甘い話を書くと思ったか!
まあ、ネタが浮かび上がらないと言うのが正直なところ。
今回の注意事項――
・緋弾のアリアAAの展開をほぼなぞっただけ。
・イ・ウーガールズ視点でお送りします。
・常識、覚えてますか?
あと、理子視点になるとネタが多いのは仕様です。
――体育館に似た
オープンフィンガーグローブをはめた私とライカが対峙する。
ライカの両手には銀色に光るステンレス製のトンファー。そして、私の両手には
お互いに構えながら、にじり寄る。
そんな中で私はいきなり、
――ダン!
と、 右足で
いきなりの事にライカは少し肩を震わせて反応したけど怯んではいない。
瞬間、私のスカートからピンが抜けた
それを左足でライカに向けて……蹴る!
「――!?」
これまたライカは少し驚いてる様子だけど、私は構わず突出する。
さーて、どう出る?
試すような感じの視線を向けながらライカへそのまま接近。
対してライカは――
バッ!
私と同じで前に出た。
どうやら気付いたみたいだね。
自分に飛んでくる
そう考えて風を切るような速さでナイフを1つ
しかし、ライカはボクサーみたいなステップでナイフを
そのままお互いに距離が縮まり、接近戦の間合いとなる。そしてライカは右のトンファーを振りかぶった。左のトンファーは胸の前でいつでもガードできるような構え。
次の攻勢が考えられている感じだけど、私からすればちょっと安易だ、ね!
私は足を踏み込み、瞬発的に加速する。
ライカの左側面を通り抜け、ナイフを投げた事によって空いた左手で彼女を足首から
そして、そのまま床へと倒れ……
バン!
なかった。
結構、意表を突いてたんだけどな。
どうやら前転をするように上手く受身を取ったみたい。
転がりながらすぐに立ち上がるライカがこっちを振り向く前に袖からナイフを出して両手の2本を投げる。
私に振り向こうとしてる途中でナイフが飛んでくるのにライカは気付き、すぐに左手のトンファーで2本とも落とす。
その間に私はライカの背後へと回り込み、右袖からナイフを出してそのまま獣みたいに襲いかかる。
「なろッ!」
声と共に鎌のような鋭い回し蹴り。
左足を軸にしたそれは、私を捉えていた。
だけど私はその場で跳び、ライカの回し蹴りをスレスレで錐揉み回転して
その飛び掛かった勢いのまま――回転しながらのフライングクロスチョップ!
回し蹴りでちょうど正面に向いてしまったライカは私のチョップがクリーンヒット。
「~~~~ッ!?」
バランスを崩して後頭部を床に打ち、悶える。
「はい、しゅーりょー」
右手のナイフを袖の中に仕舞って、宣言する。
私が見下ろしてると、後頭部をさすりながらライカが立ち上がる。
「ちょっとは手加減して下さいよ……」
「犯罪者を相手にした時も同じセリフを言うつもり?」
「……手厳しいっスね」
「いちいち手心なんか加えてたら肝心な時に成長なんて出来ないからね。ま、これも一種の愛だよ」
言いながら私はライカから離れてナイフを回収する。
「そう言うもんですかね……」
「それよりも、よく気付いたね。この
そう言って私は転がってる
「霧先輩、目を開けたまんま突っ込んできたじゃないですか……それに弾いた後も結局、光りませんでしたし」
「あと、ナイフも弾いてじゃなくて躱したし」
「だってガードしたら別の角度から潜り込んでくるつもりでしたよね?」
「よく分かってる。ライカは割とカウンター狙いなところあるから、見透かされると危険だよ。遠巻きで一方的にやられたり、別の角度から攻めてこられるからね」
「対峙したら動き続けろ、って事ですか……」
「正面から戦う場合はね。ともかく、動きのキレもそこそこに良くなってるしこのまま成長できれば一線で活躍は出来るとは思うよ」
私がそう告げると、ライカは密かに「よっしゃ」と軽くガッツポーズ。
だけどすぐに何かに気付き、尋ねてくる。
「あ……一線で活躍って言っても具体的にそれっていつになるんですか?」
「んー、リアル10年くらい、かな? 先生だったらもっと具体的な数字をハッキリ言いそうだけど」
「何だよ、それ……期待して損じゃないですか」
一気に萎えたのか、ライカが床に座り込む。
「あのねー、一朝一夕でホイホイ強くなれる訳ないでしょうに」
「先輩はその年でAランクじゃないですか」
「まあ、才能が影響するのは否定しないけど……何ならAランクの任務を一緒にやってみる? 大幅に経験が積めるよ。――依頼によっては生死の境を見るかもしれないけど」
「サラッと怖いこと言ったよこの人。あとさり気なく自分に才能があるって自画自賛した……」
後半はスルーして、話を続ける。
「武偵じゃ日常でしょ。危険が向こうから来るかこっちから飛び込むかの違いしかない訳だからね」
「分かってますけど、しかし……10年、か」
