緋弾に迫りしは緋色のメス   作:青二蒼

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霧ちゃんカワイイ

割かし順調に進んでる最近。

ちなみにエロい方もそこそこ進んでる模様。


102:空虚な日常

 

 東池袋高校の高校生として既に何日か経過した。

 私はクラスで既に何人か友達が出来た。

 紅茶仲間がいたらしく、紅茶に合うお菓子の話とかで盛り上がってる。

 それから男子にも分け隔てなく接してる。

 もちろん、人の嫉妬を買わない程度の付き合い。

 誰が誰のことが好きとか、そこら辺の情報も収集した上で立ち回る。

 人の嫉妬は怖いからね~

 ……私も最近は嫉妬なんて覚えちゃったし。

 気持ちは分からなくもないし。

「亜金ちゃんどうしたの? 笑顔が恐いよ」

「何でもない。ポーカーフェイスが得意だから、笑顔でいれば何も分からないでしょ。はい、コインがあるのはどっち?」

 言いながら私は両手に握った500円玉が最終的にどこにあるかを当てるゲームをしてる。

「それじゃあ、こっち!」

 言いながらその女子生徒は見事に当てた。

「正解。だけど残念、消えたから私の勝ちね」

 一回机の上で見せて、再び手を置いて見せると消えた。

「なにそれ~!」

「そんなのアリ~?」

 他の子はそんな声を上げる。

 でも笑ってるから本気で不満を持って言ってる訳ではないらしい。

「最終的にどこにあるかって話だし。ちなみに正解は……君が手を握って開いてみて」

 私が指名した子が不思議がって右手を握って開いた瞬間、500円玉が机の上に音を立てて落ちてきた。

「え、え~?!」「すごい!」「今のどうやったの?!」

 男女関係なくマジックに夢中な声を上げる。

 こうして私はエンターテイナーなクラスメートの立場を確立してる。

 チラリとキンジを見れば、休憩時間でどこのグループに所属する訳でもなく1人でいた。

 孤独だね~

 今頃、武偵校での日々が恋しくなってたり……あわよくば私を思い出してくれたり、なんて。

 昼休みには1人だろうし、そこを狙うか。

 いつも通り最終的には屋上に行くだろうし。

 

