異世界生活はオートマトンと共に(完結)   作:銀の鈴

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第27話「皇帝」

「ていっ」

 

クレマンティーヌの脳天チョップがレイナースを襲う。

 

「まったく、何言ってんのよあんたは」

 

「痛いです。唯の冗談ですよ。クレマンティーヌ」

 

「本当でしょうね? まったく、仮にもあんたは帝国出身でしょうが、そのあんたがとんでも無いことをコイツに吹き込むんじゃないわよ」

 

うーん。レイナースの発言は冗談に聞こえなかったけど…まあいいや。

 

とにかく、帝国を滅ぼしたら観光スポットが無くなるから却下だぞ。

 

「そうでした。我が主様のご趣味を失念しておりましたわ」

 

「ハァ…理由はともかくとして帝国を潰さないと聞いて安心したわ」

 

クレマンティーヌは優しいなあ。その優しさをあたしにも向けてほしい。

 

「こ、この私が優しいなんて言われる時代が来るなんて……今は世紀末なのかしら?」

 

クレマンティーヌが、なんか遠い目をして呟いていた。

 

 

 

 

あたしは以前にボコって、配下に加えていたドラゴンを呼び出した。

 

レイナースの助言に従って、帝国の皇帝に会うためにドラゴンに騎乗して行くためだ。

 

何事も演出は大事だろう。

 

「うぅ…珍しく散歩に出かけたらこんな化け物に出会うだなんて、なんて私はついていないのだろう」

 

配下のドラゴン(たしか、名前はツァインなんとかと言っていた)がブツブツとボヤいていたから殴って大人しくさせる。

 

ぼやくドラゴンなど、格好悪すぎる。

 

「が、ガオ…」

 

うむ!

 

ドラゴンは吠えてさえいればいい!!

 

「このドラゴンって、もしかして……ううん、今さらだわ。気にしたら負けね」

 

クレマンティーヌが何か言っているけど何だろう?

 

「それで、アルシェの両親を貴族に戻してあげるわけ?」

 

そうだね。貴族に戻せば取り敢えずは問題解決だよね?

 

「イエス、マスター。根本的な解決ではありませんが、大きな問題もありません。アルシェの両親など放っておいても数十年であの世行きです。その間だけ帝国の金で飼っておけばいいだけです」

 

「いや、その、あんたキャラ変わってない?」

 

「ふふ、我が主様が親愛を示さない相手だとそんなものでしょうね。彼女にとって大事なのは我が主様だけだもの」

 

「その通りです。レイナース」

 

「だ、ダメだ。こいつら……うん、私がしっかりしよう」

 

それじゃあ、これからこのドラゴンに乗って皇帝のところに乗り込むぞー!!

 

「……私は留守を守っておくねー」

 

風花聖典よ。クレマンティーヌを捕縛せよ。

 

「いやー! 私はお尋ね者になりたくは…モゴモゴー!」

 

あたしとオートマトン、それに行くのを嫌がるクレマンティーヌを簀巻きにしてドラゴンに騎乗する。

 

風花聖典の連中が、ドラゴンの背に専用の鞍を着けてくれたから座り心地もバッチリだ。

 

オートマトンと二人乗りでも余裕のゆったり設計の上、後ろには荷台も付いているから簀巻き状態のクレマンティーヌもピッタリ収まるぞ。

 

レイナースは、皇帝の側に待機してあたし達が現れるタイミングを教えてくれる手筈になっている。

 

さあ、皆んな行くぞ!

 

「イエス、マスター。マスターの晴れ舞台です」

 

「モゴモゴー!!(私は行きたくないー!!)」

 

あたし達を乗せてドラゴンは飛びだった!!

 

 

 

 

帝都の上空にあたし達は待機していた。

 

上空は寒く、クレマンティーヌが寒さに震えている。相変わらずの痴女ルックだから防寒性は皆無だ。

 

あたしはプルプル震えるクレマンティーヌを可哀想に思い、魔法をかけてあげる。

 

「“冷熱耐性上昇”“士気向上”“猪突猛進”“ライオンハート”“闘気上昇”“鋼の意思”“オーガプリンセスの加護”……“思考誘導”」

 

「っ!? うぉおおおぉおおおおお!!!!」

 

元気になったクレマンティーヌが雄叫びをあげながら拘束を破る。

 

その勢いのまま、ドラゴンの頭に飛び移ると、その頭を蹴り飛ばした。

 

「さっさと皇帝の下に行きやがれ!  このトカゲ野郎!」

 

頭を蹴られたドラゴンは素直にクレマンティーヌの言葉に従い、皇帝の居城に向かって凄まじい速度で突っ込んでいく。

 

あれ、目を回してないか? こいつ(ドラゴン)

 

途中から錐揉み状態になりながらドラゴンは皇帝の居城に突っ込んでいく。

 

もちろん、あたし達三人には物理攻撃無効のスキルや魔法があるから大丈夫だ。

 

ドラゴンはどうしようかな? まあ、ドラゴンは丈夫だから墜落ぐらい平気だろう。

 

そして、知性派のあたしはレイナースにドラゴンが突っ込んでいくことを“メッセージ”で忘れずに伝える。これでレイナースがドラゴンの下敷きになる心配もないだろう。

 

ドカーン!!

