緋弾に迫りしは緋色のメス   作:青二蒼

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どうもです。
原作14巻がもうじき発売しますねえ。どのようにして孫との勝負がつくのかとても楽しみです。
前回の後書きでシリアスな話になると予告しましたが、見直してみると話が長く、その上話を切るところが微妙だったので分ける事にしました。



3:パートナー

 

 以前の演習の一件から、何故か分からんがここ神奈川武偵付属中学に最近やってきた白野 霧と言うAランク武偵の少女とパートナーを組むことになってしまった。

 本当に何でなんだ?

 と、俺――遠山 キンジは自問自答する。

 でも、何となくだがアイツは……霧は俺を利用した他の女子とは同じじゃないと思える。

 今まで散々に利用されてるから本当ならもっと裏があるんじゃないだろうかとか、色々疑うとこ何だろうけど昨日、実際に話してみてだが逆に安心させられたのは事実だしな。

 ――えっと、ダメ?

 い、いかん……昨日のあいつの仕草と言葉を思い出すと血が少しばかり熱くなる。

 アイツは利用しないとか言ってたが、それでも女子の目の前でヒステリアモードにはなりたくない。

「おはよ、キンジ」

「うおっ!?」

 いつの間にいたのか霧が俺の隣に居た。

 お前……ここに最初来た時もそうだが何で音も気配も無く現れるんだよ。

「驚いた?」

「いや、誰でも普通に驚く」

 むしろ、隣に突然人が現れたら誰でも驚く。

 そんな俺を見て可笑しいのか、霧は子供のように小さく笑う。

「それにしても、朝早いね」

「ああ……まあな」

 今、教室にはそんなに生徒は来ていないし授業が始まる45分ほど前だ。

 なんで、こんなに早く来ているかと言うと他の奴らに交じって登校しづらいだけだ。

 前なんかヒステリアモードの俺にやられた恨みからか登校中に襲ってくる奴もいたからな。

 そう言う事があったので、なるべく一人で来るようにしている。

「大方女子と一緒に登校したくないとか、朝から利用されたくないとか、そんな感じでしょ?」

 そうニコニコと霧は言う。

 昨日の会話でも思ったが、何でそんなに俺の意図と言うか考えが分かるんだ?

 まだ、知り合ってそんなに日が経ってない筈なんだが……

「私の趣味が人間観察だって言ったでしょ? って、私の事そんなに話してなかったね」

 そう言えば、自己紹介の時にそんな事を言ってた気がする。

 俺はその時は特に興味なかったし、女子が増えた事にネガティブになってたからな。

 そう考えると、忌避してた事は霧には申し訳なく思う。

「私、これでも医療知識があってね。色々と詳しいんだ。それで、キンジが女性に迫られて強くなるって事で少し思い当たる症状があるんだ」

 まさか医療知識があるとは思わなかった、とは言えない。

 こいつ、もしかしたら俺より頭が良いんじゃないか?

「で、その症状の名前はアルファベット三文字でHSS、でしょ?」

 これは、誤魔化せないな……もう開き直ろう。

「そうさ、それが俺の体質だよ」

「まあ、普通の人なら分かんないよね。それに、普通のサヴァン・シンドロームなら例が確認されてるけどキンジの体質は例が少ないから珍しいんじゃないかな? まあ、そもそも医者でも知ってる人は少ないだろうけどね」

 1日でバレた上にここまで当てたのはお前が初めてだけどな!!

 でも、医療知識があればヒステリア・サヴァン・シンドロームに辿り着くのも時間の問題だったかもしれない……

 元は医療用語みたいだし。

 遠山家の特異体質だと思ってたけど、口振りからして他にもいるっぽいな。

「でも、これからは大丈夫だよ。約束通りにちゃんと守ってあげるから」

 女性に利用された上に、女性に守られるって言うのも情けない話だけどな……

 俺としては霧の好意はありがたいが、正直あまり世話になりたくない。

 それに、本当に霧が俺を守ったことを兄さんに知られたら殴られるか一喝される予感しかしない。

 ――遠山家の男が女に守られてどうする!!

