仕事、始まればやっぱり更新速度はお察しでした。
それからそのまま京都の分社で一泊した俺達はその後、早朝に分社を出た。
星伽の運転手に国道367号線を通って京都市内に送ってもらい、適当な場所に降ろして貰った。
そこから徒歩で移動し、現在は鴨川付近の
白雪も一緒に誘ったのだが……少し分社に残ってやりたい事があるらしい。
まあ、夕方に京都駅に集合して一緒に帰る段取りをしてるから別に問題はない訳だが……。
それはともかく、早朝に出たのは霧との約束のためだ。
残りの修学旅行をこいつと一緒に回る。
って事だったんだが、実際にこうしてこいつと一緒に2人で歩くのは随分と久しぶりな気がする。
アリアが来てからは2人きりの時間なんてあまりなかったからな。
「昼じゃないのにもう観光客だらけ」
「そりゃあ日本で超有名な観光名所だからな」
「3日目だから知ってはいても、それでも驚きだよ。ま、それはそれとして――」
言いながら霧は俺に何故か唐突にくっついてくる。
さらに腕を
微妙にあたる胸の膨らみに紅茶っぽい甘い香り。
中学で一緒にいた時は異性よりも相棒って言う感じで接してたのが大きいが、改めて見るとやっぱり女の子なんだよなあ……
それよりも俺の体質を分かっててやってるだろ、これ。
「借りを返したいなら、分かるよね?」
無邪気に笑みを浮かべながらも向けられたその視線は、ゾクリとするような妖しさがある。
そう言われれば俺は当然、強く出れない。
ヒスる可能性はあるが……こいつは本当に俺が嫌だと思ったら一線を引いてくれるから、そこまで心配はしていない。
どちらかと言うと心配なのは俺と同じ東京武偵高の連中に見つかる事だ。
何て考えてると、
「清水寺は行った?」
霧はちょっと俺を見上げて聞いてくる。
「ああ、そっちはレキと一緒に行ったよ」
「じゃあ、八坂神社は? あと二年坂、三年坂」
「
「京都の町並みって感じで雰囲気が良いみたいだからそっちに行ってもいいよね?」
そう聞いてくれるものの、俺に拒否権など無いんだろうな。
って言っても別に楽しくない訳じゃない。
振り回されながらも何だかんだ一緒に楽しんでる。
だから拒否権以前に断る理由なんて最初からない。
「
そのまま俺は絡められた腕に引かれるように八坂神社の方面へ。
いかにも京都の町と言った感じの雰囲気がある二年坂と呼ばれる通り。
京都土産の店が
そう言えば、じいちゃん達に京都土産を買っておかないとな。
この辺りならちょうどいい物が買えそうだし。
「和菓子も良いね。この甘味に渋いお茶はもちろんだけど、紅茶にも合いそう」
などと、霧は団子を口にしながら食べ歩きを満喫している。
支払いは俺だけどな。
いや、別に払えって言われた訳じゃないが……こうでもしないと貸しが減らない。
せめて土産分と新幹線の代金は残しておかないと。
「それで? 残額は?」
団子を食べ終えてニンマリとした顔で聞いてくる、機嫌がなおって絶好調な元パートナーを見た瞬間、俺はある意味悟った。
これ……
「その表情から見るに相変わらずの金欠だね。キンジじゃなくてキンケツにでも改名する?」
見透かされてる……おまけに強烈な霧の言葉のストレートが俺の
ヤバい、今の言葉はアリアとかに
「やめてくれ下さい」
と、俺は力のない声で音を上げる。
「自分で言ってて
さらに
「そう思うなら言うなよ」
「ふふ……いや、ごめんね。これも今ままで私を放っておいた意趣返し、とでも思ってよ」
「寂しがり屋かよ」
「…………」
何だ? 唐突に黙って。
隣を見れば、霧は前を向いたままきょとんとした顔。
と、思えばすぐこっちを見て少しだけ目を細めてはにかみながら言った。
「そうかもね」
いつもの笑った表情、そのはずだった。
なのにそれは
そんな俺が今まで見た事もないような――いや、見た事はある。
ハイジャックのあと、アリアがロンドンに戻る時の、俺の部屋から出て行く時の表情。
それに似ていた。
別れる訳でもないのに何でそんな表情をするのかは、やっぱり家族を亡くした事が響いてるんだろうな、多分。
俺も三度は経験してるけどな。いや、1人は生きてたけど……それでもあの喪失感は何度遭っても慣れるものじゃない。
実は、いつもみたいに笑顔でいるだけじゃないのか?
