結果的に言えば、盗賊共のリーダーは本当に王国戦士長らしい。
疑うあたしに、エ・ランテルの都市長を自称する野ブタのような男が、リーダーは本当に王国戦士長なのだと保証した。
あたしとしては、この自称都市長も非常に怪しいのだが、エンリが納得したからここは彼女の顔を立てる事にした。
それで報奨金なのだが、王国戦士長達が来る前に殲滅した奴らは、本当に盗賊団だったらしく、近隣の村々を荒らしまくっていたのを王国戦士長達が討伐に来たらしい。
それなら王国の騎士らしい格好をして来いと言いたいが、色々と面倒くさい事情がありそうなので聞かなかった。
まあ、その盗賊団を殲滅した謝礼として、あたしは報奨金を貰えたから文句はない。
報奨金の額もエンリが、都市で四人家族が三年間は暮らせるぐらいの額だと教えてくれた。
一千万円ぐらいなのかな?
あたし達は、当初の目的を果たしたから観光をする事にした。
オートマトン達は、数が多いから宿屋代の節約の為にあたしのお世話係以外は影から護衛させることにした。
こういう時は、睡眠や飲食も不要なオートマトンは便利だと思う。それに疲労もしないらしい。
そういえば、アイテムでそういう効果の指輪を持っていた事を思い出す。
あたしも使う方がいいのかな?と思ったけど、オートマトンが使わなくていいと言うから使うのは止めた。
数日間は色々なお店を巡りながら、エンリからこの世界の常識を教えてもらった。オートマトン達が。
言っておくけど、あたしとオートマトン達は一心同体だから、彼女達の知識はあたしの知識でもあるから問題はない。
あたしはネムと楽しく都市巡りをしていた。
そんなある日、エンリが見知らぬ少年に声をかけられた。
ナンパかと思い、少年を殴り倒そうとしたら、エンリが親しげに話しかけた。
少年はエンリの知り合いだそうだ。
知り合いがいるなら言っておいてほしい。もう少しで少年の脳天を陥没させるところだったではないか。
少年は薬屋さんの息子らしい。
調合もするらしく、エンリの村は時々、薬草を彼の所に売っているそうだ。
少年の方も村を訪れて薬草摘みをする事があるらしく、そろそろエンリの村を訪れようと考えていたという。
「それなら少年と一緒に村に帰るか?」
あたしは冒険者登録をして、暫くは活動しながら周辺の状況を調査しようと考えていたから、少年がエンリとネムを村まで送ってくれるなら助かる。
「心配しなくても少年がエンリに手を出さないように、真ん中の足を潰しておいてやるぞ」
あたしの冗談に、エンリが真っ青になりながら「止めてあげて!」と叫んだ。
ちょっとした冗談に本気で返されると、意外とショックを受けることをあたしは学んだ。
*
エンリ達を少年に託した後、あたしは冒険者組合に向かった。
少しくたびれた冒険者組合の建物の中に入ると、入る直前まで騒がしかった筈なのに、あたしが入った途端に静かになった。
なんだこれ?
これが新人イジメという奴なのだろう。
あたしは気にしていないように装うと、受付らしい女性の所に向かった。
「冒険者登録をしたい。手続きをしてくれ」
初対面の人間に勇気を出して声をかける。だけど受付嬢は返事をしてくれない。
やっぱりオートマトンに言わせれば良かった。
あたしは震えそうになる声を抑えながら、もう一度、声をかける。
「ここの受付嬢は礼儀を知らないのか?」
あたしの言葉に受付嬢がやっと動き出した。
ワタワタとしながらだったから、もしかして目を開けたまま眠っていたのかな?
寝ているところを急に起こされたらビックリして、こんな感じになると思う。
でも、仕事中に寝ちゃダメだぞ。
暫く説明を受けた後、無事に冒険者登録が済んだ。
最初は銅のクラスからスタートだ。
*
仕事の依頼を見ていると橋の修理が載っていた。
この依頼は、銅クラスでも受けられる。
あたしは依頼を受ける事にした。
指定された場所に行くと、所々穴の空いた橋があった。
早速、影からあたしの護衛をしてくれているオートマトン達の内、工作部隊を呼び出す。
本来の任務は、敵地での破壊工作や、罠の設置や除去等だけど、橋の修理なんかも簡単にこなしてくれるはずだ。
そして、あたしの期待にオートマトン達は見事に応えてくれた。
呼び出されたオートマトン達は、凄まじい速さで橋の修理を終わらせてしまったのだ。
依頼主に報告に行くと、依頼主はあまりの速さに驚いていたけど、橋の確認をすると凄く喜んでいた。のをオートマトンの後ろで確認した。
それからは暫くの間、建物修理専門で依頼を受けていた。
だけど残念ながら長く続かなかった。
あたし(オートマトン)の修理の速さと丁寧さは評判になったけど、専門の大工達からの苦情が冒険者組合にきたらしい。
なんでも“縄張りを荒らすな”という事らしい。
折角の儲けのいい依頼だったのに残念に思う。
「マスター、周辺の調査はしないのでしょうか?」
気落ちしていたあたしに、オートマトンが疑問を投げかける。
うん、忘れてた。
「明日から調査しようと思う。今日はその準備をするぞ」
「イエス、マスター。それと、そろそろ薬屋の息子が戻ってくる予定の日です」
「そうか。では、エンリ達の様子を聞き行こう。何か非常事態が発生していたら、一度村に帰るぞ」
「イエス、マスター」
あたし達は薬屋の息子の家に向かった。