緋弾に迫りしは緋色のメス   作:青二蒼

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なんでだ……
自分で書いておいて何もかもがフラグに見えてくる。

つかの間の日常かと思いきやすぐに新たな展開。
夏はイベントが目白押し。



第6章:探偵と犯罪者(リバーシブル)
54:退屈しない夏の始まり


 

 さて、カナ――金一を適度にからかった翌日。

「おはようございまーす……」

 早朝に制服――半袖の夏服――でベランダから鍵を開けて侵入する。

 特に意味はない。

 ああ、でも……目覚ましに銃声の一発でも撃っておこうかな?

 なんて考えながら部屋へと入る。

 入って目に付いた左に顔を向けるとキンジが椅子に座って寝ていた。

 PCを前にして、頭を落としている。

 スクリーンセーバーが起動しているノートパソコンに近寄って、繋がってるマウスを動かすと表示される『Replay?』の文字。

 Flashアニメらしい。これがどうやら情報みたいだね。

 マウスから手を離して、キンジの横顔を見る。

 あれから金一に運ばれたんだろう。

 果たしてどんな風な思いをしながらキンジと別れたのか、気になるね~

 それから移動してキンジの顔を正面から見る。

 何かにうなされてる様な顔をしてる。

 夢見は悪いみたいだね。

 そのまま見ているとキンジは突然に(まぶた)を開き、

「兄さ――!!」

 ガバっと顔を上げて立ち上がるような勢いで私に迫って来る。

 そして、目と鼻の先で停止。

「おはよう」

 私が朝の挨拶をするけど、キンジは目を丸くしてる。

 数秒程硬直してようやく今の状況を理解したのか――

「うわぁッ!?」

 素っ頓狂な声を上げて椅子と一緒に派手に転んだ。

「朝から騒々しいね」

「誰のせいだ、誰の!」

 倒れた椅子から起き上がりキンジは元気よく突っ込んでくる。

 だけどすぐに何かに気付いたような顔をする。

「あれ……? 俺の、部屋……?」

「そっか……とうとう自分の部屋だと認識できない程に神崎さんに侵略されちゃった――」

「ちげえよ!」

 私に対して叫んだ後に、何かを思い出すようにキンジは頭を抑える。

「霧……お前がここに来た時、俺はどうしてた?」

「そこの椅子でパソコンを前に寝てたけど、それがどうかしたの?」

 聞かれた事にだけ私は答える。

 本当の事を知ってるけど、聞かれてないなら答える必要もない。

 聞かれても誤魔化すつもりだけどね。

 まあ、私があの場にいたなんて思ってもいないから聞かれる訳がない。

「…………ッ!?」

 しばらく状況整理をしてる感じだったけど、何かに気付いて寝室へと駆け、扉を開ける。

 私も歩いてキンジの後を追い、寝室へと向かう。

 背後からキンジの顔を見てその視線を追えば……彼は2段ベッドの上段で寝てる神崎を見ていた。

 って言うかいつまでキンジの部屋に()(びた)ってるんだか……

 恋愛関係の話を出したらアワアワするのに異性と同じ屋根の下で暮らす事には何の抵抗も反応もないって言うのは、正直疑問だよね~

 私はそんな感想を抱きつつキンジに視線を移すと、彼は何やら安堵したような息を漏らす。

 きっと金一が昨日の夜にはアリアを殺害するって言ってた事が引っ掛かってここに来た、けど現に神崎は生きてる。その事に対して安心したんだろう。

「本当にどうしたの?」

「何でもない、夢見が悪かっただけだ……」

 私の問い掛けに自分に言い聞かせるようにキンジは答えた。

 そしてそのまま、廊下へと出て風呂場へと入って行った。

 どうやらキンジは昨日の出来事を夢だと思ってるらしい。

 これはまた、面白そうな展開になりそうな予感♪

 しばらく部屋でキンジが風呂場から出てくるのをテレビを見ながら待ってると、神崎が起きてきた。

「おはよー」

「おはよう、さっさと顔を洗ってきたら?」

「そうね……ってあんた、何でここにいるの?」

 逆にこっちが聞きたいよ。

 ここは男子寮なのに神崎はなんで未だにいるのかって突っ込みたい。

 寝呆けた顔をしながらも聞いてきた神崎は、

「まあいいわ。顔を洗ってくる……」

 そのまま私の事を気にする事もなく風呂場の隣にある洗面所へと向かう。

 数秒後――

「あああ、あんた……なんで裸なのよ! へ、へんたいだわ!!」

「俺がシャワーから上がって来た所にお前が入ってきたんだろ!? なんでこれしきで変態呼ばわりなんだ!!」

「うるさいうるさい! は、早く服を着なさ――ギャーーッ!!」

「おっふッ!? お……おお……」

 神崎が絶叫した後に響く鈍い音。

 これは、キンジの睾丸(こうがん)がやられたかな?

