調べながら小説を書くとどうしても時間が掛かる。
まあ、自分で少しこだわりたいからやってるんですけどもね。
それと、遂に買ってしまいましたよ。
……やがて魔靭のアリスベル、1巻だけですけど。
なので、早速としてほんの少しだけアリスベルでの用語が出ます。
もうすぐ、新年。
私はまだ、イギリスのダラム市にいるお姉ちゃんの所にいる訳だけど……日本だったら時差の関係で既に新年を迎えてるだろうね。
さっきもキンジから新年の挨拶をメールで貰ったし。
「………………」
その前に問題は私の部屋で私を立ったまま無言でじっ、と見てるロシアの
うん。そんなに日も経ってないから未だに警戒されてる。
今のところは行く当ても無いし、色々と仕方なく従ってる感じ。
装備は無いけど、きっとあの装備無くてもそれなりの戦闘力はあるんだろうね~、とか思ったり。
まあ、あの装備無かったら戦えないなんて言う、そんな使えない兵器を作る訳ないだろうし。
だとしたら素手、徒手格闘とか覚えてそうだな~。
ロシアで格闘術と言えば……やっぱりシステマかな?
格闘術と言うよりは殺人術に近かった筈だけど、そこまで詳しい事は知らない。
と、違う事考えてた……
話を戻して問題はこの子をどうするか? なんだよね~。
つまりは、お姉ちゃんの所に置いておくのはいいんだけど、問題はその次。
さすがに何もさせないままって言うのもマズイし……タダ飯食らいとか、ジェームズがうるさそう。
だから、私がこの屋敷にいる間に彼女の役割って言うのを決めておかないとね。
ただ……思いつかない。
でもそれって、かなり目立つんだよね。
下手したらロシアから回収部隊みたいなのが来るかもしれない。
さすがの私でも大国は相手に出来ないよ。
逃げる事は出来るけどね。
……そうだ。もう一つ忘れてる事があった。
「傷はどう? 大丈夫かな?」
私に突然、話しかけられながらも驚くことなく彼女はコクリ、と頷く。
そもそもそれが目的で呼んだんだった。
「ま、一応は診ておこうと思うから服を脱いでくれるかな?」
「………………」
今度は頷かない。
何にもしないって言うのに……やっぱり最初にやり過ぎちゃったかな?
「仕方ないな~」
取りあえず、私が持ってるグロックとM500をベッドに置いておいて。
服の裏にあるナイフと、あとは袖の中にスリーブガンみたいに仕込んでるナイフと――
武装を解除しておく。
「ほら、何にも持ってないよ」
両手を広げてアピールする。
そしてベッドに腰掛けて、ぽんぽん、と隣に座る様に促す。
これでようやく、彼女は動いてくれた。
すぐに心を開いてくれるとは思ってない。
理子の時は、どれぐらい掛かったかな?
確か、半年……いや、恐怖心とかを無くすのに2ヶ月か3ヶ月ぐらいは掛かってたはず。
完全に心を開いてくれたのがいつだったっけな?
まあ、とにかく焦る必要は無い。
「……ん」
静かに声を上げる彼女の方を見てみれば、ちゃんと言われた通りに脱いでくれた。
下着はちゃんとつけてるけどね。
まずは、背中から診よう。
ベッドの上に乗って、彼女の横から背後に回る。
しかし……綺麗な肌だね~。
見ててそう思う。
ロシア人なのもあるけど、研究所生活も関係してるんじゃないかなって言うくらいに白いんだよね。
私としてはこう言う肌を見てると、切りたくなるんだよね。
やらないけど。
彼女の背中には白い肌とは別の物が見える。
それは、武器の詰まった『箱』と接続するためのコネクター。
ちょうど背骨に沿うようにして等間隔に円状の金属板が並んでる。
きっと、この背骨以外にも目に見えない部分で改造されてるんだろうなー、とか思いつつも診察する。
ふーん……貫通してたおかげで傷口を縫合するだけで済んだんだけど。
ある意味奇跡だね~。
それでも傷口はもちろん完全には塞がってないから安静にしておく必要がある。
次は前の方を診よう。
診るって言っても、大して変わらないだろうけどね。
ベッドを降りてから椅子を彼女の前に持って来る。
それから座って再び正面の傷口を診るけど……大して変化は無い。
順調に治ってる。
「取りあえず、横になってくれるかな? ガーゼとか貼り直すついでにもう少し傷口を診るから」
えっと、ガーゼどこやったっけ?