そんな疑問が俺の中に出てくる。
「なあ……いつもと違うくないか? お前」
「急にどうしたの?」
いや、実際にどうしたの? って聞かれたら具体的な返答には困るが、
「笑ってる割には、あんまり楽しんでないって言うか……いや、楽しんでるんだろうけどいつもと違うと言うか……まあ、何となくだ」
そんな風に俺は
感じたままに言っただけだから具体的も何もないんだが。
「歯切れが悪いね」
目を細めて霧は呆れる。
「悪かったな。家族を亡くして無理してないか心配なだけだ。まあ、お前がいつも通りならそれで良いんだがな」
「そりゃどうも。それはそうと、もうそろそろお昼だね。この近くにお茶漬けと言うか漬物バイキングの店があるらしいんだけど」
結構、食べ歩いてた気がするんだがまだ食べるらしい。
あれか……? 甘い物と食事は別腹的な。
事実、アリアや理子も普通に食事した後にスイーツとか食ってるしな。
女子のあの思考はよく分からん上にペロリと完食もするから不思議だ。
そして、改めて思う。
喧嘩別れしたみたいなアリアや負傷してるレキには悪いが、あの2人が一緒よりも気が楽だ。
ここに来てようやく修学旅行っぽい事が出来てる気がする。
「支払いはどちらにするかお任せするよ」
霧はにこやかにそう言う。
気が楽ではあるが……頭を抱え込む事情があるのには変わりないんだよな。
京都駅に着いた頃には日は傾いていた。そして、俺の財布は夕方どころか季節を巡って秋みたいに散ってもいた。
「ごちそうさまでした」
「はい……お粗末さまでした」
あれからぐるりと回って京都を満喫した元パートナーはご満悦な様子でお礼を言う。
俺はそれに対して肩を落としてそう返すしかない。
「うん……久々に楽しかったよ、キンジ。ありがとう」
コイツのズルい所だ。
別に俺は大した事はしてない。
なのに真っ直ぐにお礼を言ってくる。
そして、その屈託のない笑みはいつも通りに無邪気なのも変わらず。
「俺は大した事はしてない。借りをこうでもしないと返せないし、な」
「そうでもないと思うけどね。楽しませてくれたらその時の貸しはチャラにしてるし」
「何だよそれ……」
「まあ、この間の危機を救った件に関してはこれで帳消しってこと。で、奢ってくれた分は中学の時の貸しをいくつかってことで」
細かいよなそう言うところ。
って言うか――
「まだ中学のやつ残ってるのかよ!?」
「中学のは今日のを合わせて4分の3ぐらいかな」
「マジか? って言うか、今まで疑問に思わなかったが帳消しの基準は?」
「ん? 私が良いと思ったら」
臆面もなく言ってくれる。
しかも基準……超アバウトじゃねえか。
いつ貸し借り無しになるのか本当に分からない。
「言っとくけど、基準は結構緩いつもりだよ。私を楽しませたら良いし、頼みを聞いてくれてそれを達成する、こうして食事を奢る。私に尽くしてくれたら小さい案件から帳消しにしてあげる。ちなみに、大きい案件はそれに似合ったものじゃなかったら帳消しにしないからね。例えば――ジャンヌの時の事件とか」
それを霧から聞いた瞬間、少しだけ胸が痛む。
まあ、あれは……そうだよな。
生半可なものじゃ駄目だろう。
コイツが良いって言っても、俺自身納得するような形でなかったらデカい借りとかは帳消しにして欲しくない。
「あの時の事は悔いても、引き摺らないでよ。見苦しいだけだし、私自身がやった事だし」
見透かしたように目を細めて俺を射抜く。
俺の考えてる事をまた先読みされたか。
そのまま霧は俺を見て、胸に軽く手を持って来て言った。
「うん、で……話は変わって早速頼みがあるんだけど」
「何だよ、俺が出来る事なら何でもするぞ」
「ホントに? 今、何でもするって言ったよね?」
「ああ」
…………。
ん……? 今思ったが俺は何かミスを犯してないか?
