王都は空前の賑わいを見せていた。
それというのも、国民からの圧倒的人気を誇り、“黄金”とまで謳われる王女が、幼い頃から彼女を支え続けた一介の従者との純愛を成就させたからだ。
その純愛物語に国民は狂喜した。
通常ならば考えられない事だろう。
どれほどに想い合っていたとしても、王族と庶民が結ばれるなど有ってはならない事なのだから。
もしもその無理を通そうとすれば、たとえ一国の王であろうとも、秩序を乱すものと見做されて闇に葬られる危険さえある。
だが、この王国には不可能さえ可能とする存在があった。
王すら超える存在。
その存在の前では王などという肩書きすら無に等しかった。
彼の偉大なる存在の前では、全ての生きとし生けるもの全てが、敬虔なる信徒に過ぎないのだから。
“プリンセス神”
地上に降臨されし偉大で慈悲深き神である。
…凄く胡散臭いんだけど、プリンセス神ってなに?
「ちょっと待て! あんたがそれを言っちゃうの!? ねえっ、早く“記憶保持”のアイテムを持ってきて!!」
「マスター。このピアスを付けて下さい」
何々?
オートマトンからのプレゼントなの?
えへへー、似合うかな?
「イエス、マスター。とてもお似合いです。これ以降は絶対に外さないようにして下さい」
仕方ないなあ。自分のプレゼントをずっと付けていろだなんて、オートマトンは独占欲が強いのかなあ。
「ニマニマと笑うマスターの笑顔が、とても気に障るのですが」
「まあまあ、今回は我慢してよー。これ以上、こいつの健忘症が悪化したら不味いからねー」
「そうですね。確かに考えてみれば、オーガとしては破格の記憶力を誇っているマスターですが、所詮はオーガはオーガですからね。気付くのが遅れた私の失態だと思い我慢するとしましょう」
「そうだよねー。いくら上位種といっても所詮は脳筋種族のオーガなんだから、私達が気付いてあげなきゃいけなかったんだよねー」
なんか知らないけど、二人に酷いこと言われた!?
*
王女の婚約祝いの祭りは盛大に行われて、観光に連れてきたネム達は大満足してくれた。
エンリは都会の刺激を受けたせいか、何処かで噂を聞いた学校というものに通いたいと言い出した。
学校か。
あたしも一緒に通いたいかも?
「イヤイヤッ、あんたが学校なんかに通ったら間違いなく騒動が起こるよね! 言っておくけど尻拭い要員で私まで学校に行けなんて言わないでよ!」
「外見で判断すれば、自分の子供と言ってもおかしくない世代に混じって、勉学に励もうと考えるマスターの勇気に脱帽です」
うん。二人とも少し黙ろうね。
まあ、エンリ達を連れて世界を巡ろうかと思っていたけど、学校にいくというのも選択肢としては悪くないだろう。
学校に通うためには多額のお金と、それなりの身分も必要らしいけど、そんなものはどうにでもなる。
エンリが学校に通うならネムも一緒の方が良いだろう。
幼年学校とかもあるのかな?
「イエス、マスター。無ければ作れば良いだけです」
なるほど!
流石はオートマトンだね。ナイスアイデアだ。
早速、バーバリアン王に作らせよう。
「ねえ、エンリ達は王都で学校に通うとして、私達はどうするのー? そろそろ法国に顔を出す?」
法国かあ。
法国内のプリンセス教の布教は国民レベルでは進んでいるけど、上層部にまでは及んでいない。
軍の方も、漆黒聖典と呼ばれている危険な集団には未接触だ。
クレマンティーヌに言わせれば、漆黒聖典であたしが注意すべきなのは、番外席次である通称“絶死絶命”と呼ばれる存在だけらしい。
まあ、クレマンティーヌにとっては、あたしと“絶死絶命”は、自分とは強さのレベルが違い過ぎて、判断がつかないのが正直なところらしいけどね。
そんな状況で法国に帰るのは、まだ時期尚早だろう。
それにもっと遠くにも観光に行ってみたい。
「もっと遠くって、 どこか行きたい場所でもあるのー?」
うん。エルフの国やドワーフの国にも行ってみたいし、南の方には空中都市があるらしいよね。
空中都市…伝説のラピュタだね。
「らぴゅたは聞いたことないけど、確かに空中都市はあるけど危険…あんたにとってはそうでもないかー。でも、エルフの国王は化け物クラスで、私達とは敵対しているから観光は無理っぽいよー」
ほう、化け物クラスのエルフか。
それは面白そうだよね。
ところで、ドワーフはどうなの?
「ドワーフ国は人間の国と交易をしていたと思うから友好的な筈だよー」
なるほど。先ずはドワーフ国に行こうかな?
*
王都で屋敷を貰った。
王女からのプレゼントだ。王女は気前が良いよね!
エンリ達はこの屋敷に住まわせる事にした。
使用人も王女が手配すると言ってくれたが、そこまで世話になるのはダメだろう。使用人はプリンセス教団から派遣してもらう事にした。
そういえば、プリンセス教のことを一時期ド忘れしていた事があった。
知性派を誇るあたしでも、そういう事があるのだから、配下が失敗してもある程度は仕方ないと思って許してあげようと思う。
そんな寛大さも上に立つ人間には必要だ。
ネムが通う為の幼年学校は、バーバリアン王に命じて急ピッチで建てさせている。
建築費用や運営費がどうのとか、うるさい事を言うからブン殴ったら素直になった。
でも、後でオートマトンに泣きついたらしく、プリンセス教団で費用の一部を持つ事になったらしい。
もしかして王国って、貧乏なのかもしれない。
ポンと屋敷をくれた王女には無理をさせたのかな?
よし。
彼女が困っていたら助けてあげよう。
しかし、いくらあたしのことを慕っているからといって、無理をしなくていいのにと思うぞ。
そんなあたしを慕ってくれている王女の事を女子会で話したら、ドラちゃんとレイナースが無表情になって、今度王女を連れてこいと言い出した。
なんだか怖い雰囲気だったけど、王女のことを虐めたりしないよね?
クレマンティーヌも同じ雰囲気だったから、オートマトンにいざという時の援護を頼んでおこうと思う。
ふう。これが女子の世界の派閥争いというヤツなのかな?
リア充になっても苦労があるんだね。
でも負けない!
絶対にボッチには戻らないぞ!
…ん?
はっ!!
いやいやっ、あたしは元々ボッチじゃないぞ!!
孤高を貫いていただけだ!!
ホントだぞ!!
*
モモンガから《メッセージ》がきた。
“いつになったら女子会に呼んでくれるのですか?”
そんな内容だった。
そういえば、モモンガを女子会に呼ぶ約束をしていた。
ククク、丁度いいタイミングだな。
王女と一緒にモモンガを連れて行けば、色々と有耶無耶になるだろう。
それにモモンガはギルドマスターのはずだから、人間関係の調整は得意の筈だ。
適材適所。
良い言葉だと思う。
次の女子会の事を考えていたら、お腹が痛くなるから困っていたところだ。
そうだっ!!
いっそのこと、女子会が始まったらモモンガに全てを任せてあたしは席を外そうかな?
うん。良い考えもしれない。
きっと、良い考えだ。
うん。そうしよう。
そうしよう。
モモンガ。
信じているから上手くやってね。