あたし達は黙々と歩き続ける。
もうどれほどの道程を刻んできただろうか。
それすらもあやふやになるほどの時間が過ぎていた。
思い出されるのは数々の冒険だった。
時には道に迷い、深き森の中を彷徨った。
時には道に迷い、高き山脈を踏破した。
時には道に迷い、湿原地帯で水遊びをして遊んだ。
時には道に迷い、火口で焼肉パーティを催した。
時には道に迷い、地中深く放棄された都市でキャンプファイアーを楽しんだ。
そして今、道に迷っている。
「ねえー、誰かさんが、“あたしは地図が読める女だから任せておけ”とか言ってたよねー」
……。
「私の助言は不要とまで申されていました」
……。
「ここはどこなんだろうねー?」
……。
「少なくとも私達を取り囲んでいるのはドワーフではありませんね」
……。
う、運命の悪戯で大地の奥底を彷徨っていたあたし達は、気が付くと毛深いモンスター共に囲まれていた。
「なんだか無理矢理続けるみたいだよー。どうするー?」
「仕方ありませんね。あまり責めて拗ねられても面倒くさいのでスルーしてあげましょう」
「それもそうだねー。それじゃあ、続けよっか。ゴホン。こいつらは何者かしら?」
ホッ。
うむ。どうやらあたし達を警戒はしているけど、敵対するつもりは無いみたいだな。
「イエス、マスター。その通りのようです。マスターの気配に怯えて警戒しているだけのようです」
うーん。
怯えているなら隠れていればいいのに、どうして出てきて囲むのかな?
「それなりに知能があるからじゃないのー? 人間だって不審人物は取り囲んで調べるじゃない」
誰が不審人物だ!
もう、失礼なことを言わないでほしい。あたしみたいな清廉潔白で心優しく公平で慈悲に溢れた、愛と正義の戦士を捕まえて不審人物はないぞ。
「えっと、ここは笑うところかなー?」
「いえ、マスターは本気みたいなので聞き流す方が無難です」
あたしはリーダーとして仲間を庇うように一歩前に出ると、毛深いモンスターに話しかけた。
おい、お前らは言葉は分かるのか?
あたしの言葉に、先頭にいた毛深いモンスターが頷く。
言葉が分かるなら話は早い。
ここは知性派らしく、言葉で友好関係を築くとしよう。
二人とも、ちゃんと見ててよ。
「はいはい。期待せずに見てるよー」
「イエス、マスター。録画は哀れ過ぎるので止めておきます」
もう、信用してないな。こうなったらあたしの本気を見せてやるぞ!
あたしは近くにあった見上げるほどある大岩を指差す。
毛深いモンスター共が大岩に目を向けた瞬間、あたしは大岩をぶん殴る。
ドゴォオオォオオオオッンンンン!!!!
あたしの一撃で、大岩は轟音と共に木っ端微塵になり、その衝撃波で直線上にあった全てのものは破壊された。
言葉無く大岩のあった場所を見つめる毛深いモンスター共の前には、遥か遠くまで続く真っ直ぐな道が出来ていた。
あたしは優しく毛深いモンスター共に声をかけながら、“威圧”などの幾つかのスキルを発動させる。
「逆らえば殺す」
毛深いモンスター共が身を震わせる。
「逃げれば殺す」
毛深いモンスター共の視線があたしに向けられる。
「騒げば殺す」
毛深いモンスター共の動きが止まる。
「小便を漏らせば殺す」
毛深いモンスター共が身体が震えだす。
「クソを漏らせば全員殺す」
毛深いモンスター共が膝を地面につく。
「だが、服従するなら殺さん」
毛深いモンスター共が頭を垂れる。
「好きなものを選べ」
毛深いモンスター共が忠誠を誓った。
どうっ、二人とも!!
あたしの見事な交渉術を見てくれた!?
「今のはただの脅迫だあああっ!!」
「イエス、マスター。予想通りです」
*
毛深いモンスター共に案内されて、こいつらの都市に向かった。
着いた先では、毛深いモンスター共の王が待っていた。
「……話は聞いている。私達を屈服させて何を望むのだ?」
え?