何を思ってるのかライカはどこか遠い目をしている。
活躍がしたいのか、それとも1人前になりたいのか、はたまた誰かに認めて貰いたいのか……
情報が少なくて胸中を汲み取る事が出来ないけど、どんな理由にしても実力が欲しいんだろう。
「実力が欲しいなら、別の分野を探してみればいいんじゃない?」
私のアドバイスにライカは首を傾げる。
「別の分野?」
「そう、ここでもあるでしょ? 自由履修とかで別の専門科を受けれる制度。意外なものに伸び代があるかもしれないし」
「でも、あたし……他に何が向いてるかなんて分かりませんし……」
ライカは頭を落とす。
「だったら興味のある所から入ってみれば良い。分からないなら飛び込め、だよ。可能性は自分の知らない所にいっぱいあるんだからさ」
私はライカに近付いてから
「………………」
だけど、ライカは浮かない表情。
そして彼女から溜息が漏れる。
「ま、焦らずに探せばいいよ」
私はそう言ってから再びライカから離れる。
ライカの近くの壁際に置いてある自分の荷物を片付ける。
その間、ライカは黙って座ったまま。
ここは話題転換するか……
「そう言えば、麒麟ちゃんに愛の告白はした?」
「ぶっ?!」
スポーツドリンクを飲んでたらしいライカが吹き出す。
私に勢いよく振り向くと顔を赤くしながら否定する。
「いい、いきなりなに言ってんですか!? って言うか、あたしと麒麟はそんなんじゃ――」
「お決まりの否定文句だね。前にも同じような事を聞いた気もするけど。でも、意識してるのには違いないんじゃない?」
「う……」
「ま、いいんじゃないかな? ライクでもラブでも好きに変わりはないんだし」
「……そう言う先輩は、キンジ先輩とはどうなんですか?」
「どう言う意味?」
私はあえて
「ほ、ほら……七夕の時にデ、デ、デートって言ってましたし……」
この子も相変わらずの
私の察しが良い事は知ってる筈なのに、それすら忘れてテンパってるのかわざわざ律儀に答えようとしてるし。
どんだけ耐性低いんだか。
「別に恋人とかじゃないよ。ただ単に元パートナーってだけ……今は、良き相談役ってところかな」
「え……あれ? でも、デートって……」
「デートとは言った、けど相手が彼氏だとか恋人だとかは言ったつもりはないよ」
「何ですかその屁理屈……」
ジト目をしながら返される。
「雰囲気で分からない方が悪い」
「しかも責任
「黙れヘタレ」
「いきなり何ですか!?」
私は座ってるライカに近付き、腰を落として「にひー」と笑う。
「自分の気持ちに素直になろうとしない子はヘタレって事だよ」
「自分の気持ちって……」
そう言われてすぐさま思い当たる事を浮かべたのか、ライカは
私はライカが何かを言う前に口を人差し指で抑える。
「誤魔化しの言葉はいらない。私の目は誤魔化せないって、前にも言ったよね?」
その言葉と一緒に私は目を細め、続ける。
「アドバイスをしてあげるよ。あんまり自分の気持ちを誤魔化そうとすれば、肝心な時にその気持ちを伝えられなくなる。たとえその気持ちが、一般的な観点から見れば変だとしてもね。周りの目がある? 言うのが恥ずかしい? 私からすればそれはどれも誤魔化しの言い訳だよ。簡単に言えば……自分の感情に素直になるのが怖い、受け入れたくない。大体の人はそんな臆病風に吹かれてるに過ぎないんだよ。麒麟ちゃんが大事なクセにその気持ちを伝えずにいたら、どこかですれ違う事になる」
「………………」
それから私はライカの柔らかい唇から指を離す。
いきなりの展開過ぎたか、ポカンとした表情をしている。
「麒麟ちゃんに伝えるのが恥ずかしくても、自分の中で気持ちを受け入れてはおきなよ~。じゃあねー」
勝手に伝える事だけ伝えて私は去り、
自分の気持ちを誤魔化してる、か。
私の近くに2人いるんだよね。自分の気持ちを誤魔化してる臆病者が……
キンジの場合は本気で気付いてない可能性もあるけど。
ちなみに私はそんな事はあまりない。するとしたら、演技の時くらい。
むしろ"ある気持ち"に関しては、誤魔化したり抑えたりしたらヤバイ事になるんだよね~
別にその事に不満はないんだけどさ。
……空を見上げれば、夕暮れの色。
太陽が傾いても、どこか蒸し暑さを感じる。
このまま帰ってもいいけど、どこか寄り道しようかな……
そう思って上に向けていた顔を正面に戻すと、見慣れない人影。
一目で分かるのは、この学校の生徒じゃないと言うこと。
極端に短い防弾制服。
スカートはそんなに変わらない……いや、若干向こうの方が短いかもしれない。問題は上のセーラー服。腰上から胸の下の間の布がない、お腹が丸見えだ。その上、袖は東京武偵高の夏服より短い。
そんな露出度の高い制服を着ているのは褐色の肌をしたボーイッシュな女の子だ。
なにあの子……あんな惜しげもなく肌を晒して私に切って欲しいのかな?