ほとんど薬品しか棚に置いてないからね~。
多分、メスとかの医療道具と一緒にある筈なんだけど。
ああ、あったあった。
ついでに消毒液とか持って行っとかないと。
『Bonne Année!』
大声で扉の向こうから聞こえてくる声。
フランス語で『あけましておめでとう』か……
フランス語にこの声って言う時点で、理子だろうね。
どうやら、帰ってきたみたい。
ガーゼを取り替えて、傷の縫合もちゃんと出来てる事を確認する。
背中の方はこの間やったからいいや。
「よし。特に問題は――」
「あっけまして、おめでとー!!」
扉が力強く開けられる音がした。
こっちに来るのは予想できてたと言うか、足音聞こえてたからね。
「うん。あけましておめでとう……日本で言えば、まだ大晦日だけどね」
「ああ、そっか。イギリスだから時間を戻さないといけないんだった……って、お姉ちゃん。ベッドの上で寝てるのって、誰?」
まあ、普通に気づくよね。
と言うか、理子に彼女の事を話すのを忘れてた。
イ・ウーに彼女を運んだ時も理子は任務だったのかいなかったし。
「この子はね、ロシアの研究施設で拾った子だよ」
「拾ったんだ……お姉ちゃんがここに連れてくるって珍しいね。ルミルミ以来じゃない?」
「そうだったっけ?」
あんまり覚えてないな。
それにルミちゃんはフィンランドだし、そう簡単にこっちには来れないだろうからね。
「まあ、その話は置いておいて。どうも、ジルお姉ちゃんの妹、りっこりんでーす! よろしくね!」
ビシッ、と理子は敬礼をしながら笑顔で小首を傾げる。
しかし、ベッドから体を起こしている肝心の人工天才ちゃんは無反応。
いきなりの理子のテンションについていけないって言うのもあると、思うけどね。
「むぅ……無反応かー。りこりん、泣いちゃうぞ」
「仕方ないと思うけどね。研究所での実験生活が長かったみたいだし」
「そっか……ロシアの研究施設って言う時点で大体予想してたけど、やっぱりそう言う事なんだ」
理子は静かに彼女の方を見る。
そう言えば、理子も"閉じ込められてた"って言う意味では彼女と境遇は似てるかもね~。
同情みたいな気持ちがあるのかな?
「そう言えば、この子の名前は?」
「ああ、そうだった。この子は
「…………そう」
さっきと打って変わって静かになった。
その表情は少し、悲痛そうな顔をしてる。
ああ、そっか……
理子は確か数字に嫌悪感があるんだったね。
なんでも両親がいた時には使用人からは『4世さまー』、としか呼んで貰えなかったみたいだし。
なるほど、道理で理子と同じ感じがした訳だね。
もしかしたら、理子の方がこの子の事を分かって上げられるかも。
となれば――
「この子と話してみる?」
「いいの?」
「まあ、私じゃ警戒されてるし。理子の方が幾分かマシかなって思ってね」
「分かった。あたしも気になるし、なんだか放っておけない」
真剣な表情、そして口調で理子はそう言う。
ま、二人きりになっても大丈夫でしょ。
理子も素人って訳じゃないし、あの子もここで抵抗して逃げ出した所で何の意味も無いことぐらい既に分かってるだろうから、問題は起こらないだろうね。
それに理子なら――上手くこっちに引き込んでくれるだろうし。
「うん、お願いね~。私は料理でも作ってくるから。あと、話す時は日本語じゃなくてイギリス英語でお願い。多分、さすがに日本語は話せないと思うから」
それだけ伝えたあと、私はガーゼとかを仕舞って理子に「よろしく」、と言葉を残して部屋を出た。
――新しい家族が増える。
