異世界生活はオートマトンと共に(完結)   作:銀の鈴

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第38話「北の地へ」

あたし達は王都を出発した後、第一の目標としてエ・ランテルを目指している。

 

もちろん、途中にあるいくつかの都市も経由する予定だ。

 

各都市を繋ぐ道は一応あるけど、道とは名ばかりのお粗末なものだった。

 

今回はそれらを整備しながら旅をしている。

 

どっかん。どっかん。

 

ゴーレム達が地面を叩いて固めた後は、魔法で強化した石畳を敷いていく。

 

使用する石畳は王国と帝国の二国で供出してもらった。

 

完成した道は両国の人間が主に使うのだからそれぐらいは当然だろう。

 

石畳の運搬は、あたしのペットのドラゴンが担当してくれた。

 

がおがおと吠えながら喜んで働いてくれている。

 

疲れを知らないゴーレム達が24時間体制で工事をしているから、物凄いスピードで道路が伸びていく。

 

果てしなく伸びる道路を見てあたしは思った。

 

“列車の旅がしたいな”

 

流れていく景色を楽しみながら、オートマトンのご飯を食べて、クレマンティーヌの膝枕でお昼寝がしたい。

 

オートマトンなら列車の作り方を知ってるかな?

 

「イエス、マスター。この世界の技術レベルを考慮した場合、蒸気機関ならば製作可能です」

 

蒸気機関車。

 

もくもく煙が出て走るヤツだよね。

 

うん。

 

情緒があっていいと思う。

 

早速作ろう。

 

「イエス、マスター。では、道路整備計画を変更して鉄道新設計画を発動します」

 

うん。よろしくね。

 

ふふ、鉄道での旅かあ。

 

完成したらネムとエンリを連れて家族旅行をしようかな。

 

ねっ、お父さん(クレマンティーヌ)!

 

「お父さん設定って、まだ続いてたの!?」

 

 

 

 

鉄道を作るのには時間がかかるから付き合いきれん。

 

プリンセス教団に工事のことは任せて、あたし達は旅を続けることにした。

 

「いや、まあ、確かにそうなんだけど。無責任過ぎないかなー?」

 

大丈夫だよ。

 

オートマトン部隊からも一機が担当になったからね。

 

「そういや全部で60機いてるんだっけー?」

 

「はい。ですが最近は忙しくて60機でも人手不足気味ですね」

 

「まあそうだよねー。三カ国に跨がるプリンセス教団を実質運営しているのはあんただもんねー」

 

「教団内部の調整に敵対組織との抗争。各国政府との交渉にスレイン法国上層部への諜報活動。他にも仕事が山積みです。……クレマンティーヌも手伝いませんか? やり甲斐はあると思いますよ。それはもう、もの凄く」

 

「ア、アハハ、疲れ知らずのあんたが疲れた表情になるのを見て手伝うとは言えないかなー」

 

「顔に出ていましたか、それは失礼しました。この個体はマスターのお世話をするだけですが、並列思考のため、今も膨大な情報が頭の中を駆け巡っているせいですね。以後気をつけます」

 

「そっか。でも本当に無理はしないでよ。あんたが倒れたりしたら大変だからね。主にコイツの世話的な意味で」

 

「ふふ、ではやはり手伝っていただけますか? 教団の外交だけでもいいですよ。聖女様」

 

「やだなー、お飾りの聖女なんかに外交なんて無理だよー。そういう事はやっぱり権力を持った人じゃないとねー。ねっ、大神官様」

 

「ふふ」

 

「アハハ」

 

 

な、なんだろう?

 

二人が意味深に微笑み合っている。

 

ま、まさかこんな場所で子作りを始めちゃうとか!?

 

止めてよっ!!

 

恥ずかしいよっ!!

 

お父さん(クレマンティーヌ)!!

 

お母さん(オートマトン)!!

