異世界生活はオートマトンと共に(完結)   作:銀の鈴

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エピローグ

うぅ…酷い目にあった。

 

これからはクレマンティーヌを怒らせないように気をつけよう。

 

お説教部屋にはもう入りたくない。

 

はあ、もうアルバイトの時間だ。

 

オートマトンとご飯を食べに行きたかったのに。

 

今日の現場は田舎らしい。

 

鉄道工事はまだまだ先の場所だけど、予め必要な測量をするそうだ。

 

工事の職人達を護衛しながら移動してみると、現場はカルネ村の近くだった。

 

そうか、カルネ村は田舎なんだね。

 

うーん。

 

カルネ村と王都を鉄道で直接繋げたらネム達は喜ぶかなあ?

 

今度、相談してみよう。

 

あたしは職人達と森の中に入っていく。

 

鉄道工事はドワーフ王国が存在していた更地(今は復興中らしい)まで行うそうだ。

 

人を運ぶより、鉱山で掘った鉱物を運搬するのが主目的らしい。

 

そういえば、土竜王は元気かなあ?

 

連れて来たかったけど、土竜王は太陽の下だと目が見えないと言われて諦めた。

 

太陽かあ…

 

そうだっ!!

 

サングラスをかければ良いんじゃないかなっ!!

 

よしっ!!

 

今度、試してみよう!!

 

自分のナイスアイディアにウキウキとしていたら、いつの間にか森の奥まで来てしまった。

 

うむ。

 

 率先して危険な奥地まで見回りするあたしは警備員の鑑だね。

 

“ゴソゴソ”

 

ん?

 

誰かいるのかな?

 

森の茂みから何か音が聞こえる。

 

覗いてみると、巨大なハムスターが昼寝をしていた。

 

ハムスター!?

 

息をするのも忘れて巨大なハムスターを凝視する。

 

頰を熱いものが伝う。

 

あたしは目から流れる涙を堪えることが出来なかった。

 

かつて両親が元気だった頃にハムスターを飼いたいと強請ったことがあった。

 

両親は小学校の入学祝いに買ってくれると約束してくれたけど、その後すぐに……

 

「むむ…?」

 

巨大なハムスターが目覚めた!

 

あたしは慌てて涙を拭う。

 

「誰かいるでござるか…?」

 

巨大なハムスターと視線が合う。

 

その瞬間、目に見えない何かがあたしと巨大なハムスターの間で通じ合った気がした。

 

巨大なハムスターの目が丸くなる。

 

バタンとひっくり返ってお腹を見せてくれた。

 

「降参するでござる! それがしの負けでござるよ!」

 

あたしは巨大なハムスターのお腹にダイブした。

 

“ポヨン”

 

運命の出会いだった。

 

 

***

 

 

「敵襲です、ブレインさん!」

 

見知った顔の傭兵が、慌てて走ってくる。俺は苦笑して、口を開く。

 

「そいつは見れば分かるさ。人数は? どんな奴らなんだ?」

 

「はい! 敵は一人と一匹、女と魔獣です」

 

「ほう、女の魔獣使いというわけか」

 

この傭兵団『死を撒く剣団』に挑めるほどの女の魔獣使いの噂は聞いたことはないが、現に襲われている。

 

たった一人と一匹で襲撃してきた敵に敬意を抱くと同時に、俺の心は強敵を前にして抑えることの出来ない高揚感に包まれる。

 

「ああ、お前は来なくていいぞ。奥でも固めておけよ」

 

俺は傭兵に告げると、未知への強敵へと歩みだした。

 

 

 

 

洞窟の入口に近付いていくと血の匂いが漂ってきた。

 

不思議なことに傭兵共の声は全く聞こえない。

 

俺がここに来るまでの僅か数分で、入口付近に詰めていた十人以上の傭兵が皆殺しにされたということだ。

 

「本当に襲撃者が一人と一匹なら、俺なみの強さは持ってるってこと、か」

 

俺はニヤリと笑う。

 

歩む速さは変えずに、魔法の薬を取り出して一気に呷る。苦味の強い液体が胃に流れ込む。続けてもう一本。

 

次に俺は魔法のオイルを取り出して、抜き放った刀身にかける。

 

これで、俺の筋力と速度、そして得物の切れ味が向上した。

 

「起動一、起動二」

 

俺が口にしたキーワードに反応し、指輪とネックレスに秘められた属性防御と目を保護する魔法が発動する。

 

少人数で攻めてきた相手だ。今回は準備万端で挑むべき相手だろう。

 