そんな楽しみを胸に抱えて、私は扉を離れて行く。
◆ ◆ ◆
お姉ちゃんが部屋から出て行くのを笑顔で見送ったあと、あたしはロシアの
そして、ベッドへと走って乱暴に隣に座る。
しかし、改めて見ると凄い肌が白いね。
お姉ちゃんはファンタジー系のヒロインって感じだけど、この子はまさしく西洋の人形って言う感じ。
コスプレさせたらきっと似合うに違いない。
――って、違う違う。
今はそう言う話じゃない。
「さて、どっから話そうかなって……取り合えず、もう一度自己紹介しておくね。あたしは理子――理子・峰・リュパン4世だよ」
「………………」
「それで、さっきの人。ジルがあたしのお姉ちゃんで、あたしもお姉ちゃんに救われたんだ」
「………………」
「救われたって言っても、子供のころに一度殺されかけたんだけどね。うん、あの時は怖かったな」
「…………あなたも、同じ?」
イギリス英語で一方的に話しかけてると、意外にもすぐに反応があった。
ちょっと、ぎこちない感じだけどきちんと話せてる。
「同じ、って事は殺されかけたの?」
コクリ、と彼女は頷く。
ルミルミよりもかなり言葉数が少ないけど、意志疎通は何とか出来るみたい。
だけど、無表情。
お姉ちゃん以上に感情が欠落してる。
いや、昔のお姉ちゃんよりはまだ酷くはないけど、それでも……人としては終わってる。
何かを諦めた感じ――昔のあたしと同じ。
そう……ブラドに監禁されてた時も、きっとあたしはこんな感じだったんだろう。
頭にチラつくのは、無機質な鉄の檻と、石の壁……そして空間。
――胸糞悪いの、思い出した。
ふう……
ダメダメ、今は彼女と話してるんだから感傷は無し。
こっちの方に集中しないとね。
「そっか。多分、最初は命令だから殺そうとしたんだろうねー」
「…………あの人、怖い」
お姉ちゃーん、何やったの?
確実になんかこう、トラウマっちゃってる感じがするんだけど。
しかも見てる限りだと、さっきまで無表情だったのに微妙に恐怖が表情に出てるし!
ほんっとうにお姉ちゃんは人にトラウマを残すのが得意だよね。
あたしも思い出したら……うん。
やめておこう。
思い出したら、夢に出る。
初夢が過去のトラウマとか笑えない。
「まあ……そうだよね。確かにお姉ちゃんに抱く印象としては正しいのかもしれないね」
「………………」
「だけど、お姉ちゃんは家族に対しては優しいよ。ここに連れて来たのもきっと、君を家族にするためだと理子は思う」
いつだってそうだった。
お姉ちゃんにとってつまらない人は切り捨ての対象。
逆に面白い、楽しいと思える物は手元に置きたがる。
要は、子供と一緒。
気まぐれで恐ろしい、だけど子供みたいにどこか純真で、好奇心と欲求のままに動く。
人工天才である彼女に、どこか面白さを見い出して自分の手元に置きたいからここに連れて来た。
理子はそう思う。
手元に置きたいからって言っても、お姉ちゃんは束縛したりはしないけどね。
「…………かぞく?」
「そう、家族。きっと、お姉ちゃんも言うだろうけどあたしからも言うよ」
それは、お姉ちゃんが以前にあたしに言った事と同じ。
「りこりん達と家族にならない?」
しばらくの静寂。
隣に座ってる子は無反応。
言っててなんだけど、これ思ったよりも恥ずいんだけど……
ちょちょっと、りこりんには厳しいよ……こう言う雰囲気。
「…………かぞく」
「うん?」
「……私、分からない」
分からない、か。
いきなり家族になろうって言われてもさすがの人工天才でも戸惑ったりするのかな?