 多分、こう言うだろうな。

 そんでもって拳が飛んでくると……想像しただけで背筋が恐怖で震えそうだ。

 兄さんの拳はヒステリアモードじゃなくても力と重みがあるからな……

 一度頭を思い切り殴られたことがあるが、あの時は触ると痛むほどのコブが出来たし。

 それから霧は自分の席に戻って行く時には、いつも通りにホームルームが始まりそして授業へと続く。

 兄さんのような武偵になるには授業はきちんと聞いておかないと行けない。

 それに東京武偵高に行くためには、それなりの実力もなければいけない。

 3年生と言えば受験に備える時期だし……

 そう思えば、利用されている今の現状から早いとこ抜け出して勉強や訓練に精を出したいところだ。

 

 キーンコーンカーンコーン……キーンコーンカーンコーン……  

 

 って、もう午前中の授業は終わりか……

 昼休みなら早いとこ教室から出て、女子の連中に見つからないようにしないと。

 この間、屋上の出入り口の影に隠れるようにして昼食はとってたんだが……何故かは知らんが普通にバレた。

 女子の情報網なのかは知らんが……恐るべしだな。

 と考えながら、俺は泥棒よろしくそそくさと教室から出て人気の少ない場所を探す。

 昼食は購買でもいいんだが……以前、購買で待ち伏せされてから今は登校中に買ってきたパンか家で作った弁当だ。

 今日は弁当だから早いとこ場所を見つけないとゆっくり食う時間がなくなる。

 何となく校舎裏に来てみたが……大丈夫っぽいな。

 ここまで来る物好きはあんまりいないだろうし、授業の移動くらいでしかここの校舎を通らないだろうからちょうどいいだろう。

 あんまり地面に座りたくないが、場所に我が儘を言ってはいられない。

 俺は窓の下に腰掛けて、弁当をもっそもっそと食う。

「ここにいたの……遠山」

 早めに弁当を食べ終え一息ついた瞬間、俺の頭上から声が掛かった。

 この声……いやーな予感が背筋を薄く伝わる。

 このまま聞かなかったフリをして去りたい……マジで。

 こいつは俺を利用している女子の中でも回数が多く、ランキングだと5位以内には確実に入っている。

「無視はいけないんじゃない? 遠山」

 再度名前を呼ばれて俺は、力無く立ち上がる。

 出来れば顔を見ずに帰りたいが、今話してる奴は諜報科(レザド)だ。

 どんな根回しをしてるか分からない。

 覚悟を決めて振り返ると、金髪に近い色をした長い茶髪に名前の通りに菊のような形の髪留めをしたツリ目の少女――鏡高(かがたか) 菊代(きくよ)が俺の座っていた上の窓から覗き込んでいた。

 そして、菊代の顔を見るとイイ笑顔で此方を見ている。

 それは、少女らしく可愛らしくも思える。

 利用されている側としてる側と言う関係じゃなかったら……もっと、純粋にそう思えたんだがな。

「それで? 今日は何の用だ」

「邪見しないでよ。アタシはそんなに無理させてないでしょ?」

 確かに他の奴より無理難題は言ってこないが、それでもやたらと俺を使うだろう。

 例えば、イジメられた時なんか犯人を炙り出すのにつきあわされたし、ボディガードみたいな事をさせられたし……

「それでね……今日もお願いがあるのよ」

 来たぞ……言え、遠山 キンジ! こんな生活から抜け出すとさっき決めただろう!

「悪いが……もう、俺は――」

「っと、そう言えば言い忘れたことがあった。遠山の体質の事は一部の女子しか知らないの。何でか分かる?」

 いきなり何だ?

「遠山は同じ顔の女子しか見てないでしょ? 最近になって、見知らない女子に迫られたりした?」

 その質問の意図が分からず、思わず言葉に詰まる。

 しまった……やられた。

 今ので完全に話の出鼻を菊代にくじかれた。 

 さすがは諜報科だ。俺の話す内容を理解した上で、会話の主導権を握るためにさっきの質問をしたんだろう。

 相変わらず、やり難い奴だ。

 だが同時に菊代の言う通り、別にあれから俺の秘密を知ってる奴が増えてる様子はない。

 霧は別だけどな。

「もし、キンジの体質が多くの人に知れ渡ったら……今まで以上に多くの女子に迫られることになる。だから、キンジの体質を知ってる子たちはあまり広めないようにしてるの。じゃないと、キンジを利用する機会が減るでしょ?」

 なるほど……つまりは独占したい訳か。

 普通の男なら、女子に迫られて喜ぶんだろうがこの状況は素直に喜べない。

「それで、それが何だって言うんだ?」

「相変わらず鈍いな。アタシはアンタを脅迫してるんだよ。これ以上、広められたくなかったら……遠山はアタシの頼みを断れない」

 そう言って、菊代は窓から乗り出して俺の前に立つ。

 確かにそうだ。これ以上俺の体質を知られると、今よりも状況は悪化するだろう。

 相変わらず、ズルい奴だよ。

 やっぱり、ダメなのか? ……今の状況を脱出するのは。

 そもそも秘密を知られた時点で劣勢過ぎたんだ……突っぱねようにも、カードは向こうが多い。

 対してこっちは交渉に出すカードが最初から奪われてる。いや、最初から無い。

「改めてお願いを聞いてくれるよね? 正義の味方さん」

 艶めかしくそう言いながら、菊代は俺に迫ってくる。

 それを力尽くで押しのけられたら、どんなに楽だろうか?