 凄い苦悶の声が聞こえる。

 朝から退屈しないなー

 

 

 神崎達が夏服に着替え終わり、私が朝食を作って3人での食事。

 その食事の終始、神崎はキンジを見ては顔を赤くした。

 赤裸々なキンジの姿を見てしまった訳だから無理もないだろうけどね。

 キンジは痛むのか、座りながらずっとモゾモゾ動いてた。

 だから私が「見てあげようか?」って言ったら味噌汁を吹き出した。神崎も喉を詰まらせてた。

 もう、今日のノルマはこれでいいかなと思えるぐらいにはいい反応が見れたね。

 それから学校に行こうとしたところでキンジが、

「アリア、学校一緒に行くぞ」

 靴紐を締めながら神妙な面持ちで言う。

 いつもと様子が違う事に神崎はすぐに気付いたのか、私に視線を向ける。

 私はそれに小首を傾げながら分からないフリをして答える。

「何よぅ、いつもは一緒に行く事に抵抗したのにどう言う心境の変化?」

「別に……少しばかり心持ちが変わっただけだ」

 と、神崎に対してキンジは答えた。

 夢だと思ってる割には気になっているのが丸分かり。

 だけどそんな事を知らない神崎はどこか嬉しそうな顔をする。

「そ、そう……まあいいわ。一緒に行ってあげる」

「帯銃はしてるか?」

「武装確認とはいい心境の変化ね。もちろんよ、武偵は常在戦場だもの」

 そう言って神崎は銀のガバメントを見せながらレッグホルスターに仕舞う。

「そうか、ならさっさと行くぞ」

 キンジが一足先に扉を出て行くのを神崎は、黙って見送る。

 その視線は歓喜に満ち、表情は緩く、目を細めている。

 登校時間の短い間だけど……ここは2人きりにしておこう。

 私は少し会っておく必要がある子がいるし。

「2人きりにしてあげようか?」

 私から唐突に提案する。

「え……はッ!? あああんたいきなり、何言ってんのよ!?」

 神崎は私を見て、頬を染めながら視線を泳がす。

「いや、別に? ちょっと私は学校に用事があるし、何やら話したい事がありそうな雰囲気だからね~……」

「うう、うるさいわね! そんな事をわざわざ言わなくても行くならさっさと行けばいいじゃない!」

「それじゃあ、2人きりの登校を楽しむといいよ」

 最後にそう言って私は靴を持ってベランダへと走る。

「キンジと2人きり……ってこら、待ちなさい!」

 どうやら少しばかり妄想でもしてたのか、私がベランダへと向かった事に今気付いたらしい。

 私は呼び止める神崎に向かってにんまりと笑うと、そのまま飛び降りた。

 落ちる時に見えた神崎は顔を真っ赤にして腰の前に両手を握っている姿だった。

 やっぱりからかい甲斐はあるんだよね~

 そんな事を考えながらも私は転落防止用の金網の上を歩きながら、車へと向かった。

 

 

