緋弾に迫りしは緋色のメス   作:青二蒼

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111:さようなら日常

 

 私は屋敷へと戻り、銃を持って角をクリアリングしながらキンジ達との合流を目指す。

 もう終わってるかな~。

 と、思いつつ庭まで戻れば哀れかな、ワイヤーで足を縛られたヤクザ共が虫のように転がってる。

「惨めだね。年端もいかない子供連中に負ける大人……しかも裏切った挙句に成功もしてない」

 思わず無意識に煽っちゃった。

 でも、仕方ないよね……私を足蹴にしてくれたんだから。

 殺さないだけマシに思って欲しい。

 まあ、何人かちょっとストレス解消に消えて貰うリストには入れるけど。

 どうしようかな~……ウルスラちゃんに協力してもらってゲームでも企画しようかな?

 どこぞのサイコホラー映画みたいな感じで。

 ま、それは置いといてどうやら場面はクライマックスらしい。

 邸宅の前で泡を吹いて倒れてる東大卒の横で、今まで隠れてたらしいホスト風が――

「お、お前ら一体何なんだよ……! お、俺は今、副組長だぞッ! 分かってんのか!?」

 膝をガクガクさせながら神崎とジーサード、あとから来たらしいキンジを威嚇してる。

 私はそのホスト風の横に回り込む。

 左右に振るように構えながら持ってるのはキンジのベレッタ。

 あれは金欠のキンジのだから破壊できないね。

 まあ、最悪は破壊することも視野に入れないとだけど。

 キンジも先に合流してるらしいけど、ホストは私には気付いてない。

 どうせ防刃・防弾の服だろうし撃っても問題ない気がする。

 グロックを構えて単発(セミオート)で撃てるように備える。

「帰れェ! 殺さないでやるからもう帰れよォ!」

 無様に喚くホスト風は右往左往。

 まあ、どう考えても誰を撃ってもすぐ対処されるのが目に見えてる。

 そこでキンジがホスト風に歩み寄る途中で私は気付いた。

「……なんで戻ってきてるの」

 思わず呟く私の視界の端、キンジの背後に望月と鏡高がいるのが見えた。

「――と、と、遠山君を撃たないで!」

 勇気を振り絞って叫び出てきた望月の手にはオートマチック拳銃。

 しかもベルギー製のブローニング・ハイパワー。

 弾倉の構造上、握り易くて軽量の銃で女性に人気があったはず。

 自分でもキンジの何か役に立てないか……そう考えてしまったんだろうね。

 無力な時ほど、何かをやらずにいられない。

 ああ……なんて哀れで、いじらしい。そういうの大好きだよ。

 鏡高も同じような感じだろうね。

 キンジにやってきたことへの罪滅ぼし。あとはチャイニーズマフィアに対しての落とし前ってところだろう。

 でも、残念ながら私は別件の方で忙しいんだよね。

 望月と鏡高には悪いけど……そう簡単にやりたいことはやらせない。

 そのまま遠慮なく撃つ。

 響く銃声――誰もが望月が撃ったのかと反応して、望月を見る。

 でも、見られてる当の本人は不思議そうな顔だ。

 同時にホスト風が痛みに膝を屈する。

 銃口が完全に下を向いて持つ手が緩んだ瞬間を見逃さず、私は駆ける。

 走って来た私にホスト風が気付くけどもう遅い。

 銃を上げられる前に、左足の蹴りで手を払い、そのまま右の裏拳で顎を撃ち抜く。

「うぐ……あ」

 脳震盪(のうしんとう)を起こし、そのまま倒れそうになったところでキンジのベレッタだけを倒れる前に奪い取る。

「ほい。返すよキンジ」

 そのまま、薬室(チェンバー)の弾だけ抜いてキンジに投げ渡す。

 受け取ったのを見て、弾も返す。

「相変わらずいいタイミングだ。おかげでヤバい状況にならずに済んだよ」

 キンジはお礼を言う。

 ヤバい状況というのは複数射撃線状況のことだろう。

 複数人、誰もがお互いに銃口を向けた状況で誰も撃てなくなる状況。

 マフィア映画とかである、交渉が決裂した時にお互いに銃を抜くアレって言えばいいのかな?

