異世界生活はオートマトンと共に(完結)   作:銀の鈴

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第30話「モモンガ」

モモンガと友達になった。

 

そして、モモンガから転移してからの事を聞かされた。

 

彼はギルド拠点ごと転移したから、生活はナザリックのNPC達に助けられ困らなかったそうだ。そんなナザリックのNPC達は、モモンガにとっては子供のような存在らしい。

 

あたしもオートマトンがいてくれたお陰で生活には困らなかった。あたしにとってオートマトンは、お母さんのような存在だ。

 

独りぼっちで転移していたら大変だったよね。と、あたしとモモンガの意見が一致した。

 

よかった。よかった。と、あたしはその場を後にしようとしたら、モモンガにタックルをされて止められた。

 

“もっと話を聞いて下さい!”と言われた。

 

面倒臭いんだけど。

 

でも、仕方ないから話の続きを促した。

 

モモンガは転移した直後に、周辺地域の調査を命じて危険がないかを調べさせたそうだ。

 

その調査で、近くにある村を守る複数のゴーレムを発見した。

たかが、辺境の村を守るためにレベル60のゴーレムを複数体も配置していたのだ。

 

それからも調査を進めると、近くの都市で発生した騒動では、この世界ではレベルが高いはずのスケリトル・ドラゴンを無名の冒険者が簡単に倒したという情報を得た。

 

それ以外にも、王国を蝕んでいた筈の犯罪組織が、驚くほどの短期間で殲滅されたという情報も入ってきた。

恐らくは王直轄の秘密部隊が動いたのだろう。そのように推測は出来たが、確たる証拠は全く手に入らなかった。

 

遠く離れた場所の話をすれば、この世界の人間のステータスの10倍の能力を持つといわれるモンスターがいる。そのモンスター軍団の大攻勢を受けた国が、ほんの数日でモンスター軍団に大打撃を与えて追い払ってしまった。

 

さらに、そのような国々よりも国力が上だと噂される帝国の存在まで判明した。

 

さらにさらに、その帝国をすら凌駕するという、周辺国家から畏怖されている宗教国家まで出てくる始末だ。

 

モモンガは、ナザリックの総力を挙げて“力有る者達”の調査をしたが、ナザリックの総力を持ってしても、その存在を察知する事はできなかった。

 

それは即ち、この世界の“力有る者達”の情報隠蔽能力が、ナザリックの調査能力を凌駕していることを意味していた。

 

このような、完全に情報を掴ませない程の情報隠蔽など、“ユグドラシル”時代でも考えられなかった。少なくとも、“何かを隠している。”という事ぐらいは掴めて当然の筈なのだから。

 

この世界の全体的なレベルは、ナザリックよりも遥かに劣る事は判明している。

だが、不可能な事を可能にする“力有る者達”のレベルは、想像すら出来なかった。

 

“えっ、なにそれこわい。”と、モモンガが思ったのも仕方ない事だろう。

 

この世界に対する警戒心を高めたモモンガは、人間に対して友好的に接する方針を決めた。

 

でも、ナザリックのNPC達は、種族的に人間に対して敵対的なものが多いため、非常に苦労しているそうだ。

 

モモンガも、NPC達の意識改革をしようと頑張っているけど、あまり上手くいかないらしい。

 

あたしは近くに控えていたメガネ悪魔に聞いてみる。

 

あんたは人間が嫌いなの?

 

「いいえ、私は人間を愛しております。例えば、高潔な騎士が堕落する瞬間に魅せる魂の悲鳴などは、千金に値する価値がありますゆえ」

 

あたしは近くに控えていたおっぱいの大きい美人さんに聞いてみる。

 

あんたは人間は好き?

 

「はい。モモンガ様が保護動物に指定されている愛らしい生き物ですわ。もちろん、個体差がありますゆえ、全てを好きかと問われれば、“否”と答えざるを得ない事をお許し下さいませ」

 

うん。モモンガ、問題ないみたいだよ。

 

「問題大アリだよね!? それに、ここの人達が私を見る視線が怖いから、何とか出来るならして欲しいんだけどー?」

 

なにっ!?

 

あたしのクレマンティーヌを狙っているのか!?