 やってきた昼休み、キンジが教室の空気に耐えきれなくなって席を立ったと同時に私はゴミを捨てるついでにトイレに行ってくるとだけ言って尾行する。

 ここで無駄に尾行スキルを使う訳にも行かないので、いかにも素人な動きで追い掛ける。

 廊下の途中のトイレで手を洗うフリをしてすぐに出てきたり、図書室に入って本を探しながら別の出口から出たり。

 最終的に予想通り屋上に向かう階段を上り始めたキンジ。

 仕掛けるならここだね。

 屋上の扉を開けると、キンジはいない。

 ちょっと武偵の動きを出し始めたね。

 まあ、素人ならここで引き返したり裏側を捜索するだろう。

 そうしてる間にキンジは撒けるスキルはある。

 仕方ないので私は一旦諦めた感じで、屋上の扉を閉める。

 5秒、10秒……うーん、追っ手を確認する時間としてはこんなものかな。

 そう思って音が鳴らないようにこっそりと扉を開ける。

 目立たないように扉の陰のフェンス沿いにいるだろう。

 そう思って扉を開けると……

 やっぱりいた。

 寝たフリをしようとしてるらしく、こっちを見ていない。

 私はキンジから見て扉の陰で見えないようにしつつ、階段がある建物の裏側に回る。

 それからゆっくりとキンジに近付く。

「何やってるんだよ」

「あ、なんだ。バレたのか」

 目を閉じたフリをしたキンジが諦めて声を掛けてきた。

 ふふ、狙い通り……なんてね。

「なんで俺を追いかけてくるんだ?」

「いや、ほら私と同じ転校生じゃん。独りで寂しそうだしさ」

「…………」

 あ、面倒なのに絡まれたって目をしてる。

 今の私は別人設定だから、もっと面倒にしてもいいんだけどね。

「随分と楽しそうじゃないね。普段からそんな不愛想なの?」

 と、私は陽キャのギャルっぽい感じでちょっと押し気味で聞く。 

「そんなつもりはないんだがな」

「ふーん……遠山は何か理由があって転校したの?」

「まあ、そうだな。前の日常が俺と合ってない気がしてたから環境を変えてみようと思ったが……違和感が、な」

「それってさ。つまんないってこと?」

「いや、別に……」

 そんな筈はない、とキンジは内心で言い聞かせるようにしてるだろう。

 だけど空虚な思いをしてるのは丸分かり。

「変だね。楽しくないなら、自分で何か新しいことを始めてみるとか……環境がダメなら別の変化を求めればいいのに」

 言いながら私はチュッパチャプス的なキャンディを出して舐める。

 それからコインロールで遊びながら、500円玉を2枚に増やしたり1枚に戻したりする。

 これやるのにいい大きさなんだよね。

「ともかく、俺のことは放っておいてくれ」

 面倒臭そうにキンジは言い放つ。

「冷たいな~。非社交的って言われない? 友達とかいないの?」

「……いるよ。前の学校に」

「へ~、いるんだ」

「ああ、出て行く前に寂しいとか言われたよ」

 それ私だね。

「そこまで言われるってどんな関係な訳?」

 呆れるようなポーカーフェイスをしつつ、私は聞いてみる。

 

「……"大事な人"ではあるな」

 

 手元が狂ってチャリンと、500円玉を落っことした。

 同時に心臓が跳ねあがる。

 ああ、もうッ。

 その不意打ちは卑怯だよキンジ。

 ……どうしよ、顔が緩む。

 キンジ自身は別の意味で言ってるかもしれないけど、ワード的には誤解されかねない。

 実際問題私が動揺してる。

 私も魔性だなんだって言われてるけど、こっちもある意味では魔性と言うか……自覚がないだけタチの悪い男と言うか。

 前の私なら誤解してるんだろうな、で終わったのに。

 今では変に意識しちゃうよ。

「落としたぞ」

「ああ、うん。ありがと」

 寝転びながらも500円玉を拾ってくれたキンジが私に手渡ししてくる。

 お礼を言いつつも私の動悸は激しい。

 表情を崩さないようにしないと。

「熱でもあるのか? こんな寒いのにスカートで屋上に出ない方がいいぞ」

 ジャンヌが持ってる少女漫画の鈍感彼氏役にありがちなセリフを吐きやがる。

 今なら撃ちたくなる神崎の気持ちが少し分かる。

 そう考えてると私の携帯電話が鳴った。

 こんな時に誰かと思えば、我が妹の理子からだった。

 仕方ないので私は、

「心配どうも。電話もきたし、また今度ね」

 とだけ言って屋上を去る。

 それから階段の踊り場で電話をする。

「はい、もしもし」

『お姉ちゃん、どこいるの?』

「なに? 急ぎ?」

『別に……どうせキンジを追いかけたんでしょ?』

 流石にそこは読まれるよね。

「詳しくは言えないけど社会復帰中の人を経過観察中」

『そうですか。お姉ちゃん自覚ないけど最早ストーカーじゃん』

「大体私が()る前の行動をひっくるめたら全部それでしょ?」

『確かにそうだけどさ。お姉ちゃん、最近はどうなの?』

「何が? 別に動悸が激しいだけだけど、どうかな?」

『ああ、はい……不整脈ですね』

 何かを諦めた感じで適当な結論を出す理子。

『それはそうと、こっちにアリアを止めれる人員がいないから早く戻ってきて』

「理子なら何とかなるでしょ」

『いや、無理だよ。キーくんいなくて割かし最近は生理みたいな感じの荒れ模様だから』

 どんだけカリカリしてるの。

 それって私より神崎の方がよっぽど不安定じゃないの?

 こっちは一欠けらも殻金が無いって言うのに。

 無い状態が馴染み過ぎたのかもしれないけどさ。

「ともかく、私は私でよろしくやってるから。空いた時に話は聞くよ」

『……分かった。早く帰ってきてよ』

 何だかんだ理子も寂しいだけでしょ。

 と、思ったけどそれは口に出さないでおく。

 それよりも(あめ)、甘いなあ~

 この甘さはそれだけじゃないかもしれないけど。

 

