異世界生活はオートマトンと共に(完結)   作:銀の鈴

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第26話「アルシェ」

アルシェ達はこれから遺跡調査に行くそうだ。

 

「何でも突然発見された遺跡らしくて、初めての探索になるらしいです」

 

アルシェの説明によると、依頼主は帝国の貴族であり、破格の依頼料の上、遺跡で発見した宝物なども報酬として貰えるそうだ。もちろん、価値のあるマジックアイテムなどは依頼主が買い取る契約になっている。

 

「ふふ、これだけの報酬があれば、家の借金が全部返せますから頑張りますよ」

 

アルシェの家は貴族だったけど、現在の皇帝によって潰されてしまったそうだ。それで貴族としての収入が無くなったというのに、馬鹿な両親が浪費を重ねるせいで、アルシェはワーカーとなり借金返済に追われる毎日を送っている。

その為、せっかく入った帝国の魔法学校も辞める羽目になった。

 

「あ、あれ? どうして私ってば、こんな事をペラペラ喋っているのかしら?」

 

うんうん。それが友情というものだよ。決して、意識誘導とかの魔法のせいじゃないから気にしないでね。

 

「そうよね、私達は友達だものね」

 

アルシェは輝かんばかりの笑みを浮かべた。そんなアルシェを微笑ましそうに見つめるアルシェの仲間達。

 

「新たな犠牲者だね。でもいい事もあると思うから挫けないでね〜」

 

「マスターを信じていれば救われますよ。たぶん」

 

アルシェの仲間達と、あたしの仲間達。

 

何かが違う気がする。

 

何が違うのだろう?

 

 

 

 

今回の依頼を達成したらアルシェは、妹達を連れて家を出るという。

 

「もう両親には愛想が尽きました。育ててもらった恩は十分に返したと思います」

 

アルシェの気持ちはよく分かる。

 

働けど、働けど、楽にならぬ我が人生。

 

前の世界のように、貧困の原因が世界の在り方そのものなら諦めるしかないけど、浪費家の両親のせいなら嫌にもなるだろう。

 

あたしのお父さん(クレマンティーヌ)とお母さん(オートマトン)は働き者だから幸せだと思う。

 

「私もマスターが手の掛かる子供なので、世話のやき甲斐があり幸せです」

 

「あのさー、私もお父さん役より子供役の方がいいんだけどー?」

 

アルシェの事情は、アルシェの仲間達も知っているらしく、アルシェが両親と縁を切ることに協力するとの事だ。

 

それならあたしも友達として、アルシェに協力してあげよう。

 

あたしはアルシェに聞いてみる。

 

遺跡調査の手伝いと、両親と縁を切る為の法的手続きのどちらを手伝ってほしいかを。

 

あたしの提案に初めは遠慮していたアルシェだったけど、あたしの友情が通じて最後には受け入れてくれた。

 

「うん。それなら法的手続きを手伝って欲しいかな。私達だと役所の手続きに手間取ると思うから」

 

ワーカーという身分だと国からの信用は無に等しく、役所関係の対応が悪いらしい。

 

その点、あたしは冒険者としてはミスリルのクラスだし、帝国の四騎士という後ろ盾もある。役所も無下にはできないだろう。

 

実際の役所との対応は、オートマトン達に任せればいいし、あたしとしては問題はない。

 

「イエス、マスター。お役所仕事は権力者の友達がいれば簡単です。お任せ下さい」

 

「レイナースを連れて行けば話は早いだろうし、任せてもらっていいよ〜」

 

うんうん。あたしの仲間達は頼りになるね。

 

こっちはあたし達に任せて、アルシェ達は気をつけて遺跡調査に行くんだよ。

 

「はい、気をつけます。でも、私達はこれでもワーカーの中では腕利きとして知られているんですよ。だから安心して待ってて下さいね」

 

何だかアルシェがフラグっぽい事を言っている。

 

「うふふ、戻ってきたら妹達と幸せになるんだもの。私、頑張りますね」

 

うん。やっぱりこれはフラグだよね。

 

あたしは、アルシェ達に【状態監視】の魔法をオートマトンにかけさせる。

 

これで、アルシェのプライベートを丸裸に…じゃなくて、アルシェ達の身に危険が迫ったら“精霊王の門”で転移させてあげよう。

 

