帝国の皇帝がプリンセス教の信者になった。
そして、一夜にしてプリンセス教が帝国の国教になった。
めでたし、めでたしだ。
謁見の間にいなかった宮廷魔法使いのフールーなんとかというお爺ちゃんは、疑問に思っているらしいけど、宗教には余り興味がないらしく、対立はしていない。
レイナースには、四騎士からプリンセス教の巫女という立場になってもらった。
巫女は巫女でも巫女長だ。
皇帝より偉いぞ!
巫女長の言葉は、プリンセス神の言葉。
巫女長の拳は、プリンセス神の拳。
この事は、皇帝と一部の上位貴族共にたっぷりと教え込んだ。
これであたしが表に出なくても大丈夫だ。
レイナースに帝国は任せておこう。
あたしは女子会や家族旅行と色々あって、忙しいからだ。
もちろん、レイナースのバックアップに風化聖典を始め、法国の信者達を回している。
帝国の国民達にも精力的に布教しているみたいで、信者数は日に日に増えている。
まさに左団扇の生活だな!
*
あたしは帝国の高級宿屋で食っちゃ寝生活をして、人生の春を楽しんでいた。
「マスター。生活費が無くなりました」
なぬっ!?
どういう事なの!!
オートマトンの突然の告白にあたしは飛び起きた。
「カルネ村の盗賊退治で貰った報奨金が尽きました」
で、でも、プリンセス教の信者は凄く増えているよね! お布施も沢山あるんじゃないの!?
「イエス、マスター。プリンセス教の資金は莫大な金額になっています。ですが、それらは全て教団が管理しています」
それなら教団から生活費を貰えばいいよね!
「マスター。教団は、プリンセス神を信仰している信者達が運営しています。マスターを神としてキラキラした目で見ている信者に『生活費ちょうだい』などと、プリンセス神が俗な事を言って本当にいいのですか?」
あう。
そ、それならレイナースになら大丈夫だよね!
「同じ女子会のメンバーであるレイナースに『生活費ちょうだい』などと言えるマスターの神経に感服致します」
あうあう。
ク、クレマンティーヌにだったら、今更格好つける必要はないよね!
「マスターと一緒に食っちゃ寝生活をしている彼女が、教団の資金を持ち出せる立場だと思っているのですか?」
あうあうあう。
じゃあ、どうすればいいの!?
あたし達は路頭に迷うしかないの!?
「教団に身を寄せれば大歓迎されますよ。無料で三食昼寝付きの生活です」
教団に行ったら自由が無くなるから嫌だ。
あそこは狂信者の群れだから、居心地も良くないからね。
「では、そこら辺りの王国の貴族が治めている辺境の領地でも襲って生活費を調達しましょうか?」
おおっ!!
当然の如く、オートマトンは天才だった!!
そんな簡単に生活費を稼ぐ手段があったとは驚きだ。辺境の領地なら観光スポット的にも潰しても問題ないだろう。
早速、あたし達は生活費稼ぎに行くのだった。
「ちょっと待てー!! それは幾ら何でも人としてダメだよね!?」
クレマンティーヌに止められた。
本当にクレマンティーヌは真面目だなあ。
この世は弱肉強食だよ。
「真面目だなんて生まれて初めて言われたわよ!! っていうか、この私がダメ出しするなんてあんたらよっぽどなんだよ!? その自覚を持って大人しくしててよ!!」
むう。
大人しくしていたら、生活費が無いというのにクレマンティーヌには困ったものだ。
甲斐性の無いお父さん(クレマンティーヌ)を持つと子供が迷惑するよ。
「マスター。では、真っ当に冒険者として稼ぎますか?」
冒険者?
……はっ!?
そうだっ!!
あたしはミスリルの冒険者だった!!
ミスリルといえば上位の冒険者なんだから稼ぎも大きいはずだよね?
「たしか、カジっちゃん相手に大暴れしただけでミスリルになったんだよねー」
カジっちゃん…?
「マスター。ハゲのリッチです」
そういえば、そんなのもいたような?
ハゲのリッチ…骸骨だよね?
その時だった。
あたしの脳裏にあの言葉が蘇った!!
“…さんは、いつもお一人ですが、お仲間はいらっしゃらないんですか?”
誰がボッチじゃぁあああああっ!!!!
あのクソモモンガめっ!!
今ならあたしのリア充っぷりを見せつけてやれるのに!!
そういえば、あのクソモモンガは、あたしがお世話になっていたバードマンと同じギルドだったよね。
全く、あの紳士だったバードマンの爪の垢でも飲めばいいのに。
バードマン…ペロロンナントカさん。元気かなあ?
「いやあんた、お世話になったとか言っときながら名前も覚えてないわけ?」
そ、そんなこと無いよ?
ちゃんと覚えているよ?
例えば、ギルドにお邪魔したときに見せてもらったシャルティアは可愛かったよ。
「シャルティアって誰よ?」
凄くエロ可愛い女の子だよ。
「あんた、やっぱりそういう趣味なわけ?」
ううん、大丈夫だよ。
オートマトンの方が可愛いからね。
「イエス、マスター。ありがとうございます」
「文脈が合ってない上に、私じゃないのかよ!!」
*
「そういえば、プリンセス教団はどういう組織になってるのー?」
クレマンティーヌが教団に興味があるみたいだ。流石はプリンセス教の聖女だね。
「スレイン法国に本部があり、大神官がトップです。大神官以外は全て神官であり身分は平等です。ただし組織の運営上、支部ごとに一人だけ神官長を任命しています。巫女も同じで支部ごとに巫女長がいます。神官は男、巫女は女です。身分に上下はありません。クレマンティーヌは聖女と呼ばれていますが、それは名誉職のようなものです」
「うっ、聖女は勘弁して欲しいんだけどー。ところで大神官は誰なわけ? そいつだけは権力を持っているなら用心が必要だよね?」
大神官?
風花聖典の隊長辺りがなってるのかな?
「大神官はマスターが最も信頼している相手なので大丈夫です」
そっか。あたしが最も信頼している相手なら安心だね!
「誰のことだか分かんないんだけどー?」
あれ、分かんない?
あたしが最も信頼している相手といえば、オートマトンに決まっているよ。
「イエス、マスター。クジ引きで当たった13番が現在の大神官を務めています」
うんうん。それなら安心だね!
(あのさー、あんたの内の一人が大神官をしているのなら、教団の資金は使いたい放題じゃないのー?)
(その通りです。ですが、食っちゃ寝生活のままではマスターの健康を害する恐れがあります。ですので、運動をしてもらうための嘘も方便というやつですね)
(あんた、本当にお母さんみたいだね)
(はい、お父さんも少しは子供の事を考えて下さいね)
(お父さん言うな!!)
生活費が尽きたこの緊急時に、両親(オートマトンとクレマンティーヌ)がイチャイチャしている。
仕方がない。甲斐性のないお父さんの代わりに、あたしが稼がなきゃいけないな。
よし、ミスリル級の冒険者の実力を見せてやるぞ!