 一足先に早く学校へと着いた私はある教室へと向かう。

 その道中で気になる見慣れた後ろ姿を発見。

 静かに近付いて、

「りっこりん、おはよう♪」

「うひゃぁッ!?」

 挨拶しながら両肩に手を置くと、声を上げて飛び上がるように私から離れていく。

「な、なんだ……お姉ちゃんか……」

 驚き過ぎたのか普通にお姉ちゃんって言っちゃってるし。

「それでりこりんに、何か用かな?」

 それから理子は私に視線を合わせずに廊下の窓を見ながら話す。

 声が若干だけど上ずってる。

 ……さては、昨日の出来事が脳裏から離れないんだね。

 忘れるように暗示しなかったのはワザとだけど。

 私は理子の顔を両手で持って、強引に正面を向かせる。

「どうかしたの? 顔が赤いし熱っぽいけど」

 微笑みながら真っ直ぐに見て、ワザとらしく聞く。

 けれど今は白野 霧だから仕方ないよね。

 って言うか本当に顔が少し熱い。

 手に体温が伝わる。

「あ、う……お願い、見ちゃ……ダメ」

 私の手を軽く振り払って理子は抑止するように左手を突き出し、自分の右腕で顔を隠す。

 これはこれで新鮮な反応。

 だけど、あんまりイタズラすると変に意識させ過ぎちゃいそうだ。

 このまま目的地に行こう。

「夏風邪には気をつけなよ」

 それだけ言って私は理子の横を通り過ぎる。

 私も……最近は少しばかり心境の変化ってヤツが出てきたかな?

 理子を見てると、どうも手元に置いておきたいと言う欲求が強いんだよね。

 言葉にするなら……独占欲、かな? 支配欲も混じってるかもしれない。

 気付いたのは、つい最近な訳だけど。

 なんて事を考えながら私は1年C組の教室へとやって来た。

 開けっ放しになっている扉から中を覗き込むと、どうやら目的の人物は来ていたらしい。

 席が廊下側に近い事もあって、その人物は私の存在にすぐ気付いた。

 私が手招きをすると、彼女――岡田 以織は静かに席を立ち上がって教室を出てくる。

 それから上の階へと行き、屋上への扉を開く。

 私を追って以織も屋上へと入って来て私が向き直ったところで、彼女が先に口を開く。

「どうかしたんですか?」

「ちょっと心配になってね。その様子だと、精神は大分安定してるみたいだけど」

「ええ、未だに夢に出ますが……大丈夫です」

 日本刀の柄を撫でながら、以織は視線を落とす。

 横に揃えられた前髪が、少し(うつむ)いただけで彼女の目を隠す。

「そっか……それで話があるんだけど、以織はこれからどうしたいかな?」

「どうしたい、とは?」

「私と一緒にいたいって以織は言ったけど、私は武偵高にしばらくいるからね。実際、どれくらいいるかは分からないけど……逆に以織はどうかなと思って」

「武偵高に残るかどうかと言う事ですか?」

「まあ、つまるところそうだね。君がこのままいたいのならそのまま残ってもいいし、いる意味を見い出せないのなら離れてもいい。離れるなら私が以織の新しい居場所を教えてあげるよ」

「………………」

「何にしても以織の人生だからね。いくら家族だからって私はそこまでとやかく言わない。好きに選んでいいんだよ」

 甘い言葉。

 胡散臭い言葉だと(はた)から見れば思うだろう。

 これで人を騙すのは簡単。

 しかし、私は生憎と詐欺師じゃない。

 だって騙す必要がないくらいに世の中には残酷な真実が転がってるんだから、わざわざ嘘を言う意味がない。

「じっくり考えなよ。期限は特に設けないからさ」

 伝えたい事は伝えた。

 私はそれだけ言ってから以織の隣を通り過ぎて、屋上から下りる扉へと向かう。

「答えは、もう決まってます」

 思わずドアノブに伸ばした手を止める。

 意外に早いね。

 もっと迷うものだと思ってたんだけどな。

 内心、苦笑しながらも私は以織へと振り返る。

 彼女は既に顔を上げて、私を真っ直ぐに見ていた。

「私は――」

 

 

