異世界生活はオートマトンと共に(完結)   作:銀の鈴

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第21話「アダマンタイト」

さて、八本指を殲滅する事は決めたけど、八本指って何処にいるんだろう。

 

オートマトンは知ってる?

 

「イエス、マスター。王都ごと焼いてしまえば、手っ取り早いと思われます」

 

うん、却下だね。

 

人間の都市で遊ぶのは楽しいから、出来るだけ壊しちゃダメだぞ。

 

うーん。風花聖典を全員、護衛としてカルネ村に行かせたのは失敗だったかな。

 

情報収集をしてくれる人材がほしい。

 

とりあえず、王都の冒険者組合に行ってみよう。何か情報があるかもしれない。

 

それに【気配隠蔽】の指輪をしている今なら、冒険者組合の雰囲気を楽しめるだろう。

 

 

おおっ!

 

随分と人が多いな。

 

流石は王都というべきだな。

 

あたしが入っても、何人かがチラリと見るだけで、直ぐに興味を失くしたように顔を背ける。

 

あれ、新顔に絡んでくる人はいないのかな?

 

「イエス、マスター。新人冒険者相手なら兎も角、単に見慣れないだけのベテラン冒険者相手に絡むほど暇な人間は存在しません」

 

ベテラン…それはあたしが年増だって言いたいのか?

 

「イエス、マスター。今回は違います。マスターが醸し出す雰囲気が強者なのです。それは【気配隠蔽】の指輪でも隠せないものです。きっと冒険者同士だけが分かる“強者の匂い”のようなものなのでしょう。もっとも、私には分かりませんが。あとはミスリルのプレートの効果であると推察出来ます」

 

強者の匂い…なんだか格好いいね。ところで最初の“今回は違います”ってどういう意味だ、コラ。

 

あたしは組合内を見渡してみる。

 

新米から引退寸前のロートルまで揃っているが、面白味がありそうな奴はいないようだ。

 

依頼も覗いてみるが、エ・ランテルと比べても代わり映えしなかった。

 

分かりやすく、八本指退治の依頼でもあれば良かったけど、流石にそれはないか。

 

オートマトンに受付嬢に声をかけさせて、冒険者上位ランクが集まる宿屋を確認させた。

 

どうやら実力者が集まる場所で情報収集をした方が効率的なようだ。

 

どうも、昼間っから冒険者組合にたむろっている奴らはランクが低い奴しかいないみたいだ。

 

あたしは冒険者組合を後にした。

 

 

目的の宿屋に到着すると、中々に賑わっている。

 

テーブルは埋まっており、座る場所が…あ、空いてるテーブル発見!

 

奥の方に運良く誰もいないテーブルが残っていた。

 

ふふ、どうやら今日はついているようだ。

 

あたしとオートマトンは、そのテーブルの椅子に座る。

 

さて、情報収集の前にご飯の時間だ。

 

オートマトンは本来なら【飲食不要】の種族特性を持つため、食事は出来ないけど【飲食可能】の効果を持つアイテムのお陰で食事が出来るようになっている。やっぱりご飯は一緒に食べたいよね。

 

このアイテムって、何のためにあるんだと“ユグドラシル”では疑問だったけど、この世界の為にあったんだな。

 

“ユグドラシル”の運営、恐るべし!!

 

さてと、今日のご飯は何にしようかな?

 

あれ、お店の人が注文を取りに来ないな?

 

んん?

 

なんだろう、周りの奴があたし達を変な目で見ているような?

 

「へえ、俺達の専用テーブルに他人が座ってるのは久しぶりだねえ。どこの世間知らずだ」

 

「ガガーラン、無闇に絡むな。別に予約席の表示をしているわけじゃないんだ」

 

「ガガーラン、初対面の方に失礼な物言いをしないで下さい。あの、うちのメンバーが失礼をしました。申し訳ありません」

 

いつの間にかあたし達のテーブルの近くに3人の冒険者が立っていた。

 

一人目は、筋肉の塊のような女戦士だ。あたしより筋肉量は上だな。あたしとは初対面なのに偉そうなのが気に食わない。

 

二人目は、変な仮面をつけている。たぶん魔法詠唱者だろう。こいつもなんだか偉そうな感じがする。あたしとは気は合いそうにないな。

 

三人目は、貴族のような気品を感じさせる女だ。魔法も使う剣士といったところだろう。こいつは礼儀を知っているみたいだな。

 