「だけど――」
「………………」
「あそこ、帰りたくない」
それは、どこの事を指すのかあたしにも分からない。
研究施設なのかそれとも国に帰りたくないのか……
だけど何となく分かる。
きっと、閉じ込められるのはもう嫌なんだろう。
「なら、決まりだね。……そうだっ! 名前を考えないといけないね」
「…………なまえ?」
「女の子なのにいつまでも数字の『6』じゃダメだよ。だからね~、りこりんが考えてあ・げ・る♪」
――そう。
あたしからすれば、数字なんてただの記号だ。
個人を示すモノじゃない。
さってと、名前どうしよっかな?
さすがにりこりんの趣味でアニメキャラから取ったりしたら、味気ないんだよね。
ここはやっぱり、単純だけど女の子らしい名前がいいね。
シンプル・イズ・ザ・ベスト。
それと、やっぱりロシア人だからロシア語の名前が良いだろうし。
う~ん、何が良いだろうな~?
無難に花の名前とか?
花の名前……花の名前……
…………………。
思わず立ち上がってウロウロと歩きながら考えてみるけど、なかなか思いつかないな~。
実際はいっぱいあるんだけど……ロシア語の発音的に女の子らしくない。
そしてあたしの様子を彼女はじっ、と見てる。
うう……そんなに見つめられるとちょっと考えづらくなっちゃうよ。
しかし、髪も白いねー。
金髪なんだろうけど、ほとんど白か銀だよ。
………………白?
白で、花の名前――
「うん。決まったよ! それであ、発表します」
「………………」
「名前はリリヤ! ロシア語の百合で
良い名前だとは思うんだけど……どうだろう?
りこりん、ニックネームはともかくとして本格的に名前付けるのは初めてなんだよ。
「………………」
…………………。
あの……何か反応は?
ここまで無反応だと、さすがに心配になってくるんだけど。
リアクション! リアクション、プリーズ!
もしかして、って言うのも考えなくちゃいけないんだけどっ!?
「…………リリヤ」
「うん。リリヤ……ダメだったかな?」
フルフル、と首を小さく振る。
「私……名前、リリヤ」
「………………」
私の心の中で正直に言おう。
――嬉しい。
いやー、よかったよかった。
気に入って貰えなかったらどうしようかと思ったよ。
それに何だか、妹を持った気分。
だけど、身長はあたしよりも高いんだよね。
となるとやっぱり年上なのかな?
「そう言えば、年齢は分かる?」
「…………14」
「――え"っ!?」
思わず変な声が出た。
まさかの理子より年下……お姉ちゃんより少し背が低いくらいなのに。
まさかの年下……
これはこれでショックなんだけど。
だってスタイル的に理子が勝ってるの胸だけで、あと勝ってるの年齢だけじゃん……
「年下かー。絶対にあたしの方が妹だと見られるパターンだ」
「…………年上?」
「そうですよー。りこりんは1つ上のお姉ちゃんでーす」
「………………」
あたしは萌えで言う、ロリ巨乳だけど……
正直に言えばもう少し身長が欲しかったんだよ。
お母さまみたいなわがままボディになりたかったんだよ。
なのに、身長は144ぐらい。
お姉ちゃんから聞いたオルメスの身長とあんまり変わんねーじゃねーか。
うん……妬むのはやめよう。
虚しくなる。
「…………リコ、お姉ちゃん?」
「うん?」
「リコ……リリヤのお姉ちゃん?」
――ぐふっ!?
思わず、リリヤの仕草に悶えそうになる。
ちょっと……待とうか。
無表情ながらも破壊力あり過ぎだよ!
小動物みたいに小首を傾げたりしてさ。
あたしが年上なんだからお姉ちゃんなのは分かるけど、いきなり過ぎるよ!