 足取りは軽く、キンジ達が到着してるであろう連絡掲示板へと向かう。

 いなくてもあそこで待ってればどうせ来るでしょ。

 そう思って来た訳だけど……何やら人だかりが出来ている。

 まあ、この時期は単位不足やら何やらの連絡も来るからね。

 そこら辺が気になる人もいるんだろう。

 あとは緊急任務(クエスト・ブースト)――単位合わせのための補習授業みたいなもの――とかもあるし。

 ちょっと覗いてみるか、別に単位は不足してないけど何かのイベントでも張り出してるかもしれない。

 そう思って人だかりを縫うようにして掲示板の前へとたどり着く。

 画鋲(がびょう)じゃなくて、サバイバルナイフで紙を留めてるあたり武偵高らしいなーとは思う。

 ざっと目を通して見ても特にイベントっぽいのは無しか。

 強いて言うなら近日にある夏祭りに対しての注意の掲示があるだけ。

 右から流れるように掲示を見ていって目に付いたのは『一学期 単位不足者一覧表』、そこで見たのは『遠山 金次』と言う一覧表の一番上に印刷された名前。

 不足単位は1.9単位。

 ああ……やっぱり。

 最近は探偵科(インケスタ)任務(クエスト)に出掛けてるところなんて全然見てないから、そうだとは思ったよ。

 武偵高では、夏休みが終わるまでに2単位を取らなければ留年になる。

 キンジが正式に受けた任務(クエスト)は4月に受けた猫探しくらい。

 世話が焼けると言うか何と言うか。

 そんでもって、都合よくちょうど不足している1.9単位分の緊急任務(クエスト・ブースト)が隣の用紙にはあるし。

 ほんと、悪運は強いんだから。

 不意にキンジ達が来るであろう後ろを見ると、

「む……」

 メガネを掛け、松葉杖をついたジャンヌ・ダルク30世がそこにいた。

 私に今気付いたのか、小さく声を上げる。

 そう言えば軽い乱視だったね、君。

「ああ、囚われの聖女様か」

「いきなりケンカを売ってるのか貴様は……ッ」

 私の皮肉にジャンヌは頬が強張る。 

「司法取引で捕虜同然だろうし、何も間違ってはいないと思うけどね」

「事実だがお前に言われると腹が立つな」

「まあまあ、今はこっち側と言う事で……仲良くしようよ」

 そう言って、親愛の握手を求めたけどジャンヌは静かに息を吐くだけ。

 それから返答してきた。

「……断る」

「それまたどうして?」

「何となくだが私はお前が気に食わん」

 早くも嫌われたものだね、私も。

 でも……生理的嫌悪って言うのは案外当たるものなんだね。

 手を下ろして、残念とばかりに肩を(すく)める。

 それからジャンヌの後ろに映ったのは今到着したであろうキンジ達。

 私は見えるように手を上げて2人を手招きする。

 特に神崎はジャンヌを見て少しだけ目の色を変えて、ずかずかとこっちに迫って来る。

「武偵の預かりになってたのは知ってたけど、あんた……制服似合ってるわね」

「どいつもこいつも私をイラつかせるのが好きなようだな。凍て付かせてやろうか、ホームズの小娘」

 神崎の嫌味に目を鋭く細め、不機嫌になるジャンヌ。

 気のせいか以前より口が悪くなってる気がする。

「な、なによ……その足でやるって言うの」

 目が少し据わってるジャンヌに少しだけ気圧されながらも神崎は返した。

 松葉杖をついてるって事は当然に足に異常がある訳だけど、ジャンヌの右脚を見れば足首から膝の間に何やら包帯を巻いてる。

「貴様1人なら足一本ぐらいちょうどいいハンデだ。それにこの杖には寸を詰めて鎧貫剣(エストック)に造り替えた聖剣・デュランダルが仕込んである」

 先祖代々から受け継いできた由緒正しい剣じゃなかったっけ……デュランダル。

 随分とぞんざいな扱いだね。

「はいはい、こんな人混みの中で()り合わないでね」

 取りあえず2人の間に割って入って(いさ)めながら遠ざける。

「そうだぞ。大体、朝っぱらかケンカすんな。ジャンヌは足……どうしたんだ?」

 キンジも私と同じ位置に入ってジャンヌに目を向ける。

「虫が、な」

「「……虫?」」

 キンジと私の声が重なる。

「コガネムシのようなものが足に張り付いて驚いてな、そのまま側溝(そっこう)にはまったところをバスが通りかかった」

「ちなみに全治は?」

「2週間だ」

 バスにどう言う風にぶつかったか知らないけど、よくもまあ2週間で済んだね。

 聞いたこっちが呆れそうだよ。