って、違う違う。
この間やったばかりなのに何を考えてるんだろう私は……
私の欲望は置いておいて、あの子がおそらくこの間ライカの言ってた名古屋から研修に来た間宮の親戚だろう。
だとしたら――
(ラッキー)
そう胸を弾ませながらルンルン気分でその子を尾行する。
尾行して見えてきたのはバス停。
そこで彼女は止まり何かを待ってる。
少しの時間待っていると、バスが来た。
そして扉が開いて降りてきたのは――
「あっ、ひかちゃん!」
間宮 あかりだった。
彼女がひかちゃんと呼んだ日焼けっ子に嬉しそうに近付く。ひかちゃんと言うのはあだ名なんだろうね。
「どうしたの?」
「色々とあかりと話したくてね。ちょっとデートしようか」
と、日焼けっ子が誘う。
あかりは彼女について行き、楽しそうに話しをしている。
けど、段々と人気の少ない路地へと誘導されてる事に気付いてない。
しばらく歩いていると段々と別の違和感を感じた。
……私以外にも誰かいる。
そう感じて物陰に隠れて足を止め、聴覚に神経を集中させる。世界が広くなったような感覚を耳だけでなく肌で感じる。
雑音の中から聞こえる……足音。
間宮の子の2人以外に誰かいる。通りすがりじゃない。これは、確実に間宮の子を追ってる。
私は路地裏へと隠れて、フックショットを建物の屋上に向けて放つ。
転落防止の柵にアンカーが引っ掛かる。
すぐにワイヤーを巻き上げて、数秒もしない内に屋上へとたどり着く。
そしてすぐに、さっき間宮の子達が歩いてた方の路地へと目を向け、見つけた。
集中して聞いていると、さっきは親戚について話していたが……今は違って何か別の事を話し始めている。
「あかり……間宮と間宮が戦う時のルール、『一つ
突然に日焼けっ子にそう聞かれて、あかりは困惑しながらも素直に、
「うん」
と答えた。
日焼けっ子はさっきと違う雰囲気を
「――負けた方が勝った方の言う事を何でも一つ聞く。それがどんな内容であっても……それが『一つ契』」
喋りながら日焼けっ子が更に暗い路地裏へと入って行く。
「あ、待って! ひかちゃん!」
あかりは声を上げて日焼けっ子が入った路地裏の近くまで行くが、足を止める。
それから周りをキョロキョロと見回す。
どうやら、あかりの反応からして路地裏にはもういないらしい。
あの様子からして、逃げたって事はないだろう。流れからしておかしいし。
それよりも路地裏に入る時のあの日焼けっ子の眼光は、
まさしく獲物を狙うような
それに気付いていないあかりは、まだその場で日焼けっ子を探している。
「ここでやらないか、『一つ契』。ボクは、キミが欲しい」
ジャキ、と西洋の
あかりにまさしく鉄の魔の手が襲いかかろうとした瞬間――
ヒュン!