 だけど、やっぱり拒む事は出来ない……

 なりたくない……こんな事で、ヒステリアモードになんてなりたくない!

 そう思っても、菊代の体はすぐそこまで迫り来ていて――

「あ、キンジ! ここに居たんだ」

 その途中で、菊代は急に俺から距離を取る。

 この声は……霧か?

「いや~探したよ。購買行って帰ったらいないんだもん」

 すぐ近くまで来て俺と菊代の間に霧は割って入る。

 そのいきなりの登場に俺も菊代も面食らった。

「あ、ゴメンネ。お取り込み中だった?」

「いや、それよりアンタは一体……?」

「私? 私はキンジのパートナーの白野 霧だよ。よろしくね」

 独特の雰囲気でその場を包みこみ、ニコニコと俺と初めて会った時と変わらない笑顔で菊代にそう言う。

「パートナーって……そんな」

「うん。まあ、それでお取り込み中に悪いんだけどキンジを借りてくね。早いとこ、パートナー申請とかミーティングとかしないといけないからね。それじゃ!」

「……え?」

「痛い痛い!!」

 そう言って、俺の腕を思い切り引っ張るな!!

 腕がっ!! 右腕が抜け落ちる!!

 俺が叫んでいるにも拘らず、霧はお構いなしに引っ張って行く。

 それから体育館の近くまで引っ張られて、ようやく解放された。

「危なかったね~」

「お前、いくらなんでも強引過ぎるだろ……」

 おかげで、腕が抜け落ちるかと思った。

「でもね、あの手の人には強引に話を進めるのが一番なんだよ」

「だからってお前……」

「約束したでしょ。パートナーを組んで貰う代わりに、キンジを守ってあげるって」

 その笑顔に俺は思わず顔を(そむ)けた。

 別に見たくないとかじゃない。

 昨日のことが思い出されて、顔が赤くなっちまうのが自分でも分かるからだ。

 日本人形みたいに整った顔立ち。よくよく考えてみれば、コイツはコイツで美少女なのだ。

 子供みたいな言動だからつい、女子であると言う事を忘れそうになる。

 チクショウ……ある意味で菊代よりも厄介だよ。

「えっと……そのさっきのパートナー申請の話なんだが……」

 とっさに話を振って、意識をそちらに移させる。

 じゃないとまともに顔が見れない。

「あ、それはちゃんと本当だよ。その場しのぎの嘘じゃバレちゃいそうだし」

 よく考えてるな。

 さっきも言ったように子供っぽいが、どうやら頭までは子供じゃないらしい。

 失礼な話だけどな。

「だから、一応その紙も持ってるんだよね」

 と、霧が出したのは教務科(マスターズ)――つまりは職員室で配られているパートナー申請書だ。

 これを出せば、この中学校にいる間はパートナーとなれる。

 この申請書は出す奴はほとんどいない。

 出した場合、ペアで受けなきゃいけない授業とかがあるし任務(クエスト)も出来るだけペアで受けなければならない。

 中学とはいえ、武偵は武偵だ。つまり、命がけになる任務もあるから背中を預ける奴は選ばないといけない。

 なので、相性がよくてなおかつ実力が高い者でなければなかなかペアを自ら組もうとはあまり考えないのである。

 ちなみに同じ武偵高に双方が行く場合、同意すればパートナーのままでいられるという制度がある。

 また、成績が良ければ奨学金も出る。

 俺にとっては縁のない話だと思ってたけどな。

「どうするキンジ? さっきは、パートナーだって言ったけど。本当にパートナーになった訳じゃない。この紙が通って初めて、パートナーになれるんだよね」

 確かにその通りだ。

 それに、このままだとまた利用されるのは間違いない。

「私はさっきの人みたいに、無理強いはしないからね。キンジが決めてよ」

 ……何だろう、この選択権がある嬉しさは。

 今まで問答無用だったからな……そう思うと、思わず泣けてきそうだ。

 だけど、霧の誘いも悪くないかもしれない。

 何より、コイツは昨日の約束をちゃんと守ってくれた。

 完全に信用した訳じゃないが、信じてみようと……そう思えた。

 だから俺は――

「……誘いを受けるよ」

「ホント? ありがとう!!」

「って、おい!?」

 急に霧が俺に抱きついてきた。

 しかも、顔がっ!! 顔が俺の隣に!!