 ともかく、そうなればちょっとした動作で戦火が切られてしまう。

 まあ、キンジの事だから何とかしたかもしれないけど。

「それはどうも。ちょっと、失礼していい?」

 私はそれだけ告げて、望月に歩み寄る。

 望月は体が緊張して銃を少しだけ下ろしてるけど、それ以上は下がらない。

 私は静かに銃を取ると――スパァン!

 彼女の頬に平手打ちをした。

 誰もがその光景に目を見開いてる。

 当の本人は動揺して目を揺らしてる。

「なんで戻ってきたの……。戻ってきてまた人質や足手まといになるかもって何で理解できないの!?」

 と、柄にもなく感情的に叫ぶ。

 まあ、演技なんだけどね。

 でも演出は大事だよ。

 望月は、少しだけ自分のしたことを理解し始めたのか、か細く声を出す。

「わ、わたし……」

「――分かってるよ。いても立ってもいられない……役に立ちたいって思うのは……」

 それから優しい声音で語り掛ける。

「でもね……今の君じゃあダメなんだよ。理解できるでしょ? 文字通り、住んでる世界が違う。"私達"と"君"じゃあ……」

 私達の部分で私はキンジ達を見る。

 望月も、それを追うようにキンジを見る。

 見られてるキンジは息を少し吐き、目を閉じる。

 語るべき言葉は既に私が言ったから、キンジから改めて何かを言うつもりはないんだろう。

「それはそれとして、一件落着?」

「切り替え早いわね、アンタ」

 私の雰囲気の切り替えに神崎がツッコむ。

「柄じゃないんだよ。感情的になるなんてね」

「まあ、俺もお前がそこまで感情的になるのは初めて見たよ」

 そうだよね、キンジにも見せたことないしね。

 ……演技だけど。

「鏡高さんも悪いね。落とし前をつける場面を奪っちゃって」

「本当によ。少しでも罪滅ぼしをしようと思って考えたのに、相変わらず余計な事しかしないわね」

 見せ場を奪われた鏡高は、完全に不貞腐れている。

「命を対価にしたところで、得られるもんなんて少ないんだよ。見届ける事も、その先で得られるモノもなくなる。落とし前だなんて言うけど、もったいなくない?」

「……一本取られたね。やっぱり、あんたは気に入らないわ」

 と、鏡高は突っぱねた言い方をしながらもその声音は優しい。

「――ごめん、なさい。私……わたし……」

 望月はそのまま、ようやく実感がわいてきたのか感情を溢れさせる。

 その光景を見て、膝を折った望月にキンジは静かに近付く。

「萌……そもそもの原因は俺なんだ。住む世界が違うことをもっとよく考えてなかった。だから、君が気に病む事じゃない」 

 憂いを持たせた優しげな表情で語り掛けるキンジ。

 何とも、気障(きざ)な光景だね。

「随分と、何て言うか……大人になったわね、アンタ」

 神崎はキンジの雰囲気を感じ取ったのかそう述べる。

 大人……まあ、責任というか少しは思慮深くはなったかもね。

 自分の立ち位置というか何者であるかを知ったところもある。

「ところでアリア。この近所には俺の実家もある。だから一緒に帰って、アリアを家族に紹介したところだが――」

 何やら話題逸らし気味にキンジは語る。

 一般社会でのあれこれをイジられる前に逸らしたようにしか見えない。

 他は気付いてないみたいだけど。

 しかし、神崎はカウンター気味に家族を紹介するなんて言われて前髪を整え始める。

 相変わらず分っかりやすいね~……

「――それは後日にしよう。どうやら、客人を待たせてるみたいだ」

 と、キンジは鏡高の大邸宅の屋上を見上げる。

 角度的には見えない。

 だけど、確実にこちらを誘っているような気配。

 今までは傍観してたみただけど、前座が終わったのを見てアピールしてきたってところだね。

「で、どうする? ジーサードと神崎さんがベストだと思うけど、私が一緒の方が良い予感がするんだよね」

 私はそう提案する。

 現実問題、(コウ)がいる。今は(ソン)かもしれないけど。

 ともかく、色金で対抗できるのは私しかいない。

 あんまりやりたくないし、ジーサードに直接見られる訳だけど。

 もう、どうせジーサードには半分バレてる。

 だったら……ここで窮地でも救って貸しの1つにでもしてあげよう。

 さながら人狼ゲームのように、白アピールだよ。

「……いいわ。霧、この2人はあたしが引き受ける。あたしも、勘だけど霧が行った方が良い気がする」

 と、珍しく神崎と意見が一致した。

 キンジも一つ頷いて頼む、と視線を送る。

「そうか。なら、萌と菊代を安全なところまで頼む。俺じゃ、詰めが甘くて戻ってきそうだからね」

「ふーん。萌、菊代、っていうの。この子たち。それはともかく、色々と終わったら尋問タイムよ。そ、それから! あんたの実家、本当に行くからちゃんと紹介しなさいよ? スケジュール空けとくから」