 イ・ウーにいる面子は大概思ったよりも頑丈だったりするから、別に珍しくもないと言えば珍しくもないんだけど……

「よくそれで済んだな」

「キンジは人の心配してる場合じゃないと思うよ」

「なんだよ、霧。唐突に」

 私が「ん」と言いながら掲示板を親指で指し示す。

 キンジはなんなんだ? と言う顔をしながら掲示板に近付きすぐに、

「んなっ!?」

 現実を知った声を上げる。

 そんなキンジに私は肩を叩く。

「キンジ、諦めよう。私の事を先輩って呼ぶためにも」

「ふざけんな! なんでそうなる!?」

「え? いいでしょ? 後輩は大事にするよ?」

「やめろ、絶対にイジる気満々だろ」

「って言うのは冗談で、隣の緊急任務(クエスト・ブースト)に不足単位分のやつがあるからそれを受けるといいよ」

「なにッ!?」

 私のアドバイスにすぐさまキンジは隣の掲示用紙に(かじ)り付いた。

 キンジが掲示板でそれを探してる間に私は携帯を操作する。

 登録申請して、よし……と。

 隣から私の携帯を覗き込んでそれを見ていた神崎が一言。

「あんた、性質(たち)悪いわね」

「やだなー神崎さん、これは私の優しさだよ。早めに登録しておかないと誰か取っちゃいそうだし」

「そんな善意のあるような顔には見えないわよ」

 キンジにも受けさせる予定なんだから、別にそこまで悪質じゃない。

 心臓には悪いだろうけどね。

 ようやくキンジは見つけたのか、すぐさま携帯を取り出して操作する。

 けど――

 すぐに膝を突いた。

 きっとキンジの携帯には他の人が登録したと言う募集終了の画面が出ている事だろう。

「ねえ、キンジ」

 私はキンジの傍に近寄ってしゃがみ込み、声を掛ける。

 一気に顔色が悪くなったキンジが私に視線を向ける。

「……なんだよ」

「これなーんだ?」

 私が携帯の画面を見せる。

 そこには緊急任務(クエスト・ブースト)にあった『港区 カジノ「ピラミディオン台場」私服警備』――1.9単位が映ってる。

 目を見開いたキンジが安堵の息を吐く。

「お、お前……そう言うイタズラはやめろよ、マジで」

「ふふん♪ さてここで問題です。こう言う複数人でやる任務(クエスト)の最初の受注者にはある権利が与えられます、それは何でしょうか?」

 ちなみに正解はメンバーを決める権利。

 選べると言う事は断る事も出来る。その代わりにしっかりとした編成をしないといけない。

 色々と責任が問われる立場でもある。

 遊びでやってる訳じゃないからね。

 当然にその事はキンジも分かってるので、

「……入れて下さい、お願いします」

 懇願しながら項垂(うなだ)れる。

 うんうん、素直なのはいい事だね。

 私が満面の笑みを浮かべたところで、キンジがフラフラと立ち上がる。

「遠山、完全にお前は尻に敷かれるタイプだな」

「うるせえ……」

 今のやり取りで確信したジャンヌが告げたのを、キンジは力なく反論する。

 その間に私は立ち上がって残りの面子をどうするか考える。

「残り2人どうしようかな? 適当に私服警備が得意そうなのを見繕うか……」

「いいや、残り1人よ。あたしも一緒に行くわ」

 意外にも神崎が名乗りを上げた。

 何故か私を少し睨みながら。

 コレ……ねえ。

「私服警備とかできるの?」

「あ、当たり前でしょ! なによ、あたしの事を疑ってるの!?」

「だって神崎さん潜入捜査(スリップ)とか私服警備(Gメン)とか苦手そうだし」

 私の言う事が当たってるのか、何かを思い出すような顔をしながらキンジは静かに頷く。

 ジャンヌも何となくそんな感じがしてるのか、頷く。

「出来るに決まってるでしょ! この間だって立派に潜入捜査(スリップ)をやり遂げたわよ!」

 この間って言うと、紅鳴館での事だろう。

 私に差し迫りながら神崎は弁明するけど……リリヤから一応、その時の働きは聞いてる。

 掃除くらいしかやる事がなかったとか何とか。

 そう思うと不安だな~

「あー、霧。アリアも一緒に入れてやってくれ」

 そんな事を考えてると、キンジが助け舟を出してきた。

「別に断るとは言ってないけど、どうしたの? いつもは若干、神崎さんに対して(わずら)わしそうにしてたのに」

「何でもねえよ。ただ、アリアもパートナーだから一緒に連れて行こうってだけの話だ。ここ最近、3人で仕事する機会もなかったからちょうどいいと思った……それだけだよ」

