王城に戻っていたあたし達の許に、竜王国の偵察部隊からの連絡が入った。
なんでも竜王国を襲っていたビーストマンの群れが、一斉に自分達の都市に戻ったそうだ。
あたしが殲滅した集団は全体の四割程度らしいから、六割も逃してしまった。
ドラちゃんにビーストマンを追いかけて殲滅する事を提案したけど、ビーストマンの都市には、巨大なケンタウロス型ゴーレムが4体もいるらしく危険が大きいからと止められた。
なんてドラちゃんは優しいのだろう。
あたしの身を心配してくれるなんて、きっとドラちゃんは伝説に伝えられし“心の友”というやつに違いない。
ゴーレム如き敵では無いとは思うけど、ドラちゃんの心遣いを無下には出来ない。
今回はここまでにしよう。
でも、このまま帰ってはドラちゃんの親友としては申し訳ない。
親友…ああ、なんて甘美な響きがする言葉なのだろう。
いいよね!?
ドラちゃんを親友と呼んでもいいよね!!
「本人に確認すればー?」
「それは危険です。本人に否定されればマスターは、絶望と浮かれていた自分への恥ずかしさの余り、竜王国を滅ぼしてしまう可能が高いです」
「怖っ!? あんたってば怖すぎるわよ!!」
あたしは何にも言ってないよね!?
オートマトンもいい加減なこと言わないでよ!
ドラちゃんとの絆は永遠なんだからね!
そうだっ、ドラちゃんにも指輪(老化停止付き)をはめてもらおう!
ドラちゃんの寿命は長いけど、ずっと一緒に生きていて欲しいもんね!
「それで本人への確認はどうするのー?」
ゆ、友情は確認するようなものじゃないと思うんだ。互いを思いやる心が大事なんだよ。それを無理に確認しようだなんて、無粋にも程があるってものだぞ。
「イエス、マスター。安定のチキンぶりで安心しました」
やかましいわ。
とにかく、あたしのドラちゃんの為に出来ることをしておこう。
先ずは、オートマトンの【眷属創造】を使って、中位ゴーレムを200体作る。レベルは60の雑魚だけど、この世界ならそれなりに戦えるだろう。
次にあたしの【眷属召喚】を使って、オーガを10体呼び出す。【眷属強化】を合わせて使うことで、レベルは75程になる。
よし、お前らはビーストマン共の都市に特攻して奴らを殺しまくれ。
あたしの命令に従い、ゴーレムとオーガ達は移動を始める。
いってらっしゃーい! 頑張れよー!
「あのさー、普通はこういう場合って、竜王国の防衛をさせるんじゃないのー?」
あのね、“攻撃は最大の防御なり”という言葉があるんだよ。
「イエス、マスター。安定の脳筋ぶりに安心しました」
あたしは徐々にオートマトンが毒舌になってる気がして安心できない。
「イエス、マスター。それは気のせいです。安心して下さい」
そっか! オートマトンがそういうなら安心だね!
「イエス、マスター。やっぱり素直すぎるマスターが心配です。ですので、本日より監視を強化します」
「監視を強化って、今でも24時間べったりだよね?」
「1日25時間の勢いで監視します」
「あんたも怖いよ!?」
*
ドラちゃんとの祝勝会兼お別れ会を終えたあたし達は、途中で陽光聖典と分かれて王国に向かった。
いや、心配しないで欲しい。
お別れ会といっても、週末にはドラちゃんの部屋に転移して、女子会をする約束をしているから大丈夫だ。
あたし達の友情は永遠なのだ。
あたしが法国に戻らずに向かっているのは、王国のカルネ村だ。
なんだかんだでずっと戻っていないから、きっとネムが心配しているだろう。
一度、顔を見せて安心させてあげようと思ったのだ。
ふふ、子供に懐かれるというのも面倒なものだな。
「なんだか凄くご機嫌なんだけど」
「自称親友に、自分に懐いていると思い込んでいる子供、マスターは夢の世界を満喫中なのです。そっとしてあげて下さい。ホロリ」
「あんた…そのうち本当にぶっ飛ばされるわよ」
「マスターは鈍いので大丈夫です。ぶい」
「無表情でのピースサインは不気味なんだけど」
なんか後ろでコソコソしてる。なんだろう?