「じゃあ、私が紹介しとくよ。お礼に」

「なんで霧が紹介するのよ!?」

「中学からの付き合いだからね~。遅れてるね、神崎さん」

「あ・ん・た・ね~~ッ」

 勝ち誇った表情をすればいつも通りのやり取り。

 キンジはその光景を微笑ましそうに見てる。

「さて、それじゃあ行くぞ。ジーサード、霧」

「ああ、二度と俺ら兄弟に関わりたくなくなるようにしてやろうぜ。オマケは見ていていいぞ」

「はいはい、オマケは大人しくしてるよ。そのオマケに、助けられないようによろしく頼むね」

 ジーサードはキンジに頼みにされて何だが嬉しそう。

 さて、果たしてどう出るかな?

 

 

 私が侵入した中国風の部屋を通り抜け、3人分の食事を確認した2人。

 そもまま梯子(はしご)を伝って、屋上へ上がれば――

 月光の下、雪解けの広大な屋根瓦の上にいる。

 (コウ)機嬢(ジーニャン)、諸葛。

 初見な猴に関して、キンジは警戒を強めてる。

 それもそのはず、彼女は化生(けしょう)――つまりは人外だからね。

 ストレートの黒髪を足下ぐらいまで伸ばした、神崎といい勝負の体格の女の子。

 カットオフ・セーラー……ヘソを出して、スカート丈がやたら短い武偵高の制服。

 それは、いつぞやに来た間宮の親戚(しんせき)と同じ名古屋の武偵女子高の制服だ。

 その制服のスカートの下から生えてるオレンジ色の尻尾に大きな紅い目。

 大した殺気も何もないけど、存在感があるということは今は(ソン)か。

「へッーーそのガキんちょが藍幇(ランパン)の代表か。極東戦役の」

 ジーサードも同じように、人外である孫に警戒を強めてる。

「ええ、それはそうなのですが……」

 そして、何とも煮え切らない返答の諸葛。

 さては孫の制御が上手くいってないね。

 人外の上に、彼女の中には異星の存在がいると言っても過言じゃない。

 はてさて、どうしたものか……また"使う"ことになりそうだよ。

 知ったら、理子に怒られるだろうな~。

「俺は『無所属』から『師団(ディーン)』に変わってるからよォ。()る理由はあるんだぜ」

 瓦屋根(かわらやね)をガシャガシャ鳴らして、ジーサードは前進した。

 戦うつもりなので、キンジも進んでいく。

 けど、突然に足を止めた。

 誰かと話してるようだ。

 さては、玉藻(たまも)かな?

 あんまり探る気もなかったけど、やっぱりキンジの近くにいたんだ。

 それから何かを言い争ってる様子。

 キンジがシャツから何かを引っ張り出すと、ぼふんと姿を現して緊迫した表情でキンジにしがみついてる。

「――猴の前には、銃も刃物も意味を為さぬ! よさんかぁお主ら!」

 その必死な訴えの中で、ジーサードは不敵に笑う。

「ハハッ! 銃? 刃物ォ? そんなもんに頼りはしねぇよ。俺達には音速の拳がある」

 音速の拳、ね。残念だけどあっちは"光速の矢"がある。

 この時点でジーサードの音速の拳の間合い。

 キンジもジーサードの構えに勝利を確信してる感じだ。

 しかし、金色をした細かい光の粒が(ソン)の頭上に見える。

 いきなりそう来る?

