異世界生活はオートマトンと共に(完結)   作:銀の鈴

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第5話「リ・エスティーゼ王国

王国の正式名称は、“リ・エスティーゼ王国”というそうだ。

 

ガタンゴトンと揺れる馬車に乗りながら、エンリに王国の説明をしてもらう。

 

村長にも聞いた筈だが、王国としか記憶していなかった。

 

なんでも王国では、貴族共が偉そうにしているから気をつけた方がいいらしい。

 

それとやっぱり冒険者は存在していて、冒険者組合がその依頼の仲介をしてくれるらしい。

 

一度ぐらいは覗いてみようかな?

 

それとエンリがオートマトンの顔の区別がつかないと苦笑していた。この辺りでは珍しい黒髪黒目だから全員が同じ顔に見えるらしい。

服装も見た事のないものだと珍しがっていたが、遠い異国の民族衣装だと思っているみたいだ。

 

「マスター。不審に思われぬように認識阻害魔法の使用許可を申請します」

 

「不許可だ。たとえ不審に思われようとも、お前達は我の娘だ。作戦行動以外でコソコソ隠れるような真似をする必要はない」

 

「イエス、マスター。了解しました」

 

別に人間共に不審に思われようと大した不都合はないと思う。

あたしの大事なオートマトン達に手を出そうとする輩がいれば殲滅するのみだ。

 

 

馬車の旅は順調だけど、王国に着くのに2日はかかる。

 

今夜は野宿だった。

 

何時ものようにオートマトンがご飯を作ってくれる。

 

エンリ達が、凄く美味しいと食べていた。

 

どうだ、あたしのオートマトンは料理上手だろう。と、声に出すのは恥ずかしいので心の中で威張っておいた。

 

今夜の抱き枕はネムにしようと思ったら、想像以上に寝相が酷かったからエンリと取り替えた。

 

抱きしめたエンリに、オートマトンと比べたら少し柔らかさが足らない。と口を滑らせたらプンプン怒ってしまった。

 

これはあたしが悪いだろう。

 

反省した。

 

おっぱいがちっぱい子に、ちっぱいとは言ってはいけない。

 

これが世界の常識なのだから。

 

 

盗賊共の足が遅すぎる。

 

フラフラとふらつきながら歩く盗賊共。

 

このペースだともう一晩、野宿になりそうだ。

 

あたしがこうなったら引き摺っていこうと提案したけど、ネムに盗賊さん達は、お腹が空いてフラフラだから足が遅いんだよ。と言われた。

 

そういえば盗賊共に食事は与えていなかった。

 

死なれたら腐って臭そうだから食事を与える。

 

盗賊共は貪るように食べた。

 

とても行儀が悪い。所詮は盗賊だな。

 

とにかく歩く速度を早める事には成功する。

 

これで今日中には王国に着きそうだ。

 

暫くするとゴブリンとオーガの群れに出会った。

 

ゴブリンは汚いし、オーガは馬鹿そうだった。

 

群れはオートマトン達が一瞬で殲滅した。

 

先行部隊との隙間を掻い潜って接近したみたいだ。

 

ゴブリンとオーガのレベルが低すぎて探知に引っかからなかったみたいだな。

 

ところで、今回出会ったオーガがあまりに馬鹿そうだから、あたしがオーガプリンセスだという事は、言わないでおこうと思った。

 

オートマトン達にも口止めをしといた。これで大丈夫だと思う。

 

賢いあたしが、あの馬鹿そうなオーガと同じだと思われるのは我慢ならない。

 

 

王国に着いた。王国と言っても王都ではなく、エ・ランテルという城塞都市だ。

 

早速、門を守る衛兵に盗賊共を突き出して、報奨金を貰おうとエンリに説明をさせる。

 

あたしはそれを離れた馬車の上で見守ってあげる。

 

ん?

 

盗賊共を引き渡した途端、衛兵達がエンリを取り囲んだ。

 

円陣を組んでお礼を言っているのか?

 

エンリを連れてきて本当に良かった。あんな晒し者みたいなお礼の仕方は受けたくない。

 

暫く見物しているとエンリの顔色がドンドン悪くなる。

 

立ち眩みだろうか?

 

エンリは田舎娘らしく、体力には自信がありそうなのに困ったものだ。

 

あたしの膝でネムがお昼寝をしているから助けには行けないぞ。

 

なんだ?

 

衛兵共が盗賊共の縄を切って解放したぞ!?

 

きっと衛兵共は、あの盗賊共に袖の下を貰っていたのか、それとも元から盗賊共の仲間だったのだろう。

 

エンリから王国には腐った貴族が多いと聞いていたけど、衛兵も腐り切っていたらしい。

 

あたしは遠距離部隊に精密射撃の準備をさせる。

 

奴らの近くにいるエンリに当てないように十分に狙いをつけさせる。

 

同時に近距離部隊も接近させる。

 

偵察部隊には都市内部からの増援を警戒させる。

 

あたしのオートマトン達は、一応は部隊別にしているけど全て同型機のため戦闘能力に違いはない。

 

常用装備に違いを持たせているだけで、それぞれには同じ装備を与えているから、各自で装備を変更すればどんな役割もこなせるのだ。

 

あたしは慎重に同時攻撃の機会を窺う。

 

あたしが突っ込んでいけば、一瞬であいつら全員を屠るのは簡単そうだけど、ネムを放り出すわけにはいかない。

 

ネムを近くのオートマトンに任せるにしてもタイムラグが発生する。

 

まさかネムを荷物のように放り投げるわけにもいかないだろう。

 

それなら全ての敵を同時に射殺すればいい。

 

焦る事はない。あたしには信頼するオートマトン達が付いているのだから。

 

あっ。

 

盗賊のリーダーが動いた。

 

リーダーがエンリに近付く。

 

怯えるエンリにイヤらしい笑みを浮かべている。

 

よし、あいつは痛めつけてから殺そう。

 

あたしはリーダーを狙っているオートマトンに、あいつの足を狙うように指示する。

 

そして、あたしが攻撃の合図を…んん?

 

エンリがあたしに向かって「攻撃しないでー!」とか言っている。

 

失礼だぞ。

 

あたしがエンリを巻き込むとでも思っているのだろうか?

 

でも、一生懸命に両手を振っている姿が可愛いから許してあげよう。

 

あたしはにっこりと笑ってあげた後、オートマトン達に攻撃開始の合図を送る。

 

「精密射撃、撃て!」

 

合図と共に一斉に放たれる凶弾…あれ、凶弾が放たれない?

 

あたしがオートマトン達に疑問を投げかける。

 

「イエス、マスター。エンリ殿は“自身に攻撃するな”ではなく、“衛兵と盗賊共に攻撃するな”と言いたいのだと推察します」

 

あれ、そうなの?

 

エンリの方を見ると、うんうんと激しく首を縦に振っている。どうやらオートマトン達の判断が正しいらしい。

 

流石はあたしのオートマトン達だ。

 

マスターの命令に盲目的に従うのではなく、マスターの目的に沿った動きをする。

 

苦労して60回もイベントをこなした甲斐があるってものだ。

 

そういえば、オートマトン専用の強化アイテムで、限界まで全ステータスも伸ばしてたんだっけ。

 

あれで知性も伸びたんだね。

 

マスターと同じ知性派というわけだ。

 

あれ、盗賊のリーダーが近付いてきた。

 

あたしに何か用があるのかな?

 

 

 

 


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