王都には“黄金の姫”と謳われるお姫様がいる。
あたしも法国の一部の信者からは、お姫様と呼ばれているけど、本物のお姫様はどんな感じなのかな?
ドラちゃんは国を治める女王様だから、お姫様とは少し違うだろう。
お姫様といえば、“ウフフ、キャハハ”といった感じだと思う。決して、酒瓶を片手に呑んだくれたりはしないだろう。
「心優しい王女様って評判だけど、胡散臭いよねー。腐りきった王国の王女がそんな女なわけないじゃん」
前にクレマンティーヌはそんな事を言っていたけど、それはあまりにも夢のない考えだと思う。
やっぱりお姫様といえば、美人なのは当然として、性格は能天気なほどに優しくて、世間知らずの甘ちゃんでなくては助け甲斐がないだろう。
「マスター。王女を何から助けるのですか?」
オートマトンが疑問を発する。
全く、オートマトンも分かっていないなあ。
ピンチになったお姫様を助けるのは定番のイベントだぞ。
おっと、誤解はしないでほしい。
あたしは現実がみれる女だから、この世界をゲームと混同などしていない。
ここは確かに現実の世界だ。
だからこそあたしは思う。
人生には刺激が必要だと。
「イエス、マスター。マスターが傍迷惑な存在なのだと再認識しました」
うるさい。
とにかく、この王都には八本指のようなゴミ共が蔓延っているのだ。
きっと“黄金の姫”をその毒牙にかけようとする下劣な男もいる筈だ。
天真爛漫な王女を攫い、その無垢な身体を穢そうとする輩を颯爽と現れたあたしが退治する。
助け出された王女はあたしに感謝する事だろう。
そうなれば、恩人のあたしに王城へのフリーパスぐらいくれると思う。
「イエス、マスター。つまり王城内を観光したいだけですね」
流石はオートマトン。以心伝心だね。
*
「というわけで、貴方には王城内への案内を求めます」
オートマトンが、王城内への観光なら伝手があると言って連れてきたのは、まるで盗賊の親分のような髭面の男だった。
コイツが王城内に入れてくれるのだろうか?
「…我が国の民を救ってくれた恩人である貴殿らを信用しないわけではないが、私の一存で他国の者を王城内にいれる訳にはいかないのだ。その事をご理解して頂きたい」
アッサリと断られたんだけど!?
「王国戦士長――その立場にある者が容易く他国の者に捕縛された。しかも無傷のまま簀巻きにされた事が発覚すれば、王国の威信は地に落ちるでしょうね」
オートマトンは何の話をしているんだ?
「……証拠はありませんよ」
男の言葉にオートマトンは黙って立体映像を映し出した。
その映像は何回か切り替えられていく。
切り替えられていく映像には目の前の髭面の男が、オートマトンに馬から引き摺り下ろされて簀巻きにされる状況が映されていた。
「状況を記録して再生する魔法です」
オートマトンの言葉に髭面の男は汗だくになった顔を拭う事もなく頭を垂れた。
「お、俺の負けだ。内密で王城内は案内するからその記録は公開しないでくれ」
よくは分からないけど、王城内は見学できるらしい。
*
王城内を髭面の男に案内される。
でも、案内される場所が使用人が働いている場所ばっかりで面白くないんだけど。
「勘弁してくれ。下手な所に行けば貴族共と出くわしてしまうぞ。そうなれば厄介なことになりかねん。あいつらは俺の失態を心待ちにしているような奴らだからな。俺の独断で部外者を城内に入れたことを知られればどんな…」
髭面の男がブツブツと言っているうちに、あたしとオートマトンはコッソリとその場を離れた。
少し歩いて行くと、廊下の作りが変わり立派な雰囲気になった。
おお、如何にもお城っぽい感じになってきたぞ。
謁見の間というのは何処にあるのかな?
「イエス、マスター。謁見の間よりも宝物庫を優先するべきです」
なるほど!