 

壁をぶち破ってあたし達は皇帝の居城に乗り込む。

 

突っ込んだ場所は、ちょうど謁見の間だったみたいで、豪華な椅子に偉そうな男が座っている。こいつが皇帝だろう。

 

近くにはレイナースが立っているから間違いないと思う。あっ、レイナースが小さく手を振ってくれた。

 

「貴様が帝国の皇帝か?」

 

グルグルお目々になっているクレマンティーヌが豪華な椅子に座っている皇帝らしき男に問いかける。

 

「随分と不躾な来訪だな。貴様らは何者だ?」

 

男の言葉にクレマンティーヌは黙って拳を振り抜く。

 

「なっ!?」

 

グチャという音と共に男の側に立っていた騎士が肉片となる。クレマンティーヌが振り抜いた拳の衝撃波だけで完全装備の騎士が潰れた事に男は衝撃を受けたようだ。

 

「まさか四騎士の“不動”がこうも容易く殺られるとは驚きですわ」

 

そう言いながらレイナースが、男を庇うように前に進み出る。ウインクをしてくれた。可愛かった。

 

「もう一度だけ問う。貴様が皇帝か?」

 

クレマンティーヌはレイナースに目を向けることもなく、男に再度問いかける。

 

「…確かに余が帝国の皇帝、ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクスだ。女よ、貴様達の目的は何だ?」

 

クレマンティーヌは男の――皇帝の言葉に満足そうに頷くと、その“気”を解放した。

 

「ぐぅううっ!?」

 

 皇帝を含め、その場にいる全ての者達は、クレマンティーヌから放たれる強大な“気”の圧力に堪えきれずに膝を突く。

 

「至高なるプリンセス神の御前である。貴様ら塵芥に等しい矮小なる愚物共が、至高の存在に拝謁できる奇跡に咽び泣くがよい。そして偉大なる我が神は寛大だ。異教徒である貴様らクソ虫共の悪徳をその死と共に許して下さる。さあ、その微塵の価値もないクソのような命を我が神のもとに差し出すがよい」

 

クレマンティーヌはそう言い捨てると、あたしを前に引っ張り出す。

 

うえっ!?

 

ここであたしに振るの!?

 

重圧に耐えるように歯を食いしばりながら、皇帝達は親の仇を見るような目で、あたしを睨みつけてくる。なんだか怖い雰囲気なんだけど。

 

くそう。

 

ま、負けるものか!

 

あたしは切っていたスキルを全て入れる。そして、アイテムで隠蔽していた魔力等も全て解放すると、目の前の奴らを睨み返した。

 

 

そして、

 

 

あたしの目の前で、バタバタと将棋倒しのように人間が倒れていった。

 

 

 

 

いやあ、即死系のスキルがこんなに効くなんて思っていなかった。

 

死屍累々の謁見の間で、テヘと笑うあたしにグルグルお目々のクレマンティーヌは満足そうに頷いている。レイナースはパチパチと拍手をしてくれていた。

 

「マスター。ここに来た目的を覚えていますか?」

 

唯一、オートマトンだけが呆れたように半眼であたしの事を見つめていた。

 

だ、大丈夫だ!

 

死者蘇生のアイテムは持っているぞ! そういえば魔法も覚えていたぞ! 自分自身に使うことはないから忘れていたけど、最上級の蘇生魔法も覚えているから全員を蘇生できるぞ!

 

流石はあたしだ。抜かりはないぞ。

 

早速、全員を蘇生させてやろう。

 

「イエス、マスター。待ってください。蘇生させる前に魂を呼び出してプリンセス神に絶対の信仰を誓うかを確認しましょう。蘇生させるのは信仰を誓った者だけで十分です」

 

おおっ!?

 

やっぱりオートマトンは天才だ!!

 

「あんたら、神は神でも邪神よね」

 

いつの間にかにグルグルお目々が治っていたクレマンティーヌが酷いことを言う。

 

「いえ、清濁併せ呑む度量こそが、我が主様の偉大さを示していますわ」

 

うんうん、レイナースは分かっているね。

 

世の中は綺麗事だけじゃ渡っていけないんだよ。

 

「イエス、マスター。全てはプリンセス神の御心のままに」

 

「プリンセス神って、あんたはこいつの事を神様として本当に崇めてんの?」

 

「いいえ。私にとってはマスターはマスターです。手のかかる子供のような存在ですね」

 

うんうん。オートマトンはあたしのお母さんだからね。

 

「あんたはよく“我が娘よ”とか言ってるじゃない」

 

それはそれ。これはこれだよ。

 

あたしにとって、オートマトンは苦労して起動させた娘のような存在であり、同時にあたしの面倒をみてくれるお母さんのような存在でもあるんだよ。

 

クレマンティーヌ、世の中っていうのは複雑なんだよ。クレマンティーヌみたいに単純には出来ていないんだからもっと思慮深くなろうね。

 

「あんたにだけは単純って言われたくないわよ!」

 

クレマンティーヌが訳の分からないことを叫ぶ。

 

知性派のあたしは常に複雑なことを考えているんだから、単純という言葉からは最も遠い存在なんだよ。

 

「あんたが一番単純じゃない!」

 

ムム!?

 

それじゃ、勝負だ!!

 

クレマンティーヌよりあたしの方が単純だと思う人は手を挙げて!!

 

 

挙手:クレマンティーヌ

 

 

あたしよりクレマンティーヌの方が単純だと思う人は手を挙げて!!

 

 

挙手:あたし、オートマトン、レイナース

 

 

やったー!! あたしの勝ちだー!!

 

 

「ふざけんなーっ!! 完璧な出来レースでしょうがぁああああっ!!!!」

 

 

クレマンティーヌが本気で怒った。

 

 

怖かった。

 

 

ただの冗談だったのに。

 

 

グスン。

 

 

 

 

 

 

 


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