 女性特有の甘い香りも俺の鼻腔に迫ってくる!

 段々と血の流れが速くなるのを感じる……この流れはマズい!

「き、霧! 嬉しいのは分かったから早く離れてくれ!!」

「ああ、ゴメンゴメン。HSSだよね。分かってる」

 なんとか……危機一髪のところで離れてくれた。

「でも、少し残念かな。実際になるところ見たかったのに」

「勘弁してくれ……」

 そう言いながらも、俺は霧に心の中で感謝するのであった。

 

 ◆       ◆       ◆

 

 いや~、案外あっさりだったね。

 まずは信頼から勝ち取るのが定石だよね。

 キンジが利用されている話をそれとなく聞き出した時には、使わない手はないと思ったし。

 やっぱり、ラブアンドピースは偉大だと言う事がよく分かる。

 殺人鬼である私が言っても説得力ないか……むしろ、愛と平和より恐怖と殺人だし。

 それにしても、武偵法が相変わらず面倒だな……と言うか、法律自体多くない?

 中国じゃ、人民は法で縛るほど抜け道を探そうとする、みたいな言葉があった気がするけどまさしくその通りだよね。

 武偵と言う組織が必要なほどに法で縛ったって事なんだから。

 私にとっては武偵なんて楽しみの一つでしかないんだから別にどうでも良いんだけど。

 なんて、武偵中学の帰り道に考えてると今の私の自宅に到着と。

 なんて事はない普通のアパートだね。

 暮らして行く分には問題無い広さと、設備があるけど……医療機器と言うか遊び道具がそれほどないのが不満かな。

「はぁ~あ……キンジがいないと楽しくないな~。理子もいないし」

 退屈なんだよね~、お父さんから早いとこ任務とか来ないかな?

 なんて事をベッドに横になりながらに思う。

 ――ドクン。

 ほ~ら、退屈だから兆候が出ちゃったよ。

 一応、早いとこ準備はしとこう。

 そう思っている内にも、私の心臓の血流は速くなってくる。

 ドクン、ドクン、ドクン!

 それで準備が終わったころには、体の芯がすっかり熱くなってる。

 心臓もウルサイ程になってる。

 ハヤク誰かコロさないと……不味い、かな?

 これは私の体質で、キンジのHSSと似てる。

 エンドルフィンとか脳内麻薬が出る事で身体能力が飛躍的に向上する訳で、キンジやカナ……と言うか金一のHSSと違うのは発動のカギが殺人衝動ってことだろうね。

 それで、これは殺人衝動が発動のカギになってる訳だけど満足するまでは常時発動したままになる。

 つまり、一人殺しても満足できなかったらそのまま身体能力の向上は続く。

 そんでもって私は何人殺しても一度も満足した事はない。

 なので、常に殺人衝動を抱えたまま生きてる訳で、身体能力はそこらの人とは比べ物にならないんだよね。

 それを理性で繋ぎ止めてるから、こうして一定の周期で大きな殺人衝動が来る訳なんだけど……

 ある程度殺せば治まりはするけど、完全に満足する訳じゃないし。

 

 ――ピリリリリリ!

 

 あ、携帯が鳴った。

 と言う事は――

「もしもし、お父さん?」

『やあ、ジル君。そろそろなんじゃないかと推理していたよ』

「うん。早いとこ任務を頂戴。じゃないと、そこら辺の人を斬っちゃいそうだよ」

『それは困るね。その国にイバラキと言う県があるのは知ってるね』

「間宮の里がある場所だっけ?」

『その通りだよ、ジル君。今夜、襲撃する事になったから君も向かってくれたまえ。細かい事は後で連絡するよ』

「じゃあ、以前の交渉は決裂ってことだね。お父さんの事だから、これから先に必要だから襲うって事もあるんでしょ?」

『ふふっ、相変わらず聡いね』

「当たり前だよ。私はお父さんの『家族』なんだから」

『そうだったね。場所は分かるかい?』

「もちろん。他に誰が来るの?」

『ブラドにパトラ、桃子君にツァオツァオ……そして、カナ君だ』

 それはそれは……豪華なメンバーだね。

「そっか。それで、いつも通りに誰か殺してもいいんだよね?」

『ただし、一人だけだよ』

 焦らすなあ、お父さん。 

『それじゃ、任せたよ。ジル君』

All right(分かったよ)

 電話を切ってと……さてと、行こうかな。

 今からでも、すごくすごくすごく楽しみだよ。




次回は、アリアAAより間宮一族襲撃です。
今度こそはシリアスになる予定です。

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