異世界生活はオートマトンと共に(完結)   作:銀の鈴

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第22話「ラキュース」

「迷惑をかけて本当にごめんなさい」

 

目を覚ましたラキュースは素直に謝ってくれた。

 

本当は筋肉女と仮面女を潰そうと思ったけど、あたしを庇っていたラキュースが目を回して倒れてしまった。流石に放っておくわけにもいかないから、二人の事はムカついたけど見逃してやった。

 

見逃す際に「二度とあたしに話しかけるな。そして近付くな」と言っておいたから、約束を破ったら遠慮なく潰そう。

 

「…という訳で、マスターは力を隠蔽していました。それと、貴女のお仲間はマスターの前には連れてこない事をお勧めします。たとえ貴女が仲介をして和解させようと意図しても、マスターの前に立った瞬間に、問答無用で地上から消滅させられます。これは脅しではなく事実ですよ」

 

オートマトンに事情を説明されたラキュースは、少し青い顔をしていた。まだ、調子が悪いみたいだ。

 

ラキュースの話を聞いてみると、彼女は本当に貴族だった。

 

考えてみれば、ドラちゃんは王族で、レイナースは貴族、ああ見えてクレマンティーヌも良いところの出らしいから、あたしの知性派で優雅な雰囲気が、彼女達のような高貴な出自の人間を引き寄せるのかもしれない。

 

「イエス、マスター。寝言は寝てから言え。という格言はご存知ですか?」

 

あたしのオートマトンが毒舌すぎる!?

 

 

ラキュースと話してみると、彼女は非常に礼節を重んじるタイプで好感が持てた。

 

どうして彼女が、礼儀知らずの筋肉女&仮面女とチームを組んでいるのか不思議に思う。

 

「マスター。美女と野獣という言葉があります」

 

なるほど、納得した。

 

ラキュースは、そういう性的嗜好なのだろう。

 

世の中には色々な性的嗜好を持つ人間がいる事は、十分に理解している。あたしはクレマンティーヌを思い出しながら、ラキュースに優しい目を向けた。

 

そういえば、クレマンティーヌはいつ頃戻ってくるのかな?

 

この世界で長距離の転移は、もの凄く高難度の魔法らしく、使える事は秘密にした方がいいと、ドラちゃんに助言された。だから重要な女子会以外では、極力使わない事にしたけど、カルネ村には転移で送った方が良かったかな?

 

「マスター。ラキュースは最高位の冒険者です。八本指について尋ねてみてはどうでしょう」

 

「八本指…貴女達は八本指になにか関係があるのかしら」

 

ラキュースが何だか警戒をし始めた。少しショックだ。

 

「マスターは、八本指を駆除する予定です。ですが、八本指は害虫と同じく、隠れるのが上手く居場所についての情報が手に入りません。最高位の冒険者であり、貴族でもあるラキュースは、何か情報を持っていませんか? もしも貴女が八本指の関係者でも、情報と引き換えに貴女一人だけは見逃してあげますよ」

 

オートマトンが失礼な事を言っている。

 

ラキュースのような礼節を重んじる女性が、害虫の仲間なわけないだろう。

 

「私が八本指の仲間だなんて、そのような侮辱は許しません!」

 

彼女は本気で怒ったらしく、顔を朱に染めてオートマトンに詰め寄っている。

 

彼女の純粋な怒り。

 

ふふ、なんとも心地いいものだ。

 

「我が従僕の無礼を許してほしい。貴殿のような誇り高き者には耐え難き侮辱であった。だが、八本指を殲滅すべく苦難の道を歩むが故の焦りが出てしまったのだ。どうか寛大なる気持ちで見逃してほしい」

 

「本気で八本指を? 貴女ほどの力を持つ人が味方についてくれるならもしかしたら…」

 

あたしの言葉にラキュースは、冷静さを取り戻してくれたようだ。

 

何やらブツブツ言っているけど、こういう人間は六色聖典には腐るほどいるから見慣れている。

 

ドンと来いだ。

 

 

ラキュースから八本指の拠点を幾つか教えてもらった。

 

麻薬の製造工場に違法賭博場、違法売春宿など、その総数は300箇所を超えているそうだ。流石に全ては覚えていないから、後日教えてもらう約束をした。

 

それにしても多すぎるだろう。そして場所がバレすぎている。本当に八本指は犯罪組織なのか?

 

あたしの呆れた顔に気付いたのか、ラキュースは慌てるように言い訳をする。

 

曰く、八本指は巨大な組織であり、王国全土に影響力がある。貴族にも八本指に通じている者が多く、半ば公然の秘密となっているが、迂闊に手を出すわけにはいかない。秘密裏に麻薬の製造工場等は潰して回っているが、直ぐに新しい工場を作られるというイタチごっこになっている。等々

 

「既に王国は八本指に支配されているも同然の状態のようだな」

 

あたしの正直な感想にラキュースは悔しそうに歯をくいしばる。

 

「それでも私は諦めないわ。どれほどの困難があろうとも、国民を食い物にする八本指は必ず倒してみせる。それが貴族としての義務だもの」

 

「ノブレス・オブリージュ(高貴なる者の義務)というやつか。しかし敵には同じ貴族もいるのだろう」

 

「犯罪組織に与する者など貴族ではありません。そのような害悪はいつか私の手で排除してみせるわ」

 

それは果てしなく遠い道のりだろう。恐らくは一生をかけても辿り着けないほどに遠く険しい道のりだ。

 

それでもラキュースは決意を秘めた目で言い放ってみせた。

 

「参考までにお聞きします。八本指に与している貴族共を教えていただけますか? 私共も用心をしたく思います。もちろん、ラキュース殿にとって都合の良い相手だけでも結構です」

 

オートマトンがラキュースに尋ねる。

 

「…そうね。確かに用心をする必要があるわね。拠点の場所もそうだけど、全部を記憶している訳じゃないから、後日にでも紙に纏めたものを渡すわね」

 

「はい、十分に吟味してお教え下さい。マスターは王都に無用な騒動を起こす気はありませんが、王都の害悪の除去を望んでおりますので」

 

「……分かりました。十分に検討させて頂きます」

 

ラキュースが、なんか深刻そうな顔になっている。

 

オートマトンの方を見ると満足そうに頷いている。

 

うーん。何だろう?

 

あたしは少し気になったが、別にいいかと思い直し、受け取りの日時の確認をするとラキュースと別れた。

 

 

 

 

 

 

 


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