緋弾に迫りしは緋色のメス   作:青二蒼

36 / 114
久々の投稿。
普段から書かないと、色々と忘れてしまいそうになる。



第4章:カゴノトリ
35:白野式性教育


 星伽 白雪――ヒヒイロカネを護る星伽の一族の子。

 私が個人的に、面白い子だと思ってる子の1人。

 そんな彼女がキンジの部屋に女の子が住んでると言う事を誰かから聞いたんだろう。

 私に確認するように聞いて来たので、私はそれに正直に答えた結果、

「アー、大変な事にナッタナー」

「なんだその棒読み!? お前が余計な事言うから白雪が暴走しちまってるじゃねえか!!」

 私の肩を掴んで揺らしはしないものの、キンジは私に訴えてくる。

「キンちゃん……どうして、女の子と一緒に暮らしてるの……?」

「いや、これは……だな」

 白雪に(すご)まれて、キンジは私の肩を離して下がって行く。

「ちょ、ちょっと何よあんた!? あたしが何をしたって言うのよ?!」

「女性が男性の部屋に押し掛けるって、どう考えてもウワサにならない訳がないと思うけどね~」

 混乱してる神崎に対して、私が答える。

「それがどうしてこうなるのよ! 答えなさいよ、霧!!」

 このお嬢さんは、常識に欠ける部分があるみたいだね。

 若い男女が一つ屋根の下で暮らしてるって聞けば、大概の人は恋人だ、愛人だと勘繰(かんぐ)るに決まってるのに。

 そんな神崎に突っかかるように白雪が刀で神崎を指し示しながら叫ぶ。

「だ、黙りなさい泥棒ネコ! き、キンちゃんと一つ屋根の下で同じ時を過ごすなど、言語道断!! そそそんな、うらやまけしからん事をしておいて、シラを切るつもりですか!?」

「意味が分かんないわよ!」

「霧さんはともかく、キンちゃんに付く悪い虫は排除です!! 悪・即・斬です!! きええええぇぇぇッ!!」

 日本刀を振りかざして神崎に上から奇声と共に斬りかかる白雪。

 そんな白雪の日本刀を、神崎は背中から2本の小太刀を取り出して交差させ、受け止めた。

 ギリギリギリと金属同士が鳴って、鍔迫(つばぜ)り合いとなる。

 うーん、ちょっとやり過ぎちゃったかな?

 残念ながら、Aランク武偵の私にこの争いは止められそうにないね。

「お、おい! お前らやめろって!!」

 キンジは止めようとするけど、2人が止まるはずもない。

 聞く耳持たずと言ったところ。

 なので、私は――

 ベランダにある防弾性の物置へと静かに隠れた。

 うん、さすがにちょっと収拾がつかなくなった。

 このまま放置でも面白そうだから、嵐が止むまで静かにしていよう。

 なんて思っていると、

「すまんが、もうちょっと奥に行ってくれ」

 キンジが扉を開けて来た。

 どうやらキンジもどうしようもないと思ったのか、こっちに避難してきたみたいだね。

 キンジは疲れたように息を吐きながら私が空けた隣に座って来る。

「いやー、大変な事になったね」

「お前がそうしたんだけどな……」

「悪かったね。さすがにあそこまで収拾が着かない事態になるとは思わなくて」

「悪いクセだぞ。面白半分にあんまり場を引っ掻き回すなよ」

「でも、大体は自己処理するでしょ? 今回は処理に失敗して爆発しちゃったけど」

「爆弾じゃないんだぞ……いや、ある意味合ってるのか?」

 キンジはそう言ってなんだか微妙に納得してる。

 それから息を一つ吐いて、

「どちらにしても、普通じゃない」

 疲れたようにそう言った。

「何が普通じゃないの?」

「あのな、霧。超能力なんて……普通に考えたらあり得ないだろ」

「だけど確かに存在してるよ」

「いや、それは……まあそうなんだが……」

 少し躊躇(ためら)うようにキンジは言って、私から顔を逸らす。

 それから話を続ける。

「アリアの一件は一応最後まで付き合う事に決めたが……このままだと、終わる頃には俺の目指す普通の生活に戻れなくなりそうだ」

「普通ね~。キンジの言う普通ってなにかな?」

 私の哲学的な質問にキンジは少し考えながらも答える。

「そりゃあお前、こんな銃をぶっ放す物騒な学校じゃなくて普通の学校生活に決まってるだろ? 戦闘術や銃に対する知識、盗聴の仕方や見破り方を学んだりじゃなくて一般の教科だけを学び、放課後には自主訓練じゃなくて部活やどこかに遊びに行ったりとか……」

