異世界生活はオートマトンと共に(完結)   作:銀の鈴

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最終話「最終決戦」

今日は楽しい給料日だ!

 

雨の日も、風の日も、あたしは負けずに働いてきた。

 

夜間担当のときも居眠りせずに頑張った。

 

クレマンティーヌを抱き枕にして英気を養い、美味しいお弁当で活力を得ながら頑張った。

 

今日、全ての苦労が報われるのだ!!

 

あたしが担当している地区の警備責任者のオッちゃんが大きな給料袋を持ってきた。

 

ドサッ!!

 

重たそうに地面に置かれた給料袋は、ウキウキするような重量感溢れる音を立てた。

 

“来月も頑張るんだぞ”

 

警備責任者のオッちゃんの言葉に“うん!”と元気に返事をする。オッちゃんは頷くと帰っていった。

 

ククク、いくら入っているかなー?

 

あたしのアルバイトは、危険地帯での警備だから時給は非常に高いのだ。

 

現に工事現場にはモンスターが頻繁に出没する。

 

 あたしにとっては雑魚だけど、現場で働く職人達にとっては脅威だろう。

 

あたしは現れるモンスター共をバチコンバチコンと、一生懸命に叩いて潰していった。

 

そんな過酷な仕事の成果なのだから期待は高まる。

 

「でも給金は全部、借金返済に消えるんだよねー? お楽しみも何もないんじゃないのー?」

 

それは言わないでっ、クレマンティーヌ!!

 

こういうのはモチベーション維持のために大事な儀式なんだよ。

 

今のあたしの楽しみは、お弁当とお給料とクレマンティーヌのおっぱいしかないんだよ。

 

それを奪うような発言は控えてね。

 

「いや、その気持ちは分かるけど、私のおっぱいを楽しみの一つに数えるなと言いたいかなー」

 

仕方ないなあ。それじゃあ、あたしのおっぱいに顔を埋めてもいいよ。

 

「それじゃあの意味が分からないわよ!?」

 

ふふ、今日もクレマンティーヌは元気だね。

 

さてと、そろそろ給料袋の中身を確認しようかな。

 

本当は計算済みだから、金額は分かっているけど実際に見たいよね。

 

この大きさの給料袋なら中身は金貨じゃなくて、銀貨みたいだね。

 

金貨の方が枚数は少なくて済むけど、給料の計算が難しくなる。

 

あたしの時給は銀貨で契約しているから、“働いた時間×時給の銀貨枚数=給料”で済むから、計算が出来なくても、銀貨の枚数を数えながら給料袋に入れればいいだけだ。

 

金貨で払おうとすれば、金貨と銀貨との交換比率の計算をしないとダメになる。

 

あたしみたいな知性派なら簡単な計算だけど、この世界の人にとっては難しいみたいだ。

 

ちなみにモモンガが請け負っている警備の費用の支払いは、本来なら教団からナザリックに送られているから現場で渡される事はない。

 

あたしは特別に現場での現金払いにしてもらっている。

 

何故なら、この後すぐに帝国に転移して借金を返さなければならないからだ。少しでも早く返せば、それだけ利息がつくのも減ってくれる。

 

あぁ…借金は嫌だ。

 

少し気が重くなった。

 

早く銀貨の山を見て元気になろう。

 

ゴソゴソ。

 

あたしは給料袋を開ける。

 

 

……。

 

 

「どうしたのー? 急に黙ったりして、銀貨の山に感動でも……あれ、これって銅貨じゃないの?」

 

自分の見間違いかと思ったけど、クレマンティーヌにも銅貨に見えるようだ。

 

どういう事だ?

 

あたしの銀貨が銅貨になっている?