 

おいっ!! クソモモンガッ!!

 

部下の手綱ぐらい握っておけっ!!

 

あたしは、クソモモンガに命じてNPC達を集合させる。

 

しっかりと見ておけっ、クソモモンガ!!

 

お前にとって、ここのNPC達が子供のような存在だと言うなら、子供には躾が必要だという事を教えてやるからな!!

 

「な、なんだか大事になってない? 私のせいじゃないよね?」

 

「クレマンティーヌ。安心して下さい」

 

「そ、そうだよねー! ちょっとあいつが説教するだけだもんねー!」

 

「マスターが本気を出せば、ナザリック地下大墳墓を更地に変えることぐらい余裕です」

 

「ちっとも安心できないんだけど!?」

 

 

 

 

ナザリックの闘技場にNPC達が集まっている。

 

異形種ばかりだった。

 

悪魔、ドラゴン、奇妙な人型生物、鎧騎士、二足歩行の昆虫、精霊。大きさも姿もまちまちだ。

 

その内包する力は、まあまあだな。

 

こいつらならビーストマンとは違い、一撃で消し飛ぶことはないだろう。

 

恐らくは、全てを潰すのに三撃は必要となるはずだ。

 

整然と並んだ奴らの前に、あたしは一人立っている。

 

モモンガは此処にはいないが、たぶん遠見の鏡で見ているだろう。

 

あたしは全員を見渡した後、口を開く。

 

「汝らに問う。汝らにとって、人とはどのような存在だ?」

 

あたしの質問に最前列にいたシャルティアが答える。

 

「人とは、楽しめる玩具にあり…」

 

あたしはオーガプリンセスの力を解放する。

 

あたしから放たれた圧力にシャルティアの言葉が止まる。

 

「我とモモンガにとって、人とは友人となり得る存在だ。我らは友人に害意を示す者を許さん。我が友、モモンガなら貴様らの愚かさをも許すだろう。だが、我は貴様らの主人ほど優しくはないぞ」

 

オーガプリンセスとして発している力に加えて、あたしはプリンセス神として人の信仰によって得た力を少しずつ上乗せして圧力を高めていく。

 

あたしは震えだしたシャルティアを黙って見つめる。

 

すると、シャルティアの隣にいたダークエルフの少年…ではなく少女だったな。彼女がシャルティアをかばうように口を開く。

 

「先ほどのシャルティアの発言の真意は楽しくて良き隣人って事です! シャルティアはそう言いたかったんです! この馬鹿は口下手だから上手く表現出来なかっただけなんです!」

 

「チ、チビ〜」

 

「馬鹿っ、泣いてないであんたも謝りなよ!」

 

慌ててシャルティアも謝罪すると、彼女は大袈裟すぎる人間賛歌を口にし出した。

 

「このお馬鹿っ、そこまで言ったら逆にあやしいっての!」

 

ダークエルフの少女は、アハハと愛想笑いをしながらシャルティアをど突く。

 

「よかろう。シャルティアは我の恩人であるペロロンチーノ殿が、理想の嫁として生み出した存在だ。ペロロンチーノ殿と、貴様を想う友人の友情に免じて、今回だけはシャルティアの言い間違いだとしてやろう」

 

シャルティアとダークエルフの少女は、ホッと胸を撫で下ろす。

 

あたしはそれを一瞥すると新たな言葉を発する。

 

「続けて問うとしよう。我が友、モモンガは貴様達を愛していると思うか?」

 

メガネ悪魔が間髪入れずに答える。

 

「勿論です。慈悲深きモモンガ様は、我ら配下の者にも心を配って下さる偉大なる支配者であらせられますゆえ」

 

どこか胸を張るかのような雰囲気のメガネ悪魔。

 

「その通りだな。本来なら、本能として生ある者を憎むアンデッドであるモモンガだが、その高い理性と知性によって、アンデッドの本能など、とうの昔に克服している」

 

NPC達はその言葉に、自分達の支配者ならば当然だと言わんばかりに頷いている。

 

「そして、高い理性と知性を併せ持つモモンガが尊重する者は、当然の如く、己と同じように高い理性と知性を持つ者だ。どれ程の強い力を持っていようとも、理性も知性も持たない獣の如き者は、モモンガにとっては価値なき者だ」

