異世界生活はオートマトンと共に(完結)   作:銀の鈴

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第40話「美食家」

土竜王の先導にて、あたし達はフロスト・ドラゴンが住まう巣に到着した。

 

随分と立派な巣であった。まるで城のようだ。ドラゴンは随分と器用なのだな。

 

「元々はドワーフ王の居城だったらしいよー」

 

なんだ。ドラゴンが作ったわけじゃないのか。

 

城を作れるほど器用なドラゴンなら、お抱え大工として配下に加えてもいいかなと思ったけど、やはりドラゴンステーキにしよう。

 

ネムが頬を膨らませてモグモグと美味しそうにドラゴンステーキを食べる光景を想像して、あたしはニヤリと笑う。

 

あたしの株は急上昇間違いなしだな!

 

あたし達はズンズンとドラゴンの巣の中を進んでいく。

 

「ドラゴンならお宝を溜め込んでいそうだよねー」

 

「是非ともプリンセス教団として接収するとしましょう」

 

「プリンセス教団の資金は潤沢じゃないのー?」

 

「確かに多くの信者からの寄付、各国からの資金提供にてプリンセス教団の懐は潤っていますが、鉄道新設工事にはそれ以上の途轍もない巨額の工事費が必要です」

 

「うわー、こいつの気紛れにそこまで本気でやらなくてもいいんじゃないのー?」

 

「いえ、大陸全土に鉄道網を張り巡らせた場合、それによって生み出される利潤は、巨額の工事費を支払うだけの価値があります。そして、その鉄道網を支配するプリンセス教団の影響力は計り知れないほどに増大するでしょう。流石はマスターの発案は素晴らしいです。ただの偶然による結果論ですけどね」

 

「た、大陸全土って、それって無茶苦茶大変な工事じゃないの!? 人以外が住む地域にまで鉄道を通すつもりなのよね!?」

 

「その通りです。その為の障害となるモンスターの排除、鉄道設備の防衛、亜人種、異形種との交渉、問題は文字通りに山積みですね」

 

「うわー、そんなの一生掛かっても無理な気がするんだけどー?」

 

「その点は大丈夫です。私達に寿命はありませんので、計画は100年単位で考えています。取り敢えずは帝国と王国の支配地域での運営を考えています」

 

「そっか、そういえばあんた達は人間じゃなかったよね。完成する頃には私は生きていないけど、あの世で応援しているから頑張ってねー」

 

「いえ、クレマンティーヌも老化無効のアイテムを身に付けているので、寿命はあってないようなものです。万が一、怪我や病気で亡くなっても蘇らせる手段は無数にあるので安心して付き合って下さい。ふふ、不安そうな顔をなさらなくても大丈夫ですよ、付き合って頂くのは、この星の寿命がくるまでのほんの僅かな時間だけですよ」

 

「……えっと、何となくアイテムを貰った事を早まったかなーって、思うのは気のせいかなー?」

 

「大丈夫です。レイナースとドラちゃんもいます。恐らくはエンリとネムも将来的には仲間に入るでしょうから、お互いに支え合っていきましょう。One for all,all for one.(一人はみんなのために みんなは一人のために)という言葉が合言葉ですね。全員でマスターを支えましょう」

 

「用事を思い出したから実家に帰る!!」

 

「逃がしません!!」

 

「ひいっ!? 離してーっ!!」

 

「この星が砕けるまで離しません!!」

 

なんか、オートマトンとクレマンティーヌが組んず解れつで揉み合ってる。

 

イチャイチャするのはいいけど、時と場合を弁えてほしい。

 

土竜王が目を点にしているよ。

 

恥ずかしいな、もう。

 

 

 

 

通路を進んでいくと、途中でドラゴンと出くわした。

 

脂肪をたっぷりと溜め込んだ、デップリとしたドラゴンだった。

 

あれ、寒冷地に生息する身が引き締まった美味しいドラゴンじゃなかったの?

 

タプタプと見苦しく震える身体は、上等な霜降り肉にも見えない。二束三文の不味い脂肪肉にしか見えないのは、あたしの気のせいかな?

 

「……あ、あんた…じゃなくて、貴方達はどちら様ですか? そこのクアゴアだけは、見覚えがあるけど」

 

デップリドラゴンは、おずおずと口を開いた。

 

うーん。

 

出会ったら問答無用で狩ろうと思ったけど、これは不味そうだよね。

 

デップリドラゴンステーキを一口頬張った後、期待外れの目であたしを見るネムの姿が頭に浮かぶ。

 

ステーキは止めて、ネムのペットにすれば喜んでくれるかも?

 

前の世界では、富の象徴的にデブ猫が持て囃されていた。

 

純粋にブサ可愛いという評価もあった筈だ。

 

タプタプのデップリドラゴン……可愛いかな?

 

あたしには何とも言えないけど、人の可愛い基準はそれぞれだからなあ。

 

まあ、試しにステーキにしてみよう。

 

ザクっとな!

