緋弾に迫りしは緋色のメス   作:青二蒼

27 / 114
私の場合、更新日時が空くって言う感覚は大体1ヶ月以上経った場合です。
早いとこバスジャックとハイジャックの話を書きたい。
だけど、AAキャラとの話も書きたい。
そしてAAのかなめちゃん、えげつない。


26:火野ライカとの出会い

 

 キンジとホームズの4世が出会っての翌朝。

 結局の所、私はキンジの家に泊まる事になった。

 制服のまま寝る事になるのは当然の事で……

 私はソファーで掛け布団をして寝た。

 まあ……ベッドよりもソファーの方がいいんだよね。

 不意打ち対策的な意味で。

 そして、基本的に私は眠りは浅い。

 だから自然と早起きになる訳なんだけど……今は夜明けか。

 太陽が昇り始めたって言う所で、ベランダの方向を見ると朝焼けの空が見える。

 ソファーから起きてキンジ達が寝てるベッド見ると、どうやらまだ寝てるみたい。

 私の見ている両サイドに2段ベットがあり、左サイドの下にはキンジ、右サイドの上には神崎が寝てる。

(対人地雷なんて、なんで持ってきてるんだか……)

 私は右の2段ベットに防衛線のように張られている(トラップ)を見る。

 そこにはクレイモアに円形型の地雷、そして信管に繋がってると思われるワイヤーが張ってる。

 どう考えても、殺す気だね。

 火薬の量を調整されてたとしても危ない。

 そして、肝心の神崎はと言うとさっきから「ももまんプール……」とか呟いてる。

 暢気(のんき)なものだね。

 ………………。

 私は左のレッグホルスタ―に入ってるM500を抜いて、神崎の頭に照準を合わせる。

 そして――、

「バーンってね」

 トリガーに指を掛けず、小声でそう言いながら撃った動作だけをする。

 ここで彼女を殺すのは簡単。

 手段を選ばなかったら、それこそ瞬殺だね。

 だけど、理子にも答えたようにお父さんとの約束で戦役まで手を出さないって約束してるんだよ。

 見られない内に銃を仕舞って、私はリビングへと戻って声を出して背伸びをする。

「んんー……」

 取り合えず朝食の準備でもしておこう。

 

 ◆       ◆       ◆

 

「……ちゃん……てよ」 

 誰かが俺の体を揺らして、声を掛けてる。

 誰だ? アリアか?

 なんて思ってる内に、俺の眠りが段々と浅くなっていくのが分かる。

「お兄ちゃん、起きてよ」

 アリアとは違うアニメ声で、こんな事を言ってくる人物を俺は知らない。

 つうか、俺に妹なんていない。

「――風穴空けるわよ」

 それを聞いた瞬間に俺は、一気に覚醒する。

 ガバッ! っと自分に掛かってた布団を(めく)り、起きる。

 朝から風穴とか、勘弁して貰いたい!

 と思って起きたが、目の前にいたのは霧だった。

「あ、あれ……?」

 俺は変な声を上げた。

 寝ぼけてたのか?