 

「単純に給料袋に詰めるときに、銀貨じゃなくて銅貨を入れただけじゃないの? 計算して入れたんじゃなくて、枚数を数えながら入れただけなら、そういう事が起こる可能性もあるよー」

 

なるほど。

 

あたしみたいな知性派なら考えられない事でも、凡人なら起こる可能性があるわけだ。

 

ふふ、高い知性を誇る自分を基準にして考えたら他の人が可哀想だな。

 

それじゃあ、事務所に行って交換してもらおう。

 

ちょっと行ってくるね、クレマンティーヌ。

 

「あたしも暇だから一緒に行くよー」

 

そっか、クレマンティーヌは食っちゃ寝生活だから少しでも運動したいんだね。

 

「へっ?」

 

でも気にしなくても大丈夫だよ。女の子は少しぐらいポッチャリの方が可愛いよ?

 

「は…?」

 

お腹もおっぱいみたいに柔らかくて気持ちいいから、恥じる必要はないんだよ?

 

「……」

 

でも……太ももはもう少し細くてもいいかな?

 

「ダッシュで行くわよ!! ほらっ、グズグズすんなっ!!」

 

待って!?

 

あたしを置いて行かないでー!!!!

 

 

 

 

“それは事務手数料だ。当然だろうが、馬鹿なのか、お前は?”

 

経理担当者の吐き捨てるような言葉が、あたしの心に突き刺さる。

 

なんでも、教団から支払われる警備費用を直接現場で支払う場合には手数料がかかるらしい。

 

ガーーーーーン!!!!

 

そんな話は聞いていないぞ!?

 

くそうっ!!

 

クソモモンガめっ!!

 

あたしを騙したな!!

 

それとも腐れメガネの仕業かっ!!

 

どっちにしろこのあたしを騙したんだ!!

 

報いは受けさせてやるぞ!!

 

「我が娘たちよ、集結せよ!! ナザリックを攻め滅ぼすぞ!!」

 

あたしの招集にオートマトン部隊60機が完全武装で転移してくる。

 

「イエス、マスター。戦闘準備完了です。いつでもご命令を」

 

オートマトンの言葉に頷くと、あたしも本来の装備に変更する。

 

全身を覆う真紅の鎧。防御を主体とした数々のマジックアイテムを装着する。あたしは愛用の棍棒を握りしめた。

 

全てが神器級。

 

これらを揃えることが出来たのは、これから攻め滅ぼそうとしているナザリックに所属していたバードマンのお陰だった。

 

確か名前は……ペロロンチーノだったよね?

 

彼には申し訳ないが、あたしを騙したことを許すことは出来ない。

 

約束を守らない奴に生きる資格などない。

 

「我が愛する娘達よ。敵はユグドラシルにて悪名を欲しいままにしていた凶悪なギルド“アインズ・ウール・ゴウン”だ。ナザリックにて保有する戦力は我らとは桁違いだろう。ならば決戦を諦めて膝を屈するか?」

 

「イエス、マスター。戦力差などクソ喰らえです。我らは絶えず、絶望的な戦力差のある強敵と戦ってきました。今回も同様です」

 

「我が愛する娘達よ。ここはユグドラシルではない。敗れれば復活は出来ぬかもしれんぞ」

 

「イエス、マスター。マスターと共になら黄泉路への出撃も心躍ります。全てはマスターの御心のままに」

 

「我が愛する娘達よ。我が誇る精鋭達よ。我が命はお前達と共に。お前達の命は我と共に。これよりナザリックを殲滅する。我に続け!!」

 

パンパンッ。

 

手を叩く音が聞こえた。

 

「はいはい。騒ぐのはそこまでにしてねー。今、モモンガさんに“伝言”で連絡をとって確認したら手数料のことは知らないってさ。教団で巫女長をやってるレイナースにも確信したけど、教団でも手数料なんか知らないって言ってるよー。まったく、教団のことはオートマトンの方が詳しいでしょうが、なに一緒になって騒いでるのよー。久しぶりにこいつに呼び出されて興奮してはしゃいでるわけ? って、目をそらすな」

 

クレマンティーヌは呆れたような顔でオートマトンを見たあと、いつの間にか簀巻きにされていた経理担当者を踏みつける。

 

「で、あんたがこいつの給金をくすねようとしたわけね。いくら何でも銀貨が銅貨になるほど手数料がかかるわけ無いでしょうが、バレるに決まってるわよ。あんたは本物の馬鹿だわ」

 

クレマンティーヌの言葉に経理担当者は悔しそうな顔になっている。

 

ううーむ。

 

つまり、この経理担当者があたしを騙そうとしたわけか?