 放課後になった直後も部活に入ってる訳でもないし、どこかのグループに入ってる訳でもないのでキンジは1人。

 私も適度に遊んでるグループからの誘いを今回は私用があると言って断る。

 そして、校舎を出たところで背後から声を掛けてキンジを捕まえる。

「お兄さん孤独で暇?」

「おい、孤独なんて使うな。惨めに聞こえるだろ?」

 背中から喋り掛けると、無視するでもなく普通に反応した。

 本人的にはしまったと思ってるだろう。

 こういう軽口は白野である私と何回かやってるから反射的に答えてしまった感じだろう。

「バカにしてる訳じゃないけど、転校してからずっと陰キャムーブだよ。私のネタを見破った時の鋭い感じはどこいったの?」

 その私の言葉にキンジは少しマズイなって感じの顔をした。

 武偵の癖が出てるとか思ってるんだろう。

「それより、ちょっとは勉強進んでるの? いっつもチンプンカンプンな顔を隣でしてるから見てる私が心配になってくるレベル」

「……あんまりだ」

 だろうね。

 キンジは頭が悪い訳じゃないけど、学がある訳じゃないしね。

 神崎は逆で学があるけど、頭が良いとは言えない。

Shall I teach you how to do it?(やり方を教えようか)

「何だって? て言うか、英語はあんまりじゃないのかよ?」

「別に出来ないとは言ってない。今のはやり方を教えようか、って言ったの。私に付き合ってくれるならね」

「……やめておく、貸し借りはしないようにしてるんだ」

 丁重に断られたか。

 まあ、貸し借りについては身をもって体感してるし、これ以上は増やしたくないんだろう。

 私以外。

「あ、そ」

 ツレないな~とばかりに校門近くに来たところでまたチュッパチャプス的なキャンディを舐めだす。

 その時に何か言い争うような声が聞こえて、私もキンジを足を止める。

 校庭の片隅、自転車置き場の方だね。

 私はキンジにも聞こえてると思うから、聞いてみる。

「何か聞こえたね」

「そうだな。ケンカでもしてるんだろ」

 この流れ、キンジは無視するつもりだね。

 でも私の鋭敏な聴覚は誰の声かまで分かってるから、キンジは無視できないはず。

「――バイクの登校は禁止されてるし……! 騒音が他の人の迷惑だし……!」

「人の迷惑ぅ? 何それェ?」

「俺たちゃ登校してねェつってんだろ! 停学中なんだしよォ!」

 隣でキンジが舌打ちした。

 望月 萌の声に気付いてしまって、すぐにオラついてる不良であろう声がどんな状態かを分析してる。

 何だかんだ……正義の味方だよね。

 自分ではそんなつもりはないだろうけど。

 それから、

「赤桐は先に帰ってくれ。どうやら面倒ごとみたいだ。俺が様子を見てくる」

 とキンジはちょっとヒーローっぽいセリフを言う。

 だけど、何となく分かるよ。

 赤桐が白野と似通ってる点が多いから変に意識しちゃうんだろう。

 だから私を遠ざけようとしてる。

 だけど、そうはいかない。

 私は自転車置き場の方へと駆け出す。

「あ、おい!」

 走り出した私を引き留めるようにキンジは声を上げる。

 あはは、捕まえてごらんなさ~い……なんて。

 そんな寒いセリフを心の中でふざけながら考えてると、自転車置き場でメチャクチャに倒された自転車が目に映る。

藤木林(ふじぎばやし)君、朝青(あさお)君、せめて蹴り倒した自転車は元に戻して……」

 と、望月が自分の自転車を起こしつつ言ってるのが目についた。

 そしてその近くにいるのはいかにもチンピラって感じの小物臭のする男が2人。

 派手に染めた金髪の小さめの色付きサングラスに、いくつものピアスを着けた痩せ気味の男。

 もう1人は幾何学模様みたいな剃り込みを入れた丸刈りの頭、チェーンをやたらと腰にジャラジャラと言わせてダボついたズボンを穿いて、金属バットを持った太った男。

 太った方は片手でフライドチキンを食いながら、痩せた男が威圧してるのを薄ら笑いしながら見てる。

 望月の視線からして痩せてるのが藤木林で太ってるのが朝青だろう。

「よーし望月。お前、俺に無礼なこと言った罰金10万な。出せなきゃ、()っちゃうか」

 と、藤木林はチャチな飛び出しナイフをポケットから出して脅してきた。

 えらく現実的な数字だね。

 頭悪い奴なら100万とか言いそうだけど。

 そう考えると何度か同じ学生相手にカツアゲしてる経験はあるらしい。

 まあ、小物に変わりはないけど。

 しかし既に職員室がある窓の方からクラス担任の教師が見てるんだよね~……私のことを学校側は知ってるからここで動かない訳にはいかないし。

 ここでバレるにはちょっと早すぎるんだけど……どうしようかな~?

