モモンガと“黄金”を女子会の皆んなに紹介した後、あたしは素早くその場を離れる。
風花聖典の隊長から“メッセージ”が届いたからだ。
きっと、重要な用事に違いない。
うん。間違いなく重要な案件だ。
残念だ。本当に残念だ。
後はモモンガに任せよう。
女子会の皆んなには、あたしのことは気にせずに楽しんで欲しいと伝えてある。
あたしは風花聖典の隊長の前に転移する。
“グッ”
あたしは無言で親指を立てた。
ベストなタイミングだった。
プリンセス神は満足だぞ。
隊長は感激のあまり咽び泣いた。
少しうっとうしいと思ったけど、今回ばかりは我慢した。
後は女子会が終わるまで、ここでお茶でも飲んでいよう。
ごくごく。
あー、美味しい。
*
女子会の結果を話そう。
あたしが信じた通り、モモンガが上手く収めてくれた。
これから“黄金”は、婚約者と一緒に田舎の領地に引っ込んで暮らすことになった。
その領地の庇護は、その場の成り行きでモモンガの方で受け持ってくれる事になったそうだ。
その庇護の代償として、“黄金”は女子会メンバーの相談役になる事で合意したらしい。
うん。女子同士の派閥争いとしては、よく意味のわからない結果だけど、女子会メンバーは満足そうだったから良しとしよう。
オートマトンも頷いていたから大丈夫なのだろう。
うんうん。モモンガに任せて本当に良かった。
流石はユグドラシルの上位ギルドを纏めていたギルドマスターと言わざるをえないだろう。
当初は“女子会メンバー”対“黄金”の間で見えない火花が散っていたそうだ。
そこを宥めすかしながら、少しずつお互いに歩み寄らせて、落とし所を調整していったらしい。
対立の原因は、モモンガでもよく分からなかったそうだけど、女子同士の対立というのはそういうものだと、遠い目をしてモモンガは言っていた。
ユグドラシル時代にも女子同士の対立に巻き込まれて関係修復に苦労したそうだ。
うんうん、なるほどね。
だからモモンガは調停者として経験豊富だから頼りになるんだね。
と言ったら、モモンガも満更でもなさそうな様子で照れていた。
そうそう、モモンガは女子会の名誉会員になる事になった。
モモンガはアンデッドだけど、特に問題視される事はなかった。
むしろモモンガは聞き上手らしく、皆んなから歓迎されている雰囲気だったから良かったと思う。
次の女子会では、モモンガがお茶菓子を準備してくれるそうだから今から楽しみだ。
*
驚いた。
ナザリックにいたおっぱいの大きい美人さんが、物凄い形相で転移してきた。
何でもモモンガが女子会に参加することが気に食わなかったらしい。
思い出してみれば、おっぱいの大きい美人さんはモモンガのお嫁さん候補だった。
確かに自分の旦那さんになるかもしれない男性が女だらけの集まりに出るのは嫌だろう。
でも、モモンガは女子会を楽しみにしている。参加できないとなったら可哀想だ。
よしっ!!
ここはあたしが説得しよう。
この間はモモンガに助けてもらったから、今回はあたしがモモンガを助けてあげよう。
おっぱいの大きい美人さんは、モモンガの浮気を心配しているのだから、その心配を無くせばいいのだ。
とはいっても、おっぱいの大きい美人さんを女子会に連れて行くのはダメだ。
婚約者同伴で独身の友達の集まりに参加するなんて、あたしが考えてもアホだと分かる暴挙だ。
婚約者という言葉に激しく照れていたけど、おっぱいの大きい美人さんもそれは理解してくれた。
でも、頭では分かっていても女としての感情が抑えられないそうだ。
うーん。
確かにそうかもしれない。
それなら物理的に浮気が出来ないようにすればいいと思う。
「物理的にですか?」
おっぱいの大きい美人さんがよく分からないという顔になる。
あたしは自分のナイスアイデアを説明する。
モモンガはアンデッドだよね。
そしてアンデッドの種族には、首無し騎士(デュラハン)がいるよね。
首無し騎士は頭と胴体が分かれている。
つまり、アンデッドは頭が外れても平気なのだ。
モモンガも頭だけ外して女子会に参加すればいいと思う。頭だけなら浮気のしようがない筈だ。
これなら納得出来るよね。
何だったら、外した頭をガラス瓶に入れて蓋でもしたら尚のこと安心できるだろう。
あたしのナイスアイデアを聞いたおっぱいの大きい美人さんは真っ青になって震え出した。
あれ?
予想と反応が違う?
“そのような恐ろしい事は考えないで下さい”
“どうかモモンガ様に酷い事はしないで下さい”
“私に出来る事なら何でもしますからお許し下さい”
とかなんとかプルプル震えて死にそうな顔色で許しを請うてくる。
あれ?
あたしが悪者になってない?
よく分からない状況だけど、あたしがモモンガに酷い事をしない代わりに、モモンガが女子会に参加する事をおっぱいの大きい美人さんは認めてくれた。
意味がよく分からないが、モモンガに状況を伝えるとあたしに感謝していたから問題ないのだろう。
うん。
良かったことにしておこう。
*
あたし達はドワーフ王国を目指して旅に出た。
エンリは既に王都の学校に通っているからお留守番だ。ネムも幼年学校がもうじき出来るから同様にお留守番だ。
ドワーフ王国は北の山脈にあるらしい。
昔は帝国と交易が盛んだったらしいけど、今では随分と減少しているそうだ。
レイナースからドワーフ王国への紹介状や地図を貰ったから問題なく観光を楽しめるだろう。
観光を楽しむといっても完全に遊びというわけではないぞ。
こうやって、実際に各地を巡りながら交通ルートを確認して将来設立する旅行会社で役立てるつもりだ。
それに交通ルートを確立したら、旅行会社だけではなく運送会社も作ったらいいだろう。
転移魔法はあるけど、使える者が少ないし雇用を生み出すという意味でも会社は作るべきだ。
仕事がなくて貧乏暮らしをするのは辛いものだからな。
そういうわけで、移動しながら道の整備を行なっている。
前に王都でのパレードに参加させたゴーレム達がここでも役に立ってくれていた。
ちなみにオーガ達はまたビーストマンの都市に転移させた。それというのもオーガ達は食料が大量に必要だから面倒をみるのが大変なのだ。
食料の確保は自分達で頑張ってほしい。
きっと、ビーストマンの都市で現地調達をしている事だろう。
どっかん。どっかん。と荒地を整備しているゴーレム達。
陽射しのきつい時間帯だから、あたし達は幌付きの馬車の中で休んでいる。
クレマンティーヌの肌は、相変わらずスベスベで気持ちいい。
「いや、暑苦しいから離れて欲しいんだけど?」
断固拒否する。
オートマトンが作っているご飯のいい匂いが漂ってきた。
ああ。お腹が空いた。ぺろぺろ。
「うひゃあ!? 私のお腹を舐めないでよね!」
うん。ごめんね。ぺろぺろ。
「あっ、ああん。って、止めろっての!」
うん。ごめんね。ぺろぺろ。
「ふうっ……んっ。だから止めろって言ってんでしょう!!」
クレマンティーヌの肌を堪能しながらあたしは思った。
クレマンティーヌって、感じやすいかも?
「黙れ! この変態っ!!」
クレマンティーヌの顔が真っ赤に染まっている。
ふふ、クレマンティーヌは照れ屋さんだね。
「喧しいわっ!!」
えへへ。照れたクレマンティーヌも可愛いね。
ぼかん!
うう、照れ隠しで殴らないでほしい。