「ふ~ん……そう言う生活がキンジにとっては、普通なんだね」

「じゃあお前の普通ってなんだよ?」

 ジト目になりながらキンジは逆に私に尋ねてくる。

「それはもちろん、この殺伐とした日常が私にとっての普通だよ」

「おいおい、それは……何か違うだろ」

「どうして?」

「どうしてって、もっと平穏を求めたりはしないのか?」

「それはキンジにとっての普通でしょ? 何が普通かなんて、人によって違うものだよ」

 哲学的な話になるだろうけどね。

 例えば、紛争地域にいる人にとって争いがある事が"普通"だし……私に関してもそう。ここよりももっと殺伐とした事が"普通"なんだよ。

 色んな人の反応を見たり、人の命を喰らうように生きていることがね。

 それにしても、平穏か……

 何の変化も刺激もなくて――つまらなさそうだね。

 キンジは私の回答に、実感が湧かないように尋ねる。

「そう言うものか?」

「そう言うものだよ。それよりも、キンジは超能力(ステルス)に何か疑問でもあるの?」

「いや、そう言う訳じゃないんだが……存在としては胡散臭いって思ってるだけだ」

「そこら辺の知識も深めとかないと、出会ったら面倒くさいよ?」

「そんなに会わないだろ。と言うか、早々に会ってたまるか」

「そんな消極的なキンジに、私からいつものアドバイスをして上げるよ。『無知は罪、そして知ろうとしない事はさらに罪深い事』だよ」

 私のその言葉にキンジは目を細める。

「なんだよ、随分と真剣だな」

「武偵をやめるにしても……キンジが人として成長してくれなかったら困るからね。まあ、ちょっとしたお節介だよ」

 そもそも私が面白くないし。

「余計なお世話だ」

 そう言って、キンジは外の騒がしい音が無くなったのに反応して立ち上がってゆっくりと物置の扉を開けて、部屋の様子を見ている。

 私も移動して、キンジの顔の下から部屋の様子を覗き込む。

 そこには奇抜なリフォームをされた部屋の惨状が映り込んだ。

 壁や床のあちこちに弾痕や刀傷がある。

「本当に爆弾でも爆発したみたいだよ」

「どちらかと言うと台風や地震でも起きたみたいだって言う方が合ってる様な気がするがな」

 私の言う事にキンジはそうツッコむ。

 要するに天才のSランク武偵と幼馴染みは天災であったと言う暗喩なのかな?