「あー……うん。お姉ちゃんだよ」
「…………リコお姉ちゃん」
やめて、呟くの止めて。
変な気分になってくる。
調子も崩れるし、キャラも不安定になるから。
「と、取りあえず。お姉ちゃん――ジルの所に行こうか」
これ以上は居た堪れなくなって、話題を変える。
色々と報告も兼ねてお姉ちゃんの所へ行こうと思ったけど、リリヤは動かない。
原因は何となく分かってる。
あー、お姉ちゃんに恐怖心を抱いてるから会いたくないんだろうなー。
「大丈夫だよ! お姉ちゃんはもう手を出さないって。ほら、りこりん――理子お姉ちゃんがついてるから」
コクリと頷いた後、彼女は服を着て確かな足取りで歩いてくる。
お姉ちゃんの事はどうしたものかなー、と思いながらあたしはリリヤと一緒に部屋を出た。
◆ ◆ ◆
屋敷のバルコニー。
寒空の下、私は電話をしていた。
お相手は
数回のコールの後に、電話が繋がる。
「あー、もしもし。あたし、ジャックだけど」
『物騒な電話ネ。答えるなら中国語で答えるネ』
「哦ー、你好。我是杰克」
『やっぱり、言い直さなくていいネ。
「う~ん、
『なにしれっと、恐ろしい事言ってるネ』
「まあまあ、それで預けてた物はどう?」
疲れたような声を出して『相変わらずネ』と言いながら話を続ける。
『
「へー、それで?」
『調べようと思っても、カギがなければ宝箱もタダの箱ネ。中には色々と武器が詰まてるのは分かってるヨ。そして、カギは――』
「なるほどねー。あたしが話した
よくある防犯対策って感じ。
あの子じゃなかったら反応しない。
指紋認証みたいなものって事だね。
『そう言う事になるヨ』
「つまり、整備しようにも出来ないって訳か……」
『無理にやろうとしたら、ドカン! 吹っ飛ぶ可能性もあるネ』
「秘密保持に爆破処分はよくあるわねー」
『鎧も同じで何も反応しないヨ』
「はいはい、報告ありがとうね。今度、人工天才の子を連れて行く事にするわ。行く時には事前に連絡はしておくから……あと、
『先に言っておくと交通費は払わないヨ』
「へー……そんなこと言うんだ。一番上のココから殺して行こうかなー」
『……笑えないから、やめて欲しいネ』
「大丈夫、冗談よ。あたしはそんなに短気じゃないもの。自分で払って行くわよ。それじゃ、
そこで電話を切り、変声術もやめる。
やっぱり、冬のダラムは冷えるね~。
持ってきたリンゴ酒のビンをワイングラスに注いで飲む。
お酒も良い感じに冷えてる。
まあ、私はそんなに飲まないんだけどね。
「お姉ちゃん」
「どうしたのかな、理子?」
後ろを振り返らなくても分かる。
足音は二人分あったからね。
取りあえず、話は終わったっぽいね。
「それで、どんな感じかな?」
振り返って、ワイングラスとリンゴ酒のビンを片手に持つ。
理子を見た後に人工天才の子を見ると、未だに警戒されてるのかこっちをじっ、と見てる。
下手にビクビクされるよりはいいけど、なんだかなあ。
「ああ、うん。取りあえずはこの子の名前をね、決めて上げたの」
「おー、どんな名前?」
「リリヤ」
リリヤか、うん。
なるほどね。
「ロシア語の百合から取ったでしょ?」
「やっぱり分かっちゃう?」
「まあね」
何となくだけど、すぐに分かったよ。
「いい名前だと思うよ? それで、私が名前を呼んでも大丈夫かな?」
一応、そこら辺の許可は取っておかないとね。
いきなり名前を呼んでも気分悪くするのが普通だし、私なんか殺そうとした訳だからね。
命を狙ってきた相手に名前を許すなんて、抵抗するだろうし。
「えっと……リリヤ?」
「………………」
理子が心配そうに隣にいる人工天才を見るけど、彼女は私を静かに見たまま。
別に名前を許そうが許すまいが、どうこうしようって訳じゃないんだけどね。
ただ、許してくれればいいな~程度の気持ちだし。
心の距離を焦って縮める必要はない。
第一印象が最悪だったのは理子の時も同じだったからね。
「…………あなた、怖い人」
「まあ、否定しないよ」
「……リコお姉ちゃん。優しい人」
「うん、そうだね」
「…………分からない」
まるで途切れ途切れの映像みたいに喋るね。
ロシア語じゃなかったら文章にならないのかな?