風を切って、手錠が日焼けっ子とあかりの間を飛び抜けた。
続いて2つの手錠が日焼けっ子に襲い掛かる。
「ちっ……!」
右手に装備した手甲で彼女は難なくそれを打ち払う。
「あかり先輩! その女は危険です!」
そう言って婦警の格好をした乾 桜が
これは、面白そうなものが見れそうな予感。
◆ ◆ ◆
「全く、いきなり誘い出すから何かと思えば……」
「えー、だって面白そうじゃん」
ジャンヌの乗り気じゃない言葉に私はそう返す。
偶然に見掛けた間宮の子達が人気のない方へと行くのを見て、何かあると踏んだあたしはジャンヌと
夾竹桃は普通に来てくれてんだけど、ジャンヌは興味が薄かったのか最初は断ってたんだけど……何とか説得して来てくれた。
あたし達はそのまま間宮の子達を見下ろせる建物の屋上へと向かう。
こっそり階段を上がり、屋上の扉を開いた時に目の前で何かを見下ろしてる人影が映る。
「先客が居るみたいね」
夾ちゃんが見たままの事を言う。
って言うか、あの後ろ姿はどう見てもキーちゃん――もといお姉ちゃんだ。
こんな所で何してるだか、って言うのは愚問だよね……
イベントを逃さない人だなー
「何であいつがここにいるんだ……」
「あら、ジャンヌ。不機嫌ね」
「ジャンヌってばあの子に自分の策を崩されたんだよねー♪」
「うるさいぞ理子。それよりも、まさか最初にあいつがお前を誘ってそれから私達と言う流れじゃないだろうな?」
と、ジャンヌはあたしに懐疑的な目を向けてくる。
「ぜーんぜん。そんな事はないよ」
逆にあたしが何でお姉ちゃんがここにいるのか聞きたいぐらいだよ。
と思ってると、お姉ちゃんが突然に両手に銃を持ってこっちに振り向く。
「何だ、理子とジャンヌか」
あたし達を見た瞬間に目を丸くし、そう言って銃を仕舞う。
この屋上の扉を開いた時から多分気付いてるんだろうな~、とあたしは思う。
そして、今気付いたフリをした。
こう言う細かいところをわざわざよくやるよ、ホントに……
そんでもって演技だと分かってても違和感を感じさせない。傍にいる程、一緒にいる程に末恐ろしいと感じさせるよ……
「それで、見慣れない人が1名。大方、ジャンヌの仲間だと思うんだけど……どうかな?」
「正解よ」
キーちゃんに目を向けられた夾ちゃんが何でもなしに答える。
「しかも……ジャンヌとそこの黒髪の子と一緒に理子が仲良くいるって事は、つまり――」
そうだった。
キーちゃんはあたしがイ・ウーの一員である以前に、ハイジャックでの出来事を知らないと言う設定だった。
そこでキーちゃんは言葉を止めて、自分の頭を片手で押さえて「ふぅ」と息を吐く。
「察しが良いって言うのも考えものだね。余計な事まで知っちゃうよ」
それからクルリと背中を向けて、柵に身を寄せて何か――おそらく間宮の子達――を再び見始める。
「驚かないんだね、キーちゃん」
形式上、こう言っておかないとね。
「別に……ショックではあるけど、武偵高の制服を着てるって事は少なくとも司法取引は済んでるでしょ? だったら過ぎた事だよ。とやかく言いたくはないし、過去を蒸し返すのは主義じゃない」
キーちゃんはこっちを見る事なく答える。
そこにはどこか落胆の色が見える。
「なるほどね……ジャンヌの策が破られたって言うのも納得できるわ」
夾ちゃんはそう呟き、冷静に分析していた。
これで、夾ちゃんも白野 霧と言う人物を認識しちゃったか……
あたし達はそのままキーちゃんの傍まで近付き、その視線の先を追う。
「おーおー、やってますなー」
その視線の先の光景を見て、あたしは声を上げる。
予想通りだね~。キーちゃん――もといお姉ちゃんの事だからそんな事だろうと思ったよ。
そこにはアリアの
状況から見るに、あの日焼けっ子が婦警の子を倒したのか……
これは修羅場かな、ある意味。
「どうして……どうしてこんな事するの?! ひかちゃん!」
あかりは日焼けっ子に向かって叫ぶ。
だけど、返ってくるのは沈黙。
日焼けっ子は一度少し顔を伏せたかと思うとすぐに上げた。
「……あかり、今の間宮の現状をキミはどう思う?」
「今の、間宮……?」
日焼けっ子にそう言われて、今度はあかりが黙り込む。
「夾竹桃、どちらがお前の標的だった?」
「ブラウンの髪の子よ」
「あれがそれか……」
ジャンヌは夾ちゃんを倒した相手に少しは興味があるのか、そう言って視線を向ける。
それから再び状況が動き出す。
「ボク達、間宮は強い」
日焼けっ子が強めに切り出す。
「それなのに、一族全員が散り散りになり……今では陰に隠れて生きている。惨めだとは思わないか?」
「それは……」
「あかり、間宮が襲われた理由をキミは考えた事があるか? ボクは、間宮が技術を秘したから襲われたと考えてる。間宮の里が襲われてから聞いた話だと、ボクら技術を欲して誰かが訪ねてきたらしい。そして、間宮は技術を渡す事を断った。それから、間宮は襲われた……!」
ツァオ・ツァオの話だと、お姉ちゃんも間宮の里への襲撃に加担してたハズ……
その日焼けっ子の話にあたしは思わず視線が隣にいるお姉ちゃんに向いてしまう。
それから日焼けっ子が提案する。
「だからボクは、間宮の技を名古屋女子で公開しようと思う。そうして、最強の武偵軍団を作るんだ!」
「こ、公開!?」
「そうだよ、あかり。それに名古屋女子での校訓に『
「……軍団って、どうやって作るつもりなの……?」