 そんな深い意味でキンジは言ったつもりはないだろうけど。

 物置から出て、キンジと私はそのまま鎮静化した災害の跡地である部屋の中に入って行く。

 2人は服を乱して、あられもない姿で床にへたり込んでいる。

「あー……で、引き分けか?」

 取りあえず部屋の惨状には目を(つむ)って、キンジは尋ねる。

「いえ、私は……まだ、殺れますっ……!」

 白雪の言葉に殺気が見え隠れしてる。

 床に日本刀を突き刺して杖のようにしながら彼女は立ち上がる。

 これでまた1つ、床に刀傷が増えたね。

「この……とっとと、倒れなさいよ……っ!」

 対して神崎は2本の刀を床に突き刺して杖代わりにしてふらふらと立ち上がる。

 そんなに刺して床に何か恨みでもあるのか、っていうぐらいだよ。

 なんにしてもどちらも疲労してるし、これなら止められない事はない。

 私は2人の間に立ち、

「はいはい、そこまでねっ」

「みぎゃ!?」「きゃん!?」

 軽く2人の頭をチョップで叩く。

 すると同時に、軽く悲鳴を上げた。

「……霧さん」

「ちょっと、いきなり何するのよ霧!」

 白雪は私に涙目ながらも見て、神崎は私に怒鳴る。

「近所迷惑だからこれ以上やるなら外でやってきなよ。よりによって人の部屋で暴れるなんて非常識もいい所だよ」

『うっ……』

 私の正論に2人は(うめ)く。

 キンジからは「お前のせいだろ」って言う視線が飛んでくるけど、気にしない。

 すぐに白雪は自分の行いを反省したのか、刀をがしゃんと置いてキンジに向かって正座をしだす。

 私が反省? する訳もないし後悔するはずもない。

 危機的な状況を何度か救ってるし、普段から借りがありまくるんだからこれぐらいの意趣返しみたいな事は多めに見て欲しいね。

「すみません、キンちゃんさまっ!」

 額を床に着けんばかりに白雪は猛省している。

「ア、アリアを殺せなかったばかりか、多大な迷惑をお掛けしました! キンちゃんさまが、私を捨てる、なら……アリアを殺して、私も死にますーっ!!」

 反省する場所が微妙に違う。

 どんだけ神崎を殺したいんだか……

 理子や夾竹桃から聞いてたけど、これがヤンデレと言う奴なんだね。

 見せて貰ったアニメでは男性をバラバラにして、ボートで逃避行してたけど。

「捨てるってなんだよ……捨てるって」

 キンジが呟いてる間にも、白雪は凄い勢いで近づいて(すが)るように襟首を掴んだ。

 そして、そのままキンジの首を揺らしながら話を続ける。

「動物でもオスとメスが一緒にいると知らない間に色々と作っちゃうんだよ! 幸せ家族計画になっちゃうんだよぉー!!」

「白雪さんストップ。キンジが目を回してるから、揺さぶらないでね」

 私の一言に白雪は我に返って素早く距離を取る。

「ご、ごめんなさい!」

「首が締まった……げほ。意味が分からん上に飛躍し過ぎだぞ」

 ちょっと咳き込みながらも、イラつき交じりにキンジはそう返す。

「まあ、取りあえず白雪さんは落ち着いてね」

「でも、霧さん――」

「反論は無しね。……これ以上キンジに迷惑を掛けたくないでしょ?」

 後半は白雪の耳元で囁く。

「……っ」

 息を呑むようにして白雪は黙った。

 これで白雪は大抵、大丈夫。

 落ち着いた所で私は話を続ける。

「話を整理すると、電話で話したのはちょっとしたイタズラが混じっててね」

「イタズラって?」

「簡単に言えば、白雪さんが電話で言った『そう言う行為』は全くしてないって言うことだよ。臭わせるような事を言っただけ」

「それってつまり……」

「ウ・ソ、って事だね。もっと言えば私が誤解を招くように言ったのをものの見事に白雪さんが勘違いして妄想したって言うことだよ」

 私の言葉にキョトンとした顔をした白雪はその後に、あわあわと言った感じ顔を赤くし始めた。

 それから再び白雪はキンジに向かって土下座をし始める。

「申し訳ありません、キンちゃんさまっ!!」

 誤解が解けたようだと思ったのかキンジは、頭を掻きながら言う。

「いや、誤解だと分かったなら別に――」

「白雪はいやらしい事を考えてるイケない子なんです!」

「………………」

 盛大に謝る場所を間違えてる。

 これにはキンジも絶句して、頭を抑えてる、

「白雪、別に気にしないから取りあえずもう少し落ち着いてくれ……」

「それって――」

「とにかく、俺は何も気にしないからこれ以上は謝るのも無しだ。分かったな?」

 これ以上は話が進まないと思ったのかキンジは、有無を言わさずに白雪の言葉を封じたけど。

 今の会話だと「いやらしいのを気にしない」みたいな風に取れそうなんだけど。

 実際に白雪は顔を素早く上げたかと思うと照れながらも、