 上手く頭が働かない……が、確かにアリアとここにいる俺達以外の声を聞いた気がするんだが。

「どうしたの?」

 霧は不思議そうにベッドの外から俺を覗き込んでくる。

「あ、ああ……今、アリアの声を聞いた気がするんだが」

「本人は寝てるよ?」

 霧はそう言って、俺の寝てる反対側の2段ベッドの上段を見る。

 俺の部屋に押し掛けて来た侵略者(アリア)は、気持ち良さそうに寝てる。

 その様子を見ると、寝起きだが若干イラつく。

「つーか、今何時だ?」

「朝の6時」

 尋ねると、霧はすぐに答えた。

 俺がいつも乗ってる武偵高行きのバスが7時58分だから、2時間近くもありやがる。

 昨日、アリアの所為(せい)で寝付けなかった俺としてはもう少し寝ていたい。

「悪いけど私、学校の準備のために寮に戻らないといけないからね」

 そう言えばそうだった。

 結局、霧は俺の部屋に泊まったんだったな。

 だとしたら準備も含めて早めに戻らなくちゃいけない。

「すまんな……って、なんで俺を起こした?」

 寝起きと言う事もあり、アリアの事で若干イラついてたせいでキツイ口調になってしまった。

「ん? 朝ご飯が出来たからね。神崎さんの分もあるから起きたら適当に食べといてよ」

 しかし霧は気にした様な感じはなく、笑顔でそう言ってくる。

 だとすると今、二度寝なんてしてしまったら朝飯も冷めるしバスにも乗り遅れる可能性が出てくる。

 ……起きるか。

 霧は一足先にリビングに戻り、俺もその後に続くように起きる。

「それじゃあ、私は戻るね」

「悪かったな。付き合って貰って」

 俺がそう言うと、彼女はバックパックを背負って"ベランダ"へと向かう。

 普通に玄関から出ろよと思わなくもないが……ここは男子寮。

 霧みたいに早起きしてる奴が俺の部屋から女子が出てるのを見つかったら、面倒な事になるだろうな。

 などと、上手く回らない頭で考える。

「また学校でね」

 最後にそう言って霧は、ワイヤーをベランダの手すりに引っ掛けて飛び降りた。

 さすがに朝から大声で突っ込む気にはなれん。

 そして、イイ匂いのするキッチンの方を見ると……確かに朝食がそこに並んでいた。

 しかも和食だ。

 朝ご飯か……白雪ほどではないが、アイツも世話好きだな。

 

 ◆       ◆       ◆

 

 女子寮に戻って、私は学校の準備をしてちょうどいい時間に出た。

 出る際に盗聴器のチェックも兼ねてインカムを着けると、神崎とキンジが言い争ってるのが聞こえた。

 いやよいやよも好きの内ってね。

 キンジ的には、本当に迷惑なんだろうけど……神崎みたいに多少強引にでも引っ張って行った方がキンジ的にはちょうどいい。

 盗聴器のチェックが終わったのですぐに切る。

 周波数を感知されると困るし、ここは武偵高。

 言って見れば敵地だからね。油断は禁物。

 特に教師陣は舐める訳にはいかない。

 あっちには経験があるし、それぞれの分野に専門家(スペシャリスト)がいる訳だしね。

 だけど今の所、誤魔化せてる。

 それから学校に到着し、キンジと神崎も遅れて到着する。

 その道中にキンジの愚痴を色々と聞いたりする。

 だけど、隣に神崎さんがいる訳で……結局は彼女に追い回される。

 それにしてもあの子、トリガーが(ゆる)いね。

 銃の、じゃなくて本人の指が。

 そんなこんなって言う感じの事があり、その後は教室で神崎と武偵高用の携帯で連絡先を交換した。

 そして、今現在は昼休み。任務掲示板(クエストボード)の前にてキンジを発見する。

任務(クエスト)でも受けるの?」

「ああ、探偵科(インケスタ)のな」

 キンジは声を掛けた私に驚く事も無く答えた。

「俺の日常が壊されつつあるからな。今の所お前には重要な問題じゃないだろうが、俺にとっては死活問題だ」

「まあ、そうだろうね。私もドレイだなんて言われてるけど、別にどうでもいいんだよね。武偵をやめるわけでもないし」

「だからだ……なんか、ほとんどアリアと俺の問題みたいだしな。だから、俺はしばらくアリア対策に外に出る。アイツには言うなよ」

「はいはいって」

 釘を刺すように言ってキンジは去って行った。

 多分、探偵科(インケスタ)の専門科棟に行ったんだろうね。

 最初に謝っておくよキンジ、心の中でね。

 私は早速、神崎の携帯の番号に掛ける。

「どうもどうも」

『キンジが動いたの?』

 いきなり電話に出た神崎はそう聞いて来た。

 私を含め、よっぽどキンジを引き入れたいみたいだね。

 まあ、私はおまけって感じがするけど。

「まあね。どうやら任務(クエスト)に出て、神崎さんの対策をするみたい」

『キンジの癖に生意気ね……分かったわ。という事は、探偵科(インケスタ)の専門科棟にいるのね』

 生意気、ね……随分前から分かってるけど、神崎は人の事を下に見てるね。

 ただ単に舐められたくないから高慢でいるのか、それとも不安だから高飛車でいるのか。

 まあ、彼女の場合は両方かもしれないけどね~。

 なんて考えながらも私は答える。

「うん、任務(クエスト)の申請に行ってるだろうね」

『待ち伏せするしかないわね』

「午後の強襲科(アサルト)の戦闘訓練はどうするの?」

『あたしは卒業分の単位は全て(そろ)えてあるのよ。そうだ、あんたもついてきなさいよ』

 人の都合を考えないね。

 まあ、私個人としては一緒に行ってもいいんだけど……

「昨日帰って来たばかりだし、私は強襲科に顔を出しておかないといけないから行けないよ」

 私がそう答えると電話の向こうで少し残念そうに、

『そう、分かったわ』

 そう言って神崎は電話を切った。

 さてと、それじゃあ行こうかな? 久々の強襲科に。

 