 早速、私に見せ場なんてキンジのパートナー冥利(みょうり)に尽きるね。

 私は集中する。

 想像するのはレンズ。

 受け止めるのは……出来るけど、負荷が大きすぎる。

 だったら屈折させるしかない。

 孫の頭上の粒子が増えて、回転し――天使のような輪になった。

「き、金箍冠(きんこかん)……ッ! ――猴! 静まり(たま)えぇーっ!」

 玉藻が、絶叫する前に私はジーサードの前に割り込む。

 次の瞬間――紅い閃光。

 それは私とジーサードへ、迫る。

 私の五感が鋭敏でも、閃光は遅くは見えない。

 だったら光ったと同時に、やるしかない。

 その閃光は私の前、2メートル程で上空へ屈折して消える。

 誰もが、何が起こったのか呑み込めずにいる。

 私と孫以外は。

 ふぃ~……間一髪だったよ。

 私の正面には紅い色のレンズが浮かんでる。

「お、お主……」

 そんな私を見て、玉藻は驚いてる様子だ。

 今まで確証がなかったことがここで明らかになった訳だ。

「どうも……色金と縁の深い方。色金の保有者(ホルダー)、白野霧です」

 そう私が簡潔に事実を告げると、興味深く見る者、驚きを隠せない者、そして納得していた者。

 そんな視線にさらされる。

「やっぱり、持ってやがったか」

 ジーサードはかなめの件があるから、確証を得たとばかりに納得してる。

「救ったお礼もなしなの? 私が隠してた乙女の秘密を使ってあげたのに」

「どうだかな……俺としてはお前の存在がグレーすぎて、素直に言う気がねぇ」

「そんな! 私は君のお兄さんの味方なのに、よよよ」

「胡散臭え芝居をすんじゃねェ! まあ、何とかできたがありがとよ……」

 というジーサードは本当に致命傷だけは避けられそうな感じだった。

 でも、死にはしなくても結局は致命傷でしか済ませられないと言った方が正しいんだろうけど。

「――ル・ラーダ・フォル・オル?」

 と、孫はなんだがよく分からない言語を話す。

 未だに私でもこの言語は本当に分からない。

「いくらやっても無駄だからね。防御は出来なくても、逸らすくらいはいくらでも出来る。それに、私も"ソレ"は出来る」

 さっき、孫がやったように私も粒子を出す。

 これだけ見れば相手には伝わるはず。

「――キキ」

 孫はいかにも面白いって、不敵に見てる。

 ちょっと、圧を掛けてみるか。

 色金は『全は一、一にして全』――英語で言えば『One for All、All for one』。

 何度か君とは繋がってるんだからね。

 それを覚えてないはずがない。

  

 精神世界とも言うべき、色の白い謎空間。

 いや、色金の世界かな?

 

 そこで私は――彼女を殺す――

 

 すぐに変化は訪れた。

 孫はすぐに、目を見開く。

 それから意識が途切れたように、その場に倒れた。

「――なに? 一体、なにが……」

 流石の諸葛もこれには驚きだろう。

 ふふ♪ いつもの澄ました顔が困惑に染まるのは、何とも気分が良いね。

 私はちょっと、気分が最悪になりそうだけど。

 精神の死は、人格の崩壊とかあるけど――命がないモノは殺せない。

 あくまでも……一時的に死んだというよりは退去だね。

 猴の中の孫を私は追い払った。

 口で説明するのは簡単だけど、でもそれって色金の同化を自らしてるんだから、侵食がね~

 侵食と色金の人格は別物。

 だけど、このままいけば……緋々色金にいる人格を殺して私になる可能性が高い。

 何とも難儀な話だよ。

 本当に、ヤバくなって、来たかも。

「お開きにしよ♪ お互いに、仕切り直しをするべきだと思うんだよね。私、も……ちょっと、やり過ぎ、た」

 意識が途切れそうなところで膝が崩れ落ちる。

 何とか……倒れはしないし、意識は残ってる。

「だ、大丈夫か?!」

 キンジが傍に来て、肩を貸してくれる。

「うん……なん、とかね。また、貸しを作っちゃっ、た♪」

 いつもの、軽口。

「そのようですね。こちらも少々、予想外のことが多すぎました。藍幇にてお待ちしております」

 諸葛がそういうと、機嬢(ジーニャン)が袖からスモークを出す。

 そのまま一面が煙に包まれたところで、

「――待ちやがれ!」

 ジーサードが音速の拳を振るう。

 しかし、そこには人形のような何かが置いてあるのみ。

「チッ、サーモグラフに反応するデコイかよ」

 どうやら、ジーサードのHMD(ヘッドマウントディスプレイ)にも反応する人形だったらしい。

 煙はすぐに晴れて、(コウ)もいなくなった。

 それ以前に――

 ドクン、ドクン……と鼓動がウルサイ。

 やっぱり、やり過ぎ、だよね。

「おい、霧?」

「うん……?」

「大丈夫か」

「休め、ば、ね……ちょっとだけ、寝るから。運んでよ、それで1つ、返済……」

 そこで、私は意識を手放す。

 