「マスター。男のプライベートを覗くのは気持ち悪いです」

 

それもそうか。監視しているオートマトンが可哀想だから、魔法をかけるのはアルシェとエルフの女性だけでいいよ。

 

「イエス、マスター。マスターの慈悲に感謝します」

 

「ねえ、あんた達さー、そういうやり取りはせめてアルシェ達に聞こえないところでやりなよー」

 

クレマンティーヌの言葉にアルシェ達の方を見ると、引き攣ったように笑っていた。

 

「あ、あはは、でもこれで安心できますよ。皆んなもそう思うよね」

 

アルシェのフォローに、アルシェの仲間達も首を縦にふる。

 

うんうん。アルシェとの友情は盤石のようだ。

 

「アルシェは、お人好しすぎて、悪い男に騙されるタイプだよねー」

 

「大丈夫です。すでにマスターに友達認定されている時点で、彼女に近付く男はマスターに排除させるので安心です」

 

「そ、それは心強いねー、良かったね、アルシェちゃん」

 

クレマンティーヌが、慈母のような顔でアルシェに言葉をかけていた。

 

 

 

 

「役所の手続き如き些事は全てお任せ下さい。我が主様」

 

アルシェの事情を話したら、レイナースが全て請け負ってくれた。

 

3日もあれば、アルシェ姉妹と両親の縁を切ってみせると胸を叩く。

 

レイナースの叩いた胸が、プルンと震えて美味しそうだった。

 

その胸を見つめながら思う。

 

このまま、本当にアルシェ達の親子の縁を切ってしまって良いのだろうかと。

 

どんな親だろうと家族に違いないのだ。

 

プルンプルンに顔を埋めながら、あたしは今は亡き両親を思い出す。

 

貧しい生活だったが、必死になってあたしを育ててくれた両親だった。

 

家族の絆を簡単に絶っても良いのだろうか?

 

「でもさー、アルシェの両親は貴族時代を忘れられない浪費家なんだから、縁を切らなきゃアルシェが一生面倒みる羽目になるじゃん」

 

その通りだ。

 

つまり、アルシェが縁を切ればアルシェの両親は間違いなく破滅するだろう。

 

話を聞いたところ、アルシェの両親は愚かではあるが、愚かなりに子供の事を愛してはいるように思える。

 

そんな両親を見捨てたあと、破滅する姿を見たアルシェはどうなるだろう?

 

自分が見捨てたせいで、地獄に落ちる両親の姿を見てアルシェは平常で居られるだろうか?

 

プルンプルンに顔を挟まれながら、あたしはアルシェの未来を憂う。

 

「あのさー、取り敢えずレイナースの胸から離れてから真面目な話はしようねー」

 

クレマンティーヌに楽園(プルンプルン)から引き離された。

 

「それじゃ、アルシェの両親を説得でもして改心させるわけー?」

 

そんな面倒くさい事はしたくない。

 

「マスター。【精神操作】の魔法と【人格変換】の魔法のどちらを使用しますか?」

 

うーん。簡単で良さそうだけど、アルシェにばれたら怒られる気がする。

 

「怒られる気じゃなくて、間違いなく激怒されるんじゃないかなー?」

 

あたしが迷っていると、レイナースが助言をしてくれた。

 

「我が主様。アルシェとやらの両親は特に悪徳な貴族ではなく、よくいるタイプの毒にも薬にもならない能無し貴族ですよね?」

 

まあ、アルシェには悪いけど的確な表現だね。

 

「では、皇帝も悪徳貴族の粛清のついでに取り潰した程度の小物でしょうから、皇帝に貴族に戻してもらうというのは如何でしょう」

 

そんな簡単に皇帝を説得出来るのかな?

 

「説得の必要などありません。我が主様の御威光を示されるだけで、帝国の皇帝如きは自然と頭を垂れることでしょう」

 

レイナースは自信に満ちた態度でそんなことを言うけど大丈夫かな?

 

「万が一…いえ、億が一、帝国の皇帝如きが我が主様に逆らうなどという愚行を選択するならば」

 

レイナースは氷の微笑と呼ぶに相応しい、寒気がするような笑みを浮かべながら言い放つ。

 

 

“帝国など滅ぼせば良いのです”

 

 

 

 

 

 


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