「いやらしいのを気にしないって言ってくれた気にしないって言ってくれた」

 そんな事を反復してる。

 キンジは白雪から意識を外してるせいで、その呟きが聞こえてない様子。

「全く、どうなってるのよ……」

 1人だけ蚊帳(かや)の外だった神崎が、ようやく口を開く。 

「落ち着いて状況を整理しようか」

「整理するほどの状況があったか?」

 私が言う事にキンジは静かにそうツッコむ。

 単純に言えば誤解して暴走って言う事だけど。

 そもそもの原因ってキンジのような気もするんだよね。

 まあ、それは置いておこう。

「えー、まずは白雪さん。暴走の理由はキンジが女性と同棲(どうせい)してると言う事でよかったかな?」

「う、うん……てっきり私を捨てて、キンちゃんがいつの間にか内側に女の子を囲ってると思ったから……」

 私の質問に白雪は姿勢を正してそう答える。

 次はキンジに向かって問いかける。

「はい、それに対して被告人キンジ。何か弁明は?」

「おい待て、何で俺が犯罪者扱いなんだ」

 まあ、ちょっとしたノリってヤツだね。

「あんたなんかほとんど犯罪者みたいなモノじゃない」

「始業式の日の事をまだ根にもってやがる」

 しかし、神崎はノリとは別に本気の眼をキンジに向けて言う。

 キンジはそれに対して突っかからずに白雪に話しかける。

「取りあえずだな、白雪」

「はい……」

「アリアと俺は一時的に武偵としてのパーティーを組んでるに過ぎない。お前の言う女の子を囲うとかそう言うのじゃない」

 これは予想だけど、キンジは『女の子を囲う』の意味をあまり分からずに発言してそうな気がする。

「本当に?」

 白雪の尋ねるような口調に私はすかさず会話に割り込む。

「そうだよ白雪さん。大体、キンジだよ? 女性に自ら手を出したりする訳ないよ」

「……どうしてそう言えるの?」

「そりゃあもちろん、キンジが"ヘタレ"だからに決まってるよ」

「――おい」

 私の発言にキンジは不満の声を上げるけど、無視する。

「それに、キンジのあだ名を知ってるでしょ? 女嫌いで昼行灯で朴念仁(ぼくねんじん)だし」

「最後のは聞いたことないぞ」

「キンジが聞いたことないだけでしょ? ともかく、キンジが同棲してても白雪さんが考えてる間違いは起きてないよ。私も一緒にいたし」

「そうなんだ……じゃあ、『恋人』とかじゃ……ないんだよね?」

「こいびっ――!?」

 白雪のキーワードに初心(うぶ)なホームズの4世が過剰に反応する。

 その本人に目を向けると顔を赤くしながら、子犬みたいに唸り始める。

「だ、誰がこんな奴と恋人なんか! だ、大体ね、恋愛なんて時間のムダよ! 憧れたりなんかしてないんだからね!」

 これはこれは、随分とまあ正反対の言ってそうな雰囲気だね。

 そんな風に否定をする方が逆に怪しいんだよね。

 大体、憧れてたりせず興味がないのならそう言うのは無関心で素っ気ない返し方をするものなんだよね……大概は。

 ま、これは彼女みたいに分かりやすい人も早々にいないと思うけどね。

「こいつは、あたしのドレイであって……それ以上でもそれ以下でもないんだから!」

「ど、ドレイ!?」

 神崎の発言に白雪は顔面蒼白になって問題の単語を反芻(はんすう)する。

「そそそ、そんないけない遊びをしてたの!?」

 私に確認するように白雪は顔をこちらに向けてくる。

 何度も事態を収拾するのが面倒だからさすがに場を引っ掻き回したりはしない。

「白雪さん、そう言うのは一切なかったから安心してね。ただ単になんて言うのかな? 手駒みたいなニュアンスだよ」

「てっ、手籠(てご)めっ!?」

「違うからね。……キンジ、白雪さんを眠らせていい?」

 さすがの私も面倒になって来た。

「お前の言う眠らせるの前に物理的にが付きそうだから、ダメだ。あー、とにかく白雪。こいつとは恋人とかそう言うのじゃないから安心しろ」

「じゃ、じゃあ最後に聞かせてください!」

「……なんだ?」

「『キス』とかも、してないよね?」

 白雪の言葉にキンジと神崎が凍った。

 この雰囲気……やっちゃったんだね。

 いつやったんだろうって、考えて見れば簡単な事か。

 多分、ハイジャックの時にやったんだろうね。

 キンジと神崎が目を合わすと、何かを思い出したような顔をする。

 そしてすぐさま、神崎は顔を赤くして『わわわわ』と言った感じに慌てながらキンジを睨んでいる。

 すぐに何かいい答え方がないかとキンジは神妙な顔をしてるけど、すぐに答えられなかった時点でアウトだよ。

「そう……なん……だ。した、んだよね?」

 白雪の瞳孔がスーッと、小さくなっていく。

 舌足らずな口調。

 この雰囲気で本当に人を殺してないの?

