異世界生活はオートマトンと共に(完結)   作:銀の鈴

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第39話「土の竜」

あたし達は黙々と歩き続ける。

 

もうどれほどの道程を刻んできただろうか。

 

それすらもあやふやになるほどの時間が過ぎていた。

 

思い出されるのは数々の冒険だった。

 

時には道に迷い、深き森の中を彷徨った。

 

時には道に迷い、高き山脈を踏破した。

 

時には道に迷い、湿原地帯で水遊びをして遊んだ。

 

時には道に迷い、火口で焼肉パーティを催した。

 

時には道に迷い、地中深く放棄された都市でキャンプファイアーを楽しんだ。

 

そして今、道に迷っている。

 

「ねえー、誰かさんが、“あたしは地図が読める女だから任せておけ”とか言ってたよねー」

 

……。

 

「私の助言は不要とまで申されていました」

 

……。

 

「ここはどこなんだろうねー?」

 

……。

 

「少なくとも私達を取り囲んでいるのはドワーフではありませんね」

 

……。

 

う、運命の悪戯で大地の奥底を彷徨っていたあたし達は、気が付くと毛深いモンスター共に囲まれていた。

 

「なんだか無理矢理続けるみたいだよー。どうするー?」

 

「仕方ありませんね。あまり責めて拗ねられても面倒くさいのでスルーしてあげましょう」

 

「それもそうだねー。それじゃあ、続けよっか。ゴホン。こいつらは何者かしら?」

 

ホッ。

 

うむ。どうやらあたし達を警戒はしているけど、敵対するつもりは無いみたいだな。

 

「イエス、マスター。その通りのようです。マスターの気配に怯えて警戒しているだけのようです」

 

うーん。

 

怯えているなら隠れていればいいのに、どうして出てきて囲むのかな?

 

「それなりに知能があるからじゃないのー? 人間だって不審人物は取り囲んで調べるじゃない」

 

誰が不審人物だ!

 

もう、失礼なことを言わないでほしい。あたしみたいな清廉潔白で心優しく公平で慈悲に溢れた、愛と正義の戦士を捕まえて不審人物はないぞ。

 

「えっと、ここは笑うところかなー?」

 

「いえ、マスターは本気みたいなので聞き流す方が無難です」

 

あたしはリーダーとして仲間を庇うように一歩前に出ると、毛深いモンスターに話しかけた。

 

おい、お前らは言葉は分かるのか?

 

あたしの言葉に、先頭にいた毛深いモンスターが頷く。

 

言葉が分かるなら話は早い。

 

ここは知性派らしく、言葉で友好関係を築くとしよう。

 

二人とも、ちゃんと見ててよ。

 

「はいはい。期待せずに見てるよー」

 

「イエス、マスター。録画は哀れ過ぎるので止めておきます」

 

もう、信用してないな。こうなったらあたしの本気を見せてやるぞ!

 

あたしは近くにあった見上げるほどある大岩を指差す。

 

毛深いモンスター共が大岩に目を向けた瞬間、あたしは大岩をぶん殴る。

 

ドゴォオオォオオオオッンンンン!!!!

 

あたしの一撃で、大岩は轟音と共に木っ端微塵になり、その衝撃波で直線上にあった全てのものは破壊された。

言葉無く大岩のあった場所を見つめる毛深いモンスター共の前には、遥か遠くまで続く真っ直ぐな道が出来ていた。

 

あたしは優しく毛深いモンスター共に声をかけながら、“威圧”などの幾つかのスキルを発動させる。

 

「逆らえば殺す」

 

毛深いモンスター共が身を震わせる。

 

「逃げれば殺す」

 

毛深いモンスター共の視線があたしに向けられる。

 

「騒げば殺す」

 

毛深いモンスター共の動きが止まる。

 

「小便を漏らせば殺す」

 

毛深いモンスター共が身体が震えだす。

 

「クソを漏らせば全員殺す」

 

毛深いモンスター共が膝を地面につく。

 

「だが、服従するなら殺さん」

 

毛深いモンスター共が頭を垂れる。

 

「好きなものを選べ」

 

毛深いモンスター共が忠誠を誓った。

 

 

どうっ、二人とも!!

 

あたしの見事な交渉術を見てくれた!?

 

「今のはただの脅迫だあああっ!!」

 

「イエス、マスター。予想通りです」

 

 

 

 

毛深いモンスター共に案内されて、こいつらの都市に向かった。

 

着いた先では、毛深いモンスター共の王が待っていた。

 

「……話は聞いている。私達を屈服させて何を望むのだ?」

 

え?