 と、私は少し算段を立てる。

 仕方ない……見えないところに連れ出してキンジのいないところで武偵権限を発動しようか。

 一般の人に武偵がいるのを知られたらあらぬ噂が立つから、学校側に配慮した上で仕事をしないといけない。

 もしかしてこの高校の関係者に犯罪者が? とか、凶悪な犯罪者が潜んでるとか。

 後者、私だけど。

 こんな一般高校にジャック・ザ・リッパーがいるなんて誰も夢にも思わないでしょう。

 なんて余計な考えはこれぐらいにして。

「お兄さんたち、そこで何してるの?」

「あァん? 何だよ、テメエ。お前も俺達のやることに文句でもあるんですかァ?」

 藤木林が出てきた私にナイフを向けて威嚇する。

 私はキャンディを舐めながら悠然と近付く。

「いや、別に。文句じゃないけど、ちょっと遊び慣れてる感じがあって声を掛けちゃった。どう、お兄さんたち? そんな()えない子より私と遊ばない?」

 軽く制服を崩して、スカートを軽くつまんでチラチラとアピールをする。

 藤木林はナイフを向けつつも少し顔がにやついた。

 この程度で釣れるのか……警戒心も何もないね。

「何だァ? 誘ってんのかよ?」

「誘ってるよ。いやー、ここら辺転校してきて知らないからさ。いい感じに遊べるところ紹介してくれる人を探してたんだよねぇ」

「おい、どうする?」

「いいんじゃね? 金はないぞォ。あと、俺達は優しくねえからな」

 藤木林が朝青に問い掛けると、野太い声で答えた朝青も私にターゲットしたらしい。

「いいよ。私もちょっと欲求不満でさ、お金はいらないから。ただお金持ってそうな人を紹介してくれたらサービスするよ」

 ベロっとキャンディ出して舌を出しながら左の指で輪っかを作って右手の人差し指でその穴に挿入するジェスチャーをする。

 それを見た2人は「おほゥ!」って感じで盛り上がってきた。

 望月はそんな私の姿を見て、何の話をしてるか分からないって感じの顔をしてる。

 目が合ったので取りあえずウィンクしてあっち行けって感じで逃げるようジェスチャーをする。

 そんな私の意図を理解したのか、望月は少しおろおろとしだした。

「ちょっとトイレに行こうぜ。あっちに汚くてあまり使われてねェ古いトイレがあるからよ」

 藤木林が私に近付いて誘導しようとする。

 よしよし、このまま人知れずに連れて行って現行犯逮捕。

 なんて、キンジが黙ってる訳ないよね。

「……おい」

「……と、遠山君っ……?」

 望月の恐怖で潤ませた視線の先に、キンジがさり気ない感じで立っていた。

「あァ? 何だおめェ、何ガン垂れてんだァ?」

 唐突に出てきた男に藤木林は変に眉を寄せて威圧する。

「えーっとだな。光ってるモノ、しまえよ」

 出来る限り穏便に済まそうとキンジは穏やかな感じで話しかけた。

 が、この手のヤツは変に逆上してすぐ取りあえず雰囲気で圧倒しようとするから――

「関係ねえだろおめェは! 俺に意見するなんて百億光年早えんだよ!」

 予想通り、意味の分からないキレ方をした。