 

 私は強襲科が所有してる専門科棟……って言っても、体育館の形をした戦闘訓練所だけどね。

 ここでの学科の生存率は『97.1%』、つまり100人の内3人弱は卒業時には居ない。

 うん……アメリカよりも生存率高いね。

 あっちは3割、10人に3人は死んでるからね。

 なんて考えながらも私は戦闘訓練所に入る。

 ガラガラと言う音が、室内に妙に響く。

 そして、ほとんどの人が戦闘の手を止めて私の方を見る。

「……白野!」

 1人の女子が声を上げて、私の名前を呼びながら嬉しそうな笑顔で走ってくる。

 セミロングの髪にツリ目をした子だ。

「白野ッ!」

 私の事を呼びながら、彼女はさらに走るスピードを上げてくる。

 次の瞬間、

「死ねえええええええッ!!」

 獲物を見つけたとばかりに、叫びながら飛び蹴りをしてくる。

 私は飛んでくるそれを軽く躱して、空中にいる彼女を軽く(はた)き落とす。

 ゴスン!

「~~~~~~~ッ?!」

 受け身に失敗した彼女は後頭部を床に打ち付けた。

 ゴロンゴロンと頭を抑えて転がり、悶絶してる。

「白野じゃねえか」

 そう言って男子生徒の1人が私に声を掛けると、数十人がよってくる。

 私は悶絶してる彼女を無視して彼らに答えて行く。

「いやー、久しぶりだね」

「突然に学校を去ったかと思えば、半年も空けやがって」

「家庭事情なんだから仕方ないんだよね」

「知ってるわよ。たしか、アメリカとイギリスに行ってたんだったね。川崎さんから聞いた」

 そうやって色々と答えてると、

「おい、無視するな!」

 悶絶してた彼女が復活した。

 誰もが彼女へと注目し、中には「またか……」みたいな顔をしてる。

「ああ、久しぶりだね」

「久しぶりじゃない! ウチを簡単にあしらいやがって」

 彼女は男っぽい喋り方で私に詰め寄ってくる。

 私は取りあえず謝っておく。

「あーうん、ゴメンね。ところで」

「な、何だよ」

「誰だっけ……?」

 私がそう言うと彼女はプルプルと震えだし、FN ハイパワーと言う銃を私の顎に突きつけてくる。

 まあ、単なる脅しなんだろうね。

「お前、本気で言ってんじゃないだろうな……?」

 青筋を立てて、彼女はそう言ってくる。

「冗談だよ。久しぶりだね東海林(しょうじ)さん」

 東海林 夏海(なつみ)――1年の時に私にちょくちょく勝負を挑んでくる女の子。

 何かと勝気で……ってまあ、強襲科にいる大体の人が強気だったりもするんだけどね。

 彼女も割と例に漏れず強気である。

「ワザとなんだよな? 帰って来て早々にウチをからかってるんだな?」

「うん。ワザとだよ」

「よおし、死なす。死んでくれじゃなくて、死なす」

 私が笑顔で答えると、彼女はひくひくと頬を引くつかせる。

 彼女も彼女でこうしてからかい甲斐(がい)があるんだよね。

「まあまあ、東海林さんも落ち着いてよ」

 そんな彼女を引き止めるのは、

「不知火、久しぶりだね」

「うん。久しぶりだね、って言っても同じ教室なんだけどね。昨日は声を掛けてる暇はなかったけど」

 相変わらずの優しい笑顔で不知火(しらぬい) 亮が私にそう挨拶をする。

「そう言えばそうだったね。ゴメン、忘れてたよ」

「まあ、あの時は帰って来たばっかりだったからね。忙しくても仕方ないよ」

 私をフォローするように不知火はそう言ってくる。

「おう、お前ら! 騒いでんと訓練に戻れや!」

「マズイ、蘭豹(らんぴょう)だ」

 誰かがそう言うと、クモの子を散らすように訓練へと戻って行った。

 東海林さんは少し不機嫌そうな顔だったけど。

「戻って来たな、白野」

 私の目の前に立つ大女。

 強襲科の主任である蘭豹がそう言ってくる。

「あ、はい。ただいま戻りました」