 私の問い掛けに普通に答えたつもりだろうけど、不安そうな顔が表に出てる。

 やっぱり夢だと思ってる出来事が頭で引っ掛かってるんだね。

 分かりやすいよ、相変わらず。

 しかし、そんなキンジの中で払拭(ふっしょく)出来ない不安を神崎が知る筈もなく……

 不意に横顔を向けて、

「それもそうね。あんたと久々に一緒に仕事するのも悪くないわね」

 腕を組みながらどこか納得してる感じを演じてるけど、隠しきれていない嬉しさが表情に出てる。

 さっきの私とキンジのやり取りを見てから少し睨んだ上に、キンジから誘われて喜んでるあたり、さては……

「は~ん……もしかして、私に対抗意識でも燃やしてる?」

 神崎に近付いてさり気なく聞いてみる。

 その瞬間にビク、と肩を震わせツインテールを揺らす。

 図星か。

 言動や行動はツンツンしてる割に反応だけは素直だね~

「いい、いきなり何を言うのよ! あたしが、あんたに対抗意識があるですって!?」

 神崎がバッ、と素早く距離を取って指を差しながら私の言う事を否定しようとしてる。

 だけど、もうそれは肯定だと私に確信させるには充分。

「違うの? てっきり私は――」

 そこで言葉を区切って私はキンジに視線を向ける。

 私の視線を追い掛けるように神崎もキンジに視線を向けたところで、

 ――ボン。

 そんな感じに顔が赤くなる。

 キンジは何だかよく分からないと言った感じで首をかしげてるけど。

「ちちちち、違うわよ。誰がキンジなんかの事で――!」

「私はキンジとは一言も言ってないけどね」

 さらに否定しようとした所で墓穴を掘った神崎に私は追い打ちをかける。

 私がニヤリと笑みを浮かべたところで、神崎はパクパクと指を差しながら震えてる。

 それから腕を下ろし、彼女の指先が戦慄(わなな)く。

 おっと……これはマズイね。

 これは神崎が怒りに任せて銃を抜く時の兆候。

「キンジ、逃げるよ」

「え? あ、おい!?」

 私に手を引っ張られて、さっきの会話の意味を全く理解してないキンジが驚きの声を上げる。

 その後ろではガバメントを両手に持って、追い掛けてくる神崎。

「待ちなさいッ! あんた達まとめて風穴あけて、人間レンコンにして上げるわ!」

「『達』ってことは俺もかよッ!?」

 キンジの突っ込みが虚しく響く。

 

 

 授業の1時間目が終わり2時間目、(つづり)先生が二日酔いの青褪めた顔で休講を告げた。

 適度に時間を潰して過ごし、3時間目の水泳。

 珍しく泳ぐ事に挑戦しようと神崎は意気込んだが、結局は溺れた。

「もう、二度と泳がないわ……」

 その水泳が終わって着替え終えた神崎が謎の決意をする。

 更衣室を出たところで携帯を見れば、メールが一件届いてる。

 送信者はキンジか。

 メールを開けてみれば、

『親愛なる霧へ。カジノ警備の練習がてら、二人っきりで七夕祭りに行かないか? 7日7時、上野駅ジャイアントパンダ前で待ち合わせだ。かわいい浴衣着てこいよ?』

 そんな本文を載せた、お誘いのメール。

 ……ふーん。

 ………………。

 送信者はキンジだけど、このメールを書いたのはキンジじゃないね。

 あのキンジがこんなデートを誘うようなメールを書ける訳がない。

 書いたのは、おそらく武藤か不知火のどっちか。

 いや、このメールでの言い方からして武藤だろうね。

 でもまあ、これに(かこつ)けて誘われてあげよう。

 そう思って携帯を閉じて隣を見ると、神崎が自分の携帯画面を見て硬直してる。

 しかも震えながら。

 そろりと近付き神崎の肩越しに携帯を見れば、そこには名前以外私と一字一句同じメールの本文があった。

 二股か……ますますキンジがしない行動だ。

 とは言え、これは見なかったフリをした方が面白そう。

「携帯を見て固まってどうしたの?」

「は……ッ、え……ななな、何でもないわよ!」

 声を掛けると慌てた様子で神崎は携帯を閉じる。

 視線は泳ぎ、携帯を気に掛けてるようだった。

 見間違い? そんな戸惑いが彼女の顔に出てる。

「早くしないと授業に遅れるよ」

 私はそう言いながら、神崎を置いて先に行く。

 しばらく歩いてある程度距離が開いたところで後ろを見れば、神崎は携帯を見てトリップしてる様子だった。

 恋する乙女の顔って表現したらいいのかな?