 ♦      ♦      ♦

 

 静かに眠るように意識を手放した霧。

 それを俺は抱きかかえる。

 何とか腕を回させて、お姫様抱っこの体勢だ。

 冬空だって言うのに、その体は熱を帯びてる。

 あの超常の力のせいなのかは分からない。

「保有者……遠山、お主。知っておったのか?」

 玉藻がそう俺を見上げて聞いてくる。

「まあな。本人は、あんまり使いたがってなかったし……俺も知ったのはつい最近だ」

「そうか……。しかし、その娘は危険じゃぞ」

「――分かってる」

 どういう意味の危険かは具体的には分からない。

 だけど、俺は見捨てるつもりも霧を排除する気もない。

「どうすればいいのか、分からないが。俺は、霧を見捨てたくないんだ。借りがありすぎるんでな」

「甘いよな、兄貴。まあ、俺も借りがあるし……反対する気はねぇけどよ。貸し借りばっかりに気を取られんなよ?」

 ジーサードも少なくとも、大きく反対はしてこない。

 少なくとも、そのことに感謝する。

 

 ♦      ♦      ♦

 

 ――遠山達が帰った。

 あたしの邸宅はボロボロで、何人か信頼できる連中を呼び戻した。

 すぐに警察(サツ)共も押し掛けてくるだろう。

 白野の言葉が頭を反響する。

 ――命を対価にしたところで、得られるもんなんて少ないんだよ。見届ける事も、その先で得られるモノもなくなる。落とし前だなんて言うけど、もったいなくない?

 結局、良い所なんて遠山に1つも見せられなかった。

 ……でも、やり直せるわよね?

 そう、今度はもう少しだけ素直になる。

 あたしは今まで、自分を虚飾で飾ってた。

 遠山だけが、アタシの本当を知ってる。

 そう思えば……何も怖くない。

 だって、もうヤクザみたいに見栄を張る必要が無いんだもの。

 ソファーの上で少しだけ縮こまる。

「バカね……アタシ、諦めが悪いって言ったんだもの」

 自分の道も貫けなきゃ、極道の女じゃないわ。

 うん。きっとヤクザよりも騒がしい日々になるんでしょうね、遠山となら。

 不意に電気が消える。

 ……停電?

 雪はもう降ってないのに、停電になる要因があるとは思えないのだけど。

「誰か! いないの!」

 返事はなし。

 全く、返事くらいして欲しいわね。

 暗闇の廊下が不気味に、風を運ぶ。 

 おかしいわね……穴の空いた壁や窓からならともかく、廊下の方から風なんて来ないはずなのだけど……

「いないのかい?」

 廊下に、何か人影。

 何かがいる。

「……誰?」

 静かに銃を構える。

「誰だって言ってんの!?」

 その時に、電気が点いた。

 けど、そこには……誰もいない。

 気のせい? いや、そんなはずない。

 静かに、アタシはさっきのソファーにまで戻る。

「遠山、遠山ッ……」

 アタシは電話をすぐさま手に取る。

 何かがいる。

 怖い、恐い……何でこんなに寒気がするのか分からない。

 また電気が明滅して、近くに誰かが……いる。

 そこへすぐに銃を構える。

「私だよ、私」

 電気が明るくなり、そこには白野が立っていた。

 なによ、いきなり……

「いや、ごめんごめん。ちょっと忘れ物だよ」

 いつもみたいに笑顔で、軽い雰囲気。

 さっきまで恐怖があったのになんだか気が抜ける。

 でも、同時にまた寒気がする。

「で、何を忘れたのよ?」

 何かがおかしい。

 そう感じてはいるけど、白野はいつも通りに笑顔だ。

「いや、大したものじゃないよ」

 

 ――落とし前を、ね♪

 


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