カルネ村に着くと、あたしを見つけたネムが一目散に駆けてきて飛びついてきた。
うんうん、あたしは元気だから安心していいよ。
うん?
お土産?
わ、忘れてた。
ネム、怒らないで!
どこに行くの!?
あたしを捨てないでぇえええ!!
ネムゥウウウウウウッ!!!!
*
王都に観光に連れていくことで許してもらった。
恐縮するネムの両親にその姉エンリ。
王都にはまだ行ったことはないし、ネムも一緒だと寧ろ楽しいと思うから気にしないでくれと笑ってあげた。
そうこうしていると、いつの間にかエンリも一緒に行く事になっていた。
うん、エンリは愛想がいい子だし、問題の多いうちのパーティ(オートマトンは愛想が悪いし、クレマンティーヌは痴女だ。まったくマトモなのはあたしだけだな)のいい緩衝材になってくれるだろう。
あれ、なんだかデジャブを感じるけど気のせいかな?
王都には、途中で別れた陽光聖典と入れ替わるように合流して、コッソリと護衛をしていた風花聖典が用意した馬車で行く事になった。
中々に良い馬車のようだ。
ネムは凄く喜んでくれた。エンリは凄く緊張していた。
王都までの道中は凄く順調だった。
モンスターでも現れてくれたら、ネム達にあたしの格好良いところを見せられたと思うと少し残念だ。
到着した王都は、流石にエ・ランテルより華やかだった。
だけど、帝国には遠く及ばない感じだ。
しまった。ネム達は王国ではなく帝国には連れていけば良かった。帝国ならレイナースの顔が利くから、お城にも案内できた筈だ。きっと、あたしの株が急上昇した筈なのに。
こうなったら、王国でもコネ作りをしてみるか?
成功すれば、帝国、法国そして王国とコンプリートだな。
いずれ法国を乗っ取ったら法国にもネム達を観光に連れて行ってあげよう。
今はまだ上層部、それに六色聖典で一番危険な漆黒聖典の連中には干渉していないから先は長いけどね。
「そういえばさー、あんたから漏れ出てる闘気は抑えられないわけ? 観光に来てまで厄介ごとに巻き込まれたくないんだけどー」
漏れ出てる闘気?
スキルは全部切ってるけど?
「イエス、マスター。スキルではなく、マスター自身の素の状態で発している気のことです。余りに巨大なので周囲の人々が恐怖を覚えるレベルです」
ちょっと待て、そんな話は初めて聞くんだけど?
「もしかして気付いていなかったの!? あたしが出会った時からずっと、化け物みたいな気を垂れ流しているわよ!」
「レイナースも当初は随分と警戒していましたね」
「竜王国の女王様も、最初はえらく気を使ってたわよね」
「冒険者組合では、いまでも冒険者達が怯えています」
「うん、お姉ちゃんからは、何か圧力みたいなの感じるよ」
ネムにも分かるみたいだ。エンリは苦笑いを浮かべている。
あうう、気付かなかった。
道理で冒険者組合で誰も話しかけてくれなかった筈だ。
あたしは急いでアイテムボックスから【気配隠蔽】の効果を持つ指輪を取り出すとはめてみる。
「うん、闘気が消えたよー」
「お姉ちゃんから圧力を感じなくなったよ」
「はい、圧迫感がなくなりました」
「せっかくの虫除けが無くなってしまいました。仕方ないので監視を強化します」
「どうやってこれ以上監視を強化するのよ!?」
「1日26時間の勢いで監視します」
「うわー、引くわー」
うんうん、これであたしは普通の女の子になったわけだね。友達100人出来るかも?
「見慣れない真っ黒の服を着て、鍛え上げられた肉体を持ち、凄く目付きの悪い赤髪赤眼の大柄の女性。どう見ても普通の女の子じゃないと思う」
エンリの言葉が心に突き刺さる。
「流石は師匠だけあるわね。私でもそこまでハッキリ言えないわよ」
「師匠ってなんですか!?」
誰か、傷心のあたしを慰めてほしい。
「よしよし、お姉ちゃん大丈夫?」
ネムが、あたしの頭を撫でで慰めてくれた。
その手の温もりにあたしは癒される。
きっとネムが、あたしの天使なんだね。
あたしは温かい気持ちに包まれた。
「マスターがチョロイン過ぎて心配です」