 そうだったら私も少し驚くよ。

 私は冷静にそう見ていると、

「だ、大丈夫よ! そういうことは確かにあったけど!」

 神崎は焦りながらも、無い胸を張って言い始める。

 と言うか、大丈夫って……なにがなのかな?

「き、昨日分かったんだけど!」

 分かった?

 

「こ、子供は出来てなかったから!!」

 

 やけに響いた声。

 そして、その発言に本人は言い切ったとばかりに息を吐いている。

 キスして子供?

「……くっ、ふふ」

 あ、ダメだ。

 医療知識がある私には笑いがこみあげてくる。

 それに、常識的に考えても多くの人が私と同じ反応をするだろうね。

「は、あはははははははっ! あははっははははははっ!!」

「な、なに!? 何がおかしいのよ霧!?」

「お、お前な!? なんで子供なんだよ!!」

「うるさいわね、このバカキンジ! あ、あたし、あれから悩んだんだからね!!」

 キンジと神崎は何か言ってるけど、それ以上に私はおかしくて、腹を抱えてその場に(うずくま)るように床に倒れながらも笑う。

「くふふふ、はははははははっ!」

 あー、もしかしたら10本の指に入るほどに笑ったかもしれない。

 今の所として一番笑ったのは金一が騙された表情を見た時だけど。

 まさか、神崎にこれほど笑わされるとはビックリだよ。

「あ、あんたもいつまで笑ってるのよ!」

「あー、あふ……くふふ」

 神崎に言われて、私は笑いながらも立ちあがる。

「霧、いくらなんでも笑い過ぎだろ」

「だ、だって……キスしたぐらいで子供、ふふ、赤ちゃんが出来るなんて、こ、コウノトリが赤ちゃんを運んでくる並の……はは」

 キンジに注意されながらも、神崎の顔を見ると笑ってしまう。

 いかにも自分の知識が間違ってるとも知らないキョトンとした顔だから、なおさらおかしい。

「お前がそんな風に笑うなんて初めて見たな」

「あー、そうかもねー」

 キンジ以外にも見てる人はいるけど。

 私はキンジに答えながらも、言葉の端々が笑いの余韻で引きつっている。

「なによ、そんなに大笑いするって事はあたしが間違えてるの!?」

「間違えてるなんてレベルじゃないよ。下手したら見た目通りの小学生か幼児レベルだよ」

「ななな、何ですって!?」

 キンジは私の言葉に同意するように小さく頷き、神崎は怒鳴る。

「なんなの……キンジも知ってるって言うの?」

「霧が言ってただろ。と言うか早くて小学生、遅くても中学生には知る事だぞ」

 そう言うキンジは中学生レベルでそう言う知識は止まってそうだけどね。

「じゃあどうやったらできるのか、教えなさいよ!」

「俺は教えないけどな」

 キンジは変にHSSになったら困るからだよね。

 分かってても私はからかい気味に言う。

「そうだね、キンジはヘタレだから気恥ずかしいんだよね」

「地味に傷つくからやめてくれ、霧」

「はいはいっと」

 まあ、どうせなら色々と詰め込んであげるよ。

 どんな反応するか楽しみだし。

 途中で神崎が何かに気付いたように声を上げる。

「ところで、白雪とか言う子はどこに行ったの?」

 その言葉に私とキンジは顔を見合わせて白雪のいた場所を見ると……そこにはいたはずの人物がいない。

 まるで、風が通り抜けるようにいなくなっていた。

 神崎の発言にショックを受けて去ってしまったかな?