流石はオートマトンだ!
一国の宝物庫なら凄いものが発見できそうだな。
珍しいものがあれば、今度の女子会で自慢してやろう。
おや、誰かが近付いてきたぞ。
「そこのデカい女。そのような見苦しい姿を…グギャア!?」
突然、声をかけてきた無礼な男の鳩尾をオートマトンが蹴り抜く。
腹に穴が空いていないところをみると手加減をしたのかな?
「イエス、マスター。無駄な騒動を起こせば城内観光が中止になってしまいます」
うんうん。オートマトンは気遣いの出来る子なのだ!
「き、貴様ら、俺がバルブロ…な、なんだこの光は!?」
取り敢えず、うるさいゴミを転移させる。
転移先はビーストマンの都市に特攻させた眷属を目印にしてみた。
初めての試みだったけど、上手く転移できたみたいだな。
それにしても眷属達は頑張っているみたいだな。流石はあたしの眷属だ。
ゴミがなくなりスッキリしたから宝物庫探索に戻ろう。
「えぇっ!? どうして貴方達がここに居るの!?」
突然の声に振り向くとラキュースが愉快な顔で驚いていた。
うん。美人はどんな表情でも美人だというのは嘘だと分かった。
*
ラキュースから八本指の情報が記載された書類を受け取った。
受け取ったのはいいけど、追いかけてきた髭面の男が喧しいぐらいに苦情を言うもんだから、城内観光を切り上げてしまった。
次からはラキュースに王城観光のガイドを頼むとしよう。
宿屋に戻ってきたあたし達がラキュースから貰った書類を確認していると、クレマンティーヌが戻ってきた。
ネム達は無事にカルネ村に到着したとの事だ。
久しぶりに見るクレマンティーヌは相変わらずの痴女ルックで安心した。
今夜は抱き枕にして、たっぷりと彼女のおっぱいを堪能するとしよう。
「いつか寝ぼけたあんたに絞め殺されそうで怖いんだけど」
あはは、何を言ってるんだか、絞め殺しちゃっても何度だって生き返らせるから安心してほしい。
「もっと怖いこと言わないでよ!?」
それにしても、クレマンティーヌが元気そうでよかった。
「私はいつでも元気だよー、それで今はどういう状況なのー?」
これまでの経緯をクレマンティーヌに説明する。もちろん、オートマトンが。
「ふーん。噂のアダマンタイト級もあわや壊滅の危機だったわけだ。リーダーのラキュースをあんたが気に入らなかったら、本当に壊滅していたんだろうねー」
そんな話より今は八本指をどうにかする方が優先だよ。
今のままじゃ、王国では安心して観光が出来ないからね。
「イエス、マスター。拠点さえ判明すれば殲滅は容易です。いつでも出撃可能です」
「確かに私達なら八本指の拠点を壊滅させるのは容易だけど、数が多すぎない?」
八本指の拠点は、全375箇所が記載されている。そして、関わり合いのある貴族や商人などのも合わせれば600箇所を超えている。
「コツコツと日数をかけて襲うわけ?」
「その答えは“否”です。クレマンティーヌ。マスターを侮辱したクズ共は、逃がさないように一匹残らず一晩で殲滅します」
オートマトンはいつものように淡々と語っているだけなのに、クレマンティーヌは冷や汗をかいている。
「ハハ、あんたの耳がある場所で、こいつを侮辱しないように気をつけるよ」
オートマトンは、珍しく優しい笑みを浮かべるとクレマンティーヌに告げた。
「つまり、この世界のどこに居ようともマスターを侮辱しないという事ですね」
クレマンティーヌは、ゴクリと喉を鳴らすと黙って頷いた。
それを見ながらあたしは、「あたしに毒舌を吐くのはオートマトンが一番多いよね」とは思ったけど、賢明にもそれを口にはしなかった。
何故ならあたしは知性派だから!