それも霧や理子みたいなヤツにはやってはいけない系のミスを。
「それじゃあ、こっちに来て」
と、重大な何かに気付きそうなのに腕を引く霧に気を取られた。
そうして京都駅の人があまりいなさそうな南遊歩道へと、連れ去られる。
それから周りに誰かいないか確認しながらも霧にそのまま連れられて俺は柱の陰へと行く。
「こんな所まで連れてきて何するんだよ?」
いまいちよく分からん行動をする霧に俺は疑問を投げる。
「そうね。――キス、してくれない?」
うん?
あの……霧さん?
それ確か……
「星伽の分社でその話は終わりじゃなかったか……?」
と言うか、お前にハメられた形だけど断ったよな?
「それとこれとは話が別よ。お詫びとかじゃなくて、純粋にそうしたいだけ」
見上げた霧の瞳が妖しげに
何でか分からないが、いつもの霧と雰囲気が違うぞ。
今までの子供っぽい感じとか全然ない。
逆にこれは大人の女性が放つようなオーラ……包容力とか母性とかそう言う感じのモノだ。
おかしい、まるで目が離せない。視線が霧の魅力に吸い寄せられてるみたいだ。
いやいや、待てよ。普段はそんな事を言ってこない霧が唐突に何でそんな事を言うのかは考えるだけ無駄なんだ。
思考を切り替えないと危ない。
どうせまたイタズラ――
「別に断ってもいいわよ。私に魅力がないって事だし」
いや、これはイタズラ……
「出来る事なら何でもするってさっき聞いたんだけど?」
…………。
ああ、クソ。
いきなりどうしたんだ、ホントに。
「おい、霧。本当に様子がおかしいぞ」
「私は、いつも通りのつもりだけど?」
「お前自身がそう思っててもだ」
「そんな事を言って相変わらずこう言う事からは逃げるのね。まあいいわ。ちょっとだけ確かめたい事があるのよ」
「いや、別にお前に魅力がない訳じゃないけど――分かってるだろ?」
物理的な距離は縮まってはいないが、雰囲気は差し迫るような勢いだ。
人気のない場所、近くに感じる女の子の香り。だけど、いつもの紅茶の香りとは少し違う。
意識し始めれば段々と止まらなくなってくる。
霧の今までにない感じに呑まれつつあるのが分かる。
い、いかん……血流が来そうな兆候が――
霧はそれから熱っぽい息を吐いて、段々と寄ってきてる。
完全にレッドゾーンな感じに俺は抵抗を試みる。
「ま、待て霧」
「悪いけど、止まれない」
霧に柱に少しだけ押し付けられたかと思えば、下から霧が迫る。
止まれないと言った霧はそのまま本当に止まらずに迫ってくる。
そのまま――
キス、してしまってる。
気付いた時には遅かった。
一瞬だけのハズなのにそれが、長く感じる。
熱い……唇越しに熱が伝わる。
密着してるおかげで体温も、柔らかな
それから離れる唇。
同時に来るのは血流の流れ……その流れが……流れ、が……
ん、来ない?
いや、微妙に来てはいる。
けど、おかしい。
こんな事をすれば普通はヒステリアモードになってるハズなのに。
中途半端な所で止まってしまっている。
言ってしまえば、半分だけヒスってる状態だ。
おかげで気付いた。
「お前、何か振り掛けてるな?」
「流石に暴走したくはないでしょ? ちょっと興奮を抑制する香水的なヤツをね」
通りでいつもの紅茶みたいな香りの中に別の匂いが混じってると感じた訳だ。
どこで振り掛けたかは分からないが。
「それと、強引にこんな事をしてゴメンね」
「そう思うなら最初からやるなよ。何を確かめたかったのか知らないけどな」
「そこはほら、乙女の秘密ね」
俺から離れた霧はさっきの妖しい雰囲気はなく、いつも通りの霧だ。
ちょっとあざとく、それでいて少しだけ恥ずかしそうに人差し指を唇に持って行って「シー」のジェスチャーをやってる。
「それとこの事は乙女とは関係なく秘密ね」
霧に言われなくても話したら俺は死ぬ。
主に巫女とピンクの子鬼によって。
結局さっきのは何だったのかと言った感じで何も分からないまま、俺は霧と共に京都駅の中央口に戻るのだった。
