異世界生活はオートマトンと共に(完結)   作:銀の鈴

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第25話「ワーカー」

あたし達は帝国のレイナースの屋敷に遊びに来ていた。

 

「流石は帝国の四騎士ね。立派な屋敷だわー」

 

疲れきっていたクレマンティーヌも、帝国に向かう道中、毎晩のように最上級ポーションによるマッサージを続けていたら元気になってくれた。

 

残念ながら乙女の大事な所へのマッサージは拒否されてしまった。

 

だからスリープで眠らせてからマッサージをしてあげた。

 

一応、言っておくけどあたしはノーマルだから、クレマンティーヌの純潔は守られているぞ。

 

「マスター。ノーマルだと念押しするのが怪しいです」

 

相変わらず、オートマトンはマッサージをさせてくれない。

 

この恥ずかしがり屋さんめ。

 

「マスター。私にマッサージは無意味です」

 

あたしがしたいから、したいんだ!

 

娘の柔肌を堪能するのが、マスターとしての正当なる権利だと主張するぞ!

 

「マスター。本当にノーマルですか?」

 

さてと、冗談はここまでにして街に繰り出すとしよう。

オートマトンの疑惑の目をサラリと躱しながら、あたし達は街に出かけた。

 

ちなみにレイナースは騎士のお仕事中だ。

 

 

 

 

本当は闘技場に向かいたいところだけど、レイナースの休暇の時に一緒に行く約束をしたから、それまでは我慢をする。

 

何といっても、帝国の四騎士がエスコートしてくれると闘技場側の対応が格段に良くなるらしい。

 

本来なら帝国貴族しか利用できない特別室も入れるらしい。今から楽しみだ。

 

中央の広場に行くと、祭りでもないのに凄い人出だった。

 

出店も多く、この広場だけでも一日中遊べそうだ。

 

あたしが珍しい雑貨を売っている出店で、変な形をした瓶を見ていたら知らない女の子が話しかけてきた。

 

「あの、お姉さん。それは尿瓶ですからあまり中にまで手を入れない方がいいですよ。中古みたいですし」

 

なにっ!?

 

これがこの世界の尿瓶なのか。

 

クレマンティーヌで試してみようかな?

 

「何でよっ!? そんなの試さないわよ!」

 

大丈夫だよ。ちゃんと新品を探して買ってあげるからね。

 

「中古だから嫌だって言ったんじゃないわよ!」

 

うーん。本気で嫌がっているから今回は諦めようかな。でも、将来は何が起きるかわからないから、後で新品を探して買っておこう。

 

あたしは声をかけてきた女の子に、新品を売っている店を知らないか聞いてみた。

 

「ええと、たしか東通りにある雑貨店で売っていましたよ」

 

あたしは女の子に礼を言うと、東通りにあるお店に向かった。

 

「まさか本気で買う気なの!?」

 

「ふふ、マスターが今以上にモノグサになった場合には、マスターのお世話に使えそうですね」

 

「あのさ、どうしてそんなに嬉しそうなのよ?」

 

「マスターのお世話は楽しいですよ」

 

「いや、あんたがアイツの世話を焼くのが生き甲斐なのは知っているけど、いくら何でも尿瓶は無くない?」

 

「もちろん、オムツでもいいですよ?」

 

「そういう意味じゃないわよ!」

 

クレマンティーヌがオムツに興味を持っているみたいだ。同じ店で売っているかな?

 

「オムツに興味なんかないわよ!?」

 

クレマンティーヌにオムツ。ちょっと背徳的で興奮するね。

 

「ねえ、あんたってただのおバカだったのに、段々と変な方向に向かってないかしら?」

 

クレマンティーヌが心配そうにしている。大丈夫だよ。あたしが変な事をするのは信頼しているクレマンティーヌだけだからね。オートマトンにしたら怒られるし。

 

「私だって怒るわよ!」

 

あたし達は楽しくお喋りしながら雑貨店に向かった。

 

「私は楽しくないんだけど!?」

 

 

 

 

お昼は適当に目についたお店に入ることにした。

 

店の中を見渡すと、先ほど雑貨店を教えてくれた女の子が席についていた。

 

同じ席には他に冒険者らしき三人組が同席している。その雰囲気から察すると女の子の仲間のようだ。

 

女の子があたし達に気付くと会釈をしてきたから、手を振り返しておいた。

 

あたし達は、女の子達の隣のテーブルが空いていたからそこに座る。

 

「お店は分かりましたか?」

 

女の子が愛想良く声を掛けてきた。

 

パッと見たところ、魔法詠唱者のようだけど、変わり者の多い魔法詠唱者にしては、普通の女の子のようだ。

 

あたしが先ほどの礼を口にすると、お役に立てて良かったと笑顔になる。

 

うんうん、やっぱり女の子は笑顔が一番だね。

 

「アルシェ、こちらの御仁達とお知り合いなのか?」

 

