異世界生活はオートマトンと共に(完結)   作:銀の鈴

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第31話「王都騒乱」

ナザリックでのバカンスも飽きてきた。

 

食事は美味しいけど、周りがモンスターばかりだと、ついモンスター狩りをしたくなる。

だけど、狩りはモモンガに止められているから出来ない。

 

仕方ないから、代わりにシャルティアを追いかけまわしていたら本気で怖がられた。

 

何故だろう?

 

シャルティアの好感度は高かった筈なのに。

 

これが世の中の理不尽というものなのか?

 

「いやあんた、この子からしてみたら当たり前の反応だからね」

 

クレマンティーヌがシャルティアを擁護する。

 

うぬぬ。

 

悔しいからシャルティアだけじゃなく、クレマンティーヌも追いかけ回すことにした。

 

クレマンティーヌは、仕方なさそうに溜息を吐いた後、怯えているシャルティアの手を引きながら逃げていく。

 

よし、オートマトン!

 

部隊を展開させろ!

 

「イエス、マスター。第一班から第三班は威嚇射撃を行い、ターゲット達を作戦エリアに追い込みます。第四班から八班にて周辺エリアを制圧後に陣地の確保。第九班から十二班は作戦エリアでターゲット達の到着まで待機。ターゲット達を捕捉後は速やかに無力化させ確保します。残りの班はターゲット達を助勢する可能性のある勢力の警戒、及び動きを察知後はその殲滅に当たります」

 

あたしはありったけの支援・補助魔法を唱え、自軍を強化しながらニヤリと嗤う。

 

 

ククク、さあ、戦争(サバゲー)の始まりだ。

 

 

 

 

 

確保したクレマンティーヌに、やり過ぎだと言われてど突かれた。

 

理不尽だ。

 

確保したシャルティアには嫌われた。

 

理不尽だ。

 

ナザリックのNPC達からは苦情が殺到した。ちょっとだけ建物を壊しただけなのに。

 

理不尽だ。

 

モモンガからは、ほとぼりが冷めるまでナザリックから出て行ってほしいと言われた。

 

理不尽だ。

 

オートマトンは共犯のはずなのに知らん顔をしている。

 

理不尽だ。

 

ウググ…この世は理不尽に溢れている。

 

そうだ!

 

あたしの天使、ネムに会いに行こう。

 

きっと、優しく出迎えてくれるはずだ。

 

そして、世の中の理不尽に打ちのめされたあたしのキズだらけの心を癒してもらおう。

 

うん。我ながら素晴らしい思いつきだ。

 

 

 

 

ナザリックから出て行く時のお見送りは、モモンガとおっぱいの大きい美人さん、それとメガネ悪魔の三人だけだった。

 

ちょっと、寂しい。

 

あっ、柱の影にシャルティアがいた。

 

手を振ったら、小さくだけど振り返してくれた。

 

次にナザリックに来た時は、優しくしようと思う。

 

「あんた、ナザリックを半壊させといて、まだここに来るつもりなの!?」

 

「自らのギルド拠点を半壊させられながらも、笑って許して下さったモモンガ殿の度量の大きさには感服します」

 

「笑顔が引き攣っていたけどね。でもまあ良かったわー。弁償しろとか言われていたら詰んでたよねー」

 

あたしは、ナザリックから遠ざかりながら思う。

 

おっぱいの大きい美人さんのおっぱい…揉みたかった。

 

そういえば、シャルティアも巨乳だったのに、揉みたいと思わなかったのは何故だろう?

 

今度、ナザリックに来たときに揉ませてもらおう。

 

「あんたは少しは懲りなよー」

 

大丈夫だよ。あたしは、クレマンティーヌのおっぱいを一番揉んでるからね。

 

「大丈夫の意味が分からんわ!!」

 

 

 

 

あたし達はカルネ村に着いた。

 

あたしに気付いたネムが元気よく駆けてくる。

 

ネム、ただいまー!

 

えっ?

 

お土産?

 

わ、忘れてた。

 

ネ、ネム?

 

ネム、怒らないで!

 

どこに行くの!?

 

あたしを捨てないでぇえええ!!

 

ネムゥウウウウウウッ!!!!

 

「どっかで見たようなやり取りなんだけど」

 

「ふふ、このマスターの叫びを聞くと、カルネ村に帰ってきたんだと実感しますね」

 

 

 

 

王都にまた観光に連れていくことで許してもらった。

 

恐縮するネムの両親にエンリ。

 

王都にはそろそろ様子を見に行こうと思っていたし、ネムには世界を見せてあげようと思っていたから丁度よかったと笑ってあげた。

 

そうこうしていると、いつの間にかエンリも一緒に行く事になっていた。

 

うんそうだね。エンリにも世界を見せてあげよう。エンリには意外な才能があるような気がするし、色々と経験させてあげたいと思う。

 

あれ、なんだかデジャブを感じるけど気のせいかな?

 

まあいいや。

 

前回は風化聖典が準備した馬車で行ったけど、今回は風化聖典を帝国に置いてきちゃったからどうやって行こう?

 

「マスター。たまには徒歩でのんびり行くのもいいと思います」

 

そうだね。別に急ぐ旅じゃないし、いざとなれば何時でも転移できるしね。

 

やっぱり、徒歩での移動が旅の醍醐味だろう。

 

あたしはネムを肩車してあげる。

 

流石にまだ小さいネムを歩かせるのは無茶だからだ。

 

「王都といえば、今話題になっている“黄金の姫”を見てみたいねー」

 

今話題って、何かあったの?