◆ ◆ ◆
今日の漬物、なかなかに美味だった。
そのままご飯と一緒に食べてよし、茶漬けにしてもよし。
日本文化にも順調により深く馴染みつつある。
色金の方も大分……だけどね。
馴染むと言うよりは侵食だけど。
さっきはちょっと危なかった。
いきなり変な衝動に駆られたし。
唐突にキンジが欲しくなった。
それは殺人的な欲求じゃなくて……ただ単にもっと近くにいたいと言う、独占欲にも似た何か。
殺人衝動ではなかったので取り敢えず衝動に身を任せてみたんだけど。もちろん、保険も用意して。
そのまま本能で行動した結果……あの迫り方。
ちょっと恥ずかしい。
って言うか、あの私は誰って言う状態。
別に何かに乗っ取られた訳でもなく、何かが浮き彫りになって別人格が出たと言うか。
ともかく私自身、よく分からない。
分かる事としては、やっぱりキンジの隣にいると不思議と色金による殺人衝動があまり気にならないと言う点。
ウルスの姫のせいでそれを確かめる暇があんまりなかったけど、今回の事で確証は持てた。
理由は不明だけど。
まあ、何にしても……言える事は分かりきった事実。
――私にはキンジが必要。
世界には70億人の人がいるんだから、他にもキンジみたいな人物がいる可能性は十分にある。
でも、そんな悠長な時間はないし、可能性はあっても出会える保証はない。
と言っても所有物にするつもりは無い。
そう言うモノ扱いは嫌いだからね。
だから"私がキンジを家族にする"のではなく、"キンジが私の家族になる"ようにすれば良い。
これからの事を考えれば、その為に"霧のロンドンの惨劇"を再び起こすのも、イイかもね。
キンジは私を寂しがり屋と言った、その通りだと……思う。
お父さんがいなくなった日、あの日から胸に巣食っていたのは寂しさ、そしてこれが悲しいと言う感情なんだろう。
でも、私は知っている。
寂しさは埋める事が出来ると。
その為の家族なんだってね。
しかし、キンジが私の心配をしてくれるなんてね。
悪い気はしない。
むしろ――何だろう?
自然と
そして、楽しいとも悲しいとも違うモノを感じる。
これはお父さんが私に向かって白いバラを落としてきたのと同じ感じ。
これもきっと、今まで私が明確には感じてなかった感情なんだろう、多分。
さて、そんな感情整理は終わりにして――
「で、そっちは大丈夫なの?」
『……ん、腕の替えはある』
リリヤの問題だよね。
電話で確認をする限りは、腕の方の問題は解決するらしい。
腕の替えって字面がヤバいけどそこは気にしない。
「この先どうするかはココ達に任せるけれど、あんまり深入りはしないようにね。私達の存在はまだ裏の中でも表じゃない」
『……ん』
裏の裏は深淵。
"私達"はそんな立ち位置だからね。
「何にしても次は表に出るのはやめた方が良いよ。威力偵察は十分だろうし、お姉ちゃんもおそらくはこれ以上は口を出してくるかもね」
『…………ん』
ちょっとさっきよりも間が空いたね。
何か考えてたのかな?
どう言う考えかは分からないけど理子がいると分かれば派手には動かないだろう。
しかし……あのココ達ならどこかでまた奇襲を仕掛けてくると思う。
ビジネスと金にはがめつい連中だからね。そして、かなり打算的。
私の依頼の100万元では飽き足らずにいらぬ欲を出してきそう。
ふむ、どうしたものか。
こっちがウルスの姫の排除を依頼したとは言え、本人は星伽神社の京都分社で療養中。
それに私は依頼の期限を特に設けなかったし。
強欲に来るだろうなあ、あの姉妹。
何かしらのセールスアピールでも仕掛けて来るだろうね。
それと問題は……理子だね。
今回のリリヤの一件を――
そこまで考えたところで私は不意に思いついた。
"使える"ね。
私が、
「どう言う状態かは知らないけど、理子が心配するだろうし前もって言っておきなよ」
こう言うだけで良い。
――家族を傷付けた。
"理由"はそれで十分でしょう?