 

なるほど。

 

うむ!!

 

あたしはモモンガを信じていたよっ!!

 

もちろんメガネ悪魔もね!!

 

あたし達の間には熱い友情があるんだから、こんなことでは揺るぎはしないのだ!!

 

うんうん。

 

一件落着だね。

 

そうだっ!!

 

オートマトン、久しぶりだね。

 

元気みたいで安心したよ。

 

今日は一緒に帝国に行って、ご飯を食べようね。

 

「イエス、マスター。お供します」

 

あたしはオートマトンと転移しようとして……“グワシッ”とクレマンティーヌに肩を掴まれた。

 

「うふふ、あんた達にはこれから大事な用があるから帝国には行けないわよ」

 

クレマンティーヌは満面の笑顔なのに、目だけは笑っていなかった。ちょっと怖いかも?

 

な、何かな?

 

オートマトンとのご飯は今度にするとしても、あたしは帝国に借金を返しに行かないといけないんだけど。

 

「私も教団内の不正防止の対策を早急に行わなければなりません」

 

「うふふ、そうね。貴女の借金は私が肩代わりしてあげる。私への返済は急がなくてもいいわよ。もちろん利子もいらないわ」

 

あの、クレマンティーヌ?

 

申し出は嬉しいけど……少し口調が変わってない?

 

「うふふ、オートマトンは一人だけ残ってくれればいいわ。どうせ、思考は繋がっているのでしょう」

 

「はい、ですが私は……いえ、何でもありません」

 

クレマンティーヌに睨まれてオートマトンが反論を諦めた!?

 

負けないでっ、オートマトン!!

 

いけいけゴーゴーだぞ!!

 

「うふふ、貴女は全く反省していないようね。いいわ、今日は貴女にたっぷりとお話をしてあげる。覚悟してね」

 

「マスターとお話をされるなら、あちらに空いている部屋があります。ご自由にご利用下さい」

 

オートマトンッ!? 何を言ってるの!?

 

「うふふ、ありがとう。そうね、折角のご厚意だもの。今日は私と貴女、二人っきりでお話をしましょうね」

 

な、何だろう?

 

クレマンティーヌが凄く怖いんだけど?

 

いつもの能天気なクレマンティーヌ戻ってきて!!

 

「やかましいわっ!! あんたは毎度毎度迷惑をかけやがって!! 私がその度にどんな思いをしているか今日はとことん聞かせてやる!! それにあんたの脳筋な思考が矯正できるまで説教してやるからこっちに来やがれっ!!」

 

 

いやぁあああああーーーーーっ!!!!

 

引きずらないでーーーーーーっ!!!!

 

オートマトン助けてーーーーっ!!!!

 

 

「イエス、マスター。御健闘をお祈りしています」

 

オートマトン!?

 

あたしの助けを求める声に応えてくれる者はいなかった。

 

 

ズルズルズル………

 

 

ガチャ

 

 

バタンッ

 

 

そして、扉は無情にも閉められた。

 

 

 

*******

 

 

 

かくして脳筋なプリンセス神は、愛する聖女に諭されて3日間ぐらいの間は、思慮深い言動をされる知性派のプリンセス神になられたと伝えられています。(参考資料:マスター観察日記より)

 

 

めでたし、めでたし。

 

 

 

 




次回、エピローグです。

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