「遠山のド阿呆(あほう)はどうした?」

「もうパートナーじゃないですよ」

「チッ、そう言えばそうやったな。探偵科(インケスタ)に行ってから腑抜けになりおってからに」

 ムカついたように彼女はそう言う。

 そうだろうね。私とキンジがいた時は良い風潮があったからね。

 Sランクって言ったら近寄りがたい存在だし、キンジは社交性に欠けるけど……そこまで取っつき(にく)いって訳ではなかったんだよね。

 何だかんだで付き合いは良い方だし、それにキンジには人を引き付ける魅力みたいのがあるからね。

 私は私で普段から笑顔でいるから、そこまで警戒されてる訳でもない。

 切磋琢磨(せっさたくま)する上ではイイ見本だったんだろうね。

「まあええわ。お前も腑抜けになってないか試したるから、ちょっと(ツラ)を貸しや」

 付いて来いと言ったばかりに、蘭豹は振り返って背中を向ける。

 私は黙ってその背中に続く。

 ある意味とばっちりだね。

 そのまま、私は施設内の射撃レーンに連れて行かれる。

 パァン! パン! パス!

 私以外にも他の人たちが射撃レーンにいるのは当然で、様々な銃声が聞こえる。

 その中でも私に見覚えがある人がその手を止めて、何人か見てくる。

「よし、まずは中距離射撃や。スコアは100ポイントでやる。お前は違う銃2丁もっとるから、1丁ずつ交代でやれ」

 簡単な説明だけを受けて、私はレーンに立って耳当てをする。

 私は取りあえず最初にグロック18を抜いて構える。

 射撃はセミオートで。

「始めッ!!」

 大声で言ってるんだろうけど、耳当てがあるせいで小さく聞こえる蘭豹の声に合わせて私は撃つ。

 連続で聞こえる銃声。

 マンターゲットのスコアが一番高いちょうど手の部分に順調に当たる。

 そして、終了する。

 後ろを振り返ってみると、スコアの結果の紙を手に取ってみている蘭豹。

「次は、ウチと同じ銃の方や」

 そう言えば、蘭豹も私と同じ銃だったね。

 グロックの結果はもう一方の結果も出てから言うと……把握したよ。

 『象殺し(エレファントキラー)』――M500の方を抜いて、同じく構える。

「次、始めッ!」

 蘭豹の掛け声と同時にグロックの時と同じく撃つ。

 こっちは反動が凄いから、グロックみたいに連続で撃てないんだよね。

 撃ち過ぎたら腕がおかしくなる。

 そして撃ち終わって、結果が出る。

「ふーん、まあまあやな」

 耳当てを外して、蘭豹の近くに行くとそう言って紙を見せてくる。

「100ポイント中グロックの方は96。M500は87。及第点やな。動かない的やけど」

「遊びに行ってた訳じゃないですからね」

「今ので分かったわ。もうええで、好きに訓練行っとけ」

「格闘は見ないんですか?」

 藪蛇かなと思いつつも、私はそう聞く。

東海林(しょうじ)を落とした動き見てたら分かるわボケ」

 この人、さっきのを見てたんだね。

「そうやな……ついでやから、1年でも相手しとけ。お前は戦徒(アミカ)がおらんしな。目ぼしいのいたら、好きにしい」

 そう言って蘭豹は違う生徒を見に行った。

 戦徒(アミカ)、ね。

 戦徒(アミカ)制度――簡単に言えば先輩後輩がコンビを組み、二人一組(ツーマンセル)で教えると言う制度。

 イ・ウーでも、そんな感じだったなあ。上下関係は年齢じゃなくて力だったけどね。

 ここもあんまり変わらないか……先輩でも実力が低かったら舐められるし。

 私は大歓迎だけどね。

 舐めてるって事は、油断してるって事だし。

 それに、そうやって(おご)ってる人ほど……叩き潰すのが楽しいんだよね。

 しかし……戦徒(アミカ)か。

 私が武偵を育てるって言うのもおかしな話なんだけどね。

 あー、でも私好みに育てて"こっち側"に引き込むのもアリかな?