「………………」
「………………」
『………………』
あかりの一言で静寂が訪れた。
あたしら鑑賞組もギリギリ聞こえてたせいで変な空気になってる。
「そ、それは……その……ほら! 教室をひらいたりして、いや……そうだよ! 部活を作るんだ! 間宮部っ!」
「……それって、今考えたよね?」
「う、うるさい!!」
あかりのジト目されながらの指摘に右往左往し出す日焼けっ子。
そのやり取りを見て、
「アホの子だ……」「アホの子ね」「まさかのアホの子」
お姉ちゃん、夾ちゃん、あたしの順番で同じ感想が出た。
「あれはポイント高いねー」
「キーちゃん、ポイントって何?」
「私の中に存在する愉快ポイント」
「何その、不愉快そうなシステム……」
あたしは思わず突っ込む。
「ちなみに今のは10ポイント中で8ポイント」
意外に高い。
「それと他に
「いきなりケンカを売ってるのか貴様……」
キーちゃんの悪い癖が出た。
いや、違うか……全てにおいてお姉ちゃんが一貫してると言うべき部分。それはよく人をイジるって事なんだよね。
他人になりすます時以外は大体そう。
「ジャンヌはなんて言うか……時々、何かズレてそうなイメージ」
「偏見だな。私はそこまでズレてはいない」
思わずあたしはジャンヌを見た。
ウソだ……以前にレストランに行った時にフランスでのレストランと同じ感覚でチップ――お金を置いて行ったクセに。
それに日本で地下鉄に乗った時には自動で開くの知らなくて手でこじ開けようとしてたし。
まあ、文化の違いから来る
「夾竹桃に理子、何だ? 2人して何故私を見る?」
「いや、別に……」「何でもないわよ」
どうやら、夾ちゃんも見てたらしい。
あたしに続いて夾ちゃんもジャンヌから視線を逸らし、意識を間宮の子達に向けると、どうやら状況が動き出したみたいだね。
「ともかく! 間宮の技を武偵業界でのブランドにするんだ! そうすればボクらは……光の中で生きる事が出来る……」
なーんか……あれだよね。日焼けっ子の言葉が妙に刺さる。
何となく共感してるのかもしれない、もしくは同情。
「名古屋でキミも教官代理をすれば、ランクがあがる。成果が出れば指導料だって出る! キミの妹にも現状より良い暮らしをさせられるハズだ!」
「……!」
一瞬だけあかりは言葉に詰まり、迷った。
「ダメ……ダメだよ! 間宮の技は危険すぎるよ! 教える事なんて――」
「危険な技を教える、武偵高ってそう言うところだろ? それで多くの人が救えるかもしれないんだ。それにあの時みたいに襲われる事もなくなる! キミの母親が傷つくような事もなくなるんだッ!」
「――ッ!!」
大分、あかりは押されてるね。
日焼けっ子の言葉に思い当たる部分が多いのか、結構揺らぎ始めてる。
その時だった。
婦警の子が意識を取り戻したのか、銃を持って立ち上がる。
あの銃はミネベアM60 ニューナンブ、か。日本の公安系の公的機関で広く採用されてる銃か。
今となっては少し古い感じがするけど。
間宮の子達が婦警の子が立ち上がった事に気付く。
「桜ちゃん!」
あかりは婦警の子の名前を呼んで、支えるように駆け寄る。
「ダメだよ動いたら!」
「私なら大丈夫です、あかり先輩……役に、立たせてください……」
そう言って婦警の子――桜が日焼けっ子に向けて銃を構える。
だけど、意識はハッキリしてないのか照準がブレてる。
それを見た日焼けっ子は何か呟き、構え出す。
中腰になって腰を
「あかり、どくんだ」
完全に構えたのか、日焼けっ子が警告する。
「どうやら、同種同士での私闘のようだな」
「みたいだねー」
あたしは知ってたけど、ジャンヌの言う事に一応同調する。
「似た者同士、そして実力が拮抗してるのなら……その勝敗は『想い』の強さで決まる。それは何でもいい、執着、欲望、正義感、愛や憎しみでも……」
あたしは言葉に出してそう思う。
何にしても今のところは……あの日焼けっ子の方が『想い』は強い。
覚悟のある良い眼をしてる。
「だ、ダメだよひかちゃん! 『
両手を広げてあかりは桜を守るように立ち塞がる。
「そんな事はしない。だけど、そこの
この状況をどう打開していいのか分からない。そんな迷いがあかりの表情から読み取れる。
「言っておくが、キミの仲間は来ない。今頃、2人は楽しい夏休みを送っているだろう」
見透かしたように日焼けっ子が口を挟む。
「あかり、三度目は言わない。どくんだ」
最後だとばかりに日焼けっ子が警告する。
そして、すぐにでも仕掛けるような雰囲気を
あかりは――
「そこまでにして、"ひかり"……!」
日焼けっ子と同じ構えを取った。
どうやら、覚悟を決めたみたいだね。
対して日焼けっ子――ひかりは動じず言葉を投げ掛ける。
「――"それ"を使うなら"手抜き"はするなよ? 行くぞッ!」
一声と共にひかりは駆け、
「
空中で錐揉み回転しながら、あかりに向かって行く。
あかりは桜の銃を持ってからその場で前宙し、
「
ひかりと同じように叫んだ。
2人の指先が接触した瞬間、電気のような閃光が音を立てて弾ける。
そして閃光はあかり側の2人を包み込み、服が弾けた。
『キャアアァァァァァ!!』
悲鳴と共に2人は下着姿で倒れる。
それよりも――
「おー、何あれ!? 必殺技みたいなの出た!!」
あたしとしては、心配とかよりもそっちの方が気になるよ!