 

毛深いモンスター共に望むもの?

 

あたしはオートマトンの顔を見る。

 

オートマトンは優しい目で頷いてくれた。

 

「いやこれは馬鹿な子供を見る目だと思うよー」

 

クレマンティーヌは黙ってて欲しい。

 

「クアゴアの王よ。先ずは名を尋ねましょう」

 

「…ぺ・リユロと申します」

 

オートマトンの言葉に毛深いモンスターの王は名乗る。ところでクアゴアってなに?

 

「先に言っておきましょう。我らはクアゴアの自治を認めます」

 

「っ!? 我らを支配せぬということかっ!!」

 

毛深い王は驚いた顔で叫ぶ。ところでクアゴアってなに?

 

「支配はしません。我らがプリンセス神の前には全ての存在は平等なのですから」

 

「ぷ、プリンセス神とは一体…?」

 

オートマトンは無言であたしに目を向けてきた。ところでクアゴアってなに?

 

「この地上に御降臨された唯一の絶対神。生きとし生けるもの全ての命はプリンセス神の下で平等です」

 

「あの方が…プリンセス神」

 

オートマトンが目で催促してくる。はぁ…仕方ない。

 

あたしは“カリスマ”などの攻撃的ではないスキルを最高レベルで発動させる。

 

「お…おおっ…おおおっ!! こ、この波動は、この力は……あ、ああっ、ああああっ!!!!」

 

リユロと名乗った毛深い王は、止まることのない涙を流しながら頭を垂れた。

 

「ふふ、手駒がまた増えました」

 

オートマトンが珍しく表情を変えて嬉しそうに笑っていた。

 

その笑顔が少し怖いと思ったことは……内緒にしておこう。

 

 

 

 

毛深いモンスター共は、クアゴアという種族だそうだ。

 

太陽の下では目が見えないらしい。

 

なるほど、土竜(モグラ)みたいな種族だね。

 

文明レベルは低いから、彼らの都市は観光に不向きだ。

 

となると、あまり接点は無くなるね。これからも地中深くで幸せに暮らして欲しい。

 

では、さようなら。

 

あたしが立ち去ろうとしたら、土竜の王が足にしがみ付いて引き止めてきた。

 

何でもお願いがあるらしい。

 

面倒くさいから嫌だ。

 

あたしは再び去ろうとすると、土竜の王が号泣しながら引き止めてくる。

 

はぁ、仕方ない。

 

このままだと切りがないし、オートマトンが土竜一族をプリンセス神の信者として認めて、鉄道新設工事に必要な鉄を寄付させる約束をさせていたから、多少のお願いぐらい聞いてあげる必要はあるだろう。

 

それで、お願いって何なの?

 

あまりに面倒くさい内容なら聞かないからね。

 

「実は我ら一族を長年虐げてきたフロスト・ドラゴ『よかろう!  我を信仰する土竜一族の願いは聞き遂げた。邪悪なるフロスト・ドラゴンは我が神威を以て滅ぼそう』ははあっ、願いを聞き遂げて頂きありがとう御座います!  ところであの…モグラとは一体…?」

 

愛称みたいなものかな?

 

土の竜と書いてモグラだよ。

 

土竜王は、プリンセス神に愛称をつけられたのが嬉しいみたいで、これからは土竜一族を名乗りますと言っていた。

 

分かりやすくなって良かった良かった。

 

「土の竜って、随分と凄い名前だねー。あんたがそんなに目をかけるなんて初めてじゃないのー?」

 

クレマンティーヌの言葉に土竜王は感動して、信仰を強めてしまった。

 

ステータスを見ると、さっきまで【プリンセス神の信者】だったのに【プリンセス神の狂信者】に変わっていた。

 

…まあ、仕方ない。気にしないでおこう。

 

 

それよりもドラゴンステーキだ!!

 

 

さあっ、行くぞ!!

 

 

ドラゴンステーキがあたし達を待っている!!

 

 

 

 

 

 




最新作に追いついてきた。原作沿いを何となく心掛けていなくもない本作品としては、これからどうしようかな? フィナーレを迎えるか、独自ルートへいくか、新刊まで待つか。
うーん。どうしようかな?
えっ、どこが原作沿いなのかって?
……。
ク、クレマンティーヌが可愛いところ。

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