 そう考えながらも、私は皆が訓練してる大きな空間へと戻って来た。

「やあ、白野さん。大丈夫だった?」

 そして、不知火が私に話しかけてくる。

「別に何ともないよ。ただ単に武偵高を離れてたから、(にぶ)ってないか見られただけだよ」

「なるほどね。結局、遠山君は戻ってこないのかな?」

「事情を知ってるんじゃないの?」

「僕と武藤君は知ってるよ。だけど、事情を知っても知らなくてもここにいる何人かは戻って来て欲しいって思ってるよ。もちろん、僕もそうだけどね」

 今でもキンジは割と好かれてるんだね。

 本人が聞いたら微妙そうな顔をしそうだけど。

 私は話は終わりとばかりに、別の話題に切り替える。

「ところで、1年生ってどこら辺で訓練してるかな?」

「向こうの方だけど、いきなりどうしたんだい白野さん?」

「先生が1年生でも相手してきな、だってさ。まあ、高校になって外からも知らない子が入って来ただろうからね」

「つまり、顔見せって事だね。じゃあ僕は邪魔にならないように見学してるよ。ちょうど休憩したかったからね」

 そう言う不知火は確かに汗をかいてる。

 さっきまで訓練してたんだろう。

 しかし、やっぱり食えない人だよ……見学とか言って私の実力を測るつもりだろうね。

 その程度の事、私には読めてるよ。

「まあ、ご自由に」

 最後にそう言って私は不知火が言った1年生の中でも、盛り上がってる場所を目指す。

 

 ◆       ◆       ◆

 

「よっしゃあ、取った!」

 そう言ってアタシは男子生徒の腕を捻り上げて、組み伏せる。

 ギリギリとさらに腕を捻り上げる。

「クソッ! イテテテテテテ!? ギブだ、ギブ!!」

 なんだよ根性ねえな。

 なんてアタシは思いつつもタップしてる男子生徒を放す。

「相変わらずの男女め」

 そして吐き捨てるようにそう言う。

 別に言われ慣れちゃいるから、どうという事も無い。

「へ、悔しかったら勝ってみな」

 挑発するようにアタシはそう言い返してやる。

 事実負けてるから、何も言い返せずにそいつは去って行く。

「さすがだね、ライカ!」

 アタシは後ろでそう褒める友人――間宮 あかりに親指を立てて振り返る。

「今の所5連勝か」

「おい、誰かアイツの連勝止めろよ」

 男子が口々にそう言ってくる。

 今のアタシは連勝でノってるんだ。

 誰が来たって負けるもんか。

「先輩でもいいかな?」

 そう言って、誰かが他の1年生の間を縫うようにしてアタシの前に現れる。

「お、面白い人が来たな」 

 アタシの近くで見てた先輩がそう言う。

 あの人、誰だったっけ……?

 セミロングより長めの黒髪に、幼い印象を受ける顔立ち。

 身長はアタシより低いだろうけど……あんな先輩、強襲科(アサルト)にいたか?

「おい白野! ウチと戦わねえのかよ!」

 東海林先輩が、人混みを分けて叫ぶ。

「東海林さんは半年前に割と頻繁(ひんぱん)に戦ったでしょ? たまには違う人と訓練させてよ」

 目の前の先輩はそう言うけど、東海林先輩が言った名前にアタシは驚いてる。

「白野って……もしかして、あの遠山先輩と組んでた先輩ッ?!」

「その白野で間違いないけど?」

 アタシの言葉に白野先輩はにこやかにそう言う。

 マジか……と、アタシは思った。

「えっと、誰?」

 そうだった、あかりは去年の2学期に来たから知らないんだ。

 ちょうど白野先輩は夏には去っちまったし。

 それに、あかりはアリア先輩以外にほとんど眼中にないしな……

 アタシはあかりに近づいて教えてやる。

「去年の夏に家庭の事情で武偵高を去った人だよ。強襲科(アサルト)の主席候補だった遠山 キンジ先輩の元パートナーで、Sランク武偵に近いって言われてたAランク武偵だ」