ああ言うの見るとちょっと興奮する。
夾ちゃんが今起きた事について答える。
「今のは
「ひかりと呼ばれた日焼け娘の方が強かったみたいだがな」
ジャンヌの言う通り、ひかりの方にダメージはなく悠然と立っている。
でも……
「まだ終わってない」
夾ちゃんの言う通り、まだ終わってない。
しかし、ひかりは確かな手応えを感じているんだろう。密かに笑みが浮かんでる。
だけどすぐにあかりが動いたのを見て、表情が曇った。
それからあかりは桜と共に体を起こす。
おそらくは、ひかりは今ので決めるつもりだったんだろう。しくじった事にどこか悔しさを
「あかり、これがキミとボクとの差だ」
すぐにひかりは、腕を組んで言葉をあかりに投げ掛ける。
「
そう言って自分は格上である事を誇示する。
これは、遠回しに降伏を促してるんだろうね。
けれどもあかりは立ち上がる。
「あたしにも……あるよ、上位技」
「何!?」
「『
あかりもひかりと同じように奥の手がある事を明かした。
「なら、あかり。呼吸を整えろ、3分間待ってやる」
「ム○カ……?」
「そんな訳無いでしょう。ネタでもないのだから反応しないの」
ひかりの言葉に思わず反応したあたしに、夾ちゃんが冷静に突っ込んでくる。
「理子。空気読もう」
まさかのお姉ちゃんにも言われた……しかもこっちを見ずに。言葉も淡々としてて冷たいんだけど。
って言うか、さっきから静かだなと思ったらお姉ちゃんの眼が真剣だ。
成り行きを見守ってる。
そんな感じに、見える。
普通ならそう思うんだけど……でも直感で、あたしは何となく違うと感じてる。
何を考えて見てるのかは分からないけど、それだけは
家族以外の人がいると、演技に拍車が掛かり過ぎてあたしでも色々と分かんなくなるんだよね……
いや……"あたしでも"じゃなくて、"ソフィー以外"には分からないって言った方がいいか。あとは分かるとしたら
「ボクが知らないキミが隠している『
そう言ってひかりは距離を取り、あかりとは反対側の壁にもたれて座る。
どうやら、インターバルみたいだね。
「ふむ、どうやら
最初はノリ気じゃなかったジャンヌも身が入り始めてる。
「同じ振動技だしね。ただ単にガードしただけじゃ防げないわ、アレは」
夾ちゃんは食らった事があるのか、実感の
「さっきのぶつかり合いを見る限りだと、相殺じゃなく減衰になっちゃったみたいだけどね」
「そのようだな。先程の戦闘で振動力を騎士で
そう言ってジャンヌは拍手して賛辞してるけど……何で騎士で数値化したんだろう、普通にパーセンテージで良かったんじゃ……?
これじゃあお姉ちゃんがさっき言った、どこかズレてるって言うのを証明しちゃってるじゃん。
なんて思ってても口には出せない。
多分、ジャンヌはショック受けるだろうし。
それからしばらくは静かになる。
あかり達は何か細々と話したり、何か行動してるっぽいけど……ここからじゃさすがに分からない。
一体この先どうなるのか、理子ってばワクワクしちゃう♪
…………。
………………。
「――3分だ」
ひかりが立ち上がり、あかりの傍に近付いて告げる。
あかりも立ち上がって、ひかりの正面に立つ。
「さっきは勇み足だった……謝るよ。だが、次が本当の『一つ契』だ。ボクが勝てばキミは
そのひかりの言葉にあかりは力強く返した。
「いいよ。ただ……手抜きは無し、ひかちゃんの全力にあたしも全力で答える」
拳を握って、決意してる。
熱いですな~……まるで少年漫画でも見てる感じだよ。
それに対してひかりは不敵に笑う。
「……のぞむところだ」
あかりは危ないから、と桜を遠ざける。
と言う事は、さっきみたいに振動を分散させるつもりはないみたいだね。
「ひかちゃん……
武偵法9条――いかなる場合においても人を殺してはならない。
それをあかりは確認する。
「ああ、その場ではね。だが、
言葉と共にひかりは構えた。
さっきの
そしてあかりは、
「よかった」
微笑んだ。
当然、その表情に疑問を抱くだろう。ひかりは真面目に尋ねる。
「……なんで笑う?」
「それはもちろん、ひかちゃんを――信じてるからだよ」
言いながら、あかりは構えた。
その構えにあたしは驚く。
アレは――天地○闘の構え!?
