玉藻が結界を張る前に見つけられてよかったわ。
遠くに聞こえるヒルダの声。
ヒルダがお姉ちゃんに辿り着いたのは偶然。
でも、そのきっかけを作ってしまったのはあたしだ。
あたしのせいだ……また、あたしのせいで……お姉ちゃんが。
「それで、4世。私の話を聞いてくれるわよね?」
ヒルダは勝ち誇ったように、
その言葉に実質選択肢なんてない。
ここまでくると、また奪われるのかって自嘲じみた笑いがこぼれそうになる。
ああ、でも……
お姉ちゃんを守れるなら、それでいいかな。
「――いいよ。あたしをどうするつもりか知らないけど、あの人に手を出さなければそれで」
恐い、恐いけど……覚悟は出来た。
だから、大丈夫。恐くても進める。
「つまらないわね……
実際につまらなさそうにヒルダは目を細めた。
父親に似てのサディストめ。
「だけど、まあいいわ。物分かりがいいのは好きよ、4世」
「それで? あたしは何をすればいいの?」
「それはまだ計画中よ。でも、そうね――」
そのままゆっくりヒルダはあたしに近付き、自分の耳に付いてたコウモリ型のイヤリングの片方をあたしの耳に付けた。
「友愛の証にあげるわ」
ブラドに比べれば気品のある
やってる事はそれよりも
「それじゃあ、また会いましょう4世」
それだけ言ってヒルダは優雅に闇に消えた。
確実に遠ざかった、よね?
聞こえるのは教室に残っている人が生み出す雑音。
それ以外は、何も聞こえない。
……誰もいない。
張り詰めてた何かが切れたように、膝から崩れ落ちる。
両手を見れば、自分でも分かるほどに震えてる。
お姉ちゃんに認められて、ブラドを倒して、前に進めている。
そう思ってたのに……!
あたしは! あたしの"過去"は、まだ続いてるッ。
なんで……どうしてッ……!?
――もし今度同じような事があったら私が助けに行くよ。"約束"する。
あの時のお姉ちゃんとの約束、こればっかりは果たせないよ。
きっと……あたしを助けに来たらお姉ちゃんが死ぬ。
そんな気がするから……
◆ ◆ ◆
とまあ、理子はまたしても不幸な目というか過去のしがらみに囚われている訳だけど。
残念ながらお姉ちゃんはまるっとお見通しです。
いや、それは嘘だけど。
調子が悪くて部屋で休んでたらソフィーお姉ちゃんから電話が掛かってくるものだから、何事かと思ったよ。
で、指示通り校舎に戻ってきたらなんとヒルダが妹を脅してる現場を発見。
吸血鬼はなに? 学習能力がないの?
「で? 私にこれを見せてどうするつもり?」
『決まってるわ。気付かれたのなら、手駒にしてしまえ……そういう事よ。そのための計算も出来てる』
「タイミング、あるんでしょ?」
『ええ、あの医者の子孫が近々そこに来て、アクションを起こすでしょう。そのあとは――』
お姉ちゃんから計画を聞き、私はそれに歓喜する。
それから電話は切れた。
うーん、実に楽しみだ。
って言うか、最初から話は聞かせてもらったけど……ヒルダのせいだったんだねえ、突然に色金が反応したの。
いや、でもあの殻金はきっかけであって指向性はない筈だよね?
例えるなら殻金はスピーカーでただ発信するだけ。
電話のように色金と繋がるのは色金のみ。
だったら考えられるのは……ヒルダが殻金によって色金の力を発現させ、同じ色金を持つ神崎が私と同じように反応し、何となく色金が近くにある事を感じ取って私に接続しようとした。
考えられるのはそんなところかな?
どっちにしても父親の教育不足だよね。
私の家族に手を出した挙句、私と敵対しようなんて。
一緒の組織に属しておいて、そう言った連中の末路がどうなったか知ってる筈なのに……何も理解してない。
世間知らずというか恐れ知らずというか……
だからこそ、"私達"が代わりに娘の教育をしてあげよう。
ダイジョウブだよ、理子。
"約束"はちゃんと守るからね♪
それに……私も最近は"
久々に切り裂き甲斐のあるオモチャにワクワクする。
吸血鬼だし、中身をある程度出そうとも多分大丈夫。
どの程度耐えられるのかも試そう。
道具も出来るだけ銀製にして、教会から聖水とかも拝借して、あとは何を試そうかな?
取りあえず、道具は紅鳴館に集められるようにしよう。
あの吸血鬼の別荘だけあって、物騒な秘密の部屋もあるし。
「ふ、ふふ……♪」
理子には悪いけど、お姉ちゃんはすごく楽しみだよ。
ああ、こんなに胸が躍るのは久しぶり。
今でも誰かを切り裂きたくて、中身を見たくて仕方ない。
油断してるとつい、つまみ切りしちゃいそう。
まあ、それもこれもヒルダが色金を刺激したからなんだけどね。
自業自得って事で。
あ、良い事を思いついた。
――串刺し公の娘として相応しい末路をね。
ルーマニア語なんて当たり前だが分からん。
赤松先生のあの時折、外国語が出てくる描写は調べてるのか詳しい人でもいるのか……
何にしても小説を書く時に感じるのは知識がいるということ……
ところでネモちゃんはいつデレてくれますか?
あれでクーデレキャラだったらストライクなのですが。
あと、最近は遊戯王VRAINSはデュエリスト魂を震わせる内容で今のところ全部見てます。
このままのクオリティでいて欲しいところです。