「これまた面倒な事になったかもね」

 私のその発言に、キンジは頬を引きつらせた。

 

 

 後日――

 私は放課後に神崎を女子寮にある私の部屋へと招待した。

 女子寮では同室者がいるのは1年まで。

 2年には個室が与えられる。

 与えられると言っても全員がそうじゃないけど、少なくとも私はいない。

 だから、勝手に部屋に招待した所で問題は無い。

「さて、それじゃあ正しい性知識でも教え込んであげますか」

「本当にあんたで大丈夫なんでしょうね?」

 そして、そんな生娘(きむすめ)みたいな初心な反応をするお嬢さんは私を疑ってるみたい。

「問題ないよ。私はこう見えて、医療知識はかなりあるんだからね」

「そうなの。それで、どうやったら……その、子供は出来るのよ?」

「まあまあ、そう焦らずに紅茶でも飲みながらゆっくり勉強していけばいいよ」

 キッチンで私は準備をする。

「キンジと違って、ちゃんとしたもてなしをするのは感心ね」

 うんうんと神崎は頷きながら、テーブルに座って待っている。

 そんな紅茶の準備の途中で神崎は向こうから尋ねてくる。

「ところで、最近もまた切り裂きジャックがここら辺に現れたらしいわね」

「みたいだね~。確か、新宿だっけ? 現れたって言ってもメスのような刃物で首を切られただけで、目撃証言も何もないみたいだし……いつも通りの模倣犯だって言う話も出てるけど」

「死亡時刻は聞いてる?」

「いや、周知メールで見ただけだよ」

 そもそもそれをしたのは私だろうけど、私の名前を(かた)る連中が出てきても私には関係の無いだし。

 むしろ、もっと増えてくれれば情報が錯綜(さくそう)して私が動きやすくなる。

 ただし……私が行動すれば、本物の犯行だってすぐに分かるだろうけど。

「死亡時刻は、私があんたとキンジから別れた数十分前後だそうよ」

「つまり、近くにいた可能性があるってこと?」

「そうね。それに、とっくに教務科(マスターズ)やプロの武偵達も気付いてる事だけど、最近はアジアを中心に活動してるらしいわ」

 あんまり日本でやると(しぼ)られちゃうからね。

 上手い事、時期とか共通点をあまり残さないようにするのも疲れちゃうよ。

「ふーん、なるほどね。それを話すって事は……神崎さんはジャックを追ってるの?」

「武偵の誰もが追ってるわよ。イギリスだってMI6が追ってるわ」

「もしかして、神崎さんの冤罪にジャックの罪が入ってるの?」

 私のその質問に神崎は少し声の調子を落として言った。

「いいえ、入ってないわ。ただ、武偵として犯罪者を追う。それだけの……当たり前の話よ。もっとも、今はママの冤罪を晴らすのに忙しいから無理に追う必要もないけど」

 へえ……それって私を片手間に追うって事かな?