体の中から噴出する熱を深呼吸を繰り返して排出する。

 

これだけの準備をしたのだ。たっぷりと楽しませてもらうぞ。

 

俺は獰猛な笑みを浮かべ、足に力を入れて前に進んだ。

 

 

 

 

洞窟を出た俺の前に“そいつら”はいた。

 

パールホワイトの毛を持つ、巨大な魔獣。その瞳は深みある英知を感じさせる。こうしているだけで、その強大な力が伝わってくる。

 

その魔獣に騎乗するのは、魔法の輝きを放つ真紅の鎧の女戦士。

 

その身から放たれる圧倒的というのも馬鹿らしくなる程の強大すぎる闘気。

 

女戦士の手には、身震いするほどの魔力を発する巨大な棍棒――――こ、棍棒? ま、まあいいか。

 

周囲の地面は血に染まっていたが、何故か死体はなかった。

 

辺りを染める血の量から察するに、肉片すら残さずに砕かれたのだろう。そんな真似が本当に出来ればの話だが。

 

「姫、他の盗賊が出てきたでござる。今度はそれがしに任せてほしいでござる」

 

厄介だな、人語を操る魔獣か。

 

それにしても姫、か。何者だ、あの女戦士は?

 

「我が愛するハム子よ。そなたの気持ちは分かるが、これは我らの初陣だ。ならばそれに相応しい一撃を魅せるべきだ。そう思わぬか?」

 

「おおっ、その通りでござる! 功を焦ったそれがしの誤りでござる!」

 

「ふふ、構わぬ。武功を望むは武士として当然のこと。だが、今回は我に任せるがよい」

 

「それがしも姫の格好いいところを魅たいでござる」

 

な、何を言っているだ、こいつらは?

 

この俺を前にして、まったく警戒していないのか?

 

俺は込み上げてくる怒りを抑えることが出来なかった。

 

いいだろう。名乗りを上げて、尋常に勝負をしようと思っていたが、気が変わった。

 

このまま斬り捨ててやるぞ!!

 

俺は音を立てずに一気に間合いを詰めて刀を振るった。

 

“ガキンッ!!”

 

「なにっ!?」

 

女戦士の首を切り落とすはずの刀身は、女戦士が立てた一本の指で止められていた。

 

「ふむ、見事な身のこなしだ。だが、一撃に力が無さすぎる」

 

「なんだとっ!? 俺の刀は魔法の鎧すら切断するぞ!!」

 

俺の叫びに女戦士は悲しそうな表情をみせる。

 

「な、なんだ? 何故、そんな悲しい目で俺を見るんだ!?」

 

「お前は選ぶ武器を間違えた。生まれ変わったなら───次は間違えるな」

 

次の瞬間、俺の目には迫り来る巨大な棍棒がうつった。

 

反応できたのは俺が今まで積み重ねてきた努力の結果だったのだろう。

 

無意識の内に放たれた一撃は過去最高のものだった。

 

この一撃ならガゼフをも両断できると確信できるものだった。

 

だが、その一撃は巨大な棍棒に擦り傷すら付けられずに砕かれた。

 

そして、自分の肉体が粉々に砕かれていくのを感じるのと共に、俺の目には魅えた。

 

アジトのあった巨大な岩山が文字通りに塵と化すのを。

 

ああ…俺は武器の選択を誤ったのだな。もしも生まれ変われたなら……次こそは…棍棒を…

 

その想いを最後に、俺の意識は闇に閉ざされた。

 

 

***

 

 

「あんたの反省は三日しか持たないのかっ!! 盗賊退治で山を吹っ飛ばす馬鹿がどこにいんのよ!! あんたのせいで私が謝らなきゃいけないのよ!! 今度という今度は徹底的に矯正してやるっ!! こっちに来やがれ!!!!」

 

 

いやぁあああああーーーーーっ!!!!

 

引きずらないでーーーーーーっ!!!!

 

ハム子助けてーーーーーーーっ!!!!

 

 

「姫、御武運をお祈りするでござる」

 

ハム子っ!?

 

あたしの助けを求める声に応えてくれる者はいなかった。

 

 

ズルズルズル………

 

 

ガチャ

 

 

バタンッ

 

 

そして、扉は無情にも閉められた。

 

 

 

*******

 

 

 

 こうして姫は、荒れ狂う聖女に諭されて3日ぐらいの間は、思慮深い言動をされる知性派の姫になったと伝えられているでござる。

 

 

めでたし、めでたし。でござるよ。

 

 

 

 

 




最後まで読んでいただきありがとうございます。

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