『イエス、マスター』
あれ?
いつの間にオートマトンに音声が実装されたのだろう。
あたしの前で跪くオートマトンは、同型機の為か抜群のシンクロ率で返事をしてきた。
あたしは思わぬオートマトン達の反応に歓喜する。これは凄く格好いい。
「起立せよ」
『イエス、マスター』
一切の乱れなく起立するオートマトン達にあたしは感動する。
あたしはこの喜びを誰かに伝えたくなったが、孤高を誇るあたしにはフレンド登録をしている相手がいなかった。
とりあえず、あたしは自分の装備もファンタジー系からミリタリー系に取り替えた。
性能は本来の装備より僅かに劣るけど、その代わり探知系の魔法に対する防御性能は上回る。
ファンタジー世界に紛れ込んだ特殊部隊。
うん、中々にいい設定だと思う。
総勢60機のオートマトン達の前に立つあたしは、黒髪黒目のオートマトン達と違い、一人だけ赤髪赤眼だから目立つだろう。
これは記念撮影をしておくべきだ。
あたしはコンソールを呼び出して撮影をす……あれ、コンソールが出てこないぞ?
あたしは色々と試してみたけど、ログアウトも出来なかった。
うーん。これはバグか? それとも何かの犯罪によってヴァーチャル世界に閉じ込められたのか?
どっちにしろ、今のあたしではどうしようもない問題だろう。
あたしは、目の前に立つオートマトン達を見ながらボンヤリと事態が変化するのを待っていた。
ボーーーーーーーーーーーーーーーーー。
一時間ぐらいが過ぎたと思う。
だけどコンソールは復活しないし、運営からのメッセージなども届かない。
幸いな事に明日は有給休暇を取っていたから無断欠勤の心配は要らないけど、早く何とかして欲しいものだ。
運営は何をしているのだ。
“グゥ”
あたしのお腹が鳴った。
「お腹が空いた」
「イエス、マスター」
オートマトンの1機が携帯食を出してくれる。この子は確か医療・兵站用のオートマトンだ。
あたしは差し出された携帯食を食べる。
もしゃもしゃ。
乾パンみたいだ。これは喉が乾く。
「喉が渇いた」
「イエス、マスター」
近くで待機したままの医療・兵站用のオートマトンが間髪いれずに飲み物を出してくれる。
医療・兵站用のオートマトンは、戦闘では使わなかったけど、生活するには便利なオートマトンだな。
あたしは差し出された飲み物を飲む。
ごくごく。
ただの水だった。
お腹が膨れたあたしだけど、何かが引っかかる。
何だろう?
そうこうしている内に、日が暮れそうになってきた。少し眠たいかも。
「眠たい」
『イエス、マスター』
オートマトン達が一斉に動き出すと、テントを張ったり、篝火を焚いてくれた。
周囲を警戒してくれているオートマトン達を頼もしく思いながら、あたしはテントに潜り込んでぐっすりと眠った。
すやすや。