異世界生活はオートマトンと共に(完結)   作:銀の鈴

34 / 46
第33話「王国、最後の日」

モモンガが率いる軍勢は、ソウルイーターにデスナイトを騎乗させたものだ。

 

うむ。相手が騎兵ならば、こちらは重装歩兵でその突進を止めてやろう。

 

オートマトンのスキルで、重装備のゴーレム軍団を創り出す。

 

さあ、戦争を始めるぞ!

 

あたしはゴーレム軍団を率いて王国軍の陣営に向かった。

王国軍の陣地に近付くと、何かがあたしに向かって飛んできた。

 

ヒューン……コツン。

 

“それ”は、あたしの額に当たってアッサリと弾き返されて地面に落ちた。

 

落ちた“それ”を見つめる。

 

それは“弓矢”だった。

 

 

───王国軍に攻撃された。

 

 

よし、王国を滅ぼそう。

 

オートマトン。殲滅戦を開始するぞ。

 

「イエス、マスター。全部隊、安全装置解除せよ」

 

あたしは愛用の棍棒を取り出す。

 

王国兵は一兵たりともこの地より生きては返さん。

 

「ちょっと待ってよ!? あんたにはあんな普通の弓矢なんか効かないわよね!」

 

クレマンティーヌが慌てて止めようとしてくる。

 

彼女は相変わらず優しい。

 

だけど今回ばかりはダメだ。

 

王国軍は、あたし達に向かって間違いなく殺意を持って攻撃してきた。

 

その攻撃が効く効かないは関係ない。殺意があったことに意味がある。

 

あいつらは、“あたしの家族”を殺そうとしたのだ。

 

絶対に許すわけにはいかない。

 

あたしには家族を守る責任があるのだから。

 

 

 

 

モモンガに遊びは中止だと伝達した。彼はあたしの気持ちは分かると納得してくれた。

 

あたしは眷属を呼び出すと、王国軍を逃がさないように包囲させる。

 

王国軍25万人に対して、あたしが呼び出した眷属は3万体だった。

 

包囲陣としては薄いけれど、レベル差を考えれば十分だろう。

 

「ちょっと、あんたもこいつを止めてよ! 王国兵の大半は農民なんだよ! あいつらが全滅したら、王国は食力不足になって餓死者が大量に出ちゃうわよ!」

 

「クレマンティーヌ。残念ですが、マスターは既に命令を下されました。私はマスターの命令に従うのみです」

 

「こんなっ、こんなくだらない事で大勢の人を殺すっていうの!?」

 

「クレマンティーヌ。強者はその時の気分だけで人を殺す。貴女にも心当たりはあるでしょう?」

 

「っ!?わ、私は…私は…でもっ、私はこんなに大勢の人を殺めたりはっ…」

 

「人数の多寡は問題ではありません。この世界は強者が何をしようとも許される弱肉強食の世界だということを理解しなさい」

 

「た、確かに私もあんた達と出会う前は滅茶苦茶なこともしていたけど、でも、あいつみたいに…私と違って、本当に何でも出来るぐらいに強い奴がそれじゃダメだよ! あいつだったら、私みたいな奴を生み出さない世界だって作れる筈だよね!!」

 

「確かにマスターならば作れるでしょう。ですが分かっているのですか? そのような世界を作ること自体が、強者による気紛れに過ぎないということを」

 

「…分かってるわよ。力で殺すんじゃなくて、力で支配するだけの違いでしかない事ぐらい。でもっ、私は力で踏み躙られて殺される世界より、力で支配されたとしても平和な世界の方がいいわっ!!」

 

「なるほど。貴女の気持ちは分かりました。ならば……マスターを上手いこと言いくるめなさい」

 

「……やっぱり、それしか無いの?」

 

「今まで通りです。クレマンティーヌ」

 

「ハァ…でも、どうやって言いくるめたらいいのよ? あいつ、今までと違って聞く耳を持たないって感じになっちゃってるんだけど?」

 

「そうですね。クレマンティーヌに一つ助言をしましょう」

 

「何かいい考えがあるの!?」

 

「クレマンティーヌ、ガンバ!」

 

「それは助言じゃなくて、ただの応援だぁあああっ!!!!」

 

 

 

 

あたしの眷属によって三方を包囲した。これで王国軍に逃げ道はない。

 

唯一、開いている前方には帝国軍が陣取っている。

 

さて、どうやって始末してやろう?

 

王国のゴミ共を駆除した時と同じように、包囲したまま撃ち殺そうかな。でも、流れ弾が帝国軍の方に飛んでいったら不味いよね。

 

うーん。

 

ビーストマンの時みたいに、あたしの一撃で打ち砕くのも周囲を巻き込みそうだよね。

 

うん?

 

ビーストマン?

 

そういえば、ビーストマンの都市に送った眷属達はどうなったのかな?

 

えーと、ラインはまだ繋がっているから今も頑張っているみたいだね。

 

そうだ!

 

頑張っているあいつらを呼び戻してやろう。

 

それで、あいつらに王国軍を殲滅させてやって、そのまま王国に侵攻させよう。

 

王国の殲滅が終わったら、頑張ったあいつらへのご褒美に、王国の跡地に眷属達の国を作ってやるか!

 

うん、いいアイディアだね!!

 

「ちょっ!? あんた何を言ってんのよ!」

 

大丈夫だよ! クレマンティーヌにもお屋敷を作ってあげるからね!

 

「うわ、やった〜!じゃなくてねっ!!」

 

あたしは“精霊王の門”を起動させると、遥か彼方にいる眷属達を呼び出そうとした。

 

あれ、眷属達以外にあたしの魔力探知に反応している奴がいるぞ?