 本人には自覚なくても、違う意味に聞こえちゃうって事はよくある事だし。

 直感の優れてる彼女なら、そんな片手間で追える相手でもないってことぐらい分かってるだろうね。

「それに、イギリスから出た犯罪者だし……のさばらせておくと面倒なのよ」

 なるほど、国の立場の問題って事ね。

 まあ、捕まえられるものなら捕まえてみろって感じだけどね。

「それよりも目の前の事でしょ? 『武偵殺し』の罪は冤罪だと証明できたんだよね?」

「そうね。これも……キンジのおかげよ」

 神崎が小さく呟いた言葉。

 その素直さが少しは本人の目の前で出せればいいんだけどね。

 そうすれば衝突も少なくなるって言うのに。

「ん、お待たせ」

 そう言って私はティーカップとティーポットを持って神崎が座ってるテーブルの上へと置く。

 それから私と神崎は少し雑談をしながらティータイムをした。

 飲み終わり、私はキッチンへと物を片付ける。

 その途中で神崎に指示をする。

「リビングの隣の部屋で待っててね」

「分かったわ」

 1人部屋だからちょっとした個室なんだけど。

 それでも2人ぐらいは入れる。

 あとは中和薬を私が飲んでおかないと。

 と言う事で、これで準備完了。

 私も部屋に続く。

「はてさて、どう説明したものかな~」

「なんでそんなに楽しそうなのよ」

 部屋に入って開口一番に私がそう言うと、神崎は目を細めてそう言ってくる。

 それは、もちろんこれから楽しい事をするからに決まってる。

 少し、時間は掛かるけどね。

「取りあえず、イスに座ってね~」

 私は言いながらも机の大きな引き出しを開けて、人体図を探して取り出す。

 まあ、大きさはかなりあって等身大だけどね。

 それを壁に張る。

 大人の男性と女性が描かれたよくある感じの人体図。

「そうだね~。まずは簡単にどこまで性知識があるかチェックでもしようかな~」

「な、なによ」

「さすがに性器って言って通じない訳がないよね?」

 私がそう言って神崎に尋ねると、彼女は顔を赤くする。

 反応が早いよ。

「そそ、それぐらいは知ってるわよ! バカにし過ぎよ!!」

「へー……それじゃあ、男性器と女性器の名称も分かるよね?」

「し、知ってるわよ」

 知ってるなら顔を逸らさないでよね。

 そんな風に、どこを知っててどこを知らないのかをハッキリさせながら神崎に淡々と説明していく。

 その度に彼女は顔を赤くして反応する。

 そんなこんなで色々と説明してると彼女は――

「は、はにゃ……」

 知恵熱でイスの上でかなりぐったりとしてる。

 全く、ここからが本番だって言うのに。

「まあ、予備知識はこんなもので。次は実際に見てみようか」

「み、見るってどういう事よ!?」

「さっき説明した性交について実際に見ると言う事だね。あれだよ、説明も大事だけど実際に見るのも大事だからね」

 私が笑顔でそう言うと、神崎はかなり慌てたように早口になりだす。

「もう、じゅ、充分よ! 私は帰る!!」

 そう言って神崎がイスから立ち上がろうとするけど、

「あ、あれ? 力が、入らない!?」

 力を入れようと踏ん張ってる。

 だけど、イスに張り付いたみたいに彼女は立ち上がれない。

「ふっふっふっふー、さすがのSランク武偵も気付けなかったみたいだね」

 私はワザとらしく笑みを浮かべる。

「ちょ、ちょっと!? 何をしたのよ霧!!」

「それはもちろん、紅茶の中に筋弛緩(しかん)剤の一種を入れたからに決まってるよ。ああ、安心してね。別に呼吸筋が弱くなって呼吸困難になるほどの量じゃないし安全なものだよ」

「私の物にだけ混ぜたって言うの?」

「いいや、あのティーポットに入ってたの全部」

 まあ、そうした方が確実だよね。

 私も飲んでるんだし、同じものだからちょっとした違いを気にする事もない。

「じゃあ、どうしてあんたは平然と立ってるのよ……」

「中和剤を飲んだからに決まってるよ。神崎さん、戦闘面では頼りになるけどやっぱりこう言う(から)め手には弱いね~。まあ、強襲科(アサルト)のほとんどに言える事だけど」

 話しながらも部屋を暗くする。

「ちょっと、どうして部屋を暗くするのよ!?」

「視聴するんだったら暗くしないと。あ、念のために手錠を掛けさせて貰うよ」

 私は神崎の手とイスに手錠を付けて繋げる。

 壁に張った人体図を片付けて、それからプロジェクターを起動して壁に投影する。

 スクリーンじゃないけど、充分に見える。

 さて、どんな反応するかな~。

「え、ちょっと……何が始まるのよ!?」

 神崎が騒がしくしてる間にもすぐに映像が流れ始めて見えたのは若い男女。

 それから映画のラブシーンみたいに濃厚なキスをし始める。

「わ、わ、わ……待って」

 

「霧、早く映像を止めて!」

「とか言いつつも、気になってるよね~」

 

「う、うわわ……」

「眼を閉じるのは無しねー」

 

「………………」

「おお、激しい激しい」

 

「……は、わわ」

 大人なDVDを見て数十分後。

 神崎は変な声をあげてる。おまけに知恵熱が凄い。

 さっきよりもイスにぐってりしてる。

 視聴中はなかなかに良い反応をしてくれた。

 私的にはそれなりに満足。

 途中から本人も気になってたのか眼を逸らしながらも釘付けになってたけど。

 ちょっとやりすぎたかな。

「はい、お疲れ様」

 そう言って神崎を解放する。

 それから神崎は、知恵熱のせいで足取りがフラフラとしたまま私の部屋を何も言わずに出て行った。

 キンジにも同じ事やったらどうなるだろうな~。

 ちょっと試してみたいと思った。

 

 




Q:大人なDVDはどこから?

A:ネットって便利だよね。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。