 

「それがねー、王国の王位継承権一位の第一王子が突然行方不明になってね。

 

その事件の最有力容疑者の第二王子が、現王に事実確認が出来るまで謹慎させられてね。

 

その謹慎中の第二王子を心配して、見舞った妹の“黄金の姫”を、謹慎中で欲求不満になってた第二王子が、獣如く欲望を剥き出しにしてベッドに押し倒したんだって。

 

その時は王女の従者が必死になって助けたらしいけど、実の妹を押し倒す獣同然の男を“王”にさせてしまっては、この国が滅んでしまうと“黄金の姫”が遂に立ち上がったのよ。

 

今じゃ、第一王子派の貴族達を取り込んで、第二王子派の貴族達と武力衝突も辞さない構えらしいわよ。

 

そして、そんな泥沼の争いに華を添えるのが“黄金の姫”と、彼女を長年支えてきた従者の少年との身分違いの恋物語! 王都ではこの話題で持ちきりらしいわ」

 

なにそれ、凄く面白そう!

 

ネムとエンリも興味津々だ。

 

この世界だと娯楽が少ないから、こんな昼メロみたいな展開を見逃すわけにはいかないぞ。

 

前に王都で知り合ったラキュースが、“黄金の姫”と友達だったはずだ。

 

ラキュースを通せば、特等席で事態の推移を見物できると思う。

 

“黄金の姫”が気に入れば、助力してあげてもいい。

 

実の妹を押し倒すような輩は、万死に値するクズだからだ。

 

ネムには少し早いと思うけど、男に対する警戒心を養ういい機会だろう。

 

さあ、そうと決まれば王都に急ごう!

 

いっその事、転移しちゃおうかな?

 

あたしが少し迷っていると、オートマトンが前方にある小高い丘で、ドラゴンが昼寝しているのを発見したと報告してきた。

 

ドラゴンか。

 

そういえば、生活費が尽きていたんだった。

ドラゴンを狩って、素材を売れば生活費の足しになるよね。

 

あたし達はドラゴンに近付いていく。

 

グーグー。

 

至近距離まで近付いても目覚める様子のないドラゴン。野生の欠片もないなあ。

 

あたしは呆れながらも、ドラゴンの首に足を乗せる。いざ、力を込めてドラゴンの首をへし折ろうとした時に、あたしはある事に気付く。

 

あれ、このドラゴンって、帝国でいつの間にか行方不明になった、あたしのペットのドラゴンだ。

 

こんな所で迷子になっていたのか。

 

まったく仕方がないドラゴンだなあ。もう少しで殺しちゃうところだったよ。

 

でも丁度よかった。

 

こいつに王都まで運んでもらおう。

 

おら、サッサッと起きろ。

 

ドゴッ!!

 

グーグー寝ているドラゴンの腹を蹴っ飛ばすとドラゴンが目覚めてくれた。

 

「ゲボォッ!? ゴホゴホッ…な、なにが…ゲエッ!? な、何故貴様がここにっ!?」

 

誰が貴様だ。ペットの癖に生意気だぞ。

 

数発ほど少し強めに殴ってみる。

 

泣いて謝ってきたので、寛大なあたしは許してやった。

 

「私、ドラゴンに生まれなくて良かったと本気で思うわー」

 

ボコボコになって、泣きながら土下座しているドラゴンを見ながらクレマンティーヌはそんな事を言っている。

 

「マスターが単純な脳筋でしかなくて良かったですね」

 

「確かにそうねー。こいつに妙な嗜虐趣味でもあったら世界がピンチだったかもねー」

 

嗜虐趣味って。もう、ネムの前で変な事を言わないでほしい。教育に悪いぞ。

 

ほら、早くドラゴンに乗って王都に向かうぞ。

 

「ドラゴンで空の旅かー。この間、ドラゴンに乗った時は簀巻きにされていたのよねー」

 

「ふふ、クレマンティーヌほど、簀巻きにされた姿が似合う女性はいませんね」

 

「あら、そうかしら? って、その言葉で喜ぶと思ってんの!!」

 

大丈夫だよ。簀巻きにされて身動き取れなくても、帝国で買った尿瓶があるからね。あたしに任せてね。

 

「あんたはあんたで何を言ってんのっ!? 尿瓶なんか使わないわよ!!」

 

ええっ!?

 

それだとクレマンティーヌがお漏らししちゃうよ!?

 

そうだ! 今度、クレマンティーヌが簀巻きにされるときには、簀巻きにされる前にトイレにいこうね。

 

「あんたが私を簀巻きにしなきゃいいだけでしょうが!」

 

まあ、クレマンティーヌのお漏らし対策については後でゆっくりと相談するとして、そろそろ王都に出立しよう。

 

「イエス、マスター。ドラゴンなら夜までに王都に着けると思います」

 

迷子になるドラゴンだから少し不安だけど、きっとオートマトンが誘導してくれるだろう。

 

「イエス、マスター。このドラゴンが方向を間違えれば、その度に鱗を引き剥がして教えます」

 

うん、頼りにしているね。オートマトン。

 

「やっぱり、私はドラゴンに生まれなくて良かったわー」

 

 

 

 

「が、ガオ…」

 

 

 

 

 

 

 

 


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