「えっ!? そんなに凄い人なの?」

「ああ、それにここの主任である蘭豹先生と同じ大型拳銃をある程度使いこなすらしい」

 去年、アタシは中等部(インターン)だったからあまり知らない。

 だけど、同じ強襲科(アサルト)だったからそれなりにウワサになっていた。

 1年にプラチナコンビって言われるコンビがいるって言う話。

 しかも任務成功率(ミッションリザルト)も今の所100パーセントって言う話も聞いてる。

 だけど、あとの方は都市伝説みたいな感じみたいだけどな。

「お話は済んだかな?」

 白野先輩はそう言いながら待ってくれていた。

「あ、はい。すみません」

「ん、いいよいいよ。私を知らない人もたくさんいるだろうし」

 後輩だからと言って見下してる訳でもなく、白野先輩はそう言ってくれる。

 何て言うか、話しやすい人だな。

「それで、どうかな? 私とちょっと訓練してくれる?」

「別に構いませんけど、何でアタシなんですか?」

「さっき、蘭豹先生に1年生の相手でもしてこいって言われてね。盛り上がってる所、先輩が割り込んで悪いんだけどね」

「い、いえ。別に気にしてません」

 少し緊張しながら、受け答えしてると後ろからあかりの堪えた笑い声が聞こえる。

「ら、ライカが……敬語使ってる。……ぷっ」

(あとで覚えてろよ)

 などとアタシが思ってると、白野先輩が目の前まで来る。

「それじゃあよろしく。白野 霧だよ」

 握手を求めるように、手を差し出す。

(応じないと失礼になるよな)

 そう思って、アタシも手を差し出す。

「1年の火野 ライカです」

 握ろうとした瞬間に、アタシの腹に何か突き付けられてる。

「油断大敵」

 そう言っていつの間にか、先輩が握手をしようとした手にナイフがあった。

 一体いつ抜いて……

「ちょっと試させて貰ったけど、武偵ならこれぐらいは反応しないと」

 そう言ってバカにしてる訳でもなく、愉快そうに笑ってる。

 すぐにナイフを仕舞って白野先輩が握手に応じる。

 アリア先輩みたいに賞を取ってる訳じゃないけど、この人もやっぱり凄い人なんだ。

(これが、Sランクに近いって言われるAランク武偵……)

 アタシがそんな風に思ってる内に先輩は離れて行き、オープンフィンガーグローブを手にはめる。

「さて、訓練を始めよっか」

「は、はい!」

 そうだ。気合いを入れないと。

 相手は先輩なんだし、油断大敵だ。

「ルールは、噛みつき(バインティング)目突き(サミング)は無しでそれ以外は有りって言う感じ?」 

「はい、そんな感じです」

「銃以外の道具は? 刀剣とか」

「一切無しです」

「勝利条件は?」

「相手が降参するか、逮捕術に(のっと)った体勢であれば勝ちになります」

 近くにいたルールを知ってるアタシと同じ1年の男子生徒が、緊張気味に白野先輩に答えて行く。

「なるほどね。それじゃあ……いつでもいいよ」

 そう言って、先輩は掛かって来いとばかりに人差し指を動かす。

 挑発……してるんだよな。

「Sランクに近いだか何だか知りませんけど、後悔しないで下さいよ」

「そう言うなら私を後悔させてみなよ」

 この先輩、涼しい顔で言ってくれる。

 向こうは仕掛ける気はない。

 なら、アタシから仕掛けてやる。

 ステップを踏んで、駆けだす!

 肉薄して、フェイントを掛けてからの鋭い蹴りを放つ。

「うーん。なかなかのフェイントだけど……引っ掛からないよ」

 そう言って先輩はアタシの蹴りを脚で防御して掴んだ。

 だけど、ここから!

 地面を思いっきり蹴って、掴まれていないもう片方の足で先輩の顎を狙う。

 そして、蹴りが顎先に触れる瞬間に白野先輩の顔が上へと向く。

 決まった!? いや、手応えがない。

 多分、アタシのつま先が顎に触れる前に顔を上げたんだ。

 しかも脚を放してくれてない。

 マズイ……このままじゃ組み技(グラップリング)を仕掛けられる。

 アタシが空中に浮かんでると、先輩はアタシの脚を捻る。

 結果、アタシは天井じゃなくて地面を見る事になった。

(ここで倒れたら、負ける!)

 腕立て伏せの要領で体が着く前にバン! と、両手を地面につける。

 そのまま体を捻り、掴まれてる脚を捻って抜け出す。

 最後に先輩の腹を蹴って、バク転の要領で距離を取る。

 打撃の蹴りじゃないから先輩にダメージはない。

「――ッ!?」

 地面に着地する直前で、既に先輩が距離を詰めていた。

 着地したら硬直で反撃出来ない。

 だったら、着地すると同時に攻撃するしかない。

 アタシは手を組んで、迫ってる先輩の頭に拳を叩き落とす。

 タイミング的にもちょうど頭の位置。

「残念そんなあからさまの読めてる、よ!」

「……グッ!」

 最後の一言同時にアタシは後ろに飛ばされた。

 防がれた。頭上からのアタシの攻撃を防御すると同時に腹に一発決められた。

「ライカ! 前だよ!」

 あかりの声が聞こえて前を見ると今度は空中に浮かんでる先輩。

 すぐに腕を交差させて防御すると、カンフーアクションみたいな2連続の蹴りが、アタシの腕を襲う。

 空中だって言うのに重い蹴りだッ!

