あたしが気がつくと村人達が集まっていた。
オートマトンがあたしの前に立つ。
「何の用だ?」
あたしの代わりに村人と話してくれる。
あたしは指揮官だから気安く他人とは喋らないのだ。
オートマトンの後ろからコッソリと村人達を観察する。
その怯えた様子から察するに、あたし達に敵対する気になったわけではないみたい。
口下手なオートマトンが、根気よく聞き出してみたところ、先ほどの戦闘音に驚いただけみたいだ。
「盗賊らしき者達を退治しただけだ」
オートマトンの愛想の無い返事でも、村人達は安心したみたいだ。
盗賊を倒してくれた事に感謝してきた。
えっへん。
もっと感謝したまえ。
オートマトンの後ろで、あたしは胸を張る。
*
お昼のご飯はバーベキューだった。
オートマトン達がいっぱいのお肉を持ってきてくれたから、寛大なあたしは村人達にも振舞ってあげた。
オートマトン達は飲食が不要だから、どうせあたしだけでは食べきれないからだ。
見るからに栄養状態の悪そうな村人達は、喜んで食べている。
オートマトンが、あたしがマスター(指揮官)だと勝手に村人に告げたりしたから、あたしに礼を言ってくる。
まったく、面倒な事をしてくれる。いちいち返事をするのは疲れるのだ。
それに、ちっちゃな女の子が引っ付いてくる。
名前はネムというそうだ。
何が楽しいのか分からないけど、あたしの体をよじ登ろうとする。
肩まで登ったところで、ネムの姉らしき娘が慌てて来たと思ったら、ネムを引き剥がすと謝りながら連れていってしまった。
肩まで登れたご褒美に、ネムに何かをあげようと考えていたのに残念だ。
*
夕方までゴロゴロしながら、今後の事を考えていた。
王国に行くか。帝国に行くか。法国に行くか。竜王国に行くか。それとも…
「この村に住もうかな?」
そんな事を考えていたらオートマトンがまた報告してきた。
「マスター、この村に近付く騎馬がいます」
「そいつらも敵対勢力か?」
「現在は不明ですが、荒々しい雰囲気はあります」
「分かった。今朝と同じ場所で迎え撃つ」
疑わしきは罰しろだ。
この命の軽そうな世界で躊躇などしたら、即座にこちらが殺されるだろう。
そういえば今朝、探知系魔法であたし達を覗こうとした奴らのことも気になる。
もしかしたら、今こちらに向かっている奴らがそうなのか?
探知系魔法を弾かれたから、直接様子を見に来たのかもしれないよね。
あたしは気を引き締める。
「倒すより、捕まえて尋問すべきかも」
「イエス、マスター。捕縛を前提にした戦術に切り換えます」
あたしの独り言にオートマトンが応えてくれた。
*
あっさりと捕まえた。
縄でグルグル巻きにされた男達は、俺達は王国の騎士だとか、この方は戦士長だとか、訳の分からない事を口にする。
村長に確認しても、男達の装備は統一性がなく判断がつかないらしい。
「お前達が覗き見をしようとした奴らか?」
オートマトンが質問する。
「何の事だ?」
一人の男が答える。こいつかリーダーだろうか? どう見ても魔法が使えるような顔に見えない。ただの粗野なおっさんだった。
剣の腕も大したことないし、ただの野盗のようだ。
ただの野盗なら興味はない。この村を襲おうとしていたのなら村長に任せよう。
「ここで殺すか? それとも王国の衛兵に突き出すか?」
あたしは村長に直接聞いてみた。
バーベキューも一緒に食べたし、村人に直接話すことを許してやったのだ。
荒事に慣れていない村長は、殺す事には反対する。それに王国に罪人を引き渡せば、多少の報奨金が貰えるらしい。
こいつらが賞金首だったりすれば、その金額も上がるそうだ。
男達に罪人として王国に突き出す事にしたと告げると、全員が真っ青になっていたから、重罪人として賞金首になっている可能性が高いと思う。
これでこの世界のお金を手に入れられそうだ。
「クク、賞金は幾らかな」
あたしが喜んでいると、男達のリーダーらしき男が、諦めたように深い溜息をついていた。
*
あたし達は王国に向かう事にした。
村の防衛のために即席のゴーレムを数体ほど作ってあげた。
流石にあたしの大事なオートマトン達は、貸してあげれないからね。
それに、この村にはオーガプリンセスのあたしの匂いが残っているから、この辺の弱いモンスター達は近付かない筈だ。防衛は即席ゴーレムで十分だろう。
そういえば、ネムが王国に行ってみたいと言うので、観光がてら連れていく事にした。
ネムの両親や姉が恐縮していたが、気にするほどの事でもない。
ネムの一人や二人など負担にもならないと笑ってあげた。
するといつの間にか、ネムの姉のエンリも一緒に行く事になっていた。
この子は愛想がいい子なので、交渉役に良さそうだ。
あたしのオートマトン達は口下手だから、きっと衛兵への説明に時間がかかるだろう。エンリが一緒に来るならちょうど良かったと思う。
あたし?
あたしは前も言ったけど、指揮官だから前には出ないのだ。
そしてあたし達は盗賊共を連れながら王国へと向かった。
あたしとネムそしてエンリは、村の馬車で移動している。
オートマトン達は、先行部隊と護衛部隊に分かれて警戒に当たってくれている。
盗賊共は当然だけど、縄で縛ったままで歩かせている
村を出てすぐに先行部隊が、天使の群れに襲われかけたらしいけど、威嚇射撃だけで撃退出来たそうだ。
やっぱり、この世界は危険に満ちている。
野良天使がいるなんてビックリだよ。