 光年って距離だし。

 キンジ以上にバカそう。

「そうそう。俺達は合意の上でこれからこの女と遊ぶんだ。だからさっさと消えな」

 朝青がくちゃくちゃとフライドチキンを食べて、その骨を捨てながらバットを軽く見せるように肩に担ぐ。

「そういう訳だから遠山。望月さん連れて帰ってよ」

 何でもないって感じで私は言う。

 キンジはその私の言葉に何か考えてる。

 まあ、女1人に男2人……相手が乱暴しなさそうな人相じゃないからね。

 そこら辺をどうしようか考えてるんだろう。

「や、やめて! 赤桐さん、ダメだよ! 私の代わりに……」

 言葉を詰まらせながらも望月が流石にそれは看過出来ないのか、引き留める。

 あーあ……せっかく私1人で何とかなりそうだったのにそんな口を挟むから――

「じゃあ、委員長さんも一緒にくるかァ? 罰金はいいから、一緒に楽しいことしようぜェ」

 ほら、食いついた。

 ベロりとナイフを舐めて下卑た笑顔を浮かべる藤木林。

 それからナイフと視線が距離の遠い望月の方に向いた瞬間に、隙だとばかりにキンジが動いた。

「だから、それをしまえって」

 キンジは藤木林が刺せるようないい感じの間合いに歩いて自然に入った。

「――あァ?」

 刺そうとしたら腕を何とか押さえるつもりだったんだろう。

 だけど藤木林に刺す度胸がないのか、キンジに向けようとした刃物を反射的に上に向けた。

 素人だから予想外の動きをすることに多少、戸惑いつつもキンジは機転を利かせて体を寄せた藤木林にもつれた感じをしつつ……

「おっと……!」

 腕を軽く押さえて上げさせて朝青の方に刃物を向けさせた。

 拳1つ分の距離まで刃物が迫ったところで朝青は「うおぉッ!?」と驚いて金属バットを落とした。

 驚きすぎでしょ。

 いや、予想外に刃物が迫ったら焦るけど。

 そのままナイフを軽く落とさせて、金属バットとナイフの両方をもつれた感じの足でキンジは軽く蹴り飛ばした。

 ナイフは側溝に落ちて、金属バットはコロコロと転がって少し遠くにいった。

 案外器用な事するね。

「ちッ! もういい、やっちまえ!」

「てめぇなんざ、ワンパンで殺せるぜ!」

 武器がなくなって逆上した2人は、数に任せてキンジを殴る蹴るの暴行をする。

 1人がキンジの相手をしてもう1人がバットを拾いにいけばいいのに。

 と、まあ……そんな考えが素人の彼らにあるはずもなくそのままゴリ押ししている。

 しかし、殴られたり蹴られたりしてるけど全然ダメージ入ってないね。

 鈍い音しないし、パシ、ぺちっって感じ。

 そもそも重心が変だし、腰も入ってない。

 キンジも相手がケガしないように殴られた瞬間に引いてるし。

 顔を殴られればパンチが当たった瞬間に抜けるように顔を逸らしたり、そんな感じ。

「も、もうやめてえー!」

 見てられないとばかりに望月は叫んでるけど、私は若干笑いそうになる。

 すんごい茶番だよ、これ。

 私なんか取り残された感じが半端ない。

 キンジも内心笑いそうになってるんじゃないかな?