ここまでの話を聞く分には、どうやらこのテーブルは彼女達の指定席のようだ。

 

周りの反応からしても周知の事実のようだな。

 

しかし、あたしはこの席を譲る気はないぞ。

 

仮面女が言うように予約席の札を立てていた訳じゃないんだ。後から来たこいつらに席を譲る義理はないからな。

 

「あのなあ、確かに予約札なんかねえよ。でも冒険者として上位の者に気を使うのは当然だろう。先に座っていた事には文句はねえ。誰も教えなかっただけの話だろうしな。だけど、今はこうして事情を知った上で、お前は席を譲る気は無いみてえだな。それはアダマンタイトのプレートを下げている先輩に対して、少々礼儀がなっちゃいねえ態度だと思わねえか?」

 

筋肉女がクソ偉そうに言ってきた。

 

「クク、アダマンタイトのプレートとは、席を譲ってもらう為の優先チケットだったのか。確かにそれは失礼をしたようだな。冒険者組合が発行した優先チケットなら、組合に所属しているあたしにも席を譲る義務がありそうだ」

 

あたしの言葉に筋肉戦士のコメカミに血管が浮き出る。

 

頭にきたようだな。

 

だが、あたしもこういう上から目線の偉そうな奴には頭にくる。アダマンタイトだか何だか知らんが、初対面の人間に偉そうにされる筋合いは無い。

 

あたしはミスリルだけど、あたしより下のプレートだからって、他人の席を横取りなんかしないぞ。

 

「ちょっ!? 貴女は何を喧嘩を売っているのよ! 私達はアダマンタイトなのよ! 喧嘩を売る相手を間違えているわ! ガガーランも抑えなさい!」

 

「リーダー。悪りいが、もう止めるのは遅えよ。コイツには世間の厳しさを教えてやる必要があるってもんだ」

 

「そうだな、コイツの自業自得だ。売らなくていい喧嘩を売ったんだ。その代償が高くつこうとも己の責任だろう」

 

「ちょっと、イビルアイまで何を言ってるのよ! ほら、貴女も早く謝って、私も一緒に謝ってあげるから!」

 

どうやらこの女性だけは、常識のある普通の人のようだ。

 

だけど、ムカつく他の二人をぶっ飛ばさない理由にはならない。

 

「では、あたしは世界の広さというものを、アダマンタイト級の冒険者様とやらに教えてやろう」

 

「貴女も何を言ってるのよ!?」

 

「こいつは本物の馬鹿か? ラキュースも諦めろ。もう、ガガーランを止めるのは無理だ」

 

「イビルアイ!」

 

「リーダー、そいつもそこまで言ったんだ。覚悟は出来ているんだろう。どいてくれ」

 

「ダメよ。私達はならず者じゃないのよ。こんな事は認めないわ!」

 

「リーダー。俺らは確かにならず者じゃない。だからこそ冒険者世界の不文律ってのを、礼儀知らずのそいつに教えてやるのさ」

 

筋肉女が獰猛に笑う。

 

仮面女は呆れたように首を振っている。

 

ラキュースと呼ばれた女は、一歩も引かないとばかりに、あたしを後ろの庇うかのように立つと、筋肉女と睨み合う。

 

まったく、随分とあたしも舐められたものだ。

 

「マスター。マスターが舐められる理由が判明しました」

 

「舐められる理由…そんなものが有るのか?」

 

「イエス、マスター。【気配隠蔽】の指輪です。今のマスターは実力の伴わない口だけの女に見えていると思います」

 

あっ

 

なるほど。

 

あたしは指輪を外してみた。

 

「お前ら、何を言っているんだ。そんな指輪を外し…なあっ!?」

 

「な、なんだこいつは!?」

 

指輪を外しても自分では特に分からないが、どうやら効果はあったようだ。

 

目の前の二人からは、先程までの格下を見るような雰囲気が消し飛んだ。代わりに化け物を見る目つきになっている。

 

あれ、二人?

 

もう一人はどうしたんだ?

 

「きゅぅうう…☆」

 

あたしの前で、あたしを庇うように立っていた貴族のような気品を感じさせる女――ラキュースは、背後から突然浴びせられた強大な闘気に当てられて目を回していた。

 

 

 

「ところで、オートマトンが言っていた“強者の匂い”に、アダマンタイト級なのに気付かないものなのか?」

 

「イエス、マスター。ただの冗談を真に受けないで下さい」

 

ぶ、ぶん殴ってやりたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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