京都駅で私は1人、人混みの中で微笑む。
◆ ◆ ◆
呉でアリア達と帰る予定だったけど、一足先の便に乗って東京ではなく京都駅で降りる。
リリヤから連絡なんて珍しい。
いつも通りに短い言葉だったんだけどね。
ただ単に一言『……話がある』ってだけなんだけど。
で、京都駅にいるって聞いてはいたけど無口系妹のリリヤから詳しい場所を聞き出すのは結構難しいのですよ。
つまりは京都駅にいる以外は分かりません。
と言う訳で、お姉ちゃんコール。
「リリヤ、京都駅に着いたけどどこ?」
『……南遊歩道』
目立たない場所であんまり利用する人がいなさそうな歩道か。
京都駅の案内板を見て、一応場所をチェックしてから向かう。
そうしてたどり着けば、チラホラとはいるけど予想通りそんなに人はいない。
裏路地みたいな場所だしねここ……
そんな中、しばらく歩いて探してみれば柱の陰に右半身と特徴的なプラチナヘアーが見えた。
妹の姿に間違いない。
ふーむ、何となくですが様子がおかしいですな。
「お姉ちゃんが来ましたよ~」
と、近付いて声を掛けてみる。
この時点で嫌な予感が半分位ある。
お祈りタイムだよ。
「……ん、リコお姉ちゃん」
「お話だよね。もしかして、結構重要だったりする?」
「…………」
質問に対しての沈黙。
自慢じゃないけど、リリヤに関して最近は多少分かってきた。
口数が少ないのはいつもの事だけど、この沈黙がいつもと違うって言うくらいにはね。
「……ゴメン」
そう言って正面を向いた時の妹の体に違和感。
謝罪の意味を考える前に気付いてしまった。
"五体満足"じゃないことに。
「……お願い、叶えられなかった」
ああ、うん……その事はどうでもよくはないけど、今はいい。
リリヤにレキを殺すように頼んだのはあたし。
このままレキがキンジを独占し続ければお姉ちゃんの精神はきっと不安定になる。
不安定なまま、今みたいに殺人衝動を押し込めていればきっとどこかでたがが外れるに決まってる。
そうなって欲しくない。
それにお姉ちゃん自身、そんな事は望んでないはず。
だからその前に何とかしたかったけど……
半袖の武偵高の制服。
本来なら左腕が通ってる袖に触れる。
代償がこれ、か。
「リリヤ、ゴメンね」
「……何で謝るの?」
その疑問には答えずに、リリヤの体を抱き締めて応える。
これはある意味あたしの責任だ。
それと、ちょっとした不条理に怒りも覚える。
何でいつも家族の為にと思ってしようとした事が空回りして、こうも迷惑を掛けてしまうのか。
不条理なのもそうだが、あたし自身に腹も立つ。
そんな表情を見せず、あたしは切り替えてから妹を離して笑顔を向ける。
「うん、無事ならそれでお姉ちゃん満足だよ。今日は他にやる事あるの?」
「……ない」
「なら、レキュの事は一旦お預け。別の機会でいいよ」
「……分かった」
「気を付けてね。あと、変な人について行っちゃダメだからね」
それだけ釘を刺すと、リリヤはコクりと頷いてそのまま京都駅のどこかへ去って行った。
それを見送って、あたしは新幹線の改札口がある方へと向かいながら考える。
あー、どうしよっかな~
誰がやったか知らないけど、とにかくあたしの妹の腕を持って行ったのは許せない。
同じように左腕を
◆ ◆ ◆
とまあ、理子を発見して遠目から観察してみれば……イイ目をしてる。
リリヤの状態を見て復讐心が燃え上がってる事だろうね。
これで
出来ればその心を持ち続けて欲しいけど、時間が経てばそう言うのは生半可な気持ちだと薄れていくからね。
どこかでまた、発破でも掛けないと。
この修学旅行が終わればお待ちかねの会議の日が近い。
そこで、私はティンと思いつく。
いきなりライヘンバッハを名乗らせてはくれないだろうから……別の勢力を立ち上げよう。
立ち上げると言うか、私の
まずは唯一面識があり、さり気なく連絡先を交換してる
今はちょっと呼び名変わってるんだっけ?
確か、
あとの同類は面識は無くても活動場所とか範囲くらいは知ってるし、眠り姫から知ってる連中を聞き出せばいいや。
世界を股に掛けた殺人とか、とても面白そうだよ。
更新するまでの間に不意に思いついた一発ネタ。
Fate×緋弾
兄さんを亡くしたあの日、俺の運命は変わった。
正義の味方なんて存在しない。
あるのは腐った世の中だと言うことを知ったあの夜。
「おう、お前が大将(マスター)か?」
金髪のパツキンにサングラス。
筋骨隆々の巨漢が俺の目の前に光と共に突如現れた。
「坂田金時、困って悲しんでるヤツの声が聞こえてゴールデンに参上だ!」
明らかに西洋かぶれなソイツは高らかにそう名乗りを上げるのだった。