 

「うぎゃあああっ!!!!」

 

デップリドラゴンの大きなお腹から肉の塊を手刀で斬り取る。

 

すぐに魔法を唱えて傷を治してあげる。

 

「あああっ……あれ、治ってる?」

 

デップリドラゴンは不思議そうにお腹をさすっている。

 

さて、デップリドラゴンステーキの試食会を始めよう!

 

 

 

 

オートマトンにデップリドラゴンステーキを焼いてもらう。

 

脂が溢れてくる。

 

どんどん溢れてくる。

 

際限なく溢れてくる。

 

まだまだ溢れてくる。

 

延々と溢れてくる。

 

……何だか見てるだけで気持ち悪くなってきた。

 

あたし、余り脂は好きじゃないんだけど。

 

「はい。焼けましたよ。たんと召し上がれ。と言いたいところですが、脂が多く身体に悪そうなので、マスターは控えめにお召し上がり下さい」

 

ううん、いらない。

 

クレマンティーヌが全部食べていいよ。

 

クレマンティーヌはおっぱいが大きいから脂が必要だよね。だから沢山食べておっぱいを柔らかくしてね。

 

「脂を食って胸が柔らかくなるか! 第一、私だってこんな脂の塊なんか食べたくないわよ!」

 

そっか。食いしん坊のクレマンティーヌでも食べたくないのか。

 

あたしは土竜王に目を向ける。

 

土竜王が申し訳なさそうに首を横に振る。

 

誰も食べないみたいだ。

 

でも、せっかく焼いたのに勿体無いよね。

 

うーん。

 

そうだっ!!

 

デップリドラゴンは脂が好きそうだよね!!

 

このデップリドラゴンステーキを食べていいよ!!

 

「あんたは鬼畜かぁああああっ!!!!」

 

何故かクレマンティーヌに怒られた。

 

 

 

 

「クソ不味くてもドラゴンはドラゴンなので、鉄道新設工事での労働力として活用しようと思います」

 

デップリドラゴンは、食用にならないから解体して売り払おうかなと思ったら、オートマトンが労働力として欲しいそうだ。

 

確かに工事範囲が広がったから、あたしのペットのドラゴンだけでは材料運搬が間に合わないと思う。

 

デップリドラゴンでも材料運搬ぐらい出来るよね?

 

あたしはデップリドラゴンに問いかける。それまでは不安そうな顔で黙っていたデップリドラゴンだったけど、必死になって請け負ってくれた。

 

しかし、フロスト・ドラゴンがこんなに太っているドラゴンだとは思わなかった。

 

寒冷地に住んでいるせいで、脂肪を溜め込む体質になったのかなあ?

 

「あのう、他のフロスト・ドラゴンは太っておりませんよ」

 

土竜王が他のフロスト・ドラゴンはスマートな体型だと教えてくれた。

 

あれ、そうなの?

 

じゃあ、このデップリドラゴンは一体?

 

「あはは、もしかしたら希少種かしら?」

 

クレマンティーヌが、デップリドラゴンのぽんぽこ腹を撫でながら面白そうにそんな事を言う。

 

ほほう、なるほど希少種か。

 

確かモモンガが希少種大好き人間……いや、希少種大好きアンデッドだったな。

 

このデップリドラゴンをプレゼントしたら喜びそうだな。

 

「イエス、マスター。モモンガ様もただで希少種も貰えば気を使われるでしょうから、私の方で適当な条件での取引を提案させて頂きたいと思います」

 

それもそうだね。じゃあ、オートマトンに任せるね。

 

「イエス、マスター。お任せ下さい」

 

 

「ねえねえ、適当な条件での取引って、何を提案するつもりなのー?」

 

「大したことではありませんよ。鉄道新設工事でのアンデッドによる労働力の提供と、危険地域のモンスター駆除、そして鉄道設備全体の防衛を安価で請け負ってもらおうと考えているだけです」

 

「いやいや、十分に大したことあるんじゃないのー? あんたの事だから相当な安価で頼むつもりでしょー、後でモモンガさんが怒らない?」

 

「その心配は無用です。薄利多売なので、モモンガ様の懐にも結果的に巨額の資金が入ります。モモンガ様のアンデッドも配下達も基本的に賃金などは発生しませんから、モモンガ様の丸儲けです。きっとウハウハで喜ばれますよ」

 

「な、なるほどねー。そういえばあんたもコイツから報酬とかを貰っている訳じゃないもんねー。考えてみれば、よく文句もなく働いているよねー」

 

「ふふ、私にとってはマスターのお世話を出来る事自体が報酬ですよ。敢えて言うなら、マスターが私のお世話で幸せになって頂くことが報酬ですね」

 

「うわー、私もあんたが欲しくなる台詞よねー!」

 

「残念ながら私はマスター専用の非売品です。申し訳ありません」

 

「あははー、本当にコイツは幸せ者だよねー」

 

「ふふ、ありがとうございます。その台詞が私にとって最大の報酬です」

 

 

 

 

 

 

 


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