 

何か心当たりがあるのか、NPC達は納得したかのように頷いている。

 

「そんなモモンガの配下に、“人が憎い”“人を弄びたい”“人を喰らいたい”などといった、本能に根ざした欲求如きを克服出来ない者…理性も知性も持たない獣の如き者が混じっている事を知ったなら、モモンガはどれ程の失望を感じるのだろうな?」

 

あたしの言葉に殆どのNPCが震えだす。

 

それまでは、興味のなさそうにしていたおっぱいの大きい美人さんも慌てだした。

 

「わ、私は人に対して特に興味も害意も持っていませんわ! サキュバスである私が人に対して興味が無いというのは、既に本能を克服している証だと思います!」

 

「うむ、確かにその通りだな。流石は守護者統括といったところか」

 

あたしに言葉に安心したのか、おっぱいの大きい美人さんは満面の笑みを浮かべた。

 

「いいえ、偉大なるモモンガ様の配下には、本能などに振り回される下等生物など存在しませんわ。もしもそのような下等生物がいたのならば、守護者統括として私が責任を持って処分いたします」

 

ニコニコと笑いながら、おっぱいの大きい美人さんは、そのような事をのたまう。

 

周囲の震えているNPC達の震えが大きくなった気がしたが、だからといって異論は無さそうだった。

 

「ふふ、頼りなる配下を持ってモモンガは幸せ者だな。そなたの高き理性と知性、そして強き忠誠心は、我が友に伝えておこう」

 

「ありがとうございます。ですが、モモンガ様の配下としては当然のことでしかありません。殊更お褒めいただいては恐縮してしまいます」

 

得意げな表情のおっぱいの大きい美人さんの事を、悔しそうに見ていたメガネ悪魔が、意を決したように口を開く。

 

「アルベドの言葉通りです。このナザリック地下大墳墓に所属する者達の中に、本能に屈するような者は存在しません。全ての者達は人に対しても友好的です。特に私が統括している第七階層の者達は、我らが認めるほどの高い理性と知性を持つ者に対しては、対等な存在として接するほどです」

 

「ほう、それは素晴らしいな。種族に拘らずに接することが出来るのは、まさにモモンガが好む高い理性と知性がなくば出来ぬことだからな。第七階層の者達がそのような振る舞いが出来るのは、そなたの指導が優れているからだろう。我が友には是非伝えておこう」

 

メガネ悪魔が歓喜の表情に包まれる。

そして、すぐに何かを決意した表情になると、慌てるようにその場を辞して、第七階層に戻っていった。

 

それを見ていた他の者達も先を競うように、自分達が所属する階層に戻っていった。

 

 

 

 

うむ!

 

あたしの計画通りの反応だったな!

 

「本当だねー。あんたのこと見直したわー。ただの脳筋じゃなかったんだねー」

 

わっはっはっ!

 

もっと褒めたまえ!

 

「今回ばかりは脱帽だわー、私が男だったら惚れてたかもだよー。うん、あんたを信じて正解だと初めて思ったよー」

 

うんうん。そうだろう。そうだろう。うん? 初めて?

 

この後、モモンガに凄く感謝された。

 

配下達の人間に対する態度が激変したそうだ。

 

よかった。よかった。

 

もしも、ここのNPCがクレマンティーヌに手を出そうとしていたら、飼い主のモモンガごとナザリックを潰していたところだからね。

 

ここのご飯は美味しいから、潰さないで済むのは素直に嬉しい。

 

「手を出そうとしただけで潰されるんですか!?」

 

モモンガが慌てたように言った。

 

そんなの当たり前だよね。あたしのクレマンティーヌなんだよ?

 

「クレマンティーヌ。マスターの愛は素晴らしいですね」

 

「いや、その、まずは話し合いから始めようね」

 

クレマンティーヌは本当に優しいね。

 

「あはは……そうだね。私は優しい人間だから、あんたが暴力を振るう前には私に相談してね」

 

うん、わかった。覚えていたら相談するね!

 

 

「うん…出来るだけ覚えていてね……ハァ…お家に帰りたい…」

 

 

 

 

 

 

 

 


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