 

うーん。覚えていないけど、誰かと共同戦線でも張ったかなあ?

 

まあいいや。一緒に呼び出そう。

 

あたしは、眷属達と正体不明の奴を王国軍の真正面に呼び出した。

 

「なんだっ!? また俺は転移したのか? なっ!? 王国軍と帝国軍だと! ならばここはカッツェ平野か!」

 

正体不明の奴は、上半身は裸でズボンもボロボロだったけど、むき出しの上半身は筋肉の鎧で覆われていた。それも器具などで作られたような不自然な筋肉ではなく、戦場で鍛えられた戦うための筋肉だ。

 

そして、全身に刻まれた夥しい傷跡と、全身から立ち昇る激しい闘気に両国の兵達が息を飲んだことが分かった。

 

うむ。

 

この世界の人間にしては、まあまあだな。

 

それに、あの男が手にしている武器はあたしと同じ棍棒だ。

 

少しだけ親しみを感じるな。

 

覚えていないけど、過去のあたしもたぶん親しみを感じたのだろう。

 

それで魔力も覚えていたのだろう。

 

うんうん。たぶんそうに違いない。

 

おや?

 

男が何かを言っているぞ?

 

「未だに貴様らは人同士で争っているのか!! この世界において脆弱な種族でしかない人間同士が争うなど愚行極まりないわ!!」

 

男の言葉に王国軍から罵声が飛んでくる。

 

「喧しい!! 俺は世界の真実を知った!! この世界は暴力が支配する非情の世界だ!! 人同士で争う余裕など無いわ!!」

 

男は王国軍の一点に視線を向ける。

 

「父よ、そこに居るのか!! ならば丁度いい!! この俺っ、バルブロ・アンドレアン・イエルド・ライル・ヴァイセルフに王位を譲れ!! 貴様のような弱腰の王では国が滅びるわ!!」

 

おおっ!

 

あの男は王国の王子だったのか。

 

流石はあたしだな!

 

覚えていないけど、知り合うのは高貴な人間が多いぞ。

 

類は友を呼ぶというやつだな。

 

「私利私欲の為に国を食い物にする貴族共は全て処分する!! 今までの王国はここに死ぬ!! この俺の手で王国は生まれ変わる!!」

 

ほうほう。

 

王国は滅ぼそうと思ったけど、生まれ変わるのなら見逃そうかな?

 

それにこれからが面白くなりそうだ。あの、バーバリアンみたいな男が王になれば、王国は今までとは違う国になるだろう。

 

どんな国になるのか見物のしがいがありそうだ。

 

あたしはレイナースを通じて、プリンセス神として帝国軍に引くように命じる。

 

モモンガには仕事の邪魔をした事を謝っておく。

 

ん? 王国軍は何やら揉めているみたいだ。

 

バーバリアンみたいな男は知り合いだと思うから手助けをしてやろう。

 

あたしはクレマンティーヌに魔法をかける。

 

【思考誘導】【プリンセス神の加護】

 

ついでに配下のドラゴンを呼び出して、クレマンティーヌをドラゴンに騎乗させる。

 

ククク、王国軍がドラゴンの姿に驚いているぞ。

 

グルグルお目々になったクレマンティーヌはドラゴンの頭上に立つと、ドラゴンの頭を強く踏みつける。

 

「さっさと向かえ!」

 

「が、ガオ」

 

ドラゴンはフラフラと王国軍の前に飛んでいく。

王国軍はクレマンティーヌから発される圧力に耐えられずに全員がその場に跪く。

 

「私は、この世で最も偉大であり、強大であり、慈悲深き神であるプリンセス神の使いである。クソの如き無価値なゴミ虫に過ぎぬ貴様らにも、我が神の愛は向けられる。この奇跡の瞬間を末代まで語り続けるがいい。そして新たな貴様らの王を誇るがいい。王国の決定されし運命であった殲滅処分を覆した奇跡の王を!!」

 

クレマンティーヌの言葉に、バーバリアンはヨロヨロと立ち上がる。

 

「わ、私にこの世の真実を見せて下さったのが、プリンセス神なのですか?」

 

「そうだ。肥溜めの如き王国を地上より消し去るは容易い。だが、慈悲深き我がプリンセス神が愛を示されたのだ。その愛に感謝を捧げよ。そして、その命をかけてプリンセス神の愛に応えてみせよ!!」

 

「おおっ!! 百億の感謝を捧げますっ!! 尊きプリンセス神よ!!!!」

 

涙を流すバーバリアン。

 

うん!

 

気持ち悪いね!

 

やっぱり殲滅した方がいいかな?

 

「イエス、マスター。前言を翻してしまうとプリンセス神の聖女としてのクレマンティーヌの立場が無くなってしまいます」

 

なるほど、確かにそうだね。

 

うん。それじゃあ、王国の事はクレマンティーヌに任せよう。

 

クレマンティーヌは優しいから請け負ってくれるだろう。

 

でも、あのバーバリアンがクレマンティーヌに手を出さないように気をつけなきゃいけないよね。

 

「イエス、マスター。クレマンティーヌの警護はお任せ下さい」

 

うん、オートマトンにお任せするね!

 

 

 

「偉大なるプリンセス神の加護の下!!  我ら王国は生まれ変わるだぁあああああああっ!!!!」

 

 

 

滝のような涙を流しながら咆哮するバーバリアン。

 

もの凄く気持ち悪いはずのその光景を見ていたグルグルお目々のクレマンティーヌの口元が――あたしには何故か微笑んでいるように見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。