 

「あんたの方が恥ずかしいわっ!! アホな事を大声で叫ぶなーっ!!!!」

 

「ふふ、やはり倒れるわけにはいかないですね」

 

 

 

 

カルネ村の北側には大森林が広がっている。

 

モンスターも色々と生息しているらしいけど、あたし達の敵になるほどの強敵は居ないみたいだ。

 

あたしの気配に気付いたのか、大森林の中を移動中にモンスターと出くわす事はなかった。

 

あたし達は黙々と森の中を歩き続ける。

 

「ねえー、道の整備をしながらじゃないんだから、あんたのペットのドラゴンに乗って飛んで行ってもいいんじゃないのー?」

 

言われてみればそうだね。

 

あたしのドラゴンは、石畳を23時間体制で運搬してるから、後1時間の余裕があるといえばある。

 

ドラゴンの休憩時間は無くなるけど、ドラゴンは丈夫だから気にしなくてもいいか。

 

「えっと、それは流石に可哀想だよー。やっぱり徒歩で行こっか」

 

えへへ、クレマンティーヌはペットにも優しいね。

 

もしかして動物好きなの?

 

「いやあんた、自分のペットっていうなら最低限の生活環境ぐらい与えてあげなよ」

 

あはは、大丈夫だよ。

 

仕事のないときは放し飼いにしているから、普段は自由な生活を満喫しているよ。

 

「愛玩用じゃなくて、労働用ペットだね。しかも衣食住はペット本人持ちか、過酷すぎるんじゃない?」

 

ドラゴンだから“衣”はいらないよ?

 

「揚げ足を取んな。そんな扱いだと、そのうちドラゴンに逃げられるわよ?」

 

前に行方不明になった事があるから対策はしているよ。“精霊王の門”に登録したからいつでも呼び出し可能なんだよ。

 

「絶対に外れない首輪を嵌められたわけね。そりゃあ、ご愁傷様としかいえないねー」

 

ちゃんと対価もあるんだから失礼な事言わないでほしい。あたしは公平だよ。

 

「へえー、対価かあ。ドラゴンが労働の対価として受け取るなら金銀財宝関係かなー? それはだいぶ費用が掛かりそうだねー」

 

金銀財宝?

 

違うよ。対価はドラゴンの命だよ。

 

あたしのペットとして忠実な間は殺さないであげるって、約束をしたんだよ。

 

「こ、怖い飼い主だねー。でもまー、ドラゴンなんて人間にとっては害獣みたいなもんだから、優しくする必要もないわね」

 

クレマンティーヌにとってドラゴンは害獣なのか。

 

ねえねえ、世界中のドラゴンを絶滅させようか?

 

「……それは本気で可哀想だと思う」

 

 

 

 

大森林を進んでいくと、湿原地帯に出た。

 

この辺りにはリザードマンの集落があるはずだけど、生憎とトカゲには興味がない。

 

同じトカゲでも、ドラゴンなら色々と役に立つけどリザードマンでは役に立ちそうにもないからね。

 

ドラゴンなら死んだ後もその身体は高く売れるし、魔法の触媒としても使える。その上、ドラゴンステーキは絶品らしい。

 

それに比べて、リザードマンは食べても……もしかしたら食べたら美味しかったりするかな?

 

クレマンティーヌ、食べてみる?

 

「うーん。私としては言葉が通じる相手は食べたくないかなー」

 

そうなの?

 

じゃあ、ドラゴンステーキもいらない?

 

「いやー、ドラゴンステーキは食べてみたいわねー。絶品だって噂は私も聞いたことあるもの」

 

うんうん、それならペットのドラゴンを絞めようかな?

 

「あのドラゴンは労働力として活用する方が良いと思うよー」

 

それもそうだね。でも、話してたらドラゴンステーキを凄く食べたくなってきた。

どっかにドラゴンがいないかな?

 

「イエス、マスター。ドワーフ王国の北方にフロスト・ドラゴンが住み着いている場所があります。狩りに行きますか?」

 

フロスト・ドラゴン?

 

「冷気属性のドラゴンだねー。寒冷地に生息している種族だから身が締まってて美味しいかもねー」

 

なるほど。

 

ドワーフ王国の北方なら旅行のついでに足を伸ばしてもいいよね。

 

よしっ、決めた!

 

ネムへのお土産はドラゴンステーキだ!

 

えっへん。今回はお土産を忘れないぞ!

 

 

「へえー、記憶保持のアイテムって本当に効果があるんだー。健忘症が治ったみたいだねー」

 

 

「うぅ…マスター、おめでとうございます。感動で涙が止まりません」

 

 

「うわっ、本当に号泣しないでよ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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