……じゃないか、さすがに。
でも、どことなく似てる気がする。
あかりは円を描くような動きで左手は下に、右手は頭の上の位置に構えた。
「
ひかりは
聞いてる限りはヤバそうだと分かる。
けれども、ね。お姉ちゃんのを越えるヤバさじゃなかったらあたしは驚かないよ。
うん、変な耐性が出来てるんだよね。
今まで考えてなかったけど、あたしも意外と頭のネジ飛んでるんじゃないかな……
「そして、
「いいよ、別に脅さなくても。怖いのは、十分に伝わってる」
ちょっと声が震えてるっぽい。
そのままあかりは続ける。
「あたしの『
「
「ひかちゃんの言う通り、間宮は強いよ。間宮が暴走した時……止められるのは間宮だけ。『
あかりの言葉に水を差すようで悪いんだけど……
あたしの回りに止められそうなの、いっぱいいそう。
ダメだ……インフレ環境に居過ぎたせいであたしの中での基準がおかしい事になってる。
って、イ・ウーメンバーのほとんどに言える事か。
なんて考えてる場合じゃない。
いよいよ、激突しそうな雰囲気だ。
こっちでも分かるくらいに空気が張り詰めてる。
あかりとひかりの両名はお互いに喋りながら間合いを計ってる。
「ひかちゃん、さっき武偵高は危険な技を教えるところって言ったよね? それは違うよ」
「……?」
「武偵高は――正しい力の使い方を学ぶところなんだよ」
ひかりは、あかりの言葉に顔を歪める。
「違うぞ、あかり。正義はいつも……勝った方だッ!!」
覇気を
人間の弾丸。そう形容出来る。
それを迎え撃つあかりはその場から動かず、ユラリと静かに立っていた。それから両手で円を描くように、腕を戻している。
だけど腕を戻しているその手がお腹の辺りで光る。まるで、何かを集めてるみたい。
その集めた何かを受け止めるよう、両手を花の形にした。
相手はその間にも迫ってきて、もうすぐ
けれどもあかりは動じず、その光をひかりに向かって押し出すように前に出した。
その時だった。
――パアアアァッ!
と、その光がひかりの指先を受け取めた。
まるで鏡みたいにひかりに向かって閃光が弾ける。
次の瞬間、ひかりは弾けた奔流に飲み込まれ、服や手甲が砕けて下着姿になって飛んで行く。
その光景にあたしだけじゃなく、ジャンヌや夾ちゃんも驚いてる。
ひかりが痙攣してるところを見るに、どうやら生きてるっぽいけど……もしかして今ので終わり?
「ひ、ひかちゃん!」
息を切らしたあかりがひかりの傍に駆け寄る。桜もあかりに続いた。
そして、介抱しながら安否を気遣う。
「ひかちゃん、大丈夫?」
「……う」
あかりはひかりが無事な事に安堵してるけど、何か様子がおかしい気が……
「うわあああああああん!!」
――え?
「あかりおねえちゃん、ごめんなさいいい! ぶたないでええぇ!」
何故か、突然にひかりが泣き出した。
見たまんまだけど。
それよりも気のせいか、赤ちゃんみたいにちょっと舌足らずになってる。
あかりは何か心当たりがあるのか、桜に何かを話している。
こっちはひかりの泣き声で聞こえないけど。
「あ、赤ちゃん返りする技!?」
と思ったら桜から大声でそんな言葉が聞こえてくる。
「まさか、今のが?」
「ジャンヌ、多分違うわ。おそらくは……さっきあの日焼けっ子の技が赤ちゃん返りする技なんでしょう」
夾ちゃんがそう推測する。
「って事は、それってつまり――」
『赤ちゃん返り返し(か)!』
あたしが呟いた後に、ジャンヌとあたしがハモる。
眼下ではあかりに甘えるようにひかりが抱きついている。
いいねいいね!