女の子の名前は、アルシェというらしいな。

 

アルシェと呼ばれた女の子は、あたし達と出会った経緯を同席していた戦士風の男に説明する。

 

それを補足するように、あたしは帝国には観光に来たことなどを告げる。

 

「ほう、あの四騎士として名高いレイナース殿の知己の方でしたか、道理で凄い威圧感を発しておられる筈ですね」

 

あたしは、王国で舐められてしまった反省から【気配隠蔽】の指輪は外す事にした。

 

別に絡まれるのは構わないが、舐められて偉そうにされるのはムカつくからだ。

 

「威圧感ですか? 言われてみれば何か感じるような?」

 

魔法詠唱者のせいか、アルシェは闘気があまり分からないらしい。

 

「アルシェは魔力に敏感な分、気の力には鈍いのよね。ちょっと心配ね」

 

「魔力を持たずとも強力な気の力は脅威ですよ。これ程の闘気を発している御仁に気付かないのは問題があります。精進して下さい」

 

「す、すいません」

 

アルシェと同席しているエルフの女性と神官の男が、アルシェの鈍さに苦言を口にする。

 

どうやら魔法詠唱者だから闘気に鈍感なのでは無く、アルシェ自身が鈍いだけのようだ。

 

だけど、その代わりかは知らないけど魔力には敏感みたいだな。

 

アルシェにその事を尋ねてみると、彼女のタレントで魔力が見えるらしい。

 

あたしの魔力は見えないのかな? と思ったけど、あたしの軍服には探知系の魔法に対して強い防御性能がある。たぶん彼女のタレントにも効果があるのだろう。

 

ところで、タレントってスキルとは別物なのかな?

 

“タレントってなに?”って聞いたら、みんなからバカを見る目で見られた。

 

「タレントというのは、生まれながらに持っているその人だけの異能の力の事ですよ」

 

アルシェだけは優しく教えてくれた。アルシェはいい子だね。

 

要するにタレントとは、人間だけが稀に生まれ持ってくる異能の事だ。その異能は人それぞれらしく必ずしも役に立つ異能ばかりではないらしい。

 

アルシェの場合は、魔力を見ただけで判別出来るらしく、相手の魔法詠唱者としての実力をある程度は見抜くことが出来るため、それなりに役に立つみたいだ。

 

そういえば、アルシェ達は冒険者なのかな? あたしのクラスはミスリルだけど、アルシェ達はどのぐらいなのだろう?

 

「私達は冒険者じゃなくて、ワーカーですよ」

 

ワーカー? また新しい言葉が出てきた。

 

「ワーカーは、冒険者組合を通さずに直接依頼者から依頼を受ける人達の総称なんです。組合を通さない分、依頼料は高くなるけど、何かあっても自己責任の職業ですね」

 

あたしが分からないだろうと察したアルシェが、あたしが何か言う前に説明してくれた。

 

「でも、ミスリルの冒険者さんだったんですね。道理で凄い闘気の持ち主なわけですね」

 

「アルシェは気付かなかったんだろ!」

 

「えへへ、それは忘れてくださいよお」

 

戦士風の男の言葉にアルシェは舌を出して笑う。

 

アルシェ、あたしがワーカーって言葉を知らない事をバカにされないように、わざと自分が道化を演じてくれたんだね。

 

うん。アルシェの事は気に入ったよ。

 

何か困ったことがあったら頼っていいからね。

 

「そのお気持ちだけで十分です。私達はワーカーなんですから、危険とお弁当は自分持ちです」

 

アルシェの言葉に頷くアルシェの仲間達。

 

彼達のアルシェを見る目は優しかった。

 

うんうん、仲のいいチームみたいだね。まるであたし達みたいだ。

 

あたしは自分の仲間達を振り返る。クレマンティーヌは、いつの間にか自分の分だけ注文していたご飯をガツガツと食べていた。オートマトンは何やら書き物をしている。覗き込むと題名には“マスター観察日記”と書かれていた。少し離れた場所では、風花聖典達があたしに祈りを捧げていた。そしてそれを遠巻きにしてコソコソと話し合う他の客達。

 

クルリとあたしはアルシェの方を向く。

 

うん、見なかった事にしよう。

 

とにかく、アルシェは良い子だし、彼女のチームメイト達もアルシェを大事する良い人達のようだ。

 

こうして出会ったのも何かの縁だろう。彼女達には優しくしてあげよう。

 

「アルシェ。遠き時、永き時、困った時には我が名を思い出せ。我は必ずそなたの力となろう」

 

アルシェはあたしの言葉に驚いたように目を丸くしていたが、すぐに嬉しそうに笑ってくれた。

 

「うふふ、それじゃあ、困った時にはお互いに助け合うって事にしませんか? 冒険者とワーカーの違いはありますけど、私達は“お友達”ということでいいですよね」

 

この日、あたしはアルシェと友達になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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