 そう思いつつも、私は興奮で視野が狭くなってるチンピラ2人に分からないように望月を連れ出す。

「望月さん、逃げよ」

「そ、そんな……遠山君が!」

「いいから。死にはしないし、先生に言いにいこう」

「あ……う、うん」

 私の言葉にハッとなって望月は助けを呼びに言った。

 それから望月が去ったのを見て、キンジの方を向くと――

「……う……」

 派手に蹴り飛ばされた感じを演出して自転車の集団の中で倒れた。

「藤木林ィ! 朝青ォ! ――停学中に何をやっとるかァ!」

 そこでさっき窓から見てたクラス担任が怒声を上げる。

「……朝青、バックれっぞ。おい遠山。覚えてろよ。罰金はお前だ」

 息切れしつつ藤木林はそんな捨て台詞を吐いて、朝青と2人でやたらと変に改造したステッカーだらけの原チャリに乗ってフラフラと去って行った。

 妙な原付が近くにあるから2人のだろうとは思ってたけど、ちゃんとした改造してないね、アレ。

 エンジンの掛かりが遅い割に騒音だらけ。

 武藤が見たら怒るだろうね。

 なんて思いつつも、私はキンジのところへ。

「なんか、余裕そうに見えるんだけど……気のせい?」

「気のせいだ。いやあ、痛かった」

 殴られたところをさすりつつ、よろけたフリ。

 白々しい。

 (あざ)にもなってないのに痛かった、ねえ。

 まあ、一般人にはそんなの観察する余裕ないか。

 手を出すとキンジは私の手をとって、立ち上がる。

「それはそうと、勝手に入るなよ。あの手のヤツは危ないんだからな」

「私なりに助けたつもりだったんだけどな。望月さんが変に叫ぶから」

「お前は……怖くないのか? あんな男2人に囲まれて」

「乱暴されるのは……慣れてるから」

 私はキンジの言葉にちょっと遠い目をする。

 最終的には私が乱暴する側なんだけど、まあ、これまで血みどろの戦いを何度かやってるから間違いではない。

 そもそも私の場合はほぼほぼ暗殺だから戦いになることは少ないんだけど。

 誤解をされるような言い方をしてるのはワザとです。

「……もう少し自分を大事にしろよ。まあ、萌を連れ出してくれて助かったけどな」

「どうも。それはそうと、終わったしもう帰るよ。カッコよかったよ、遠山」

 私のその言葉にキンジは少しだけ笑った。

 大して何もしてないとか思ってるんだろうけど、道化を演じるのも案外楽じゃないからね。

 実際、それで大きなことにならずに済んだ訳だし。

 そこで私はキンジと別れた。

 さて、学校側にどう言い訳しようかな?

 

 ◆       ◆       ◆

 

 亜金が去って、俺もカバンを持って萌が来る前に去ろうと動く。

 絶対に心配するだろうからな。

 ある程度自転車置き場から離れたところで、

「……おい兄貴、あいつら()っちゃっていいか?」

 などと、物騒な耳打ちをする光屈折迷彩(メタマテリアル・ギリー)のコートで透明人間状態の我が弟に、

「お前は子供のケンカに大砲でも持ち込むのか? あいつらも人間なんだ。人を殺すな」

 独り言のように警告する。

 実は途中からいたのだ、ジーサードも。

 俺の行動が意味分からなくて壁際で立って見てただけだけど。

「読めなさすぎるぜ、兄貴の奇行は。何やってたんだよ」

「お前には教えてやるが、"学校生活"だ。邪魔したらシメるぞ」

「けッ。なんだそりゃ」

「こっちは一般人になろうとしてるんだ。血生臭い話とは無縁のな」

「無理だろ」

「オイ」

 この弟、生意気にも即答しやがった。

「俺をぶっ倒しといて隠居には早えだろ。女に手を出すのは早えのに」

「女に手を出してるってどういう意味だよ? 別に、俺は何もしてない」

「……兄貴、あんまりそういう事は言わない方がいいぞ。俺もこの手の話は疎い方だが、多分その内変な敵を作るぜ」

 呆れるように言う、ジーサードだが俺には意味が分からん。

「それはそうと、俺を()けるな。兄に過保護な弟なんて聞いたことないぞ」

「べっ、別に兄貴が最近元気がねえから気掛かりで来たワケじゃねえからな。絶対違うぜ」

「お前らツンデレ族は理由でも言わないといけない病気なのかよ……」

 と尋ねると……ダダダダッ……バッ。

 足跡だけ残して壁を越えて校外へとどっか去って行った。

 しかし、トーシロー以下だったな藤木林と朝青。

 足跡が増えてるのにも気付かないなんて。

 普通はそんなの気にしないか。

 なんて考えながら俺が校外の門を出たところでレキが待っていた。

「随分と手が早いですね」

 レキが珍しくトゲのある感じ。

 いきなりだな。

「お前も途中、見てただろ?」

 距離を詰めてお互いに歩きながら話す。

 レキも何故か見てた。

 家政婦は見たみたいな感じで。

「はい。望月萌さんの近くにいたあの女性は誰ですか?」

「ああ……亜金の事か? 俺と同じ転校生だよ」

 そう言えば、亜金とは会ってないな……レキ。

「そうですか」

「何だよ、何か気になるのか?」

「はい、あれは白野さんだと風が言っています」

 出た、レキの脳内人物の風さん。

 しかし……亜金が霧ね。

 そう言われても不思議と違うと言えないのが妙なんだが。

 あいつも何だかんだで俺のことを尾行してたりするからな~

 似通ってる点が多いし、別人なようで別人な気がしない。

 もし、そうだったとしても俺は驚かない。

 だけどそうなると、なんでここにいるのかって話になるんだが……

 うーん、分からん。

 違和感は感じないが、雰囲気が違うからどうも霧だって言い切れない。 

 妙な感じだ。

「そうか」

「驚かれないのですね」

「何となくな。違和感はあるが、不思議でもないなって」

 ぺしっ。

 おい、何故蹴る。

「あまり女性に近付かないで下さい」

 淡々とした感じでレキが言いながら、きろっと睨んできた。

 俺は何もしてないんですけど。

 ていうか、ちょっと恐いんだが。

 俺の周りには変な女が多すぎる。

 


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