さすがはあのアリアの
ああ言うの理子ってば、欲しくなっちゃう。
もし、このままでいれるのなら来年の
「ふぅ……まあ、私が介入する事にならなくて良かったよ」
「お前、それでここにいたのか?」
「変な感じだったからね。意外に後輩思いなんだよ、私は」
ジャンヌにそう返してお姉ちゃんは屋上から去って行く。
「もう十分に面白いものを見れたし、あたしも帰ろっと。キーちゃんってば待ってー!」
言いながらお姉ちゃんを追い掛ける。
すぐに追いついて、建物から外に出たところであたしは話し掛ける。
「で? お姉ちゃんの事だし、結局のところ面白そうだからあの子達について行ったんじゃないの?」
「何を分かりきった事を」
あっけらかんと暴露した。
「ですよねー」
「理子も似たようなもんでしょ?」
「そうだね~。否定はしないよ」
「私の場合は、別の目的もあったけどね」
「別の目的って?」
あたしが尋ねると、お姉ちゃんはふふ、と小さく笑う。
それはまるで子供が何か隠し事をバラす時みたいな感じ。
そこからは何も言わずに付いて来てと言った感じに、あたしの手を軽く引っ張る。
そうして連れてこられたのは、人気のない沿岸の公園。
そこで、そこら辺に落ちてたアルミ缶を拾ってあたしに投げる。
「私が合図したらそれを私に向かって投げてみてよ」
にこやかに言ってきた。
お姉ちゃんってば、一体何をするつもりなんだか……
離れていくお姉ちゃんがある程度の距離で止まると、こちらに振り返り――構えた。
「――!?」
あたしはその構えを見て、驚いた
その構えは、さっきも見た
いやいやまさか……ね。
「いつでもいいよー」
距離が離れてるからか、大きめの声で合図してくる。
取り敢えず言われた通り、あたしは大きく腕を揺らして下から投げる。
放物線を描き始めたアルミ缶。
山なりに飛んで落ち始めるその時、ダッ! とお姉ちゃんが駆け出す。
それから回転を加えて飛び、アルミ缶に真っ直ぐに向かって行く。
そして、指先がアルミ缶に見事に触れる。
刹那――アルミ缶が弾けた。
「ほっ!」
お姉ちゃんが着地をして、満足そうな笑顔を見せた。
「よーし、大分形になった」
それから何て事を言う。
しばらく思考が停止してるのに気付いて、ハッとなる。
遅れて現実に起きた事を認識し始める。
(え……ええええええーーーーッ!?)
内心で、超驚愕する。
って言うかするしかない。
この人、マジでやっちゃったよ!
「いや、いやいやいや……何やってんの!?」
「何が?」
「何が……って、い、今のって――」
「ああ、
これはあっけらかんと言っていい事態じゃない。
「ど、どうやって習得したの?」
「夾竹桃とあかりが戦ってる時に見ててね。その時に繰り出した
「じゃあ、もしかして今回あかり達を見てたのって……」
「出来れば参考にもう一度見れないかな~、と薄く期待してたところもある。普通に成り行きを見たかったのが本音だけど。いやー、でも見れたおかげでやっと形に出来たよ」
お姉ちゃんは伸び伸びとして、達成感に満ち
軽く言ってるけど……この人、他人の技術をたった3ヶ月で自分のモノにしちまいやがった。
しかも教えを請わずにただ観察して、自分の中で試行錯誤しただけで……
明らかに異常だ。
ツァオ・ツァオの魔改造とか目じゃないくらいに異常だ。
「形にはなったけど、今のままだと人体に打ち込んだ時にさっきのアルミ缶みたいに弾けちゃうと思うんだよね。それじゃ傷跡が残らずに死を打ち込むって言うのと違うし……そもそもこれ、意外と隙が大き――どうしたの?」
「別に、あたしのお姉ちゃんは人外をどこまで地でいくつもりなのかと……」
「そこまで人間やめたつもりはないけど? ほら、お父さんとかソフィーお姉ちゃんとかウィリアムとか私以外にもいっぱいいるし」
いいえ、十分に人間やめてます。
確かに人間やめてると言えば他にもいっぱいるけどさ。
そう言う事じゃないんだよね……
ちょっと現実逃避気味にネタに走ろう。
あたしのお姉ちゃんがこんなに人外な訳がない。
今に始まった事じゃないんだけどね。
うん、大分落ち着いた。
再認識しただけで、どうって事はないね。
つまりはいつも通りのお姉ちゃんって事だよ。
「それもそうだね」
「でしょ? それはともかく、私達もカジノ警備に向けて頑張ろっか」
「おー!」
あたしはテンションを上げて、拳を突き上げる。
こうして、またあたしは毒されるのに気付きながらも気付かないフリをした。
専門用語――
久々の解説。
ミネベアM60“ニューナンブ”――S&W M36などを参考に開発された小型回転式拳銃。正式な名称は『ニューナンブM60 回転式けん銃』。
装弾数は5発。弾丸は『.38 spl』。
警察や税関、入国警備員や海上保安庁など広く採用している。
現在ではP230、S&W 3913と言った別の銃に順次更新されているらしい。
ちなみにフランスでは地下鉄での電車の扉は手動だそうです。全部がそうなのかは分かりませんが……
あと、レストランなどで良いサービス受けたと思うとチップを置く風習もあるようです。
みなさんはバレンタイン貰えましたか?
私は貰えましたよ。夢の中で。