 随分としおらしく、それでいて可憐な雰囲気。

 今までに見た事のない反応だね。

 私としてはそんな表情よりも君のもっと別の表情を見たいんだけど……ま、いっか。

 

 

 4時間目の授業で神崎は遅刻ギリギリになって教室に入ってきた。

 あの様子だとかなりの時間、呆然としてたみたいだね。

 英語の授業だったけど、その間にキンジと神崎の様子はどこか落ち着かない様子だった。

 神崎がスラスラと音読した後に着席する瞬間にキンジと一度視線を合わせたけど、すぐに神崎の方から視線を逸らした。

 私がキンジと視線が合った場合、キンジの方から視線を逸らしたけどね。

 そんなギクシャクした感じで4時間目の授業は終わった。

 昼休み、神崎はどこかキンジを避けるように教室を出ていった。

 私もなるべくキンジと会わないように別の場所へと移る。

 まあ、私の場合はワザとなんだけどね。

 私の察しが良い事は既に知ってるとは言え弁明されるかもしれないし、接触しないに限る。

 昼食も終わり、5時間目は専門科の授業。

 つまりは強襲科(アサルト)である私と神崎は闘技場(コロッセオ)がある第一体育館へと向かう。

 本校舎を出て歩いてると、私の近くを羽音をさせてコガネムシのようなものが通り過ぎる。

 あの虫……

 コガネムシでもカナブンでもない。

 私を完全に通り過ぎる前に少し気になってナイフを振るい、空中で両断する。

 落ちた虫を観察してみれば、この日本では存在しないであろう昆虫――スカラベだ。

 コガネムシの一種ではあるから見た目はよく似てるけど違う。

 そして、このスカラベを扱う人物を私は知ってる。

 パトラ……この島国で何を考えて使い魔であるスカラベを放ったんだか。

 どっちにしても触れなくて正解だね。

 このスカラベは肌に接触すると呪いを移すから厄介極まりない。

 念の為にスカラベを踏み潰し、私はそのまま第一体育館へと向かう。

 そのまま中に入ると少々早かったのか……人がまばらで知ってる顔が神崎ぐらいしかいない。

 神崎がこっちに気付き、向こうから私に近付いて来る。

「今日の授業は『1対1(タイマン)戦』らしいけど、一緒にどうかしら?」

「えー……」

「なんでそんな微妙そうな顔をするのよ」

「ぶっちゃけ神崎さんと1対1(タイマン)なんて疲れる」

「本当にぶっちゃけるわね……」

 この子、加減が下手くそだから無駄に体を痛める。

 こっちは小手先で戦わなきゃいけないのに。

「ちなみに拒否権は?」

「ないわ」

 私の質問にキッパリと答える。

「横暴だね」

「いいじゃないの、それに一緒の任務を受けるんだからお互いの実力を再確認したいのよ」

 神崎は至極、真面目な事を言う。

 そして分かるのは、例の任務(クエスト)まで時間があるのに随分と張り切ってると言う事だね。

 私と神崎が話してるそんな時だった。

 周りを見ると、入口の方を見て数少ない生徒が全員、誰だ? と言う感じの顔をしている。

 それからコツコツ響く靴音。

 すぐに足音が止まり、

「あなたが……神崎・H・アリアね?」

 優しげな声で問い掛けてくる。

「――ッ?!」

 声を掛けられた神崎が振り返った瞬間、息を詰まらせて驚愕に顔を染める。

 この声……昨日も聞いたな~

 振り返るまでもないけど、私も神崎に(なら)って静かに後ろへと体を向ける。

「初めまして」

 そこには武偵高の女子制服に黒のストッキング、長い三つ編みの髪を揺らし、金一……いやカナが、柔和な笑みを浮かべて立っていた。

 どうやらこの夏は一番退屈しない日々になるかもしれない。

 そんな予感に、私は自然に笑みを浮かべるのだった。

 




段々とジャンヌの性格が歪んでいってるような……
まあ、仕方ないよね。

オリキャラ達を犬猫で分けると、

白野 霧(ジル)→猫

ジェームズ→犬

ウィリアム→犬

ソフィー→猫

リリヤ→犬

ルミ(レア)→犬

以織→犬

と言うイメージ。犬率高い上に猫が中心と言う感じ。

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