毛深いモンスター共に望むもの?
あたしはオートマトンの顔を見る。
オートマトンは優しい目で頷いてくれた。
「いやこれは馬鹿な子供を見る目だと思うよー」
クレマンティーヌは黙ってて欲しい。
「クアゴアの王よ。先ずは名を尋ねましょう」
「…ぺ・リユロと申します」
オートマトンの言葉に毛深いモンスターの王は名乗る。ところでクアゴアってなに?
「先に言っておきましょう。我らはクアゴアの自治を認めます」
「っ!? 我らを支配せぬということかっ!!」
毛深い王は驚いた顔で叫ぶ。ところでクアゴアってなに?
「支配はしません。我らがプリンセス神の前には全ての存在は平等なのですから」
「ぷ、プリンセス神とは一体…?」
オートマトンは無言であたしに目を向けてきた。ところでクアゴアってなに?
「この地上に御降臨された唯一の絶対神。生きとし生けるもの全ての命はプリンセス神の下で平等です」
「あの方が…プリンセス神」
オートマトンが目で催促してくる。はぁ…仕方ない。
あたしは“カリスマ”などの攻撃的ではないスキルを最高レベルで発動させる。
「お…おおっ…おおおっ!! こ、この波動は、この力は……あ、ああっ、ああああっ!!!!」
リユロと名乗った毛深い王は、止まることのない涙を流しながら頭を垂れた。
「ふふ、手駒がまた増えました」
オートマトンが珍しく表情を変えて嬉しそうに笑っていた。
その笑顔が少し怖いと思ったことは……内緒にしておこう。
*
毛深いモンスター共は、クアゴアという種族だそうだ。
太陽の下では目が見えないらしい。
なるほど、土竜(モグラ)みたいな種族だね。
文明レベルは低いから、彼らの都市は観光に不向きだ。
となると、あまり接点は無くなるね。これからも地中深くで幸せに暮らして欲しい。
では、さようなら。
あたしが立ち去ろうとしたら、土竜の王が足にしがみ付いて引き止めてきた。
何でもお願いがあるらしい。
面倒くさいから嫌だ。
あたしは再び去ろうとすると、土竜の王が号泣しながら引き止めてくる。
はぁ、仕方ない。
このままだと切りがないし、オートマトンが土竜一族をプリンセス神の信者として認めて、鉄道新設工事に必要な鉄を寄付させる約束をさせていたから、多少のお願いぐらい聞いてあげる必要はあるだろう。
それで、お願いって何なの?
あまりに面倒くさい内容なら聞かないからね。
「実は我ら一族を長年虐げてきたフロスト・ドラゴ『よかろう! 我を信仰する土竜一族の願いは聞き遂げた。邪悪なるフロスト・ドラゴンは我が神威を以て滅ぼそう』ははあっ、願いを聞き遂げて頂きありがとう御座います! ところであの…モグラとは一体…?」
愛称みたいなものかな?
土の竜と書いてモグラだよ。
土竜王は、プリンセス神に愛称をつけられたのが嬉しいみたいで、これからは土竜一族を名乗りますと言っていた。
分かりやすくなって良かった良かった。
「土の竜って、随分と凄い名前だねー。あんたがそんなに目をかけるなんて初めてじゃないのー?」
クレマンティーヌの言葉に土竜王は感動して、信仰を強めてしまった。
ステータスを見ると、さっきまで【プリンセス神の信者】だったのに【プリンセス神の狂信者】に変わっていた。
…まあ、仕方ない。気にしないでおこう。
それよりもドラゴンステーキだ!!
さあっ、行くぞ!!
ドラゴンステーキがあたし達を待っている!!
最新作に追いついてきた。原作沿いを何となく心掛けていなくもない本作品としては、これからどうしようかな? フィナーレを迎えるか、独自ルートへいくか、新刊まで待つか。
うーん。どうしようかな?
えっ、どこが原作沿いなのかって?
……。
ク、クレマンティーヌが可愛いところ。