 (ひる)んでると、今度は懐に潜り込まれた。

 防御してる腕の間から、先輩の腕が伸びてきてアタシの襟首を掴む。

 さらに腕を掴まれて……足技を掛けられる。

 完全にアタシを投げ飛ばすつもりだな。

 だけど――

(甘いぜ、先輩)

 アタシはすぐに足技を躱して、クルリと体を回転させながら先輩の前へと出る。

 その際に逆に掴み返して先輩を投げ飛ばす。

 これはさすがに決まった!

 ……アレ?

 おかしい。

 確かに先輩を投げ飛ばしたのに。

 アタシが、浮いてる感じがする……

「ガハッ!」

 背中の衝撃と共に肺から空気が漏れる。

 天井が見える。

 そして、先輩が私をまたいで見てる。

 逮捕術であった……腕と脇の間に足を置くと言う奴をやられてる。

 つまり、負けた。

「えっと勝者、白野 霧」

 審判役の男子生徒がそう言った。

「カーッ、負けた……」

 アタシは寝ながらそう呟く。

 なんつーか、先輩だから負けたとかじゃなくて。

 何も有効打を与える事が出来なかった。

 それが悔しい。

「良い動きだったよ」

 アタシの上からどいた先輩は、そう言って手を差し伸べて来た。

 その手を取って立ち上がる。

 近くで並んで見るとやっぱり、アタシより小さいな。

 まあ、アタシは165近くもあるし……普通の女子に比べたら背が高いんだから当たり前だけどな。

「悔しいだろうけど、逆によかったでしょ? 強い人と戦えて」

 白野先輩、自分でそう言うのかよ。

 と、思ったけど……確かに強かった。

「はい! ありがとうございました!」

 感謝を籠めて頭を下げる。

「素直な子は良いね。よっし、誰か他の1年生で挑みたい人がいたら来てもいいよ。敗北だとか、そんなつまんない事は考えないで来てね。これは訓練だからね」

 そう言って、笑顔で言う先輩は女の子らしかった。

 憧れるなー……こんな風に強くてカワイイ先輩。

「ああ、それと。戦ってる最中にあわよくば触れられるかもね。色々と」

 そう言った瞬間に男子の目の色が変わった。

「いいのか?」「良いんじゃない?」「じゃあ俺が」

 どいつもこいつも単純だなー。

 何て思いつつもジト目になる。

 あの先輩、絶対確信犯だ。

 結果から言うと下心のある男子は、挑んだ全員が呆気なく退場した。

 




赤松サンタさんまでもう少しじゃあ!
原作16巻気になる!
あの表紙に描かれてる女の子の正体は!?
と、気になってる所です。

あとですね……個人的な話ですけどポッと出た新人に抜かれるのってなんか嫌ですね。
だけど、仕方ないじゃない人間だもの。嫉妬の一つくらいしますよ。
だからと言って荒らしなんてみっともない真似なんてしませんけどね。
実力で勝ち取ってやりますよ。
と言う意気込み。

用語解説

FN ハイパワー……1937年に完成した銃の中では古参の銃。マガジンセイフティという機構を持っており、同じ機構がFNファイブセブンと言う銃にもあり、他にも同様の機構を持った銃がいくつかある。現在でも生産が続けられていてその生産数は100万を越す。
正式名称はピストル・オートマティック・ブローニング・モデル・ア・グラン・ビザンスである。
ちなみにハイパワーと言う名前が付いているが、別段強力な弾丸が撃てるわけではない。完成した当時としては10発以上の装弾数を持った自動拳銃がなかったために、強力であったのでハイパワーと名付けられた。標準弾数は13発。
鏡高菊代も使用していたと思われる。実際に撃ったのは望月萌ですけど……

マガジンセイフティ……安全装置の一つ。弾倉(マガジン)が入っていなければ撃てない仕様となっている。弾倉がない状態で薬室(チェンバー)に残ってる弾を撃たないための工夫である。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。