「墓場にズーラーノーンの高弟が潜伏しているだと」
クレマンティーヌに情報収集を命じたら、すぐに話し出した。
何でも、追っ手の目を誤魔化す為に利用しようと思っていたらしい。
追っ手。
何の追手だろう?
あたしはクレマンティーヌの服装に目をやる。
女のあたしでも目のやり場に困る程に露出度が高かった。
うん。きっと痴女生活も楽じゃなかったんだなと同情した。
大丈夫だよ。あたしは痴女に偏見は持っていないからね。理解も持っていないけど。
この世界は風紀の乱れには厳しいのだろう。
とにかく、墓場のズーラーノーンの高弟はこの都市で騒動を起こす気らしい。
ここであたしは思案する。
衛兵にすぐに連絡したら騒動は防げるけど、あたしはただの情報提供者に過ぎない。
だけど、騒動が起こってからそれを解決したら、あたしの価値が上がる気がする。
「うん、騒動が起こったら適度なところで解決しよう」
「イエス、マスター」
「いや、まあ、私が言える筋合いは無いんだけど、あんた達も大概だよねー」
クレマンティーヌが呆れたように言った。
*
墓地で大量のアンデッドが湧いたらしい。
冒険者組合に“偶々”居合わせたあたし達は、即座に組合の緊急依頼を受けることにした。
「ククク、蹂躙の時間だ」
あたしはオートマトン達を率いて墓場に向かった。
クレマンティーヌは、まるで副官のようにあたしの傍で控えている。
墓場に近付くと、さながら戦場のような怒号と悲鳴が飛び交っていた。
「偵察部隊を先行させるぞ。遠距離部隊はバックアップ、医療・兵站部隊は避難民の誘導と治療、工作部隊は武装を近接用に変更後、近接部隊に合流、近接部隊はこれより開く門からアンデッドを一匹たりとも通すな」
あたしは墓場に続く巨大な門の前に立つ。
「衛兵、開門だ」
近くにいる衛兵に開門を指示するが、衛兵は怯えて開けようとしない。
門を見上げる。
大した高さではなかった。
飛び越えるのは簡単だが、戦場に出撃するのに開門しないというのは、敵に怯えているようで気に食わない。
「もう一度だけ言う。開門だ」
殺気を込めながら、衛兵に指示する。
衛兵は涙や鼻水で顔をグシャグシャにして、みっともなく震えながらも決して門を開けようとしない。
なるほど、この門を守る。
それが、この衛兵の戦いなのか。
あたしはこの衛兵の勇気に惜しみない称賛を送ろう。
「ていっ」
軽く門をぶん殴ってやると、巨大な門が轟音と共に爆砕した。
その爆風で転がった衛兵の前に立つと、あたしは胸を張って宣言した。
「これであたしの勝ちだな」
門を巡る戦いに勝利したあたしは、その勢いを持って、門から溢れ出てきたアンデッドの大群に突撃する。
「我が娘達よ。援護せよ!」
「イエス、マスター。撃つ」
両腕をガトリング砲に変形させた近接部隊総勢24機の支援を受けて、あたしは突っ込もうとした。
ドガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッ!!!!!!!!!!!!!!!!
一歩踏み出す前に、目の前の敵が全て吹き飛んだ。
「不思議な魔法だけど、威力は凄いよねー」
いつの間にか近くの建物の陰に隠れていたクレマンティーヌが顔だけ出していた。
うぬぬ、それにしても敵が弱すぎる。だが、ここで油断するのは愚か者だ。
常に敵戦力は、最大評価で考えるべきだ。
あたしは各部隊に指示をする。
「近接部隊の半数はこの場で拠点防御。残り半数と偵察部隊は先行して移動経路の確保と維持。遠距離部隊は射線を確保後に各部隊の支援。言っておくが、この程度の弱敵に後れをとることは許さんぞ」
『イエス、マスター。完全なる勝利を我らの手に』
「よし、我が娘達よ。これより蹂躙を始めるぞ」
あたしは号令を発する。
オートマトン達が一斉に動き出す。
*
一度は殲滅した筈のアンデッド共が再び集結しだした。
戦場が墓場だけあって、敵は増援に困らないようだ。
配置についた遠距離部隊から焼夷弾が一斉に放たれる。
偵察部隊の進路を確保するように放たれた焼夷弾が、アンデッドの群れを焼き尽くす。
空いた隙間を埋めるように素早く偵察部隊が駆け込み、即座に銃撃を開始し始めて隙間を広げていく。
遠距離部隊の砲撃と偵察部隊の銃撃によって、徐々に前方に開けた空間が出来上がっていく。
その開けた空間に近接部隊が躍りこむと、左右に分かれ通路を確保。
通路上に入り込むアンデッド共を十字砲火で駆逐していく。
遠距離部隊は精密射撃に切り替え、近接部隊に近寄るアンデッドを射殺していく。
偵察部隊は周囲に大きく展開していき、より広い陣地を確保していく。
あたしは銃撃と爆音が響く戦場を、ただ真っ直ぐに進む。
こうしていると“ユグドラシル”の頃を思い出す。
流石にここまで簡単に通路を確保できたことは無かったが、オートマトン達の支援を受けて、あたしが敵中に突っ込んで蹂躙する。
そんな単純な戦いを繰り返したものだ。
その時、一体のスケルトンがフラフラと目の間に現れた。
この銃撃の雨の中、よくぞあたしの前にまで来られたものだと感心する。
遠距離部隊の照準が、このスケルトンに合わされたのを感じたあたしは、それを止める。
あたしの前まで来たのだ。この手で屠ってやるのが筋というものだろう。
とはいっても、あたしの愛棍棒を使うまでもない。
素手で頭蓋骨を掴むと持ち上げて力を込める。
手の中で、ミシミシと軋む音が聞こえてくる。スケルトンはバタバタと暴れるが、無駄な行為だった。
ふふ、こうして骸骨を見ていると“ユグドラシル”時代に見知ったオーバーロードを思い出す。
あいつとは時々、PK狩りの現場でかち合って、お互い競うようにプレイヤーを屠ったものだ。
そういえば、あいつはギルドの仲間といつも一緒だったな。あたしは一人だったけど。
何時だったか、あいつが口にした言葉を思い出す。
“…さんは、いつもお一人ですが、お仲間はいらっしゃらないんですか?”
バキャイイイッ!!
あたしの手の中の頭蓋骨が砕け散る。
くそう、リア充め!!
今度会うことがあったら殴ってやろう。
あたしは心にそう誓いながら歩みを速めた。