精神年齢も若干低そうだし。
それと、さっきの会話から内容を予想すると。
「つまり、私は怖い人なのに理子みたいな優しい人がなんで懐いてるか分からない、って事でいいのかな?」
「え? 今の会話そう言う事だったの!?」
理子はさすがに分からなかったのか、戸惑って私と彼女を交互に見る。
そして、人工天才の子はコクリと頷く。
「合ってるんだ……」
「ほとんど直感だけどね~。それで、どう言う感じの結論かな?」
「多分……あなたも、優しい。だから……名前、許す」
随分と安直な予想だけど、それだけじゃあなさそうだ。
言葉数が少ないせいで、全部伝えられないだけか。
頭の回転は悪くない筈なんだよ。
まあ、いいや。
取りあえずは、少しは警戒心を下げてくれたみたいだね。
それだけでも充分だよ。
「よろしく、リリヤ。それで早速なんだけどね~……問題として、リリヤの役割をどうしようかなって思ってね」
「役割って?」
「ほら、お姉ちゃんの所に暮らす上でどうするかって言う事だよ。イ・ウーに連れてってもいいけど、色々と面倒なんだよね」
主に金一とか、ヒルダとか……あとジャンヌも最近は微妙に動いてるみたいだし。
それにリリヤの装備だと、イ・ウーが物理的に内部崩壊する可能性はあるね。
どう考えても屋外で使う装備しかない。
「あ~、タダ飯食らいとかジェームズがうるさそうだね」
「でしょ? それに何かしらの役割はあった方が良いんだよ。ただ、問題として思いつかなくてね」
「じゃあ、メイドとかどう?」
「メイド……か、良いかもね」
使用人って言ってもジェームズしかいないし。
そもそもジェームズは、使用人と言うよりはお姉ちゃんの用心棒だからね。
実際の問題として屋敷の管理は一人じゃ、手に余る。
ジキル博士も自分の部屋で手いっぱいだろうし。
「でも、そうなると自然に理子が教えるって事になるんだけど」
「お姉ちゃんは忙しいもんね。大丈夫、りこりんが責任を持って教えるよ!」
なら良いんだけどね。
ま、話す事は一通り済んだって感じかな?
「それじゃあ、新年を祝いに行こうか。料理はもう出来てるし」
「……その、お姉ちゃん。もう少し話す事があるんだけど……ごめん、リリヤ。少し、外してくれるかな?」
理子のお願いにリリヤは素直に頷く。
あの短時間で随分とまあ、理子は近づいたもんだね。
「やっぱり、第一印象が最悪だと時間が掛かるか……理子の時もそうだったし」
「いつの話を掘り出してるの……」
「いつだっけ? 確か、私の理性が髪の毛よりも細かった時だったとは思うんだけど」
「……そんな時期もあったね。3年経って、ようやくだっけ?」
「そうそう。それから、色々あって理子を家族にしようとしたんだよね」
とまあ、懐かしむのもこれくらいにして。
「それで……本題は?」
「そろそろ、オルメスの母親である神崎 かなえに冤罪を着せる」
理子が真剣な口調で言ってくる。
もうすぐか……ようやく、お父さんが待ち望んでた本当のスタートラインに立つってことだね。
「だから、先回りのために東京武偵高に行く。そのための準備はもう整ってる」
「別に、あのホームズは放っておいても良いと思うんだけどね~」
それに、今の理子ならあの4世程度の武偵は余裕で勝てる。
ただ、問題としてはパートナーがいる状態の4世に勝つ事が理子にとっての目的みたい。
何が目的にしろ、理子の好きにやらせよう。
「くふっ、個人的に因縁に決着を着けたいだけだよ」
「そっか。お父さんから私は手出し無用って言われてるから、アリア自身に危害を加える事は出来ないけどね。理子は別にそうでもないから、どうせなら殺しちゃっても良いんだよ?」
「元よりそのつもりだよ」
不敵に笑う理子。
その表情には、独特の獰猛さが見える。
そう言えば……武偵としてかれこれ1年近く潜入してる事になるんだよね。
キンジといるのが楽しくてすっかり忘れてたけど、目的とか聞いてないんだった。
お父さんの言った事としてはキンジと組むだけで達成されてる気がするんだけど。
でも、それ以上の事は聞いてなかったな~。
あと、理子にも私が武偵に潜入してる事は話してなかった。
どうしよう、話すべきかな?
その方が色々と都合は良いんだけど、逆にリスクもあるんだよね。
武偵の教師たちが私と理子との繋がりが深い事が分かったら、何かしらのアプローチを仕掛けてくるだろうし。
知らなかったら、知らなかったらで誤解とか招きそうだ。
あれ? そう言えば、以前に理子に『恋』ってなんなのか相談した時にキンジの事を話したから。
私が武偵に潜入してることぐらい予想できてるんじゃないかな?
う~ん……まあ、いいや。
取りあえず、教えよう。
何かあれば臨機応変で行こう。
「理子も東京武偵高に来るのか~」
「……『も』?」
「そう、私もって事だよ」
「それって、お姉ちゃんも東京武偵高に来るって言うことだよね?」
「そうなるね~。私の場合は黙ってたけど、1年ほど前から武偵としてお父さんの頼みで潜入してたんだ。と言うか、随分前に恋についての相談をした時に分かってると思ってたんだけどね」
「あ……」
ぽかんとした表情で、理子はしまったと言う顔をしている。
どうやら気付いてなかったみたいだね。
「そうだよ。カナちゃんの弟が武偵って言うのは、聞いてた話だったのに……気付いてなかった」
「理子も抜けてるね」
「う"っ……」
「この調子だと、肝心な所でボロが出そうだよ。私も武偵高に行く事を理子に話したのは間違いだったかな~?」
「……言葉が胸に刺さる」
「あ~あ、お姉ちゃんは理子との学校生活を楽しみにしてたのにな~。残念だな~。武偵にいる時の私の名前を教えるのやめようかな~」
教えなくても分かりそうなものだけど、ワザとらしく言ってみる。
「…………うぅ」
「うん、やっぱり色々と危険だからね。教えるのはやめにしておくよ」
「……そう、だよね。……うん」
「な~に? 泣いてるの?」
「りこりんはそんなに泣き虫じゃないよーだ」
とか言って、「いーっ」と言いながら舌を出してるけど若干涙目だよ。
説得力ないな~。
しかも、
私はその背中に飛び移って、後ろから抱きかかえるようにして腕を回す。
「嘘でーす。ちゃんと教えるよ。相変わらず、弄り甲斐があると言うかイタズラ心が刺激されるね、理子は」
「……ドS」
「教えて欲しくない?」
「……欲しい」
うん。素直で良いね。
人間素直が一番。
これから、新しい夜明けが来る――
お父さんの寿命まで約1年と半年。
用語解説
PAD(パーソナル・アーセナル・ドレス)……京菱グループが開発した先端科学(ノイエ・エンジェ)の戦闘鎧。個人的な感想を言わせて貰うと、ニコニコ動画のホワイトグリン子みたいだと思いました。
ちなみにアリアがバニーガールのコスプレや時を止めるメイドが胸に入れているモノとは関け(ry――
システマ……ロシアの軍隊格闘術。各国の軍隊でも取りこまれている、かなり実戦向きな格闘術。ストンプ(踏みつけ)、金的、喉、関節を狙うなどエグイ攻撃が盛りだくさんである。
スリーブガン……袖の下に隠された銃の事。バネやスプリングなどを使って、袖から銃が飛び出る仕組み。具体的なイメージは『リべリオン』や『ルパン3世 アルカトラズコネクション』映画『シャーロック・ホームズ』をご覧ください。
人工天才の子の名前なんですが最初にリリウムにしようと思った私は、きっとコジマ汚染者。しかも、意味的には同じ百合と言うね。
ちなみにパンツじゃないから恥ずかしくないもんで有名なアニメのリーリヤとは無関係です。